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「敏いお嬢さんでいらっしゃいます。微笑ましく思いながら、お二人のご様子を拝見しておりました」
ニコニコと神官様が、イーディスに向けて言った。
…まさか。
お父上とは、イーディスのこと!?
いや、全然似てないでしょ?
いやいや?でも、年齢は確かに丁度いい?現在の私は三歳児くらいで、イーディスは二十八だからーー親子設定としては…ピッタリ?
それに…そうか。この外見なら、私の無知も不自然にならないのだ。神官様の目には、「どうして?どうして?」と、父親を困らせる娘の姿に見えていたに違いない。よし!
「とーさまっ」
ふざけ半分。口にしながらにっこり笑って、イーディスのシャツを握りしめてやった。どうよ?私の技能を利用などするから、子持ち扱いされる羽目になったのだ。反省しろ。
神官様は「うん、うん」と頷いている。なんだか楽しくなってきた。しかしーー
「お嬢さんは、お母上似なのですね」
「え?」
続く思わぬ言葉で、返事に窮することに。いや、オカンはいません。
困った挙げ句、イーディスの方を向いた。だが、その相手が不意に頭を鷲掴むものだから、思うように顔を見られない。
「まあな」
イーディスの声。
「わ、うわっ…」
頭を掴んだ手が髪をぐしゃぐしゃにし始め、慌てる私。
「コイツは母親そっくりだ。まんま、縮めただけと、よく言われる」
「そうですか。では、さぞかし奥様はお美しいお方なのでしょうね」
楽しそうに返事をする神官様。ちょっと待て。
いや、それだと母親もーー私?
無茶苦茶だ。頭を掻き乱す手を抑えて、今度こそイーディスを視界に捉える。するとーー
無表情。
聖剣サマからは、一切の感情を読み取ることができなくなっていた。こんなことは初めてだ。良くも悪くも。イーディスは表情豊かであったから。
子持ち扱いされ青筋立てている顔を期待していただけに、なんとも…不気味だ。なんだ?なにを考えている?
「その妻がつい最近、町中で魔物に遭遇してな。危ないところだった。それで気になったんだが、ここいらで似たような話はなかったか?」
「なんと?では、リズからお出でに?」
「ああ。それで?ホルルカに続き、リズにも出るはずのない魔物が出た。他では起こっていないのか?」
「幸い、そのような話は耳にしておりません」
「…そうか」
妻!?呆然としている間に、神官様との会話がなされていく。情報収集に余念がない。そうだった。短気そうに見えて、イーディスは冷静だった。
話のために不機嫌を引っ込め、かと言って機嫌良くともいかず、それでこの無表情…なのか?
「…ですが。分かっております。今回の悲劇は間違いなく、魔族によって引き起こされたものであることは」
ん?
「…原因が分かったのか?」
「いいえ。未だホルルカ島は調査中です。分かりますでしょう?結果など、考えるまでもないことです」
んん?
「へえ?」
「人に害を及ぼすのは、魔族と決まっています」
えーっ?
続く会話の内容が、どこかおかしい?いや、というよりも…
笑顔で話す神官様がーー怖い。
薄ら寒くすら感じる。現在、ホルルカ島の魔物討伐はどうやら終えたらしいけど、調査は未だ続行中。原因究明には至っていない。それは私たちも知るところ。
それで?魔族の話は、どこから出てきた?なにか新しい情報があるってこと?でも、この神官様の話し方はーー
「…こわい」
思わず呟いていた。聖職者の言葉とは思えない。悪意というか、嫌悪、いや憎悪?そんなものを、言葉の端々から感じる。
神官様がハッとした表情をした。それから、慌てたように私を見て眉尻を下げる。
「も、申し訳ありません。魔族の話などしてしまい、怖がらせてしまいましたね」
「い、いいえ」
そう答えながら、シャツを掴んでいた方の手に力が入る。魔族の話が怖いのではなく、魔族の話をする貴方が怖いんです。抱えられた腕から一瞬、込められた力が返ってきて、何故だが安堵した。
「本当に申し訳ないことを。…あの、お嬢さん。よろしければ、お名前を教えて下さいますか?」
「え?」
一歩近づき、私の顔を窺うように見る神官様。私はすぐ隣の顔に、視線を移した。それこそ父親に縋るように。
コクリと無表情のまま、イーディスは頷いた。
「……え、と、ふ…らちぇ、です」
「ラチェさん、ですね?」
少し顔を傾け、私の名前を確認をする神官様からは、先程の嫌な感じは微塵もない。なんだかそれが、逆にこちらの不安を煽る。
「大丈夫だ」
イーディスが頭を撫でてくれた。うーわー。なに?なんなの、この安心感?惑わせないでくれ!
「ラチェに祝福を」
うろたえ、アワアワしてしている内に、目の前の神官様が一言呟いた後、跪き祈りを始めた。今度はなにが始まったの!?
「…礼を言う」
何時になく、真摯な調子のイーディスの言葉。
「いいえ。お見苦しいところをお見せしました」
見上げた神官様は、柔らかい微笑みを返してくれた。
神殿を後にして、訊かずにはいられなかった。宿を求めて歩くイーディスは、やはり私を抱えたままだ。
「なに?なんなの?さっきのは、なに!?」
「ああん?どれを指してる?」
ガラの悪い問い返し。でもお互い、町中とあって声のトーンは落としている。
「しんかんの、おいのり?…いや、それよりも。まぞくのあなし!それをあなしてた、しんかんのようす!なんか…いろいろ…なんというか」
あ、イカン。「は」が言えん。頭の中まで幼児化してきそう。うまく言葉が見つからない。とにかく、嫌な感じがした。ああ、でも。最後のお祈りはそんなことはなかったけど。
「祈りはあの神官の技能だな。不愉快なジジイだったが、まさか『祝福』持ちとはな」
「ぎのう?アレが?」
「そうだ。お前は『祝福』を受けたんだ。しばらくは魔物が寄ってこねえな」
「え?そんなぎのうがあるんですか?」
「まあな。結構貴重で、気力のいるありがたい技能だったりするな。あと、あの神官の態度だがーー」
「なんかまぞくを、いようにきらってた」
「あれが普通だ。クソババアが浸透させた、クソババアのありがたい教えってやつだ」
「…うげ」
「あの神官は、まだ大人しいもんだ。人族の魔族嫌いは半端じゃねえぞ?そこは理解しとけ」
…なんだろう?最悪な気がする。
5 父娘デートと言うなかれ
ニコニコと神官様が、イーディスに向けて言った。
…まさか。
お父上とは、イーディスのこと!?
いや、全然似てないでしょ?
いやいや?でも、年齢は確かに丁度いい?現在の私は三歳児くらいで、イーディスは二十八だからーー親子設定としては…ピッタリ?
それに…そうか。この外見なら、私の無知も不自然にならないのだ。神官様の目には、「どうして?どうして?」と、父親を困らせる娘の姿に見えていたに違いない。よし!
「とーさまっ」
ふざけ半分。口にしながらにっこり笑って、イーディスのシャツを握りしめてやった。どうよ?私の技能を利用などするから、子持ち扱いされる羽目になったのだ。反省しろ。
神官様は「うん、うん」と頷いている。なんだか楽しくなってきた。しかしーー
「お嬢さんは、お母上似なのですね」
「え?」
続く思わぬ言葉で、返事に窮することに。いや、オカンはいません。
困った挙げ句、イーディスの方を向いた。だが、その相手が不意に頭を鷲掴むものだから、思うように顔を見られない。
「まあな」
イーディスの声。
「わ、うわっ…」
頭を掴んだ手が髪をぐしゃぐしゃにし始め、慌てる私。
「コイツは母親そっくりだ。まんま、縮めただけと、よく言われる」
「そうですか。では、さぞかし奥様はお美しいお方なのでしょうね」
楽しそうに返事をする神官様。ちょっと待て。
いや、それだと母親もーー私?
無茶苦茶だ。頭を掻き乱す手を抑えて、今度こそイーディスを視界に捉える。するとーー
無表情。
聖剣サマからは、一切の感情を読み取ることができなくなっていた。こんなことは初めてだ。良くも悪くも。イーディスは表情豊かであったから。
子持ち扱いされ青筋立てている顔を期待していただけに、なんとも…不気味だ。なんだ?なにを考えている?
「その妻がつい最近、町中で魔物に遭遇してな。危ないところだった。それで気になったんだが、ここいらで似たような話はなかったか?」
「なんと?では、リズからお出でに?」
「ああ。それで?ホルルカに続き、リズにも出るはずのない魔物が出た。他では起こっていないのか?」
「幸い、そのような話は耳にしておりません」
「…そうか」
妻!?呆然としている間に、神官様との会話がなされていく。情報収集に余念がない。そうだった。短気そうに見えて、イーディスは冷静だった。
話のために不機嫌を引っ込め、かと言って機嫌良くともいかず、それでこの無表情…なのか?
「…ですが。分かっております。今回の悲劇は間違いなく、魔族によって引き起こされたものであることは」
ん?
「…原因が分かったのか?」
「いいえ。未だホルルカ島は調査中です。分かりますでしょう?結果など、考えるまでもないことです」
んん?
「へえ?」
「人に害を及ぼすのは、魔族と決まっています」
えーっ?
続く会話の内容が、どこかおかしい?いや、というよりも…
笑顔で話す神官様がーー怖い。
薄ら寒くすら感じる。現在、ホルルカ島の魔物討伐はどうやら終えたらしいけど、調査は未だ続行中。原因究明には至っていない。それは私たちも知るところ。
それで?魔族の話は、どこから出てきた?なにか新しい情報があるってこと?でも、この神官様の話し方はーー
「…こわい」
思わず呟いていた。聖職者の言葉とは思えない。悪意というか、嫌悪、いや憎悪?そんなものを、言葉の端々から感じる。
神官様がハッとした表情をした。それから、慌てたように私を見て眉尻を下げる。
「も、申し訳ありません。魔族の話などしてしまい、怖がらせてしまいましたね」
「い、いいえ」
そう答えながら、シャツを掴んでいた方の手に力が入る。魔族の話が怖いのではなく、魔族の話をする貴方が怖いんです。抱えられた腕から一瞬、込められた力が返ってきて、何故だが安堵した。
「本当に申し訳ないことを。…あの、お嬢さん。よろしければ、お名前を教えて下さいますか?」
「え?」
一歩近づき、私の顔を窺うように見る神官様。私はすぐ隣の顔に、視線を移した。それこそ父親に縋るように。
コクリと無表情のまま、イーディスは頷いた。
「……え、と、ふ…らちぇ、です」
「ラチェさん、ですね?」
少し顔を傾け、私の名前を確認をする神官様からは、先程の嫌な感じは微塵もない。なんだかそれが、逆にこちらの不安を煽る。
「大丈夫だ」
イーディスが頭を撫でてくれた。うーわー。なに?なんなの、この安心感?惑わせないでくれ!
「ラチェに祝福を」
うろたえ、アワアワしてしている内に、目の前の神官様が一言呟いた後、跪き祈りを始めた。今度はなにが始まったの!?
「…礼を言う」
何時になく、真摯な調子のイーディスの言葉。
「いいえ。お見苦しいところをお見せしました」
見上げた神官様は、柔らかい微笑みを返してくれた。
神殿を後にして、訊かずにはいられなかった。宿を求めて歩くイーディスは、やはり私を抱えたままだ。
「なに?なんなの?さっきのは、なに!?」
「ああん?どれを指してる?」
ガラの悪い問い返し。でもお互い、町中とあって声のトーンは落としている。
「しんかんの、おいのり?…いや、それよりも。まぞくのあなし!それをあなしてた、しんかんのようす!なんか…いろいろ…なんというか」
あ、イカン。「は」が言えん。頭の中まで幼児化してきそう。うまく言葉が見つからない。とにかく、嫌な感じがした。ああ、でも。最後のお祈りはそんなことはなかったけど。
「祈りはあの神官の技能だな。不愉快なジジイだったが、まさか『祝福』持ちとはな」
「ぎのう?アレが?」
「そうだ。お前は『祝福』を受けたんだ。しばらくは魔物が寄ってこねえな」
「え?そんなぎのうがあるんですか?」
「まあな。結構貴重で、気力のいるありがたい技能だったりするな。あと、あの神官の態度だがーー」
「なんかまぞくを、いようにきらってた」
「あれが普通だ。クソババアが浸透させた、クソババアのありがたい教えってやつだ」
「…うげ」
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