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魔物のいるこの世界は、町から町への移動は命懸けである。
但し、一般人に限り。
身分と金、もしくは能力のある者は、そんな危険は冒す必要がない。何故なら、『転移魔法』という便利なものが存在するからだ。
「え?ここがホルルカ島?」
彼の地に立っての第一声だった。
ホルルカ島へと足を踏み入れた。約三月前、魔物の大量発生という災害の起こった場所。かつて、フランチェスカが生活していた地に。
ベルクラから戻った私たちを待っていたのはミネリさんからの呼び出しで、それは島民の一時帰還の許可が出るだろうという報せだった。
ありがたいことに領主である侯爵様お抱えの魔術師が、転移魔法で順次送ってくれるという。
そうして本日、無事帰還を果たしたというわけなのだがーー
もはや跡地と言っても差し支えないだろう、荒れ果てたホドの村。転移先である、そこに設置された野営地の天幕を出て、すぐに困惑してしまった。村の荒れた様にではない。悲しいかなそれは想定内。
では、なにに困惑しているのかというとーー
村を囲む景色の白さに。
小さな村は密林に囲まれていた。秘境さながらに。その周辺の色に、かなりな割合で白が混ざっているのだ。そう。白い木が混じっている。
「え?神樹だらけ?」
「あの?」
案内に立っていた騎士が、私の様子にこれまた困惑。「住んでいた処でしょ?」と言いたそうな表情だ。
「コイツは記憶を失くしてる。妙なことを言うが、適当に流しとけ」
付き添いとして隣に立つイーディスが、なにやら失礼な説明の仕方をしてくれた。
「まさか…この災害が原因で?」
「あ、はい」
恐る恐る、といった様子で尋ねてくる騎士に答える。気を使わせてしまったよう。本当は違うので申し訳ない。
「では、目的地までお連れしましょうか?」
「あ、いいえ。大丈夫だと思います。カロの村までは、一本道だと聞きましたから」
「ええ、そうです。では、夕方までにはこちらにお戻りください」
「はい」
村の惨状は見るも無惨だった。ほとんどの家屋が崩されている。どれだけの数の魔物が出たというのだろう。ここで再び生活など、当面は無理だろう。
やはり、あくまで一時帰還。夕方にはリズの町に送還される。
「この状態…家の中から貴重品を持ち出したりは、危険では…?」
案内役の騎士から離れ、並んで歩くイーディスに問いかけた。
「おそらく危険のある家は、これ以上崩れないよう処置されている」
こちらを向くことなく、答えが返ってくる。
フランチェスカの家があるというカロの村に向かうかたわら、お互い注意深く周辺を観察していた。平屋のこぢんまりとした家が多い。長閑な村の風景が思い描かれる。見るも無惨な状態になってしまっているけれど。
他の島民や見回っている騎士の姿も見られ、自然と声が小さくなった。
「その処置とは?」
「まあ大方、土魔法で崩れそうな個所を、固めたってところだろ」
そうか。魔法って便利だな。『転移』に『土』。まだまだ種類があるだろう。やっぱり、いつかは魔法を使えるようになりたいものだ。これはどこかで、魔法関連の苦労をしなければ。適性通りなら身に付くはず。
新たな目標をゆる~く立てた後、他の人との距離を確認して、一番気になる質問をした。
「なんなんですか?この島の、神樹の数。これでどうして、魔物の大量発生が起こるっていうんです?」
小さな村で、すでに外れまで辿り着いていた。生い茂る木々へ向け、一本の小道が続いている。もうひとつの村、カロと繋がる道だ。そのまま進んでゆく。
白い。辺りを覆う木々には、やたらと白い木が混じっている。種類も様々。神樹とは、決まった種類の木ではないということか。
「…神樹の魔物除け効果は、結界とは違う。魔物を弾くものじゃない。それは分かるな?」
イーディスは考えながら、返してきた。
「はい」
そうでなければ、町で魔物に遭遇はしないだろう。
「魔物は神樹に近づかない。だが…近づけないわけではない」
「悪臭みたいなものですかね?」
「ああん?」
「嫌な臭いがする、近づきたくない。でも、臭いだけ」
「なるほど、確かにな」
「だけど、嫌なものは嫌ですよね?神樹のある一定範囲内では、発生もしなくて。ましてや、これだけの数の神樹がある地…どうして?」
「大量発生など起こったか」
「そうです!」
「町に魔物は出ない。さっきのお前の例えで言うなら、神樹は強烈に魔物の嫌がる臭いを発しているからだ。そして、この島は神樹の群生地。『聖なる地』とまで呼ばれている。絶対的に魔物は近づかねえ」
噛んで含めるような言葉。嫌な予感が、ひしひしとしてきた。
「だから、どうして?」
「……持ち込んだ奴がいるからだろ」
勿体ぶるわけだ。聞きたくなかったかも。
それはつまり…
「今回の魔物の大量発生は、自然災害ではなく…人災?」
いや、待て。それは、必然的にリズの町に出た魔物の一件もではないか?
「チッ。クソが。人間なんてろくなモンじゃねえ」
舌打ちと悪態。隣を見上げると、非常に険しいご面相。なのに美人はやっぱり美人とは。ちょっとズルいと思う。でも、そこはひとまず置いておく。なんだろうね。辛そう?痛そう?
端的に言って、イーディスは人嫌いだ。
でも。本当は嫌いではいたくない、そんなところが垣間見えるのも確かで。だから、私は聖剣サマの言葉に問わずにいられない。
「人間なんて…ということは、イーディスは魔族の仕業と思っていない?」
「…俺は魔族と人族を、区別したつもりはない」
「あれ?魔族も人間括り?」
「俺に言わせりゃな。だが…」
「だが?」
「ま、そうだな。魔族の仕業とは思ってねえな」
「…それは、なにゆえ?」
ベルクラの神官に言わせれば、一も二もなく魔族の仕業だぞ?そして多分、それは大多数の人族の見方である。人族が魔族を蛇蝎のごとく嫌っていると言ったのは、他でもないイーディスだ。
私はまだ、一度も魔族というものに会ったことがないので、これの判断がつかない。故にこの話は聴き逃がせない。
歩みを止める。カロはまだ少し先。道の途中、木々に囲まれ他に人気はない。イーディスも立ち止まった。
「魔王は顔見知りだ。アイツが王に就いている限り、そんな面倒な事態は起こらねえな」
え~っと?どこから突っ込んだらいいだろう?
但し、一般人に限り。
身分と金、もしくは能力のある者は、そんな危険は冒す必要がない。何故なら、『転移魔法』という便利なものが存在するからだ。
「え?ここがホルルカ島?」
彼の地に立っての第一声だった。
ホルルカ島へと足を踏み入れた。約三月前、魔物の大量発生という災害の起こった場所。かつて、フランチェスカが生活していた地に。
ベルクラから戻った私たちを待っていたのはミネリさんからの呼び出しで、それは島民の一時帰還の許可が出るだろうという報せだった。
ありがたいことに領主である侯爵様お抱えの魔術師が、転移魔法で順次送ってくれるという。
そうして本日、無事帰還を果たしたというわけなのだがーー
もはや跡地と言っても差し支えないだろう、荒れ果てたホドの村。転移先である、そこに設置された野営地の天幕を出て、すぐに困惑してしまった。村の荒れた様にではない。悲しいかなそれは想定内。
では、なにに困惑しているのかというとーー
村を囲む景色の白さに。
小さな村は密林に囲まれていた。秘境さながらに。その周辺の色に、かなりな割合で白が混ざっているのだ。そう。白い木が混じっている。
「え?神樹だらけ?」
「あの?」
案内に立っていた騎士が、私の様子にこれまた困惑。「住んでいた処でしょ?」と言いたそうな表情だ。
「コイツは記憶を失くしてる。妙なことを言うが、適当に流しとけ」
付き添いとして隣に立つイーディスが、なにやら失礼な説明の仕方をしてくれた。
「まさか…この災害が原因で?」
「あ、はい」
恐る恐る、といった様子で尋ねてくる騎士に答える。気を使わせてしまったよう。本当は違うので申し訳ない。
「では、目的地までお連れしましょうか?」
「あ、いいえ。大丈夫だと思います。カロの村までは、一本道だと聞きましたから」
「ええ、そうです。では、夕方までにはこちらにお戻りください」
「はい」
村の惨状は見るも無惨だった。ほとんどの家屋が崩されている。どれだけの数の魔物が出たというのだろう。ここで再び生活など、当面は無理だろう。
やはり、あくまで一時帰還。夕方にはリズの町に送還される。
「この状態…家の中から貴重品を持ち出したりは、危険では…?」
案内役の騎士から離れ、並んで歩くイーディスに問いかけた。
「おそらく危険のある家は、これ以上崩れないよう処置されている」
こちらを向くことなく、答えが返ってくる。
フランチェスカの家があるというカロの村に向かうかたわら、お互い注意深く周辺を観察していた。平屋のこぢんまりとした家が多い。長閑な村の風景が思い描かれる。見るも無惨な状態になってしまっているけれど。
他の島民や見回っている騎士の姿も見られ、自然と声が小さくなった。
「その処置とは?」
「まあ大方、土魔法で崩れそうな個所を、固めたってところだろ」
そうか。魔法って便利だな。『転移』に『土』。まだまだ種類があるだろう。やっぱり、いつかは魔法を使えるようになりたいものだ。これはどこかで、魔法関連の苦労をしなければ。適性通りなら身に付くはず。
新たな目標をゆる~く立てた後、他の人との距離を確認して、一番気になる質問をした。
「なんなんですか?この島の、神樹の数。これでどうして、魔物の大量発生が起こるっていうんです?」
小さな村で、すでに外れまで辿り着いていた。生い茂る木々へ向け、一本の小道が続いている。もうひとつの村、カロと繋がる道だ。そのまま進んでゆく。
白い。辺りを覆う木々には、やたらと白い木が混じっている。種類も様々。神樹とは、決まった種類の木ではないということか。
「…神樹の魔物除け効果は、結界とは違う。魔物を弾くものじゃない。それは分かるな?」
イーディスは考えながら、返してきた。
「はい」
そうでなければ、町で魔物に遭遇はしないだろう。
「魔物は神樹に近づかない。だが…近づけないわけではない」
「悪臭みたいなものですかね?」
「ああん?」
「嫌な臭いがする、近づきたくない。でも、臭いだけ」
「なるほど、確かにな」
「だけど、嫌なものは嫌ですよね?神樹のある一定範囲内では、発生もしなくて。ましてや、これだけの数の神樹がある地…どうして?」
「大量発生など起こったか」
「そうです!」
「町に魔物は出ない。さっきのお前の例えで言うなら、神樹は強烈に魔物の嫌がる臭いを発しているからだ。そして、この島は神樹の群生地。『聖なる地』とまで呼ばれている。絶対的に魔物は近づかねえ」
噛んで含めるような言葉。嫌な予感が、ひしひしとしてきた。
「だから、どうして?」
「……持ち込んだ奴がいるからだろ」
勿体ぶるわけだ。聞きたくなかったかも。
それはつまり…
「今回の魔物の大量発生は、自然災害ではなく…人災?」
いや、待て。それは、必然的にリズの町に出た魔物の一件もではないか?
「チッ。クソが。人間なんてろくなモンじゃねえ」
舌打ちと悪態。隣を見上げると、非常に険しいご面相。なのに美人はやっぱり美人とは。ちょっとズルいと思う。でも、そこはひとまず置いておく。なんだろうね。辛そう?痛そう?
端的に言って、イーディスは人嫌いだ。
でも。本当は嫌いではいたくない、そんなところが垣間見えるのも確かで。だから、私は聖剣サマの言葉に問わずにいられない。
「人間なんて…ということは、イーディスは魔族の仕業と思っていない?」
「…俺は魔族と人族を、区別したつもりはない」
「あれ?魔族も人間括り?」
「俺に言わせりゃな。だが…」
「だが?」
「ま、そうだな。魔族の仕業とは思ってねえな」
「…それは、なにゆえ?」
ベルクラの神官に言わせれば、一も二もなく魔族の仕業だぞ?そして多分、それは大多数の人族の見方である。人族が魔族を蛇蝎のごとく嫌っていると言ったのは、他でもないイーディスだ。
私はまだ、一度も魔族というものに会ったことがないので、これの判断がつかない。故にこの話は聴き逃がせない。
歩みを止める。カロはまだ少し先。道の途中、木々に囲まれ他に人気はない。イーディスも立ち止まった。
「魔王は顔見知りだ。アイツが王に就いている限り、そんな面倒な事態は起こらねえな」
え~っと?どこから突っ込んだらいいだろう?
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