灰色の旅人

ふたあい

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 転移陣の先は、聞いていた通り洞窟だった。
 迫ってくるような岩壁。広いとは言えないためか、対応する方陣はその壁に刻まれていた。ニ、三人並ぶほどの幅しかない。それでも高さはあるようで、イーディスは余裕で立っていた。
「こっちだ」
 追ってきた私を見るなり、光の差す方へとイーディスが歩き始める。
「え?あ、ま、待ってください。あっちは…?」
 思わず慌てて反対方向を指した。

 なんだろう?嫌な感じがする。

 恐らく洞窟の奥。そちらから非常に嫌な気配が漂ってくる、気がした。
「…そっちは後だ。危険だが、近づかなければ問題ない。今のところはな」

 今のところは。では、今後は?

 こちらの不安もなんのその。聖剣サマは先を行き、やがて洞窟の外に出た。
 出た先は鬱蒼とした密林。白色の混ざり具合からして、島内であると思われる。そして足元にーー

 一本の、細身の剣が刺さっていた。

 丁度、洞窟の入口ど真ん中に当たる位置に刺さる剣。「またかよ」と、私が思ったのは言うまでもない。
「…なんです、この剣?剣を刺すのが流行りかなんかで?」
 ようやく足を止め、隣に並んだイーディスに問いかける。この聖剣サマも、地面に刺さっていたのであるからして。
「なわけねえだろ。感覚からして、結界と目眩ましだな」
「結界と目眩まし?」
「奥にあるヤバいのを封じると同時、ここが見つからないように術が掛けてある。その剣は力を強める媒体だ。中から出てきた俺たちには、目眩ましは無効になっちまったがな」
「奥にある、ヤバいの?」
「近づくとヤバいな、アレは」
「……近づいたんですね?」
「……まあな」

 なーにー、やってんだーっ!この男はーっ!ちょっと目を離した隙に、危険なことしまくって!

「イーディスッ!」
「…なんだ?まさか、また心配だとか言うのか?」
「そうですよっ!イーディスの腕は信用してるけど、それとこれとはまったく別問題ですっ!」
「……すまん」
「ーーっ!!」
 ここに来てそっぽを向いていたのをやめ、そんな叱られた子供のような不貞腐れた顔で見つめてくるとはっ!

 反則だーっ!

「…怪我は?」
「ねえよ。そんなヘマするか」
「でも危なかったんですよね?なにがいたんですか?洞窟の奥に」
「亀の魔物だ」
「亀?爬虫類!?虫ではない魔物、ですか?」
「ああ。俺も久しぶりに見た」
「ち、ちょっと待って…」

 虫であんな大変なのに、元が大きな生物が魔物となるとーー

「討伐難易度が跳ね上がる。しかも厄介なことに、俺の武器では傷ひとつ付かなかった」
 私の心の声が聞こえていたかのように、イーディスが憎々しげにぼやいた。
「傷ひとつって…あ、亀の甲羅?」
 そんな。イーディスで駄目なら、倒すなんて無理では?
「だが、放ってもおけん。そこの剣は回収しておきたいからな。討伐は絶対だ」
「ーー?剣を回収したい?」
 足元に刺さる剣に、再び目を向ける。
「よく見てみろ」
「よく…?」
 しゃがみこんで剣をマジマジと見る。細身の剣。刺突用、所謂ーーレイピアというものだ。
 銀色の刀身に、弧を描く拳のガード部分が花びらを思わせ、なんとも優美である。
 魔物の封印の一端をこの剣が担っているというのなら、討伐しなければ回収はできないだろう。魔物を解き放つ選択は、あり得ないわけだし。
「そいつを見て、思うところはないか?」
「思う…ところ?」
「少なくとも俺が渡した剣よりは、お前の手に馴染みそうだと思わんか?」
「え?」
 改めて剣を見る。そうか、イーディスも気付いていたんだ。斬るより刺す、この体はそのスタイルで剣を振るっていたのだとーー

 ん?待て、それはつまりーー

「そいつは、フランチェスカの剣だと思わねえか?」
「…やっぱり?」
「だとすると拙いんだよ。大半が密林とはいえ、村が二つしかないような小さな島だ。現時点では見つかっていないが、今後、本格的な調査が入って、この場所が見つかる確率は高い」
「…そうなると?」
「その剣がここにあることで、お前が疑われる。持ち主を割り出すのなんざ、高位の魔術士ならお手のものだからな。剣はここに残せねえ」
「ええっ!?私が島に魔物を持ち込んだと?亀は封じられているから、島を襲ったのは別の魔物でしょう?」
「問題なのは、お前がなんらかの形で関わっていると疑われることだ。そんなことになったら、面倒しかねえぞ?」
「うわあ…もう」
「観念しろ。討伐一択だ」
「いや、でも、『武器生成』では歯が立たないんですよね?あ、魔結晶使うとか?」
「いや、駄目だ。手持ちの魔結晶では話にならん。そもそも派手な魔法は洞窟が崩れる」
「では、どうすればーー?」
「だからお前を呼んだんだ、フラー」
「え?」
「忘れたのか?俺は聖剣で、お前は主だ」
「あの、それ…?」

 あ、なんか嫌な予感。

「俺の力を開放する。お前が亀を斬れ」
「やっぱりそうなるのー!?」
「クソ忌々しいが、クソババアの加護付きだ。斬れ味は保証する」
「いや、腕の問題!」
「ああん?そこも問題ねえよ。誰が鍛えたと思ってんだ?それに力を開放する。主であるお前に、最も適した姿になってやるよ」
「適した…姿?」
 どういうことだ?ファシオの広場に刺さっていたあの姿、アレとは別の姿になるというのか?
「頃合だ」
 私と同じようにしゃがんだかと思うと、何故か良い笑顔を向けてイーディスが言った。

 勘弁して。その笑顔には弱いのだから。

 たじろいで少し身を引くと、逃さないとばかりに手首を掴まれた。
「イーディス?」
「合わせて、一つ頼みがある」
 笑顔から一転、真剣な眼差し。な、なな、なんですか?
「た、頼み?」
「今後は必要時以外、俺を剣に戻さないでくれ」
「へ?」
 えーっと?そもそも、そんな戻してないと思うけど?
「頼む」
「わ、分かりました」
 よく分からないが、それはイーディスにとって大切なことであるのは分かった。だから了承した。
「ありがとな」
 礼を言って柔らかく微笑んだ目の前の美人に、どう返したものかと途方に暮れる。

 その時、吹く風に髪が揺れて。

「髪…伸びましたね」
「そうだな」
 なんとなくこぼれた言葉に、イーディスはいっそう笑った。
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