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フランチェスカの部屋まで、戻ってきた。
訊きたいこと、話さなければならないこと、いろいろあったが、それはすべて後となっている。思いの外、時間が経過していたためだ。
夕刻には、ホドの村にある天幕まで戻らなければならない。
最低限ーーフランチェスカの剣の、回収のみ行った。それから戻って、地下の転移陣の破棄。あの洞窟との繋がりは、断っておかなければ。剣を回収した意味がなくなってしまう。
普通、魔法陣なんてものは簡単に壊せないものらしいのだけど、力を開放したというイーディスはそれを可能とした。
腐っても聖剣?魔法陣も斬れるとは。
付け加えるなら、感覚で魔法の種類が判断できるのもこの能力ゆえ。魔を斬る力は、魔を知る力。聖剣として標準装備なので、技能として表示されないのだという。
要するに、目に見えている以上にハイスペックであることが、判明したのだ。
益々ヤバいモノを手にしたと、考えさせられることに。大丈夫か?コレ。私の手には有り余り過ぎないか?
「これは…剣と一緒に持って帰ろうと思います」
ベッドの上に置き去りにしていたフランチェスカの日記に手を伸ばし、イーディスに伝えた。
「それだけでいいのか?他は?」
僅かに思案している様子。
「あまり、荷物になっても…」
欲を言えば、家ごと持って帰りたい。
秘密基地のような、そんな良さがこの家にはある。
持ち出せるだけは持ち帰るが、それでも残る棚の薬も惜しくある。まあ、こちらはミネリさんに一声かけておけば領主様に伝わり、有効活用してもらえるだろう。
「また、クソ不味いもん食ったような顔になってんな」
「良い家ですから。…家って、人が住んでいないと傷むでしょう?惜しいなあって…」
「…そうだな。悪くない処ではあるな」
ぐるりと見渡して、イーディスが肩をすくめた。
「出ましょうか。もう日が傾きかけてます」
「ああ」
出入口の扉を閉め、数歩離れて家全体を眺めた。
惜しんではいるが、私の家ではない。そのうち忘れてしまうだろう。それが酷く寂しいような気がする。
いやに感傷的だ。我ながら、らしくない。
「腹減ったな」
唐突にイーディスが言う。
「そういえば、お昼抜きでしたね」
端と気付いた。
「まさか、あんな厄介な魔物と対峙する羽目になるとはな。次は用心して、なにか食いモン持ってくるか」
「そうですね。今度は食材持って来ましょう。竈がありましたし」
「なんだ?お前、飯なんか作れんのか?」
「…多分。普通にできるかと」
「へえ?そいつは期待しておくか」
「いや、あまり期待しないでください」
あれ?また来る流れになってる?首を傾げてイーディスを見る。
私同様、家を見ていた。
「…行きますか?」
「そうだな」
二人して、名残りを惜しんでその家を後にした。
…のだが。
数歩も進まぬうちに何故か私のスカートが、クイッと後ろから引かれた。
「へ?」
足を止める。
なにかスカートに引っ掛けたようだ。そんな引っ掛かるものなどあっただろうか?視線を落としつつ後ろを見るとーー
知らない男の子が、スカートの端を握っていた。
「え、あの…?」
どこから現れた?迷子か?気配なんてなかったぞ?ーー一瞬のうちに、あれこれと疑問が頭で飛び交う。
「…」
男の子は無言で、ジッと私を見つめている。スカートは握ったままで。
「…う」
「…」
うわあ~。なんだ、この子?なんていうか、なんていうの?
十歳くらいか。ピンクブラウンのくるくる巻き毛。柔らかそうな下膨れのほっぺに、居眠りしているようなタレ目。そして極めつけ。私のスカートを掴む、ふくよかなぷにぷにの手!
なんていうか…すべてが可愛い!非常に可愛い!そう!これはーー
「ゆる…」
おっと。失礼にも口に出すところだった。ゆるキャラ!そう!ゆるキャラ的に可愛い子供だっ!
うわ~。いいなあ。なんか和むなあ。
「…ユル?」
ゆるキャラーーもとい、男の子が目を逸らさずに呟いた。
「え?あ、それは…」
言い淀んだ次の瞬間ーー
「ユル!それが、僕の名前なんですねっ!」
精一杯背伸びして、しがみつかんばかりの勢い、ゆる…いや、男の子が声を高めた。
「えっ?」
「主様っ!」
「は、はい?」
すっかり高揚した様子で、嬉しそうに満面の笑みを浮かべるゆるキャラーーあーもう、それでいいや。なんだって?あるじさま?とある爺様?ーーって、ボケてどうする。イーディスも皮肉を込めて、私を呼ぶではないかーー
主サマ、と。
「おい」
ゆるキャラに泡を食う私に、救いの声がかかった。
「イーディス、この子ーー」
「正面見てみろ」
「え?正面?」
イーディスの困惑顔をチラリと横目に、言われた通り正面に目を向けてみる。
島に入ってから、散々見てきた木々。それがあるだけ。つまりーー
え?なにもない。
なにもないなら、別におかしくないではないかって?
いやいやいや?おかしいよ?なにもないんだよ?あるのは木ばかりって?だって私、後ろを振り向いて見ていたんだよ?後ろの正面には、さっきまでーー
フランチェスカの家があったはず。
「家…がない」
「ねえな」
イーディスが淡々と返してくる。
「えーと?どこいった?」
「目の前にいるだろ」
「ああ。そうですね。ハイ」
目線を落とす。ゆるキャラがニコリとした。
ギギギッと音のしそうなぎこちなさで、イーディスを見上げる。こんなことが前にもあった。
「俺に振るな」
嫌そうな顔をして拒否された。
ハイ。そうですね。自己責任だよね、これは。だって私の技能が引き起こしたんだし。
ああ。やっぱり無駄と分かっていても、一度は神殿に殴り込みをかけたい。そこにいる無関係な聖職者たちが、迷惑するだけだからしないけど。
どうにも、暴走し気味だなあ。白い神の気質が原因なのではなかろうか?そう思えて仕方ない。
「えーっと?貴方はそこに建っていた家ですか?」
なんという馬鹿げた質問。それを目の前のゆるキャラに投げかけた。
「はいっ。僕はそこに建っていた家です!」
大変ハキハキとした、良い返事が返ってきました。良い子だね~。
やってしまった。
フランチェスカの家は、擬人化した。
訊きたいこと、話さなければならないこと、いろいろあったが、それはすべて後となっている。思いの外、時間が経過していたためだ。
夕刻には、ホドの村にある天幕まで戻らなければならない。
最低限ーーフランチェスカの剣の、回収のみ行った。それから戻って、地下の転移陣の破棄。あの洞窟との繋がりは、断っておかなければ。剣を回収した意味がなくなってしまう。
普通、魔法陣なんてものは簡単に壊せないものらしいのだけど、力を開放したというイーディスはそれを可能とした。
腐っても聖剣?魔法陣も斬れるとは。
付け加えるなら、感覚で魔法の種類が判断できるのもこの能力ゆえ。魔を斬る力は、魔を知る力。聖剣として標準装備なので、技能として表示されないのだという。
要するに、目に見えている以上にハイスペックであることが、判明したのだ。
益々ヤバいモノを手にしたと、考えさせられることに。大丈夫か?コレ。私の手には有り余り過ぎないか?
「これは…剣と一緒に持って帰ろうと思います」
ベッドの上に置き去りにしていたフランチェスカの日記に手を伸ばし、イーディスに伝えた。
「それだけでいいのか?他は?」
僅かに思案している様子。
「あまり、荷物になっても…」
欲を言えば、家ごと持って帰りたい。
秘密基地のような、そんな良さがこの家にはある。
持ち出せるだけは持ち帰るが、それでも残る棚の薬も惜しくある。まあ、こちらはミネリさんに一声かけておけば領主様に伝わり、有効活用してもらえるだろう。
「また、クソ不味いもん食ったような顔になってんな」
「良い家ですから。…家って、人が住んでいないと傷むでしょう?惜しいなあって…」
「…そうだな。悪くない処ではあるな」
ぐるりと見渡して、イーディスが肩をすくめた。
「出ましょうか。もう日が傾きかけてます」
「ああ」
出入口の扉を閉め、数歩離れて家全体を眺めた。
惜しんではいるが、私の家ではない。そのうち忘れてしまうだろう。それが酷く寂しいような気がする。
いやに感傷的だ。我ながら、らしくない。
「腹減ったな」
唐突にイーディスが言う。
「そういえば、お昼抜きでしたね」
端と気付いた。
「まさか、あんな厄介な魔物と対峙する羽目になるとはな。次は用心して、なにか食いモン持ってくるか」
「そうですね。今度は食材持って来ましょう。竈がありましたし」
「なんだ?お前、飯なんか作れんのか?」
「…多分。普通にできるかと」
「へえ?そいつは期待しておくか」
「いや、あまり期待しないでください」
あれ?また来る流れになってる?首を傾げてイーディスを見る。
私同様、家を見ていた。
「…行きますか?」
「そうだな」
二人して、名残りを惜しんでその家を後にした。
…のだが。
数歩も進まぬうちに何故か私のスカートが、クイッと後ろから引かれた。
「へ?」
足を止める。
なにかスカートに引っ掛けたようだ。そんな引っ掛かるものなどあっただろうか?視線を落としつつ後ろを見るとーー
知らない男の子が、スカートの端を握っていた。
「え、あの…?」
どこから現れた?迷子か?気配なんてなかったぞ?ーー一瞬のうちに、あれこれと疑問が頭で飛び交う。
「…」
男の子は無言で、ジッと私を見つめている。スカートは握ったままで。
「…う」
「…」
うわあ~。なんだ、この子?なんていうか、なんていうの?
十歳くらいか。ピンクブラウンのくるくる巻き毛。柔らかそうな下膨れのほっぺに、居眠りしているようなタレ目。そして極めつけ。私のスカートを掴む、ふくよかなぷにぷにの手!
なんていうか…すべてが可愛い!非常に可愛い!そう!これはーー
「ゆる…」
おっと。失礼にも口に出すところだった。ゆるキャラ!そう!ゆるキャラ的に可愛い子供だっ!
うわ~。いいなあ。なんか和むなあ。
「…ユル?」
ゆるキャラーーもとい、男の子が目を逸らさずに呟いた。
「え?あ、それは…」
言い淀んだ次の瞬間ーー
「ユル!それが、僕の名前なんですねっ!」
精一杯背伸びして、しがみつかんばかりの勢い、ゆる…いや、男の子が声を高めた。
「えっ?」
「主様っ!」
「は、はい?」
すっかり高揚した様子で、嬉しそうに満面の笑みを浮かべるゆるキャラーーあーもう、それでいいや。なんだって?あるじさま?とある爺様?ーーって、ボケてどうする。イーディスも皮肉を込めて、私を呼ぶではないかーー
主サマ、と。
「おい」
ゆるキャラに泡を食う私に、救いの声がかかった。
「イーディス、この子ーー」
「正面見てみろ」
「え?正面?」
イーディスの困惑顔をチラリと横目に、言われた通り正面に目を向けてみる。
島に入ってから、散々見てきた木々。それがあるだけ。つまりーー
え?なにもない。
なにもないなら、別におかしくないではないかって?
いやいやいや?おかしいよ?なにもないんだよ?あるのは木ばかりって?だって私、後ろを振り向いて見ていたんだよ?後ろの正面には、さっきまでーー
フランチェスカの家があったはず。
「家…がない」
「ねえな」
イーディスが淡々と返してくる。
「えーと?どこいった?」
「目の前にいるだろ」
「ああ。そうですね。ハイ」
目線を落とす。ゆるキャラがニコリとした。
ギギギッと音のしそうなぎこちなさで、イーディスを見上げる。こんなことが前にもあった。
「俺に振るな」
嫌そうな顔をして拒否された。
ハイ。そうですね。自己責任だよね、これは。だって私の技能が引き起こしたんだし。
ああ。やっぱり無駄と分かっていても、一度は神殿に殴り込みをかけたい。そこにいる無関係な聖職者たちが、迷惑するだけだからしないけど。
どうにも、暴走し気味だなあ。白い神の気質が原因なのではなかろうか?そう思えて仕方ない。
「えーっと?貴方はそこに建っていた家ですか?」
なんという馬鹿げた質問。それを目の前のゆるキャラに投げかけた。
「はいっ。僕はそこに建っていた家です!」
大変ハキハキとした、良い返事が返ってきました。良い子だね~。
やってしまった。
フランチェスカの家は、擬人化した。
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