灰色の旅人

ふたあい

文字の大きさ
34 / 62

7ー2

しおりを挟む
「えーっと?」
「ユルです、主様」
「その主様っていうのは…」
「主様は、主様です」
 フランチェスカの家ーー改めユルは、見た目通りのゆったり口調。だけど、有無を言わさぬ押しの強さが言葉にはあった。

 主様…ね。

「へえ?主と呼ぶか」
 イーディスが面白そうに言葉を挟む。
「はい。僕は主様の能力で、生み出してもらいましたから」
「なるほど」
 あー、やっぱり私の技能なのね。いや、分かっていたけど。
「あの、貴方は?」
 不思議そうに、ユルがイーディスを見上げた。
「俺か?まあ、お前のお仲間だな。理由は違うが、一応コイツが主になるーーって、痛えっ」
 口の端を上げ答えるイーディスが肩を抱いてきたので、その手を抓る。
「テメエッ」
 睨んできたが、いつものことなのでスルーしておいた。それを見てユルが笑う。
「主様、楽しそうです」
「え?そ、そう?」
「はい」
 
 笑顔に癒やされる。さすが、ゆるキャラ。

 この時点で、ユルを連れ帰ることは確定。『認識阻害』をかけて転移陣を通れば、怪しまれることもないだろう。
 私たちは帰路へとつくことにした。時間が押している。

「主様。荷物、預かりましょうか?あの、そちらも…」

 ユルが道の途中で、私とイーディスを交互に見て尋ねてきた。分厚い日記帳を抱えているのを見てのことだろう。イーディスの方も薬瓶を詰めた木箱を担ぎ、フランチェスカの剣を提げている状態だ。
「大丈夫」
「ガキが気を遣ってんじゃねえよ」
 私とイーディスの返事が重なった。
 それを聞いたユルが、目をパチクリさせる。それから笑って言った。
「そのくらいの荷物なら、僕の中に収まりますから」

 ーーん?ユルの中に収まる?

「まさか…その姿のままで、家として機能するってのか?」
「はい。え…と、なんとお呼びすれば?」
「イーディスだ」
「問題なく機能していると思います。イーディスさんは違うのですか?」
「あー…いや。真価は失くすが、機能はしてんな」
「はい。僕も同じで、肝心の人は住めそうにありませんが、収納くらいはできます」
「そうか、それなら。俺たちが今抱えているのは、元々お前の中に置いてあったものだ。戻せるってんなら助かる」
「元と同じかは分かりませんが、適切な場所には置けます」
「結構」

 なんだって?

 私を間に挟み、聖剣と家とで会話が成されている。待て。理解が追いつかない。
「んじゃ、頼む」
 私が眉根を寄せている間に、イーディスが担いでいた木箱をユルに放り投げた。
「えっ!?」
 思わず声を上げる。
 緩い放物線を描いて、木箱がユルに向けて落ちていく。
「危なっーー」

 再び声を上ると同時、木箱が消えた。

 それはもう突然に。魔法のように。忽然と。ユルの頭を直撃する瞬間に、木箱がなくなった。
「え?え?」
「大丈夫です。きちんと収納できました。多分、木箱は地下の貯蔵庫、中の瓶は部屋の棚かと…」
「貯蔵庫もあるままか。お前は、使えるガキンチョってわけだ」
「ユル、です!」
「おっと、そうか。その名前、気に入ったようだな?」
「はいっ!主様に頂いたのです。もちろんです!あ、主様、そちらの本も収納しますので、こちらにーー」
 完全に置いてけぼりにされている私に、ユルが手を伸ばしてきてハッとなった。
「待って。その前に説明して!二人とも!」

 イーディスとユルが目を見合わせた。私を挟んで。

「このガキンチョの家としての空間は、人型でも健在。それだけだ」
「出し入れ自由です!あ、でも、生き物は無理みたいです」
 順番に説明してしてくれるとは。息が合うようで良かったよ、という感想しか出てこない。

 つまり。

 歩く収納を手に入れた、ということなのでは?
 それはーーおそらく今後、旅に出るだろうと予測される私たちにはかなりありがたい存在ということ。
 そこまで考えて、ふと思った。

「ユルは名前がなかったの?」

 様々なショックから立ち直ると、今度は疑問が湧き起こる。同じ擬人化でも、ユルとイーディスでは様子が違う。
「はい。僕はついさっき、生まれたばかりですから」
 不思議そうな顔で答えるユルを見てから、イーディスを見上げた。怪訝な顔になっていると思う。
 聖剣サマは一瞬鼻白んだ顔をしたが、少し考えた後、口を開いた。
「俺は特別仕様だと、最初に言っただろ。だが、まあ疑問は尤もだ。おい、ユル」
「はい、なんでしょう?イーディスさん」
「お前の自我とその姿、それはなにを要素としている?」
「要素、ですか?」
「例えば、俺は剣だが元は人間だった。今の姿は、その死亡時のものだ」

 なぬ?

「ちょっと、待ったーっ!?」
「なんだ?テメエが言い出したんだろうが?水指すんじゃねえよ」
「だって今、死亡時の姿って?」
「それがどうした?」

 どうしたもこうしたも。イーディスって二十八歳だったよね?ってことはーー

「そんな若さで死んでたんですか!?」
「驚くことか?戦場にいた。よく保ったほうだぜ?」
「……」
 言葉にならない。私はまだこの聖剣サマのことを、なにも分かっていなかった。
「主様?大丈夫ですか?顔色があまり良くないですよ?お薬、処方しましょうか?」
 ユルが心配そうに声をかけてくる。
「え?ああ、ううん。少し驚いただけだから。ごめんね、話の続きを聞かせて?」
「……」
 イーディスが苦いものでも口に含んだような顔で、黙ってこちらを見た。ごめん。理解の足りない主で。

「…分からないけど、僕の置かれていた環境。それを元に、僕自身になったような気がします。ただ、姿の方は多分ーー」

 なんだか気まずくなっていた私たちに気を遣ってか、ユルが遠慮がちに話しの続きを始める。こんな子供に気遣いさせるとは。情けない主でごめん。あーもう。謝ってばかり。
 ブンブンと頭を振って、気を取り直す。「よし」と頷いてユルに視線を向けた。
「姿の方は?」
「えーっと?ランダム?」

 ーーん?

 なんともアバウトな答えが返ってきたぞ?
「要するに、要素はなしってことだな?」
 イーディスが呆れたように、ユルに確認する。
 要素なし?
「歳は?十歳くらいに見えるけど…」
「それも多分、根拠はないかと。僕、築数年ってところだと思うので」
 ユルは困ったように、眉尻を下げた。「そのままだと二、三歳の姿になってしまう…」と呟きながら。

 うん。もう可愛いからなんでもいい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

処理中です...