49 / 62
10ー4
しおりを挟む
生き物は、魔素が枯渇すれば魔物となる。それがこの世界の理。だけど魔族も含め、人は魔物になった前例がない。精神的な負荷に耐えられず死ぬ、らしい。
故にユルの言う薬は毒である。まっとうな薬師ならば、調合したりはしない。ましてや応用して魔物を生み出そうなど、言語道断だ。
「…フランちゃん」
冷ややかにも感じる低く抑えられた声に、ハッとして視線を向けた。呼ばれたのは私だ。『フランチェスカ』という名は、長くて呼びにくいとイーディスにもケチをつけられた。名の後半を端折られても仕方がない。まあ、愛称と受け取っておこう。
「…ローレッタさん?」
「貴女、記憶がないのよね?」
「はい」
「すまない。そのことと、ベルクラについてだけは母、ひいてはアーレイ様に話させてもらった。だが、他の占いの内容はーー」
「キルギスは黙って」
やや焦りぎみなキルギスさんの言葉を途中で遮って、ローレッタさんは私を真っ直ぐに見た。その目が非常に厳しい。
「フランちゃん、貴女は薬師なの?」
硬い声音で問われた。
自宅に薬品棚。珍しい薬材。そうだ。フランチェスカは確かに薬師だ。ローレッタさんの問いに、改めて思う。
だけど、私は違う。どうしよう…なんと答えればーー
「なにが言いたい?」
窮した私の代わりに、イーディスが問い返した。
「なにって?貴女は魔族を陥れようとしていたのか?そう訊いているのよ」
「くだらね」
「それはない」
ローレッタさんの返答に、イーディスとキルギスさんが同時に口にした。
「なによう!二人して」
「お門違いだ。テメエの言う通りだとして、のこのこ魔女のもとに行くかよ」
「そもそも俺は、そんなことは一言も言っていない。察しろ」
「それに冤罪を仕向けているのは召喚陣なので、疑うべきは空間魔法の使い手だと思います」
あ、なにげにユルまで反論に加わった。
「むきいっ。なんかムカつく!ちょっと言っただけじゃない。私だって、フランちゃんを本気で疑ってなんていないわよ!」
「どうだか」
呆れた目を向けるキルギスさん。親子の言い争いが、また始まりそうだ。
「だったら、その物騒なブツはなんだってんのよ!誰かが使うために、置いてあったんでしょうっ!」
だけど、ビシリとユルの持つ樟脳をローレッタさんが指差すと、魔女は黙り込んだ。
「そもそも神樹の扱いは、国が厳しく管理してるはずよ。その薬材はあきらかに違法品だわ」
「…だから、ホルルカだったのか」
畳みかけるローレッタさんの言に、イーディスが呟いた。
「そうか。ホルルカならば、調達できる。あの島は神樹の宝庫だ」
「となると、元となった神樹があるな」
「やはり、ホルルカの調査は必須か。しかし、今さらとも言える…」
「あの…それよりも。樟脳を使った薬師は、フランチェスカさんとは別にいます。そちらを捜すのが優先かと」
「待て、ユル。そいつは間違いなく使われたのか?」
呟きから一転、野郎どもの間で起こった議論に、私とローレッタさんが目を見合わせる。イーディスの質問にユルが答えた。
「実は…調合の形跡がありました。薬は完成したものと思われます。すみません、黙っていて。ついさっき分かったんです」
ん?なんだって?
なんだかやたらゴソゴソやっていると思ったら、ユルはそんなことを調べていた?
「ポーションを作ってたんじゃねえのか?」
イーディスが問う。
「作ってました。それと並行してです。新しいポーションを作ろうと思って、昨夜棚を漁っていたらコレを見つけたんです。慌てました」
白い結晶を矯めつ眇めつ、ユルが答える。並行作業?え?優秀すぎないか?ウチのゆるキャラは!?目眩がしてきた。
「…ユル」
堪らず家の名を呼んだ。
「はい」
ゆる~く見えるが真剣な眼差しでユルが私を見る。
「調合の形跡があったのは、家の中?」
「はい」
「なのに別に薬師がいたと断定するの?」
「だからです。フランチェスカさんではない者の魔力が、幽かに残っていました」
「…完成した薬自体は、残ってないんだな?」
イーディスが眉根を寄せる。
「はい」
「解せねえな。洞窟に残っていた召喚陣といい」
「あら。こうなったら召喚陣の方は、ただ単に私たち魔族への嫌がらせってだけでしょ」
ローレッタさんが、さもありなんと言った。だけどイーディスは、なにか腑に落ちないようで。
「…おい、眼鏡」
「なんだ?」
「あの召喚陣は、物を運ぶだけの単純なものだと言ったが、本当にそれだけか?」
「陣自体は。だが、複数の場所が指定されていて、召喚元が割り出せないようになっている。一つの陣として成り立たせるには、相当高い技術がいる」
「なるほど。それで複雑な印象があったのか」
「ほう。そんなことが分かるのか、聖剣というものは」
「…まあな」
聖剣と魔女、類稀なる美人の間で成される会話。それを隣で神妙に聞く、ゆるキャラと美少女。眼福の一言に尽きる。場違いな思考が過ぎった。
「フラー」
不意に呼ばれて、ビクリとした。
「え?あ、はい」
「島の調査にコイツらの協力を仰ごうと思う。お前の技能について話すが、いいか?」
「え、別にいいも、悪いもーー」
「忘れんな。主はお前だ」
イーディスが伺うように私の顔を見てくる。自由に振る舞っているようで、そうでもない聖剣サマの有り様に少し苛ついた。…私もまだまだだな~。
「え?フランちゃん、主なの?」
ローレッタさんが語尾を上げた。
「そうだったのか?」
困惑した様子のキルギスさん。
「あらあら、まあまあ。これは、アーレイ様の護衛を担う者としては、報告しなくちゃだわ。聖剣に主だなんて」
なんだって?魔王の護衛?頬に人差し指を添え、小首を傾げるこのメルヘン少女が?
気付けば場が静まっていた。あれ?皆が私を見ている?これってーー
「…勇者の再来。占いに支障が出たのはそのためか」
魔女の嘆息。
あ、私が聖剣を抜いた張本人だってバレた。
10 勇者よりも薬師がよかったのに
故にユルの言う薬は毒である。まっとうな薬師ならば、調合したりはしない。ましてや応用して魔物を生み出そうなど、言語道断だ。
「…フランちゃん」
冷ややかにも感じる低く抑えられた声に、ハッとして視線を向けた。呼ばれたのは私だ。『フランチェスカ』という名は、長くて呼びにくいとイーディスにもケチをつけられた。名の後半を端折られても仕方がない。まあ、愛称と受け取っておこう。
「…ローレッタさん?」
「貴女、記憶がないのよね?」
「はい」
「すまない。そのことと、ベルクラについてだけは母、ひいてはアーレイ様に話させてもらった。だが、他の占いの内容はーー」
「キルギスは黙って」
やや焦りぎみなキルギスさんの言葉を途中で遮って、ローレッタさんは私を真っ直ぐに見た。その目が非常に厳しい。
「フランちゃん、貴女は薬師なの?」
硬い声音で問われた。
自宅に薬品棚。珍しい薬材。そうだ。フランチェスカは確かに薬師だ。ローレッタさんの問いに、改めて思う。
だけど、私は違う。どうしよう…なんと答えればーー
「なにが言いたい?」
窮した私の代わりに、イーディスが問い返した。
「なにって?貴女は魔族を陥れようとしていたのか?そう訊いているのよ」
「くだらね」
「それはない」
ローレッタさんの返答に、イーディスとキルギスさんが同時に口にした。
「なによう!二人して」
「お門違いだ。テメエの言う通りだとして、のこのこ魔女のもとに行くかよ」
「そもそも俺は、そんなことは一言も言っていない。察しろ」
「それに冤罪を仕向けているのは召喚陣なので、疑うべきは空間魔法の使い手だと思います」
あ、なにげにユルまで反論に加わった。
「むきいっ。なんかムカつく!ちょっと言っただけじゃない。私だって、フランちゃんを本気で疑ってなんていないわよ!」
「どうだか」
呆れた目を向けるキルギスさん。親子の言い争いが、また始まりそうだ。
「だったら、その物騒なブツはなんだってんのよ!誰かが使うために、置いてあったんでしょうっ!」
だけど、ビシリとユルの持つ樟脳をローレッタさんが指差すと、魔女は黙り込んだ。
「そもそも神樹の扱いは、国が厳しく管理してるはずよ。その薬材はあきらかに違法品だわ」
「…だから、ホルルカだったのか」
畳みかけるローレッタさんの言に、イーディスが呟いた。
「そうか。ホルルカならば、調達できる。あの島は神樹の宝庫だ」
「となると、元となった神樹があるな」
「やはり、ホルルカの調査は必須か。しかし、今さらとも言える…」
「あの…それよりも。樟脳を使った薬師は、フランチェスカさんとは別にいます。そちらを捜すのが優先かと」
「待て、ユル。そいつは間違いなく使われたのか?」
呟きから一転、野郎どもの間で起こった議論に、私とローレッタさんが目を見合わせる。イーディスの質問にユルが答えた。
「実は…調合の形跡がありました。薬は完成したものと思われます。すみません、黙っていて。ついさっき分かったんです」
ん?なんだって?
なんだかやたらゴソゴソやっていると思ったら、ユルはそんなことを調べていた?
「ポーションを作ってたんじゃねえのか?」
イーディスが問う。
「作ってました。それと並行してです。新しいポーションを作ろうと思って、昨夜棚を漁っていたらコレを見つけたんです。慌てました」
白い結晶を矯めつ眇めつ、ユルが答える。並行作業?え?優秀すぎないか?ウチのゆるキャラは!?目眩がしてきた。
「…ユル」
堪らず家の名を呼んだ。
「はい」
ゆる~く見えるが真剣な眼差しでユルが私を見る。
「調合の形跡があったのは、家の中?」
「はい」
「なのに別に薬師がいたと断定するの?」
「だからです。フランチェスカさんではない者の魔力が、幽かに残っていました」
「…完成した薬自体は、残ってないんだな?」
イーディスが眉根を寄せる。
「はい」
「解せねえな。洞窟に残っていた召喚陣といい」
「あら。こうなったら召喚陣の方は、ただ単に私たち魔族への嫌がらせってだけでしょ」
ローレッタさんが、さもありなんと言った。だけどイーディスは、なにか腑に落ちないようで。
「…おい、眼鏡」
「なんだ?」
「あの召喚陣は、物を運ぶだけの単純なものだと言ったが、本当にそれだけか?」
「陣自体は。だが、複数の場所が指定されていて、召喚元が割り出せないようになっている。一つの陣として成り立たせるには、相当高い技術がいる」
「なるほど。それで複雑な印象があったのか」
「ほう。そんなことが分かるのか、聖剣というものは」
「…まあな」
聖剣と魔女、類稀なる美人の間で成される会話。それを隣で神妙に聞く、ゆるキャラと美少女。眼福の一言に尽きる。場違いな思考が過ぎった。
「フラー」
不意に呼ばれて、ビクリとした。
「え?あ、はい」
「島の調査にコイツらの協力を仰ごうと思う。お前の技能について話すが、いいか?」
「え、別にいいも、悪いもーー」
「忘れんな。主はお前だ」
イーディスが伺うように私の顔を見てくる。自由に振る舞っているようで、そうでもない聖剣サマの有り様に少し苛ついた。…私もまだまだだな~。
「え?フランちゃん、主なの?」
ローレッタさんが語尾を上げた。
「そうだったのか?」
困惑した様子のキルギスさん。
「あらあら、まあまあ。これは、アーレイ様の護衛を担う者としては、報告しなくちゃだわ。聖剣に主だなんて」
なんだって?魔王の護衛?頬に人差し指を添え、小首を傾げるこのメルヘン少女が?
気付けば場が静まっていた。あれ?皆が私を見ている?これってーー
「…勇者の再来。占いに支障が出たのはそのためか」
魔女の嘆息。
あ、私が聖剣を抜いた張本人だってバレた。
10 勇者よりも薬師がよかったのに
0
あなたにおすすめの小説
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる