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「あらやだ、この子、置物ではなかったの?」
「あのな…」
「僕の話ーー」
「やだっ、なんか可愛い!てっきり、調合する魔動人形かと思ってたら。そんなつまんないモノではなかったわ!」
「…全く反応がないから、俺もそう思っていた」
「眼鏡、お前もか。そんな高価な魔導具が置いてあるかよ」
「それはどっちでもいいんでーー」
「君っ、名前なんていうの?」
「保管されていた薬品の中にですねーー」
「コイツに取り合わないのは賢明な判断だ」
「なんですって!?キルギスーー」
「あー、うるせえ、うるせえ」
ドンッ。
勢いよくポットをテーブルに置いた。
「お茶でもどうです?」
にっこり笑って口にする。まったく、どいつもこいつも言いたい放題で。話がまったく進まねえ!あー、もう。すっごく気になるワードが聞こえてたけど、ここはあえてスルーだ。
ユルをつんつんと突くローレッタさんに、しきりに襟元を引っ張るキルギスさん。ソコ!つつかない。ソコ!そんなに窮屈なら、端から第一ボタンは外しておけ。
私の圧力に、場がしんとなった。よし。
「ユルはちょっと待って!まずはイーディス!ローレッタさんとは、どういう間柄?」
魔女とその母への抗議は思うに留め、聖剣と家に目を向けた。
「……」
「なんだ、妬いてんのか?」
口を噤むユルと、口の端を上げるイーディス。
「…真面目に話して」
「え?やだっ!?恋バナな…むぐ」
話の腰を折ろうとしたローレッタさんの口を、キルギスさんが黙って塞ぐ。ナイスアシストです。
「…間柄ってほどでもねえよ。ただ単に、知った顔ってだけだ。そいつは魔王の側近の娘で、三百年前、ファシオの周辺をうろちょろしてた」
イーディは肩をすくめてみせる。
「魔王の側近…?」
「魔王アーレイ。前に少し話しただろう?側近として常に張り付いてたゼンって奴がいたんだが、ローレッタはその娘だ。お前、爺さんそっくりだよな」
最後の言葉は、キルギスさんへ向けて。なるほど?魔女の顔を知りたがったのは、それが理由?
「色は人族、姿形は魔族血統寄り。能力は両方ーーそれが魔女だ」
母親の口を抑えていた手を下ろすと同時に、嘆息して答えるキルギスさん。
魔女は希少だ。その最たる理由は人族と魔族の溝にある。そしてーー
勝手な考えだけれど。溝ができる原因の最たるは、その寿命の差にあるのではないだろうか。
イーディスが教えてくれた。魔女の寿命は人と同じ。つまり、魔族の片親は伴侶と子供に先立たれてしまうのだ。これではお互い忌避してしまうのも道理である。
魔女の有り様ひとつ取っても、白い神と黒い神の攻防が窺える。人にとっては迷惑でしかない。ああ、腹が立つ。
「分かりました。ローレッタさんから魔王様に今回の話が伝わって、今日は協力のためここへ来た、ということでいいですか?」
一息ついて客人に問うと、黙って二人は頷いた。急に静かになったな。
さて、どこまで本当のことを話したものやら。
「俺たちは、お前の近くにいるだろう元凶について、思い当たることがないかーーそのあたりを聞きたいと思っていたんだが…」
キルギスさんが眉根を寄せる。
「そうねえ。なにかしら目星をつけたいと思っていたけど…」
続くローレッタさんが、困ったようにユルを見た。
ユルは、ホルルカに出た魔物は召喚されたのではないと言った。でも、私たちは召喚されたと考えていた。これはーー新しい情報がもたらされたということ。
「ユル、話を聞かせて」
視線を下げてユルを見る。すると眠そうに垂れた目をキリリとさせ、こちらを見返してきた。ああ、和む。いや、違う。気を引き締めなければ。
すっと、ユルはテーブルに手を置いた。
「これを見てください」
言って、手を離す。テーブルの上に、白い小石ほどの大きさのナニかが残された。
「これは?」
ローレッタさんが首を傾げる。
「石?いや、なにかの結晶か?」
キルギスさんが呟いた。
その言葉通り、そこには白い…しいて言うなら氷砂糖のような塊が。魔力を感じないので、魔結晶ではない。それだけは分かった。
「これは樟脳です」
「しょうのう?」
「しょう…防虫剤か」
聞いたことある言葉だなあと首を傾げていると、キルギスさんが答えを口にしてくれた。ああ、樟脳ね。箪笥に入れるアレか。
「そうです。だけど、この樟脳は普通の樟脳とは違います」
「奇妙な気配がしやがる。なんなんだ?」
ひょいとテーブル上の白い塊を、イーディスが躊躇なく摘む。
「それは、最適化前の神樹から抽出された樟脳です」
「え?神樹?」
「待て。神樹は通常の木と効能が違うと聞いたことがある。主に魔力方面に働くのではなかったか?」
予想外に思ったが、どうやらそうではなかったらしい。キルギスさんのユルに向ける視線が鋭くなった。
「そうです。神樹を元として作られた樟脳は、魔素の魔力化を活性化させる効果があります」
「あらあら?そんな普通では出回らない物、君は何故持ってるのかしら?」
答えるユルに、今度はローレッタさんが問う。するとゆるキャラは、少し困った顔をした。
「…残されてたんです。薬品棚に」
「棚?どこのーー」
「フランチェスカの家の棚か?」
キルギスさんの問う声に、イーディスがかぶせて答えた。うっかり「僕の中にある棚です」などと答えられては堪らない。
「そうです。そしてこれがあれば…」
当の本人は、分かっているのかいないのか。ユルはイーディスの手から、樟脳を掴んで取った。それを頭上に掲げ、眉尻を下げる。
うー、あー。
「やだ。可愛すぎ。気が抜けるわ」
ローレッタさんが私の気持ちを代弁してくれる。いまいち深刻になりきれない。ゆるキャラ効果が高すぎる。
「これがあれば、なんだ?」
イーディスが先を促した。
「体内の魔素を一気に魔力に変換し抜いてしまう薬が、おそらく作れます」
ユルの言に、その場にいた全員が閉口した。
それって、つまり。それを本当に作ったと言うのならばーー
魔物は召喚されたのではなく、生み出された?
「あのな…」
「僕の話ーー」
「やだっ、なんか可愛い!てっきり、調合する魔動人形かと思ってたら。そんなつまんないモノではなかったわ!」
「…全く反応がないから、俺もそう思っていた」
「眼鏡、お前もか。そんな高価な魔導具が置いてあるかよ」
「それはどっちでもいいんでーー」
「君っ、名前なんていうの?」
「保管されていた薬品の中にですねーー」
「コイツに取り合わないのは賢明な判断だ」
「なんですって!?キルギスーー」
「あー、うるせえ、うるせえ」
ドンッ。
勢いよくポットをテーブルに置いた。
「お茶でもどうです?」
にっこり笑って口にする。まったく、どいつもこいつも言いたい放題で。話がまったく進まねえ!あー、もう。すっごく気になるワードが聞こえてたけど、ここはあえてスルーだ。
ユルをつんつんと突くローレッタさんに、しきりに襟元を引っ張るキルギスさん。ソコ!つつかない。ソコ!そんなに窮屈なら、端から第一ボタンは外しておけ。
私の圧力に、場がしんとなった。よし。
「ユルはちょっと待って!まずはイーディス!ローレッタさんとは、どういう間柄?」
魔女とその母への抗議は思うに留め、聖剣と家に目を向けた。
「……」
「なんだ、妬いてんのか?」
口を噤むユルと、口の端を上げるイーディス。
「…真面目に話して」
「え?やだっ!?恋バナな…むぐ」
話の腰を折ろうとしたローレッタさんの口を、キルギスさんが黙って塞ぐ。ナイスアシストです。
「…間柄ってほどでもねえよ。ただ単に、知った顔ってだけだ。そいつは魔王の側近の娘で、三百年前、ファシオの周辺をうろちょろしてた」
イーディは肩をすくめてみせる。
「魔王の側近…?」
「魔王アーレイ。前に少し話しただろう?側近として常に張り付いてたゼンって奴がいたんだが、ローレッタはその娘だ。お前、爺さんそっくりだよな」
最後の言葉は、キルギスさんへ向けて。なるほど?魔女の顔を知りたがったのは、それが理由?
「色は人族、姿形は魔族血統寄り。能力は両方ーーそれが魔女だ」
母親の口を抑えていた手を下ろすと同時に、嘆息して答えるキルギスさん。
魔女は希少だ。その最たる理由は人族と魔族の溝にある。そしてーー
勝手な考えだけれど。溝ができる原因の最たるは、その寿命の差にあるのではないだろうか。
イーディスが教えてくれた。魔女の寿命は人と同じ。つまり、魔族の片親は伴侶と子供に先立たれてしまうのだ。これではお互い忌避してしまうのも道理である。
魔女の有り様ひとつ取っても、白い神と黒い神の攻防が窺える。人にとっては迷惑でしかない。ああ、腹が立つ。
「分かりました。ローレッタさんから魔王様に今回の話が伝わって、今日は協力のためここへ来た、ということでいいですか?」
一息ついて客人に問うと、黙って二人は頷いた。急に静かになったな。
さて、どこまで本当のことを話したものやら。
「俺たちは、お前の近くにいるだろう元凶について、思い当たることがないかーーそのあたりを聞きたいと思っていたんだが…」
キルギスさんが眉根を寄せる。
「そうねえ。なにかしら目星をつけたいと思っていたけど…」
続くローレッタさんが、困ったようにユルを見た。
ユルは、ホルルカに出た魔物は召喚されたのではないと言った。でも、私たちは召喚されたと考えていた。これはーー新しい情報がもたらされたということ。
「ユル、話を聞かせて」
視線を下げてユルを見る。すると眠そうに垂れた目をキリリとさせ、こちらを見返してきた。ああ、和む。いや、違う。気を引き締めなければ。
すっと、ユルはテーブルに手を置いた。
「これを見てください」
言って、手を離す。テーブルの上に、白い小石ほどの大きさのナニかが残された。
「これは?」
ローレッタさんが首を傾げる。
「石?いや、なにかの結晶か?」
キルギスさんが呟いた。
その言葉通り、そこには白い…しいて言うなら氷砂糖のような塊が。魔力を感じないので、魔結晶ではない。それだけは分かった。
「これは樟脳です」
「しょうのう?」
「しょう…防虫剤か」
聞いたことある言葉だなあと首を傾げていると、キルギスさんが答えを口にしてくれた。ああ、樟脳ね。箪笥に入れるアレか。
「そうです。だけど、この樟脳は普通の樟脳とは違います」
「奇妙な気配がしやがる。なんなんだ?」
ひょいとテーブル上の白い塊を、イーディスが躊躇なく摘む。
「それは、最適化前の神樹から抽出された樟脳です」
「え?神樹?」
「待て。神樹は通常の木と効能が違うと聞いたことがある。主に魔力方面に働くのではなかったか?」
予想外に思ったが、どうやらそうではなかったらしい。キルギスさんのユルに向ける視線が鋭くなった。
「そうです。神樹を元として作られた樟脳は、魔素の魔力化を活性化させる効果があります」
「あらあら?そんな普通では出回らない物、君は何故持ってるのかしら?」
答えるユルに、今度はローレッタさんが問う。するとゆるキャラは、少し困った顔をした。
「…残されてたんです。薬品棚に」
「棚?どこのーー」
「フランチェスカの家の棚か?」
キルギスさんの問う声に、イーディスがかぶせて答えた。うっかり「僕の中にある棚です」などと答えられては堪らない。
「そうです。そしてこれがあれば…」
当の本人は、分かっているのかいないのか。ユルはイーディスの手から、樟脳を掴んで取った。それを頭上に掲げ、眉尻を下げる。
うー、あー。
「やだ。可愛すぎ。気が抜けるわ」
ローレッタさんが私の気持ちを代弁してくれる。いまいち深刻になりきれない。ゆるキャラ効果が高すぎる。
「これがあれば、なんだ?」
イーディスが先を促した。
「体内の魔素を一気に魔力に変換し抜いてしまう薬が、おそらく作れます」
ユルの言に、その場にいた全員が閉口した。
それって、つまり。それを本当に作ったと言うのならばーー
魔物は召喚されたのではなく、生み出された?
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