白雪日記

ふたあい

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3日目

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 どこ?ここ?ちょっと前にも、同じことを思ったな。

 意識が戻るとベッドに寝かされていた。
 病院の、ではない。かといって、前回のようなカビ臭さもない。寝心地の良い、ちゃんとしたベッド。
 天井がやや近い。おそらくこぢんまりとした部屋だ。
 指を動かしてみる。
 大丈夫、動く。そっと手を掛け布団から出して、確かめるようにかざしてみた。

「あ、細…」

 思わず漏らした呟きは、やはり聞き慣れぬ声。細い手だ。指も長い。
 これはーーあきらかに私の知る、私の手ではない。
 もっとよく確かめたいという衝動に駆られたけれど、鉄格子内での記憶が過る。体重を移動しかけた途端の激痛。

 これ以上は、体を動かすのが怖い。

 わずかに震えたところで、なにやら話し声が聞こえてきた。

「……ら……て…、……ば…」

 よく判らない。少し離れたところ、扉を隔てた隣の部屋からのようだ。くぐもっていて、はっきりと聞こえない。

 意識を集中して、聞き耳をたてる。するとーー

「まったく。信じられません!生成されたばかりの完成体を、牢に放り出すなんて。本当にまだ全体ができ上がったばかりで、不安定な状態だったんです。下手をすれば、バラバラだった」
「まあ、そう言うな。知らなかったんだ。それに…まさか、だろ?」
「ええ。まさか、です。過去に成功例はありません。今日まで、どれだけの術者が試みても、生まれることはなかった」
「肉体はできても、魂は生み出せない。俺はな、アケイル。それは当然だと思っていた。人は神ではないのだから。だが…」
「ノーツは生み出してしまった」

 嘘のように会話が、クリアに聞こえてくる。しかも、突っ込みどころ満載。
 驚いた私は、その勢いで跳ね起きた。

 あ。痛くない、動く?

「起きたのか?」
 気配を察知したらしく、両の手のひらを呆然と見つめていると扉の開く音がして、問いかけの声がした。
「あ、はい。起きました」
 とっさとはいえ、我ながら間抜けな返事をしたものだと思った。

   ✢

「ああ、それでは。ノーツは魂まで生み出せなかった、と?」

 そう返したのは、先ほど隣の部屋で会話をしていた一人。
 錬金術師のアケイルと名乗ったその男の人は、これまでの私の話を聞いてしきりに頷いていた。
 二十代後半から三十代前半というくらいの年回りで、眼鏡をかけた底抜けに人の良さそうな外見の持ち主だ。物腰も柔らかい。
「はい。理論的には生成されるはずが、できなかったって…」
「そうか。君の胸にあった術式は、召喚のものか。どうりで私には解らなかったわけだ。まったくの専門外…と、ああ!ごめん!けっしてやましい気持ちで君の服を脱がせたのでは…その…」
「え?ああ。別に気にしませんから」
 あらら。本当に人が良いみたい。でも、自分の身体を見られたっていう感覚がないのだから、気にするだけ無駄ですよ?

「ノーツは召喚術にも通じていた。まったく。天才という奴は、厄介なモノだ」

 ここでもう一人。さっきの会話の片割れが口を挟んだ。
 この男は名乗らなかった。ただ、アケイルさんの態度から、お偉い人であることは推測できた。
 三十代中頃か?私より少しだけ若そう。砕けた口調で横柄なところはない。気さくな感じ。だけど気になるところが一点。この人が腰に提げているものってーー

 銃刀法違反、という言葉が浮かぶ。

 剣、だな。どう見ても。シンプルな造りで、実用性に優れていそう。それゆえに、お飾りではないように見えるのだけど。なにに使うんだ?

 だけどそれが、見事に違和感ない。

 まいった。銃刀法違反なんてそもそも存在しない、そんな出で立ちの男二人が目の前で会話をしている。
 部屋の様子もあきらかに馴染みなしで、二人の姿に実にマッチしている。時代物の西洋映画のセットでも見ているよう。
 それなら天蓋付きのベッドにしてくれればいいのに、なあんて。これが夢なら気の利かない夢だと思うわけだけど、夢ではないんだろうな…やっぱり。夢であの激痛はないよなあ。

 ここ、本当にどこ?

「それで、陛下?ノーツの処分は?」
 アケイルさんがもう一人に問う。

 へいか?

 『へいか』って、アレか?『陛下』か?王様とか皇帝とか、そういう…?

「困っている、としか言いようがない。彼女の話が本当ならば、事前とはいえ見逃せないわけだが、その彼女の存在がそもそも…。ノーツの研究室からは現状、研究記録も見つかっていないわけであり……。今はまだ、どうすることもできない」
 『へいか』が私を見て答えた。
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