白雪日記

ふたあい

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40日目(1)

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 うわ。今日も大変、不機嫌そうで。

「まったく、煩わせてくれる」
 鉄格子の向こう側、フルルクスの爺様が機嫌悪そうに言った。その隣で主上が苦笑している。
「すまんな。頼む」
「ふん。小娘、手を出せ」
「え?どっちですか?」
 手のひらをじっと見る。左手?右手?
「どっちでもいい!さっさと出さんか」
 イライラと爺様が怒鳴るので、慌てて右手を格子の間から差し出した。すると爺様はすぐにその手をグイと取り、甲を指でなにやらなぞり始める。くすぐったい。
 しばらく私の手をくすぐったかと思うと、爺様は手を離した。なんだろうと思い、引っ込めた右手を見ると、そこには術式が。

「もういいか?」
 主上がフルルクスに訊く。
「ああ。これでいい。しかし、ここまでしてこの小娘を出したいか?お前は」
 答える爺様のつっけんどんなこと。どっちが偉いんだか、判りゃしない。
「無実だからな」
「ふん。好きにしろ」

 なにはともあれ、二日ぶりに外に出られることとなった。

   ✢

 いや、大変な目にあった。謀反人、ディルモア・ノーツ。彼が脱獄なんてしてくれたお陰で、私はとんだとばっちりを被った。
 それというのも、逃げ出したノーツに脱獄の形跡がなかったためだ。では当然ながら、形跡もなくどうやって脱獄したのか?という話になる。そもそも、真っ向逃げ出せるところでもない。
 そして結論として、召喚術を駆使して牢から出たのだろうということとなった。
 実際その予測は正しいのだろう。誰かが外からノーツを召喚した、もしくはノーツが自身を外へ飛ばした、と考えられる。おそらくら後者だな。

 ただ、そこで問題が。

 ノーツのいた城の地下にある牢獄には、白銀城筆頭召喚術師フルルクス・シンの、特製召喚防止術が施されていたってこと。それにより牢の空間は隔離されていた。
 つまり、牢獄の中は召喚術を一切受け付けない状態だった。誰かが、そのフルルクスの施した、牢の外壁に刻まれた術式の内容を漏らさない限りは。どこにどんな形で隔離されているかがバレると、そこから空間を抜けることが可能になってしまうらしい。

 要するに、ノーツの脱獄を手引した者の存在が浮かんだのだ。

 疑いは当然、彼に生み出されたとされる私に向けられた。
 そして、あっという間に牢屋行き。短期間ながらすでにトラウマとなっている、嫌な場所へ舞い戻ったというわけだ。
 だけど、たった二日で出られた。その間、厳しい取り調べもなかった。

 それもこれも、主上の温情によって。

 ありがとうございます、主上。ああ、いろいろ後悔。正直、気まずい。三日前のことは直後に「すみません」と、頭を下げはしたのだけど。「気にするな」と、笑って返してはくれたのだけれど。

「すまんな。投獄を止められなかった」

 二日ぶりに戻った学術塔の一室で、主上がペコリと私に頭を下げる。やめてください。益々、立場がない。
「謝らないでください。むしろ、私がお礼を言わなくては。あの、ありがとうございました」
 本当に、本当に、恐縮だ。条件付きとはいえ、こうして自由の身とは。私の立場をからすると、考えられない。
「またしばらく、不自由を強いるな」
「構いません。牢の中にいることを思えば、自由なものです。それに、城内は以前とほぼ変わらない範囲で、うろつけるのでしょう?」

 右手の甲に刻まれた、術式を眺める。

 先程フルルクスが私に刻んだ召喚の術式は、行動制限のためのものだった。今回のことに関して、後ろめたいことなどなにもないけれど、信用がないのだから仕方ない。
 それは、城の敷地を一歩でも外へ出る、もしくは占者塔の敷地内に一歩でも踏み込むと、たちまち牢屋に召喚される仕組みになっているのだそう。この術式を刻むのを条件に、主上は私の放免を周囲に了承させたのだ。

「ああ、それは保証する」
「過ぎるほどです。本当に、ありがとうございました」
 私が二度目の礼を述べ話が一段落すると、待っていたかのようにアケイルさんが、お茶を持って部屋に入ってきた。
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