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81日目(2)
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「な…なにを言って…?」
「人体生成もその一環。君の存在は、彼の最終目的の一端だ。その君が占者暗殺をこなしてくれたら、まさに一石二鳥だったわけだけど、そうはならなかったね」
「ど…うして、そんな…?」
「占者を保有すれば、星の雫は独り占め。研究し放題。式術研究者は、常に雫の確保に悩まされる。夢、だよ」
「どうかしてる…そんなの。止めないと…」
「そうだね。さすがに僕もそう思うよ。だけど…困ったことにその馬鹿な夢に踊らされている者がいる」
「託宣によって、クビを言い渡された人たちです、か?」
問いながら、首を傾げていた。それは違うと、白雪の勘が告げている。
「君は薄々、感付いているんだろうね。自覚はないようだけど」
「え?」
「では、僕から質問。ノーツは何故、称号剥奪のリスクを冒してまで金を生成したのだろう?そして結果として称号も財産も失った彼が、いまだ研究を続けられるそのわけは?」
投げかけられた突然の疑問。
この人はなにかを知っている?正直、ムッとした。奥歯にものの挟まったような言い方は好きではない。さっさと言ってほしい。
「教えてください。知っていることがあるのなら」
「僕はなにも知らないよ。これは僕自身が抱いた、純然たる疑問。君のその、類まれなる勘の良さで、答えを見つけてきてほしいんだ」
なんと?
「…私に?」
「そう、君に。城内にノーツと通じている者がいる、それは知っているよね」
当然だ。その誰かのお陰で、二度目の牢屋入りをする羽目になったのだから。
「どうにもね、手詰まりなんだ。尻尾を掴めない。それさえ掴めれば、僕の疑問の答えも自ずと分かるようになると思うんだけどね」
「ノーツ自身を追うよりも、内通者を追えと言うんですか?だけどそれは、別班が役目としています。私には難しい」
フィル班がノーツを追っているように、内通者を追う班もちゃんと在る。下手に口を挟むと揉めかねない。特に私は厄介者だし。
「それでも。君だからこそ。君は自分で思っているよりも、ノーツとは縁深い。君ならば、その内通者を選別できるかもしれない」
ゾッとするようなことを言いながら、気付けばライトリィさんは、すぐ傍まで近づいて来ていた。
そして、手を私の方へのばす。うわっ。逃げなければ!
だけどーー
心の叫びとは裏腹に、身体は動じなかった。白雪は危険を感じていないということか。
伸ばされた手のひらに、術式が刻まれているのが見える。あっ、と思った時にはライトリィさんの手は、私の頭の上に乗っけられーー
なでなで。
え?まさかの子供扱い?あやされた?びっくりしたよ!なんだっていうの?
「さっき言ったこと、頼んだよ」
ニッコリと。満面に人が良いんだか悪いんだか判断のつかない笑みを浮かべて、マッド白魔術師は去って行った。
✢
その事実に気付いたのは、夜になってお風呂に入った時。しかもリセルさんに指摘されて。我ながら鈍すぎだ。
「あら?シロ、綺麗に治ってるわね。良かったわ。仮にも女の子のですものね。もう少し、気を使わないと」
リセルさんが私を見るなり言った。
その言葉を聞いて、メルミルも私をまじまじと見る。ちょっと恥ずかしいかも。
「あ、本当。昨日まであんなに傷だらけだったのに。綺麗になくなってる」
「え?」
続くメルミルの言葉に、自分自身に目を向けた。
ない。
本当だ。昨日まであった、あちこちの小さな切り傷や打ち身、擦り傷すべてがなくなっている。これは?
しばらく首を傾げた後、思い至った。ライトリィさんだ。昼間の頭なでなで、あれだ。
「すごい…これが白魔術」
思わず感嘆の声をもらす。すると、リセルさんが目を見開いた。
「救護室に行ったのね?そう、か。そうよね、シロは女の子のなんですもの。あそこを活用するべきだったわね。ごめんなさい、もっと早くに言ってあげればよかったわね」
「そうですよ~。シロったら、いつも傷だらけだったんだから。あそこって私たちは自由にってわけにはいかないけど、近衛ならいつでも利用できるんでしょう?なんで今まで、誰も教えてあげないかなあ。……私も、思いつかなかったんだけど…むう…」
メルミルが言葉を挟んだ。気に入らないって顔。すぐ表に出るんだ、感情が。フフ。
「そうね、そうなんだけど…。別に私も皆も、意地悪で教えなかったわけではないのよ。忘れていたわけでも、思いつかなかったわけでもないけどね。ただ、あそこは……」
メルミルの真っ直ぐな意見に対して、リセルさんが言い淀む。
「あそこは、なんですか?」
プウと頬を膨らませるメルミル。リセルさんは目を伏せて、眉尻を下げた。複雑そうな困り顔。
それから、ポツリ言った。
「あそこは…危ないの」
十分だった。
マッド白魔術師よ。そのマッドぶりは、近しい者には知れ渡っているようだ。
ああ、よく無事だったな、私。
「人体生成もその一環。君の存在は、彼の最終目的の一端だ。その君が占者暗殺をこなしてくれたら、まさに一石二鳥だったわけだけど、そうはならなかったね」
「ど…うして、そんな…?」
「占者を保有すれば、星の雫は独り占め。研究し放題。式術研究者は、常に雫の確保に悩まされる。夢、だよ」
「どうかしてる…そんなの。止めないと…」
「そうだね。さすがに僕もそう思うよ。だけど…困ったことにその馬鹿な夢に踊らされている者がいる」
「託宣によって、クビを言い渡された人たちです、か?」
問いながら、首を傾げていた。それは違うと、白雪の勘が告げている。
「君は薄々、感付いているんだろうね。自覚はないようだけど」
「え?」
「では、僕から質問。ノーツは何故、称号剥奪のリスクを冒してまで金を生成したのだろう?そして結果として称号も財産も失った彼が、いまだ研究を続けられるそのわけは?」
投げかけられた突然の疑問。
この人はなにかを知っている?正直、ムッとした。奥歯にものの挟まったような言い方は好きではない。さっさと言ってほしい。
「教えてください。知っていることがあるのなら」
「僕はなにも知らないよ。これは僕自身が抱いた、純然たる疑問。君のその、類まれなる勘の良さで、答えを見つけてきてほしいんだ」
なんと?
「…私に?」
「そう、君に。城内にノーツと通じている者がいる、それは知っているよね」
当然だ。その誰かのお陰で、二度目の牢屋入りをする羽目になったのだから。
「どうにもね、手詰まりなんだ。尻尾を掴めない。それさえ掴めれば、僕の疑問の答えも自ずと分かるようになると思うんだけどね」
「ノーツ自身を追うよりも、内通者を追えと言うんですか?だけどそれは、別班が役目としています。私には難しい」
フィル班がノーツを追っているように、内通者を追う班もちゃんと在る。下手に口を挟むと揉めかねない。特に私は厄介者だし。
「それでも。君だからこそ。君は自分で思っているよりも、ノーツとは縁深い。君ならば、その内通者を選別できるかもしれない」
ゾッとするようなことを言いながら、気付けばライトリィさんは、すぐ傍まで近づいて来ていた。
そして、手を私の方へのばす。うわっ。逃げなければ!
だけどーー
心の叫びとは裏腹に、身体は動じなかった。白雪は危険を感じていないということか。
伸ばされた手のひらに、術式が刻まれているのが見える。あっ、と思った時にはライトリィさんの手は、私の頭の上に乗っけられーー
なでなで。
え?まさかの子供扱い?あやされた?びっくりしたよ!なんだっていうの?
「さっき言ったこと、頼んだよ」
ニッコリと。満面に人が良いんだか悪いんだか判断のつかない笑みを浮かべて、マッド白魔術師は去って行った。
✢
その事実に気付いたのは、夜になってお風呂に入った時。しかもリセルさんに指摘されて。我ながら鈍すぎだ。
「あら?シロ、綺麗に治ってるわね。良かったわ。仮にも女の子のですものね。もう少し、気を使わないと」
リセルさんが私を見るなり言った。
その言葉を聞いて、メルミルも私をまじまじと見る。ちょっと恥ずかしいかも。
「あ、本当。昨日まであんなに傷だらけだったのに。綺麗になくなってる」
「え?」
続くメルミルの言葉に、自分自身に目を向けた。
ない。
本当だ。昨日まであった、あちこちの小さな切り傷や打ち身、擦り傷すべてがなくなっている。これは?
しばらく首を傾げた後、思い至った。ライトリィさんだ。昼間の頭なでなで、あれだ。
「すごい…これが白魔術」
思わず感嘆の声をもらす。すると、リセルさんが目を見開いた。
「救護室に行ったのね?そう、か。そうよね、シロは女の子のなんですもの。あそこを活用するべきだったわね。ごめんなさい、もっと早くに言ってあげればよかったわね」
「そうですよ~。シロったら、いつも傷だらけだったんだから。あそこって私たちは自由にってわけにはいかないけど、近衛ならいつでも利用できるんでしょう?なんで今まで、誰も教えてあげないかなあ。……私も、思いつかなかったんだけど…むう…」
メルミルが言葉を挟んだ。気に入らないって顔。すぐ表に出るんだ、感情が。フフ。
「そうね、そうなんだけど…。別に私も皆も、意地悪で教えなかったわけではないのよ。忘れていたわけでも、思いつかなかったわけでもないけどね。ただ、あそこは……」
メルミルの真っ直ぐな意見に対して、リセルさんが言い淀む。
「あそこは、なんですか?」
プウと頬を膨らませるメルミル。リセルさんは目を伏せて、眉尻を下げた。複雑そうな困り顔。
それから、ポツリ言った。
「あそこは…危ないの」
十分だった。
マッド白魔術師よ。そのマッドぶりは、近しい者には知れ渡っているようだ。
ああ、よく無事だったな、私。
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