お喚びでしょうか、ご主人様

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胸の奥の気持ち

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 可愛い可愛い女子小学生、2年4組、タツコちゃんとは僕のことです。ちなみにツインテ!
 今日は人のあまり来ないオトイレで、1組のちえちゃんと楽しくかくれんぼをしています。

 ……どうしてこうなった。

 花子さんごっこかよ。軽くホラーなんだけど。何が楽しいの。子供ってよくわからない。可愛いけど。まあ、可愛いから実はそれだけで僕も楽しい。うふふ。
 でもさすがにトイレにこもってコレは不健全すぎるし、僕が思う彼女の幸せにはほど遠い。

「タツコ、お外のほうが楽しいと思うなぁ」
「で、で、でも……」

 ちえちゃんは泣きそうな顔で、首を横に振る。

「他の子と会いたくない?」
「ん……」

 その気持ちすっごいわかっちゃうから強く言えない。

「次の休み時間は、1組に行ってもいい?」

 いやいやをする。喋ってるところを人に見られたくないんだろう。
 僕としては二人きりでも構わないし、むしろ女子小学生とトイレで二人きりとか興奮しかない。
 正直昨日はやらしい想像で抜いたよね。今日だってここへ来るまでは凄く興奮してたし。
 でも本人を前にしてしまえば申し訳なさばかりが先にたってしまって、ちんこもしょんぼりしたまんまだ。
 自分で言うのもなんだけど、僕は思ったよりも常識人だったらしい。
 ルルは僕らの二人かくれんぼを、ふよふよと浮かびながら見守っている。
 うん、まあ、実際二人きりではないよね。ちえちゃんには見えていないから実質二人きりかなって……。

 ちなみに、息を潜めてトイレにこもり、自分のいる扉を最後まで開けられなければ勝利というゲーム。いかに気配を殺すかが重要だ。自慢ではないけど気配を殺すのは割りと得意で。小学生の時はいかに自分がその場にいないように見せられるか頑張っていたしな。誰にも気づかれないよう、空気になればいい。
 ……あれ、楽しいはずなのになんか悲しくなってきたぞ。

 僕が隠れている時にチャイムが鳴って、ちえちゃんは僕をトイレに残したまま急いで教室へ戻ってしまった。

「行ってしまいましたよ」
「うん、知ってる」

 便座の上で膝を抱えたままうなだれる。子供は可愛いけど、気まぐれで残酷。可愛いけど、ほんと。

「ご主人様、少しこのまま、待っていていただけますか?」
「えっ……。何……?」

 ルルがトイレから姿を消した。
 僕はひとりぼっちになってしまった。ルルまで僕を一人にする。用があるなら僕も連れていってくれたっていいじゃないか。寂しいよ。今なら大きい姿でも文句言わないからさあ……。
 がちゃりと音がして、トイレのドアが開いた。驚いて便座から転げ落ちそうになった。

 ふっと姿を消したルルが、わざわざドアを開けて入ってくるとか思わないだろ?

「見つけました」
「……ルル」

 手を差し出されて、不覚にもときめいてしまった。
 凄い今更なんだけど、今の僕にはルルがいるんだって、その事実に凄い感動してみたりして。
 あー……やばい、これは。ただでさえ泣きそうになってたから涙腺が緩む。ルルの馬鹿。
 僕をこんな気分にさせたんだから、責任もって最期まで傍にいるべき。仕事なんだから途中で放り出したりするなよな。

「では、行きますか?」
「……うん」

 泣くのだけはなんとかこらえて、ルルの手をとった。
 そうだよね。ルルは僕が召喚した……。呼びかけに応えてくれたんだよなあ。とっくに、僕を見つけてくれていたんだ。

「今日は授業をうけてみます?」
「ううん。次の休み時間まで、屋上にいる」
「はい」

 あんなにロリショタを求めて騒いでいた心が、嘘みたいに凪いでいる。
 ルルが言っていたとおり、僕はやっぱりロリショタコンではなかったのか……?
 いや、まさか、そんな。アイデンティティーの崩壊にも近いぞ。
 そうだ。トイレを出て小学生たちの空気を吸えばきっとこう、萌え……。
 …………萌えないな。あれ?

「ご主人様どうかしましたか?」

 急に立ち止まった僕を不思議に思ったのか、空を飛びながら後ろをついてきたルルが訊いてくる。
 振り返って見上げて、なんでもないよって言うつもりだったのに、声にならなかった。何故か、ちっちゃいルルちゃんを見た時みたいに心臓が跳ねたから。
 なんで。僕これどうしちゃったの? こ、この感じは……。
 まさか僕、おっきいルルに、萌えてる!?

「レーダーが故障したかな」
「レーダーですか?」
「なんでもない。いこ」
「はい」

 なんか変な感じだけど、悪い気分じゃなかった。
 それに屋上へ出て風にあたれば、このやたらと熱くなってる頬もさめるはず。
 僕は依然として跳ねる心臓を、小さな手のひらでそっと押さえた。




 屋上から地面を見る。高いのが苦手というわけじゃないけど、この前の惨劇を思い出すと背筋がゾワゾワする。
 でも今日群れているのは黒もやではなく体育の授業を受けている小学生の姿。とても平和。
 できれば地面になって踏まれたいと考えている僕の頭の中以外は。

「ああー、可愛いなあ」
「もっと間近で見たいなら、混ざるという方法もありますが」
「体育を自分でやるのはちょっと……」

 何しろ体育には『ハイ二人組作ってー』という恐ろしい儀式が存在する。思い出すだけで吐き気がしてくる。

「グラウンド、ちえちゃんのクラスみたいですよ。だから急いでいたのかもしれませんね」
「なぬっ!」

 遠目すぎていまいちわかりにくいけど、多分ちえちゃんがいるような気が。

「ほんとにちえちゃん?」
「はい、あれです」

 なんという因果か。まさに二人組を作る場面。ルルが指した場所には、ひとりポツンとしているちえちゃんの姿。
 あ、ああ……ああー。つらい……心が痛い。

「ルル、僕をあそこに混ぜることができるんだよね?」
「はい」
「僕をちえちゃんのクラスメイトだったことにして、参加できたりしないかな」
「ちえちゃんとはすでに縁ができていますから少し難しいですね。貴方との関係性に変化が出ると思いますが構いませんか?」
「へ、変化って、どんなふうに?」
「……わかりません」

 そんなこと聞いたら怖くて、おいそれとハイって言えない。
 それが、縁ができてるってことなのかも。ちえちゃんを知らない頃なら何も問題なかったんだろうし。

「そもそも本来貴方はここに存在する人ではないのです。それを歪めるのですから、多少無理が出るのも当然でしょう」
「そっか……。そうだよね」

 今、ちえちゃんと組んだとしても根本的な解決にならない。次の時はまたひとりになるだけ。その時、組んだ記憶はどこへ行くんだろう。やっぱり、なかったことになるのかな。

「このままじゃ、ダメなんだ……」

 だって僕は、ずっとちえちゃんの傍にはいられない。僕自身、幸せになれたら魂を抜かれちゃうわけだし。
 小学生をもう一度やり直すのも、ありといえばありだろうけど……そればっかじゃなくて、ルルちゃんともっとイチャラブしたい。
 でも、目の前にある光景はどうしたって放っておけない! あとのことなんてもう知るか!

「ルル、お願い! 僕をちえちゃんのクラスメイトにして!」
「かしこまりました、ご主人様」

 ルルは僕の身体を抱き上げてグラウンドへ舞い降りた。
 地に足をつけた僕の背中を、そっとルルが押す。

「もう暗示にはかけてありますので、思いきってどうぞ」

 時が止まってるみたいだ。足が震え出す。遅れて登場した僕を、ロリショタが視姦する。
 あ、ああ……ぁ。ぼ、勃起しちゃいそう。
 ダメ、ダメだ。勇気を出さなきゃ。勃起もダメ。

「ち、ちえちゃん、僕と一緒に組も!」

 死ぬほど怖かった。正直ちびる一歩手前で、やめときゃ良かったって何度も後悔した。
 そもそも僕は小学生ではないし、ここにいるはずもない人間で。もしルルの暗示が効かなければ、ただの変質者でしかない。
 でも、ちえちゃんが目にいっぱい涙をためながら、うんって言ってくれた瞬間、僕も同時に救われた気がしたんだ。
 一緒に組む相手がいるという幸せ。安心感。元々組む相手に困らない人間に、この感覚は一生理解できないだろう。

 ちなみに、ペアを作っての行動はなわとびだった。
 持ってないヤバイと思ったけど、幸い学校から貸し出されるみたいでホッとした。
 女子がブルマだったら萌えたのに残念。ショーパンもこれはこれで最高だけど。
 飛んでも揺れないまったいらな胸は至高……。ハァハァ。

 僕はもう最初から最後までハァハァしっぱなしだった。……疲れで。小学生の運動量なめてた。引きこもりにはキツイ。無理。気は若くとも、すでにオッサンであることを認めざるを得ない。と同時に現在の自分の姿にいたたまれなくなる。
 本当……何やってんだ、こんな格好で。ブルマじゃなくて良かった。
 疲れはてた僕は、授業が終わって教室へ戻り出す生徒にまぎれて離脱した。
 ちえちゃんがキョロキョロと、多分僕を探しているけれどゴメン。オッサンは限界です。
 校舎裏で壁に背を預け、しゃがみこんでルルを呼ぶ。

「お喚びでしょうか、ご主人様」
「うん。もう帰るから、みんなの暗示といてくれる?」
「ですが、これから着替えではないですか? ご主人様にはむしろそちらが本番なのでは」
「いいの。疲れたの。今じゃなくても機会なんていくらでもあるし」

 それに……一緒に授業を受けていた相手の着替えを見るのは、見知らぬ他人を覗くのと違って申し訳なさがある。

「確かにそうですね。それでは帰りましょうか」
「うん」

 ルルに抱えられて、空を飛ぶ。相変わらず小脇に抱えるスタイルなんだ。

「僕の暗示をとくのはさ、家についてからで良かったのに。このサイズで脇に抱えられるのは少し抵抗があるよ」
「私はこのほうが、安心します」
「そうなの?」
「はい」

 抱えるなら小さいほうがとも思ったけど、暗示であって実際に縮むわけではないだろうし、むしろ力を使わない分、そのほうが楽なのかもな。

「……ならいいや」

 僕はさっき、ちょっとだけルルに嘘をついた。
 疲れていたのは本当。でも、だからこそ小学生の着替えを見たら癒されたと思う。
 何が言いたいかって言うと、僕が癒しに選んだのはルルだったって話。
 そう。僕はロリショタよりも、ルルを選んだのだ。大きい姿のルルを。今日なんて力の使いすぎで絶対小さくなってくれないだろうに。
 空を飛んでいるからだけではない高揚感が、僕の胸を満たしていた。
 ……小脇に抱えられている絵面は、見てみないふりしとく。




 疲れたー、汚れたー、お風呂入るって言いながらソファに横たわって撃沈。いつもなら僕がワガママを言った日にはルルが不思議な力でポンッと沸かしてくれるんだけど、今日は力を使いすぎたからか普通にスイッチを押していた。

「ベッドへ運びましょうか?」
「ここでいい」
「わかりました。沸いたらお知らせに来ます」

 ……なんだよ。さっさとどっか行っちゃって。僕は放置かよ。
 大きい姿の時は姿を見せるなと言ったのは僕なんだから、文句を言うのもおかしな話なんだけどさ。
 傍にいろとか頭を撫でてろとか言えばルルは喜んで従ってくれるだろうし、僕が喚べばすぐ来てくれるってわかってはいるけど……。でも今更、恥ずかしくってデレたりできない。

「ご主人様」
「よ、喚んでないぞ!」

 しまった。急に現れるもんだからビックリして反射的に。

「では失礼します」

 躊躇いもなく踵を返すルルの服を掴んで引き留める。

「喚んではないけど、姿を消せとも言ってない」
「はあ……」

 我ながら意味不明。どう考えても流れ的に帰れみたいな言い方だった。
 でもさ、ルルも諦めるの早いし。そこはもう少し粘ってもいいでしょ。

「ところで、何か用だったの?」
「用というほどでもないのですが」

 振り返ったルルはマグカップとタオルケットを手にしていた。

「もう暖かい季節とはいえ、身体をあまり冷やすのもよくありませんから。こちらは、ホットミルクです」
「あ、ありがとう」

 ルルは僕にタオルケットとマグカップを手渡して、再びどこかへ行こうとした。

「ちょっと待っ……待って」
「はい」
「その、ここにいていいから」
「はい?」

 そうだよな。そんな反応だよな。ルルは別にここにいたいわけじゃないもんな。いることを許すみたいな僕の言い方はどう考えたっておかしい。

「ここに、いてよ」
「はい」

 ルルは僕の足元にちょこんと座った。身体は大きいのに、なんか可愛らし……いやいやいや、何考えてんの、僕。ありえないから。

「ご主人様、今日は楽しかったですか?」
「うん。疲れたけど、充実してた」
「明日からはちえちゃんとクラスメイトとして普通に登校できますが……どうなさいますか?」
「僕が急にいなくなったりしたら、どうなるの?」
「みな、変わらぬ日常に戻るだけです」
「そっか」

 そうだよな。僕はいないはずの存在なんだし。

「ただ、ちえちゃんだけはご主人様が縁を作られましたので、いなくなったことを寂しく思うことでしょう」
「友達だもんね」
「はい」

 僕の初めての友達。でもそれは『本当の』じゃない。僕にもそれくらい、わかっている。見ないふりをして、道化のように躍り続けても良かったけれど。

「でも、ずっとこのままっていうわけにはいかないでしょ」
「私はご主人様が望むのなら、このまま小学生をやり直していただいても構わないのですよ」
「そんなに長く、僕に付き合ってくれるの?」
「それで貴方が幸せになれるのでしたら」

 肯定された。喜ぶべきかもしれないけど、僕は引きこもりだからな。小学生として過ごすほうが、魂が重くなるスピードが速そうだと思われているだけかもしれない。というか、きっとそう。ルルが僕に付き合ってくれるのは、仕事だからなんだし。そこを忘れちゃいけない。

「幸せになるのは無理かな。だから、小学校はもういいよ。満喫したし」
「では、明日から行くのはやめますか?」
「ううん。あと、もう少しだけ、小学校生活続ける」

 たとえニセモノの関係でも、初めてできたお友達に何か残してあげたい。勇気づけたい。僕と違って、幸せな人生を歩んでほしい。

「終わる時は……記憶を消すのではなく、貴方が転校したことにいたしましょう」
「ありがとう、ルル」

 僕の人生は決して幸せで括られるものではないけれど。
 そうだね、今は。悪くもない感じっていうか……。

「ご主人様、どうかなさいましたか?」
「え、な、な、何が?」
「私の顔をじっと見ておりますので」
「べっ、別になんでもないし! 相変わらず無表情だなって思っただけだよ!」
「そうですか。私が微笑んだのが珍しかったのかと思ったのですが」
「いや、微塵も微笑めてないよ……」

 それとも、僕が見逃しただけ? そもそも、なんで微笑んだの?

「お風呂が沸きました」
「えっ!? そ、そう。入ってくる……」
「お背中、流しましょうか?」
「いい、いいよ! ご飯作って! あれ、オムライス。僕、あれ好きだから!」
「かしこまりました」

 ぬるくなったホットミルクを飲み干して、カップをルルに押しつけてお風呂場へ向かう。
 なんなんだ、この気恥ずかしさは。
 今日の僕は、ちょっとおかしい。
 僕は小さいルルちゃんが本当に本当に大好きだけど、それともまた違うような感じ。
 気持ちに上手く名前がつけられず、僕はそれを胸の奥へ押し込んだ。




 その日のオムライスには、ハートマークが描いてあった。
 ルルは、ご主人様こういうのお好きですよね、と。
 確かに嫌いなじゃないけど、メイド喫茶には行かないし別にそんな好きってほどでもない。
 説明するのも面倒だったから、黙って全部平らげた。

 ……あの。ルルさ、これ描いた時、微笑んでた?

 口に出せなかった言葉は、やっぱり僕の、胸の奥。
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