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傍にいて
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ベッドで丸まりながら、ただ時が過ぎるのを待っていると階下からインターフォンの音が聞こえた。
お届けものは宅配ボックスだし、回覧板を回してくるご近所さんもいない。最近はセールスも来なくなった。錆びついて鳴らなくなってるんじゃと思えるくらい久しぶりに聞く音。
ルルなら鳴らさないだろう。そして僕はこの音が死ぬほど嫌い。
奴らだ。きっと奴らが来た。でもどうしてルルがいなくなった途端に。それに、ここ数年は音沙汰なしだったじゃないか。
「いるんでしょう? 開けてちょうだい!」
僕が出ないとわかって、外で声を張り上げている。
家族が亡くなって高額の保険金が入った時、親戚がこぞって金の無心にきた。
高額と言っても僕が生きていくのに困らない程度であり、施しをしてやる余裕はない。ただし、働くのであれば余裕は産まれる。だから親戚連中は何かと僕を外に連れ出そうとする。僕にとっては奴らこそ悪魔だ。
前の時は弁護士さんに相談して、それからはなりを潜めていたのに、どうして今になって。しかもルルがいない時に。
僕が。奴らが来るかもって思ったからかもしれない。ルルが居なくなった途端に来そうだって。寂しくて、心細くて、この世の全ての災厄が訪れそうって、思ったから……。
ドンドンッと、鈍い音が響いた。インターフォンの代わりに、今度はドアを破れるほど強く叩いている。
嫌だ。怖い。嫌だ。大人は怖い。もう放っておいてくれ。このぬるま湯から出た先には地獄しかないんだ。
ルルが帰ってきたら、奴らがもう二度と来ないようにお願いしよう。
ドアをぶち破って入って来るかもしれない。ダメだ、そんなこと考えたら現実になってしまう。昔から僕はネガティブに思ったことが現実になりやすいんだ。今はルルが僕に力を使ってるわけじゃないから、ぶち破るなんてことはさすがにないだろうけど、それでもガンガン叩かれるのは怖いし精神的にくる。
僕は耳を塞ぎながら、ただただ耐えた。
ルル。ルル。早く来てよ。いつもは僕が喚んだらすぐに来てくれるでしょ。怖いよ。早く。早く。ねえ、お願い。
……ルルは、本当に……帰って、くるのかな。
本当は、僕に愛想尽かして出ていったんじゃないかな。ワガママたくさん言ったし、大人のルルなんてかなり邪険にしてた。仕事なんて、放棄できるのかも。だって僕だって働いてないけど生活してる。
嫌な考えばかり、浮かんでは消える。
だから、ネガティブはダメだって……。ダメだよ、ほんと。
ルルが帰って来ないかもしれない。それは今の僕にとって何よりの恐怖だった。魂もきっとますます軽くなってる。
外に誰かがいるなんて、どうでも良くなった。ルルが帰って来ない恐怖に怯えて目がとけるくらい泣いた。周りの音も、もう何も聞こえない。僕の泣き声だけがベッドの中にこもる。
泣いて、泣いて、ただ泣いて。疲れ果てて眠った。
あれからどれくらい経っただろう。寝ると泣くをずっと繰り返していて、お腹も空かない。体力だけは消耗している気がする。なのに、涙は枯れないんだから不思議だ。
こんなに泣いてしまうのは、僕がルルに甘えているからだろう。泣いていたら早く帰って来てくれるんじゃないかって。
そんなはず、ないのにね。仕事なんだから僕の感情なんてどうでもいいよね。こんなキモオタの相手から解放されたんだからゆっくりしたいよね。
「ルル……、ルル……」
「お喚びでしょうか、ご主人様」
「へっ!? はっ!」
僕はベッドから勢いよく飛び出した。と同時、酷い目眩に襲われて再び涙で湿ったシーツの海へ舞い戻る。
ルルが帰ってくる日は笑顔で出迎えたかったのに、もうそんなの無理な話っていうか……本当に、僕のほうが病人みたいになってる。
「良かった。帰ってきてくれて、良かったぁ……」
「貴方を見捨てるつもりはありません」
「へへ。そっか……」
「随分不安にさせてしまったようで、申し訳ありません」
「ううん。いいんだ。傍にいてくれるなら、それでいいから」
感動の再会。の真っただ中、空気を読まずにお腹が凄い音を立てた。安心して、身体もお腹が空いていることに気づいたらしい。
「今日って、ルルが言ってた通り、あれから二日?」
「はい」
「そっか。じゃあお腹も空くか……」
「まさか何も召し上がられていなかったのですか?」
「う、うん……」
ルルが僕の額に手をあてる。
「少し熱も出ているようです」
「ん……。ルルの手、冷たくって気持ちいい」
甘えるようにそう言うと、乗せたままにしてくれた。またお腹が鳴った。
「とりあえず、お食事からですね」
ルルが力を使ってお粥を出す。いつも自分で料理してるんだと思ってたけど、力を使って出すこともできるのか。それだけ僕のお腹を心配してくれたってことなんだろうな。
ルルはお粥を木レンゲですくって、ふーふーしてから僕の口元に寄せてきた。
こういうことをナチュラルにしてくるから凄い。僕のことを子供だとでも思っているんだろうか。嬉しいけど。
ひとくち啜ると、なんだか甘い感じがした。
「……とろとろして、凄い柔らかい」
「いきなり食べると胃が驚きますから、お米の量はかなり少なくしてあります」
確かに今日はがっつり食べる元気はない。せっかくルルが帰ってきてくれて飛び上がりたいくらい嬉しいのに、ベッドで寝てるだなんて。
「帰ってきて早々、力を使わせてごめん」
「気にしないでください。私のほうはもうすっかり大丈夫ですから。好きなだけ甘えてください」
甘えてって言うのは、お願いごとを言ってもいいって意味だとは思うんだけど。
今の僕は言葉通りルルに甘えたくてしかたない。
「食べ終わったら添い寝してほしい!」
「はい」
「小さくなれる? 抱っこして寝たい」
「はい」
「あのね。ルルがいない間、怖いことがあったんだ。お話聞いてくれる?」
「はい」
「今日は掃除とかしなくていいから、ずっと傍にいて」
「はい」
僕の言うお願いを、ルルが全部ハイで返す。
その声がどこか嬉しそうに聞こえるのは……やっぱり僕の願望なのかな。
お届けものは宅配ボックスだし、回覧板を回してくるご近所さんもいない。最近はセールスも来なくなった。錆びついて鳴らなくなってるんじゃと思えるくらい久しぶりに聞く音。
ルルなら鳴らさないだろう。そして僕はこの音が死ぬほど嫌い。
奴らだ。きっと奴らが来た。でもどうしてルルがいなくなった途端に。それに、ここ数年は音沙汰なしだったじゃないか。
「いるんでしょう? 開けてちょうだい!」
僕が出ないとわかって、外で声を張り上げている。
家族が亡くなって高額の保険金が入った時、親戚がこぞって金の無心にきた。
高額と言っても僕が生きていくのに困らない程度であり、施しをしてやる余裕はない。ただし、働くのであれば余裕は産まれる。だから親戚連中は何かと僕を外に連れ出そうとする。僕にとっては奴らこそ悪魔だ。
前の時は弁護士さんに相談して、それからはなりを潜めていたのに、どうして今になって。しかもルルがいない時に。
僕が。奴らが来るかもって思ったからかもしれない。ルルが居なくなった途端に来そうだって。寂しくて、心細くて、この世の全ての災厄が訪れそうって、思ったから……。
ドンドンッと、鈍い音が響いた。インターフォンの代わりに、今度はドアを破れるほど強く叩いている。
嫌だ。怖い。嫌だ。大人は怖い。もう放っておいてくれ。このぬるま湯から出た先には地獄しかないんだ。
ルルが帰ってきたら、奴らがもう二度と来ないようにお願いしよう。
ドアをぶち破って入って来るかもしれない。ダメだ、そんなこと考えたら現実になってしまう。昔から僕はネガティブに思ったことが現実になりやすいんだ。今はルルが僕に力を使ってるわけじゃないから、ぶち破るなんてことはさすがにないだろうけど、それでもガンガン叩かれるのは怖いし精神的にくる。
僕は耳を塞ぎながら、ただただ耐えた。
ルル。ルル。早く来てよ。いつもは僕が喚んだらすぐに来てくれるでしょ。怖いよ。早く。早く。ねえ、お願い。
……ルルは、本当に……帰って、くるのかな。
本当は、僕に愛想尽かして出ていったんじゃないかな。ワガママたくさん言ったし、大人のルルなんてかなり邪険にしてた。仕事なんて、放棄できるのかも。だって僕だって働いてないけど生活してる。
嫌な考えばかり、浮かんでは消える。
だから、ネガティブはダメだって……。ダメだよ、ほんと。
ルルが帰って来ないかもしれない。それは今の僕にとって何よりの恐怖だった。魂もきっとますます軽くなってる。
外に誰かがいるなんて、どうでも良くなった。ルルが帰って来ない恐怖に怯えて目がとけるくらい泣いた。周りの音も、もう何も聞こえない。僕の泣き声だけがベッドの中にこもる。
泣いて、泣いて、ただ泣いて。疲れ果てて眠った。
あれからどれくらい経っただろう。寝ると泣くをずっと繰り返していて、お腹も空かない。体力だけは消耗している気がする。なのに、涙は枯れないんだから不思議だ。
こんなに泣いてしまうのは、僕がルルに甘えているからだろう。泣いていたら早く帰って来てくれるんじゃないかって。
そんなはず、ないのにね。仕事なんだから僕の感情なんてどうでもいいよね。こんなキモオタの相手から解放されたんだからゆっくりしたいよね。
「ルル……、ルル……」
「お喚びでしょうか、ご主人様」
「へっ!? はっ!」
僕はベッドから勢いよく飛び出した。と同時、酷い目眩に襲われて再び涙で湿ったシーツの海へ舞い戻る。
ルルが帰ってくる日は笑顔で出迎えたかったのに、もうそんなの無理な話っていうか……本当に、僕のほうが病人みたいになってる。
「良かった。帰ってきてくれて、良かったぁ……」
「貴方を見捨てるつもりはありません」
「へへ。そっか……」
「随分不安にさせてしまったようで、申し訳ありません」
「ううん。いいんだ。傍にいてくれるなら、それでいいから」
感動の再会。の真っただ中、空気を読まずにお腹が凄い音を立てた。安心して、身体もお腹が空いていることに気づいたらしい。
「今日って、ルルが言ってた通り、あれから二日?」
「はい」
「そっか。じゃあお腹も空くか……」
「まさか何も召し上がられていなかったのですか?」
「う、うん……」
ルルが僕の額に手をあてる。
「少し熱も出ているようです」
「ん……。ルルの手、冷たくって気持ちいい」
甘えるようにそう言うと、乗せたままにしてくれた。またお腹が鳴った。
「とりあえず、お食事からですね」
ルルが力を使ってお粥を出す。いつも自分で料理してるんだと思ってたけど、力を使って出すこともできるのか。それだけ僕のお腹を心配してくれたってことなんだろうな。
ルルはお粥を木レンゲですくって、ふーふーしてから僕の口元に寄せてきた。
こういうことをナチュラルにしてくるから凄い。僕のことを子供だとでも思っているんだろうか。嬉しいけど。
ひとくち啜ると、なんだか甘い感じがした。
「……とろとろして、凄い柔らかい」
「いきなり食べると胃が驚きますから、お米の量はかなり少なくしてあります」
確かに今日はがっつり食べる元気はない。せっかくルルが帰ってきてくれて飛び上がりたいくらい嬉しいのに、ベッドで寝てるだなんて。
「帰ってきて早々、力を使わせてごめん」
「気にしないでください。私のほうはもうすっかり大丈夫ですから。好きなだけ甘えてください」
甘えてって言うのは、お願いごとを言ってもいいって意味だとは思うんだけど。
今の僕は言葉通りルルに甘えたくてしかたない。
「食べ終わったら添い寝してほしい!」
「はい」
「小さくなれる? 抱っこして寝たい」
「はい」
「あのね。ルルがいない間、怖いことがあったんだ。お話聞いてくれる?」
「はい」
「今日は掃除とかしなくていいから、ずっと傍にいて」
「はい」
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