お喚びでしょうか、ご主人様

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魔法のじゅうたん

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 旅行当日になって、僕は凄いことに気がついてしまった。

「どうやって行こう……!?」

 交通手段をまったく考えていなかった。多分目的地、かなり遠いし電車でどれくらいかかるかわからない。スーパーへ行くのとはわけが違う。
 旅行なんてしたことないから、なんか予約したら自動で到着するような気がしてて。ヤバイ。さすがにこれは馬鹿すぎる。

「る、ルル。なんとかなる?」

 ここは、困った時のルル頼みだ。

「電車の中で眠ったり、車窓からの景色を見たりするのを割りと楽しみにしていたのですが……」
「ううう、ごめんー!」
「ご主人様にはこういうほうが、楽しいかもしれませんね」

 そう言ってルルは、物置から丸まった厚くて大きい布を出してきた。

「……何、これ」
「魔法のじゅうたんです」
「魔法のじゅうたん!」

 おお……。なんというファンタスティックな響き。小さい頃にアニメを見て憧れたものだよ。凄い。
 僕はゆっくりと、じゅうたんを床に広げた。感動で指が震える。
 凄い……じゅうたんが床に敷いてある……! って、当たり前すぎる状態じゃないか。浮かんでなきゃ。

「こういうの、どこで買えるの?」
「いつものスーパーの家具売り場です」
「いや、そうじゃなく」

 ルルが首を傾げた

「えっ? これ、そこで買ったやつなの?」
「はい」

 なんかしょんぼり。これ自体は普通のじゅうたんなのか。
 まあ、つい訊いたけど、どのみち魔法のじゅうたんが実在したとして僕が買える場所にはないよな。

「ルルが力を使って飛ばすってことだよね。距離もあるし、行く前から疲れちゃわない? せっかくの旅行なのに……」
「これくらいなら問題ありません。最近はきちんと魔力が溜まっていますから」
「おぉ……」

 落ちこぼれとか言ったの、マジで反省しないと。きっと小さい姿になることが、とんでもなく負担だったんだな……。

「では行きましょうか」
「うん!」

 じゅうたんを持って庭まで移動して地面に広げる。
 三日間泊まる予定で、鞄はそれなりに大きめ、荷物もたくさん。
 僕だけですでに重いだろうし、空を飛ぶにしては薄いじゅうたんで少し不安になってきた。
 ……だって何しろ、家具やさんで普通に売られてるやつだし。
 思えばルルに何か願い事して叶えてもらうたび、一回は酷い目にあうことが多いんだよな……。
 ちんこ噛まれたり地獄の筋肉痛がきたり、モンスターに襲われたり嘔吐したり。
 あげつらねてみると、ろくな目にあってないな、僕。

「どうぞ乗ってください」

 ここで乗るのを躊躇ったら、信頼してませんって感じ。愛する人を信じられないなんて、さすがにそれはダメだろ。
 促されるまま、おずおずと足を乗せる。ルルもその後ろに立った。
 長方形のじゅうたんはちょうど二人で寝転がれるくらいの広さ。このまま浮かび上がったら真ん中だけくぼんでずっぽり落ちてしまうような気がする。
 想像したら本当になりそうだから、考えちゃダメだ。

「では」
「あっ、ま、待って、ルル。座るから」

 立ってるとバランス崩れて転げ落ちそう。
 僕が座るのを待って、じゅうたんは危うげなくふわりと浮き上がった。
 地面がどんどん遠くなって空は近くなる。

「と、飛んでる!」
「はい」
「飛んでるよ、ルル!」
「はい」

 前の時もそうだったけど普段から自力で飛べるせいかルルの反応は薄い。一緒に感動したいから、ちょっとだけがっかりする。
 普通の人なら見慣れているだろう車窓からの景色のほうが、ルルにとっては特別なんだ。僕も電車旅行なんてしたことないから感動したかも。でも乗り継ぎとか行き先とか絶対わかんなくて道に迷うし。
 帰りなら……いいかな。道に迷っても、家に辿り着けなくても。どんなハプニングもルルとならなんでも楽しいに違いない。
 それにしても、じゅうたんは波打つくらい柔らかいのに僕の体重に沈む様子も見せなくて、とっても不思議。どうなってんだ、これ。

「旅館の位置、わかる?」
「はい。だいたいは」

 空なら道っていう道はなくて真っ直ぐだし、だいたいわかれば充分なのかな。情けないけど、僕はルルにおまかせするだけだ。

「ちゃんと進んでるし、浮いてるし、眺め凄いし……でも落ちたら死ぬ」

 正直怖いよね。乗り物の中じゃなくて直接空気が触れてるわけだし。

「大丈夫です」

 ルルが後ろから、僕の両肩にそっと手を置く。

「ルル……」
「落ちたらきっと前のように翼が生えますから、死ぬことはありません」
「そ、そこは私が助けますからとか言って欲しかったよ。また激痛に苦しむのはごめんだし」

 せっかくの旅行なのに初日から布団の中とか勘弁願いたい。

「ご主人様は私が助けますから」
「ねだって復唱されても嬉しくないよ!」
「……そうですか」
「……嘘。嬉しい」

 背をルルの足にもたれかけさせる。
 安定感があって心地いいけど、よく考えたらバランス崩したりしたら大変だよな。でも、ルルの身体に触れていると思うと凄く安心する。

「ご主人様の背中は熱いですね」
「ルルがひんやりしてるんだよ」


 でも、僕の背中が熱いだなんて、ルルらしくもなく可愛いことを言う。まるで意識されてるみたいだ……。どうせ実際には、言った通り体温が低いから熱く感じているだけなんだろうけど。
 ルルの足はひんやり。ほんとひんやりってか、寒。

「へっくしゅ!」

 漫画のようなくしゃみが出た。なんか、す、凄く寒いような。

「ああ、結構高い位置を飛んでいるから寒いのですね」
「えっ!? 太陽に近くなるから暑くなるんじゃないの?」
「いえ……。気温は下がります。ご主人様、これを」

 ローブのようなものが、僕の肩にかけられる。

「でも、今度はルルが……さむ、く」

 見上げると、ルルはどこか優しげな顔で僕を見ていた。
 寒いはずなのに、ドッと汗が吹き出た気がする。
 ……何。なんて顔してんの、ルル。僕は自惚れてもいいの。意識してくれてるんだって。
 冷たかったはずの背中が、じんわりと熱くなっていくような気がした。
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