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ブルー
焼き肉
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平日とはいえ夕飯時だ。席はそれなりに埋まっていたが、タイミングも良かったのかさほど待つことなく席に通された。モモくんはしっかりと、司令官さんの隣を陣取っている。
司令官さんはあのあと玩具を2つ買い込んで、かなりの上機嫌。お気に入りの玩具が見つかったからか、オレたちが乗り気になったからなのかはわからない。
ただ訂正しておくと、少なくともヒーローごっこに関してはオレはさほどやる気になってはいない。もし初めから世界の存亡がかかった話だとわかっていたら、モモくんがいたとしても……断っていたと思う。さすがにスケールが大きすぎる。パワードスーツは一度着たら脱げないというから腹を括ったが、正直今でも逃げ出したい気はある。それはともかく焼き肉美味しい。思考のすべてが焼き肉になる。
「アオ、お前ちまちま食ってるなよ。もっとガッといけ、ガッと」
噛み締めてるんだ。放っておいてくれ。
赤城はまるで自分の奢りだと言わんばかりに勧めてくる。食べ方も豪快だ。司令官さんは特に気にした様子はなく、もくもくと食べている。ただ、その量はえげつない。箸運びは丁寧なのに凄まじいスピードだ。何しろ、口に入れてから次を口に運ぶまでがノーカウントだ。噛まずに飲んでいる気すらしてくる。
モモくんはそんな司令官さんのためにせっせと肉を焼き、たまに可愛らしく食べる。……レバーだとかタンだとか、食べているものは可愛くないが。
「それにしても……中々、次の仲間が見つからないものですね」
「最近敵も襲ってこないしね。今までのパターンを考えると、次に仲間が加入した時になるのかな?」
思わずみんなで、赤城の顔を見る。仲間探しは彼に一任されている。赤城は食べる手を止め、気まずそうに俯いた。
「適性があるだけなら、割といるんだよ。たとえばその……テレビに出てるヤツな。有名人には結構多い」
「えっ、本当ですか? 実際に戦隊モノの俳優されてる方とかならやってくれそうじゃないですか!?」
「そんなに都合よくいくかよ。役は役だろ。大体なんでおいぼれや赤ん坊にまで適性もつやつがいるんだ? 死ぬぞ」
「うーん……。年齢まで考慮されてないんですよねぇ。単に相性というか……」
「それにアイドルとかに、どうやって声をかけるのって話だよね。仲間にしたら青山サン、感動でそれこそ死ぬかも」
「オ、オレの推しはモモくんだけだから……」
「ハイハイ」
まあ、でも実際……仲間を探すのは大変だろうなとは思う。何度か断られているとも言っていたし、声をかけるのも大変なはずだ。オレにその役目が与えられていたら、絶対にストレスがたまって倒れている。
「実は……この焼き肉屋にも一人いる」
「えっ!? どこですか!? 私、声をかけて……」
司令官さんが身を乗り出すと同時、店員さんが肉の皿を持ってやってきた。
「お待たせしました……」
背が高く、凄みがあって愛想がない暗い雰囲気の男。どう見ても接客業には向いてなさそうだ。先程から何回かテーブルへ運びに来てくれるが、そのたびに迫力にビビって身構えてしまう。
次の肉になるのはオマエダとか言われてもおかしくない。
「あっ、ほら、司令官サン、これ焼けたよ。食べて食べて」
「はい!」
食欲が勝ったらしく、司令官さんはあっさりと腰をおろした。ニコニコしながら美味しそうに肉を食べる。モモくんはそれを幸せそうに眺める。ついでに、暗い雰囲気の店員も司令官さんを睨んでいる。殺し屋のような眼光に背筋が冷たくなった。赤城も気になるのか、その店員をチラチラと見ている。
……まさか。まさかコイツが『焼き肉屋にいる一人』だったりするのか? どう見てもヒーローからかけ離れた容姿だぞ。
いや、それに関してはオレも人のことは言えないし、赤城もあまり向いてなさそうではあるが……。
「ハッ! つい肉につられてしまいました。それでどの人……」
「お。これも焼けてるぞ。皿に乗せてやる」
「ありがとうございます!」
あからさまに話題を逸らす赤城。あっさりと流される司令官さん。
一応地球の滅亡がかかってるというのに、これでいいんだろうか。司令官さんは胡散臭い以前に、頼りない。
だが、あの店員がそうだというなら、赤城がはぐらかしたくなる気持ちもわかる。司令官さんは相手が仕事中でも空気を読まず平気でヒーローに誘うだろうし、それを見るこちらの寿命が縮む。
「何かごまかしてませんか?」
「焼いたもののお腹がいっぱいになったから、よければこれも食べてくれないか?」
「あ、はい……」
オレも加担してしまった。3回話題を変えられて、司令官さんは先に話していたことがどうでもよくなったのか、あとは機嫌良さそうに肉を食べていた。
会計は凄まじい金額だった……。司令官さんは気にした様子もなくケロッと払っている。どこからお金が出ているのか気になるところだ。
「なあ、アオ……」
司令官さんとモモくんが会計をしている後ろで、赤城がオレに小さな声で話しかけてくる。
「ん?」
「少し、話がある。あとで部屋に行ってもいいか?」
ピンときた。きっと……さっきの店員のことだ。
オレは司令官さんの背中を見ながらこくりと頷いた。
「わかった」
2人には話せないことを、オレに相談してくれる。頼られているようで、なんだか嬉しかった。
自分の部屋とはいってもそこはラブホテルの一室で、その光景にまだ慣れないでいる。家具も何もかも、自分のものはひとつもないしな。
飲み物だけ適当にルームサービスを頼んで、赤城を出迎えた。小さなテーブルで対面に座る。赤城は飲み物には手をつけず、顎のあたりで手を組んでこちらをジッと見ている。
なんだって、そんなに……見てくるんだ。
服の下まで暴かれるような感覚にぞわりとし、思わず目を逸らした。
「焼き肉を食べたあとってのは、ムラムラすると思わないか?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。言葉を理解することを脳が拒否した。
……いや。いやいや。店員の話とか、仲間探しの話とか、司令官さんにはできない話ではなかったのか。何故オレにそんな話を振る。どう答えたらいいんだ、これ。
「ま、まあ、そういうこともあるかもな」
「俺はする」
「は、はあ……」
そんなことを主張されても困る。赤城にとってはシモネタトークが親密になれる手段なのかもしれないが、オレはこういうことにはとんと耐性がない。
「話っていうのは、まさかそれか?」
「そうだ」
頼られているみたいで嬉しいと思ったオレの気持ちを返してほしい。
「こういう時、アオはどうしてる?」
「どうって……」
相手がいなかったら自分で抜くだけだろ。言わせるな馬鹿。何を考えてるんだ、コイツは。オレとお前はそんなに腹を割って話せるほど親しい間柄でもないし、こんなことを言われたってドン引くだけだ。
「お前、顔がいいのに、なんでこんなに慣れてないんだ」
呆れたように溜息をつかれた。会話に脈絡がない。
何か反論する前に、赤城はオレの両肩をガッと掴んで顔を寄せてきた。
「口説いてんだよ。わかる?」
「は……? くど……? 今のが!?」
「遠回しだと百年経っても気づかなさそうだからだよ! なんなら会った日からグイグイ押してんだよ俺は!」
気づかなかった。
「今だってなあ、めちゃくちゃこう、喰っちまうぞみたいな空気出してたのに、お前は何シモネタ言ってんだコイツくらいにしか思ってなかったろ」
図星すぎて何も言えない。でもまったく何も気づいてなかったわけでもなくて……。いや、今のはそうだが。
ただ、今まではからかわれてるだけだと思っていた。コイツが童貞って話も嘘だと思っているし。
「……だって、口説くって……なんでオレを? 男同士だぞ」
「わかってる。でも、一目惚れしたんだ。性別なんて関係ない」
一目惚れ。つまり赤城はオレが好きってことなのか?
あまりそんな感じはしなかったが……。赤城は俺に優しくて、親切で、そして今は肉食獣のような表情をしてる。
そういえば、ムラムラしてるとか、言って……。
「あ、赤城!?」
ベッドに押し倒された。綺麗な照明と天井が目に入る。そういえばここはラブホテルだった。まさに、そんなことをするための場所だ。
「なあ、アオ。いいだろ? 痛いことはなんもしねえから」
「よ、よくない! 大体、男にさわられて反応するはずない!」
「へー。じゃあ、反応したらいいってことか」
喰われるのか? オレ……。まだ女も知らないのに。
正直オレは、力がない。赤城に本気を出されたら抵抗したって敵わないと思う。
「こんな……の、正義の味方がすることじゃない」
「ヒーローにもプライベートは必要さ」
やんわりと首筋を噛まれる。腕はベッドに縫いつけられて動かない。蹴りを入れようとしたらあっさり膝で押さえ込まれた。
「それに抜き合うくらい仲間ならフツーだって。挿れられんのが嫌なら、お前が俺に挿れるんでもいいし」
「は!? 挿れ……!? あっさりしすぎだろ! その、普通そんなこと簡単には……」
「好きな相手と繋がれるなら、どっちでもいいんだ、俺は」
「好き……」
赤城はオレがどうしようもないドルオタだってことを知ってる。なのに、好きだと言ってくれるのか。
「なのにお前、理想の女性像なんて語るからさ。こりゃもう脈ねえなって。ならせめて身体だけでもと」
本当に? 嘘だろ。まだ会ったばかりだし。でも一目惚れって……。それにモモくんも、赤城はオレのことが好きだみたいなことを言ってた。あの時は、そんなはずない、赤城はからかってるだけなのに馬鹿だなって思った。それがまさか、その日のうちにこんなことになるなんて。
赤城は想像以上に手が早く、気づけばパンイチにされていた。
って、いくらなんでも神技すぎる。緊張も全然してなさそう。童貞だというのはもう絶対に嘘だ。
「細いな。抱いたら壊しそうだ」
「な、ならやめてくれ」
「だから、ちょこっと触るだけだって。せめてここ貸してくれ」
太腿をやらしい手つきで撫であげられた。
「好きだ、アオ」
「信じられるか、そんなの!」
赤城が切なさそうな顔で笑いながら、オレの唇にキスをした。
キスは初めてではない。でも久しぶりだ。触れた唇は嘘のように熱かった。
「俺、すぐ誤解されるんだよな。いつも本気なのに……」
指先が肌をたどる。首筋、胸、腹。そして下着に手がかかる。
「信じてくれよ、アオ。したいんだ、お前と」
心臓がありえない音を立てる。蛇に睨まれた蛙のように動けない。赤城は優しく微笑んでるだけなのに、脅されているような気分にもなった。
好きだから。そんな言葉を盾に、こんなことをして……。好きなら尚更、大切にするものではないのか。
体温は上がるどころか芯から冷えていき、呼吸も浅くなる。鼻の奥がツンとして、涙がこぼれた。
なんでオレはこんなに、裏切られたような気分になっているんだ……?
「ッ……そんなに嫌か? 泣くほど!?」
「男なのに、そんな対象に見られて、情けない……」
「いや、俺が抱かれるほうでもいいっつってんだろ。だから別にお前のこと女みたいに見てるとかそういうんじゃねえし……」
赤城は珍しく酷く焦ったような表情でオレの下着から手を離した。
「そっかあ。お前、思ってたよりも俺のこと慕ってたんだなァ。失敗したわ。ちょっと接触しすぎたか」
抱きしめられた。そのまま、オレを落ち着かせるように、背中をポンポンと叩いてくる。あまりセンスがいいとは言えない赤城の服が素肌に擦れてくすぐったい。
「すまん。正直に言うわ。正義のヒーローやる上で、やりにくくなっても困るしな。俺はゲイなんだよ。お前はそんな俺に狙われた哀れな子羊ちゃんってワケ」
「は……? ゲイ……? 狙っ……?」
なら、好きっていうのも嘘で、今までの親切も全部オレを落とすためのもの? からかわれていると思っていたが、それより最悪だし、本当に初めから騙されていたということか。
そう理解したら今までの違和感がストンと消えた。ゲイだというなら女の子のようなモモくんに興味がなさ気なのも頷ける。ただ、それでどうしてヒョロヒョロで別にそう男らしくもないオレを狙ったのかはわからない。
背を撫でる手は優しいし、もう無理強いしてくる様子もなかった。オレが全身で拒んだから、宥める方向にしたのかもしれない。
「だからヒーローやめるなんて言い出したりするなよ? なっ?」
「だったら、初めからこんなこと、しようとするな……」
「それはそれ、これはこれってーか。たまるもんはたまるし。あとまあ、お前、結構俺のタイプだったから」
童貞が聞いて呆れる。コイツは遊び人だ。間違いない。
「も、もういいから離せ」
「はあー。名残惜しい。最近ヤッてないから、体温久しぶりだし」
もう隠す気もないらしい。あと、背中を撫でる手つきが宥めるものからエロくなってきているのも気になる。
背筋にそって下から上まで指先でつつーっとなぞられて、反射的に突き飛ばした。ビクともしないかと思ったのに、あっさりと身体が離れた。……いや、赤城が自分から引いてくれただけだ。
「俺上手いし、絶対にがっかりさせねーんだけどなぁ」
「オレは男なんてお断りだ!」
「ヒーロー……やめたくなったか?」
今度は一転して、捨て犬みたいな表情になった。玩具屋での赤城を思い出す。真面目に、オレたちの武器を選んでいた。
ああ、そうか。コイツは本当に……。
オタクなんだなあ……。
人には言えない趣味のひとつやふたつ。それが赤城にとってはコレなんだろう。オレは隠してはいないし趣味は違えど、同じオタクとしては親近感を覚える。夢中になる気持ちは誰よりよく知っている。
「いや、やめない。モモくんもいるしな」
「そっか。よかった!」
いや、よくない。オレはまだパンイチだ。もう早く部屋から出ていってほしい。いつまで居座る気なんだ。やらしい目で見てくるのはセクハラだぞ、赤城。ニヤニヤするな。
「仲間同士親睦を深めるのも、アリだと思わねえ?」
「思わない!」
でもまあ、今の赤城のほうが一緒にいて息苦しくない気はする。今まではどこか『演じている』感じがしたから。本人には絶対に言ってやらないが。
とりあえずコレはおがんでおくかという最低な台詞と共に下着をおろされ腹を舐められはしたものの、貞操は死守した。
オレ、本当にヒーローやっていけるんだろうか……。
司令官さんはあのあと玩具を2つ買い込んで、かなりの上機嫌。お気に入りの玩具が見つかったからか、オレたちが乗り気になったからなのかはわからない。
ただ訂正しておくと、少なくともヒーローごっこに関してはオレはさほどやる気になってはいない。もし初めから世界の存亡がかかった話だとわかっていたら、モモくんがいたとしても……断っていたと思う。さすがにスケールが大きすぎる。パワードスーツは一度着たら脱げないというから腹を括ったが、正直今でも逃げ出したい気はある。それはともかく焼き肉美味しい。思考のすべてが焼き肉になる。
「アオ、お前ちまちま食ってるなよ。もっとガッといけ、ガッと」
噛み締めてるんだ。放っておいてくれ。
赤城はまるで自分の奢りだと言わんばかりに勧めてくる。食べ方も豪快だ。司令官さんは特に気にした様子はなく、もくもくと食べている。ただ、その量はえげつない。箸運びは丁寧なのに凄まじいスピードだ。何しろ、口に入れてから次を口に運ぶまでがノーカウントだ。噛まずに飲んでいる気すらしてくる。
モモくんはそんな司令官さんのためにせっせと肉を焼き、たまに可愛らしく食べる。……レバーだとかタンだとか、食べているものは可愛くないが。
「それにしても……中々、次の仲間が見つからないものですね」
「最近敵も襲ってこないしね。今までのパターンを考えると、次に仲間が加入した時になるのかな?」
思わずみんなで、赤城の顔を見る。仲間探しは彼に一任されている。赤城は食べる手を止め、気まずそうに俯いた。
「適性があるだけなら、割といるんだよ。たとえばその……テレビに出てるヤツな。有名人には結構多い」
「えっ、本当ですか? 実際に戦隊モノの俳優されてる方とかならやってくれそうじゃないですか!?」
「そんなに都合よくいくかよ。役は役だろ。大体なんでおいぼれや赤ん坊にまで適性もつやつがいるんだ? 死ぬぞ」
「うーん……。年齢まで考慮されてないんですよねぇ。単に相性というか……」
「それにアイドルとかに、どうやって声をかけるのって話だよね。仲間にしたら青山サン、感動でそれこそ死ぬかも」
「オ、オレの推しはモモくんだけだから……」
「ハイハイ」
まあ、でも実際……仲間を探すのは大変だろうなとは思う。何度か断られているとも言っていたし、声をかけるのも大変なはずだ。オレにその役目が与えられていたら、絶対にストレスがたまって倒れている。
「実は……この焼き肉屋にも一人いる」
「えっ!? どこですか!? 私、声をかけて……」
司令官さんが身を乗り出すと同時、店員さんが肉の皿を持ってやってきた。
「お待たせしました……」
背が高く、凄みがあって愛想がない暗い雰囲気の男。どう見ても接客業には向いてなさそうだ。先程から何回かテーブルへ運びに来てくれるが、そのたびに迫力にビビって身構えてしまう。
次の肉になるのはオマエダとか言われてもおかしくない。
「あっ、ほら、司令官サン、これ焼けたよ。食べて食べて」
「はい!」
食欲が勝ったらしく、司令官さんはあっさりと腰をおろした。ニコニコしながら美味しそうに肉を食べる。モモくんはそれを幸せそうに眺める。ついでに、暗い雰囲気の店員も司令官さんを睨んでいる。殺し屋のような眼光に背筋が冷たくなった。赤城も気になるのか、その店員をチラチラと見ている。
……まさか。まさかコイツが『焼き肉屋にいる一人』だったりするのか? どう見てもヒーローからかけ離れた容姿だぞ。
いや、それに関してはオレも人のことは言えないし、赤城もあまり向いてなさそうではあるが……。
「ハッ! つい肉につられてしまいました。それでどの人……」
「お。これも焼けてるぞ。皿に乗せてやる」
「ありがとうございます!」
あからさまに話題を逸らす赤城。あっさりと流される司令官さん。
一応地球の滅亡がかかってるというのに、これでいいんだろうか。司令官さんは胡散臭い以前に、頼りない。
だが、あの店員がそうだというなら、赤城がはぐらかしたくなる気持ちもわかる。司令官さんは相手が仕事中でも空気を読まず平気でヒーローに誘うだろうし、それを見るこちらの寿命が縮む。
「何かごまかしてませんか?」
「焼いたもののお腹がいっぱいになったから、よければこれも食べてくれないか?」
「あ、はい……」
オレも加担してしまった。3回話題を変えられて、司令官さんは先に話していたことがどうでもよくなったのか、あとは機嫌良さそうに肉を食べていた。
会計は凄まじい金額だった……。司令官さんは気にした様子もなくケロッと払っている。どこからお金が出ているのか気になるところだ。
「なあ、アオ……」
司令官さんとモモくんが会計をしている後ろで、赤城がオレに小さな声で話しかけてくる。
「ん?」
「少し、話がある。あとで部屋に行ってもいいか?」
ピンときた。きっと……さっきの店員のことだ。
オレは司令官さんの背中を見ながらこくりと頷いた。
「わかった」
2人には話せないことを、オレに相談してくれる。頼られているようで、なんだか嬉しかった。
自分の部屋とはいってもそこはラブホテルの一室で、その光景にまだ慣れないでいる。家具も何もかも、自分のものはひとつもないしな。
飲み物だけ適当にルームサービスを頼んで、赤城を出迎えた。小さなテーブルで対面に座る。赤城は飲み物には手をつけず、顎のあたりで手を組んでこちらをジッと見ている。
なんだって、そんなに……見てくるんだ。
服の下まで暴かれるような感覚にぞわりとし、思わず目を逸らした。
「焼き肉を食べたあとってのは、ムラムラすると思わないか?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。言葉を理解することを脳が拒否した。
……いや。いやいや。店員の話とか、仲間探しの話とか、司令官さんにはできない話ではなかったのか。何故オレにそんな話を振る。どう答えたらいいんだ、これ。
「ま、まあ、そういうこともあるかもな」
「俺はする」
「は、はあ……」
そんなことを主張されても困る。赤城にとってはシモネタトークが親密になれる手段なのかもしれないが、オレはこういうことにはとんと耐性がない。
「話っていうのは、まさかそれか?」
「そうだ」
頼られているみたいで嬉しいと思ったオレの気持ちを返してほしい。
「こういう時、アオはどうしてる?」
「どうって……」
相手がいなかったら自分で抜くだけだろ。言わせるな馬鹿。何を考えてるんだ、コイツは。オレとお前はそんなに腹を割って話せるほど親しい間柄でもないし、こんなことを言われたってドン引くだけだ。
「お前、顔がいいのに、なんでこんなに慣れてないんだ」
呆れたように溜息をつかれた。会話に脈絡がない。
何か反論する前に、赤城はオレの両肩をガッと掴んで顔を寄せてきた。
「口説いてんだよ。わかる?」
「は……? くど……? 今のが!?」
「遠回しだと百年経っても気づかなさそうだからだよ! なんなら会った日からグイグイ押してんだよ俺は!」
気づかなかった。
「今だってなあ、めちゃくちゃこう、喰っちまうぞみたいな空気出してたのに、お前は何シモネタ言ってんだコイツくらいにしか思ってなかったろ」
図星すぎて何も言えない。でもまったく何も気づいてなかったわけでもなくて……。いや、今のはそうだが。
ただ、今まではからかわれてるだけだと思っていた。コイツが童貞って話も嘘だと思っているし。
「……だって、口説くって……なんでオレを? 男同士だぞ」
「わかってる。でも、一目惚れしたんだ。性別なんて関係ない」
一目惚れ。つまり赤城はオレが好きってことなのか?
あまりそんな感じはしなかったが……。赤城は俺に優しくて、親切で、そして今は肉食獣のような表情をしてる。
そういえば、ムラムラしてるとか、言って……。
「あ、赤城!?」
ベッドに押し倒された。綺麗な照明と天井が目に入る。そういえばここはラブホテルだった。まさに、そんなことをするための場所だ。
「なあ、アオ。いいだろ? 痛いことはなんもしねえから」
「よ、よくない! 大体、男にさわられて反応するはずない!」
「へー。じゃあ、反応したらいいってことか」
喰われるのか? オレ……。まだ女も知らないのに。
正直オレは、力がない。赤城に本気を出されたら抵抗したって敵わないと思う。
「こんな……の、正義の味方がすることじゃない」
「ヒーローにもプライベートは必要さ」
やんわりと首筋を噛まれる。腕はベッドに縫いつけられて動かない。蹴りを入れようとしたらあっさり膝で押さえ込まれた。
「それに抜き合うくらい仲間ならフツーだって。挿れられんのが嫌なら、お前が俺に挿れるんでもいいし」
「は!? 挿れ……!? あっさりしすぎだろ! その、普通そんなこと簡単には……」
「好きな相手と繋がれるなら、どっちでもいいんだ、俺は」
「好き……」
赤城はオレがどうしようもないドルオタだってことを知ってる。なのに、好きだと言ってくれるのか。
「なのにお前、理想の女性像なんて語るからさ。こりゃもう脈ねえなって。ならせめて身体だけでもと」
本当に? 嘘だろ。まだ会ったばかりだし。でも一目惚れって……。それにモモくんも、赤城はオレのことが好きだみたいなことを言ってた。あの時は、そんなはずない、赤城はからかってるだけなのに馬鹿だなって思った。それがまさか、その日のうちにこんなことになるなんて。
赤城は想像以上に手が早く、気づけばパンイチにされていた。
って、いくらなんでも神技すぎる。緊張も全然してなさそう。童貞だというのはもう絶対に嘘だ。
「細いな。抱いたら壊しそうだ」
「な、ならやめてくれ」
「だから、ちょこっと触るだけだって。せめてここ貸してくれ」
太腿をやらしい手つきで撫であげられた。
「好きだ、アオ」
「信じられるか、そんなの!」
赤城が切なさそうな顔で笑いながら、オレの唇にキスをした。
キスは初めてではない。でも久しぶりだ。触れた唇は嘘のように熱かった。
「俺、すぐ誤解されるんだよな。いつも本気なのに……」
指先が肌をたどる。首筋、胸、腹。そして下着に手がかかる。
「信じてくれよ、アオ。したいんだ、お前と」
心臓がありえない音を立てる。蛇に睨まれた蛙のように動けない。赤城は優しく微笑んでるだけなのに、脅されているような気分にもなった。
好きだから。そんな言葉を盾に、こんなことをして……。好きなら尚更、大切にするものではないのか。
体温は上がるどころか芯から冷えていき、呼吸も浅くなる。鼻の奥がツンとして、涙がこぼれた。
なんでオレはこんなに、裏切られたような気分になっているんだ……?
「ッ……そんなに嫌か? 泣くほど!?」
「男なのに、そんな対象に見られて、情けない……」
「いや、俺が抱かれるほうでもいいっつってんだろ。だから別にお前のこと女みたいに見てるとかそういうんじゃねえし……」
赤城は珍しく酷く焦ったような表情でオレの下着から手を離した。
「そっかあ。お前、思ってたよりも俺のこと慕ってたんだなァ。失敗したわ。ちょっと接触しすぎたか」
抱きしめられた。そのまま、オレを落ち着かせるように、背中をポンポンと叩いてくる。あまりセンスがいいとは言えない赤城の服が素肌に擦れてくすぐったい。
「すまん。正直に言うわ。正義のヒーローやる上で、やりにくくなっても困るしな。俺はゲイなんだよ。お前はそんな俺に狙われた哀れな子羊ちゃんってワケ」
「は……? ゲイ……? 狙っ……?」
なら、好きっていうのも嘘で、今までの親切も全部オレを落とすためのもの? からかわれていると思っていたが、それより最悪だし、本当に初めから騙されていたということか。
そう理解したら今までの違和感がストンと消えた。ゲイだというなら女の子のようなモモくんに興味がなさ気なのも頷ける。ただ、それでどうしてヒョロヒョロで別にそう男らしくもないオレを狙ったのかはわからない。
背を撫でる手は優しいし、もう無理強いしてくる様子もなかった。オレが全身で拒んだから、宥める方向にしたのかもしれない。
「だからヒーローやめるなんて言い出したりするなよ? なっ?」
「だったら、初めからこんなこと、しようとするな……」
「それはそれ、これはこれってーか。たまるもんはたまるし。あとまあ、お前、結構俺のタイプだったから」
童貞が聞いて呆れる。コイツは遊び人だ。間違いない。
「も、もういいから離せ」
「はあー。名残惜しい。最近ヤッてないから、体温久しぶりだし」
もう隠す気もないらしい。あと、背中を撫でる手つきが宥めるものからエロくなってきているのも気になる。
背筋にそって下から上まで指先でつつーっとなぞられて、反射的に突き飛ばした。ビクともしないかと思ったのに、あっさりと身体が離れた。……いや、赤城が自分から引いてくれただけだ。
「俺上手いし、絶対にがっかりさせねーんだけどなぁ」
「オレは男なんてお断りだ!」
「ヒーロー……やめたくなったか?」
今度は一転して、捨て犬みたいな表情になった。玩具屋での赤城を思い出す。真面目に、オレたちの武器を選んでいた。
ああ、そうか。コイツは本当に……。
オタクなんだなあ……。
人には言えない趣味のひとつやふたつ。それが赤城にとってはコレなんだろう。オレは隠してはいないし趣味は違えど、同じオタクとしては親近感を覚える。夢中になる気持ちは誰よりよく知っている。
「いや、やめない。モモくんもいるしな」
「そっか。よかった!」
いや、よくない。オレはまだパンイチだ。もう早く部屋から出ていってほしい。いつまで居座る気なんだ。やらしい目で見てくるのはセクハラだぞ、赤城。ニヤニヤするな。
「仲間同士親睦を深めるのも、アリだと思わねえ?」
「思わない!」
でもまあ、今の赤城のほうが一緒にいて息苦しくない気はする。今まではどこか『演じている』感じがしたから。本人には絶対に言ってやらないが。
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オレ、本当にヒーローやっていけるんだろうか……。
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疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
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※今回の表紙はAI生成です
※小説家になろうにも公開してます
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