マニアックヒーロー

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イエロー

襲ったりしないけど

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 同じ部屋へ向かうのは、変な感じがする。住んでいるとはいえ、ここはラブホテル。ソウイウコトに使う施設だ。
 酔わされて連れ込まれたことならあるけど、今日は当然ながら、シラフだ。いや、酔ったような感覚ではいるかもしれない。夢のような出来事の中にいるという意味では。
 エレベーターの浮遊感も、フワフワした気持ちに拍車をかける。

「ピィ」

 ドラゴンが素直に青山さんに甘えているのを見ると、少し羨ましくなる。
 普通なら、青山さんだけ懐かれてずるい! って思うところなのにまったく悔しくならない。シロさんは僕の感情を元に作られた人工知能だと言ってたけど、それだけじゃなくて、やっぱりどこか繋がってるんだろうか……。

「なんだか、よそよそしいな」
「な……、何が、ですか」
「君は不思議なことが好きなんだろう? この子はまさに、そんな感じだと思うが」

 びっくりした。ドラゴンに対してって意味か。

「確かにそうなんですけど、分身みたいな感じで可愛がりにくいことこの上ないんですよ」

 そこまで言って、ハッとする。
 もしかしてドラゴンが僕に懐いてくれないのも、同じような理由なのかもしれない。

「オレから見れば、君とコイツはまったく別物だけどな。まず、見た目が全然違う」
「それは……。ドラゴンと、人ですし」

 青山さんが、ドラゴンをジリジリと僕に近づけようとしてくる。ピンと張り詰めた空気が流れた。

「グア……」

 見た目は全然違う。考えてることが、わかるわけでもない。
 当たり前だけど、コイツは僕じゃない。

 そっと手を伸ばして撫でてみる。メタリックな外見そのままに、ひんやりしてる。なのに、生きてるように見えるんだよなあ。

「お互いに、あまり仲良くする意志はなさそうだな」
「僕には、もう少し友好的でいたい気持ちがあるんですけどね」

 溜息ひとつ。エレベーターの壁に背を預けようとすると、軽快な音が目的階への到着を告げた。

「お。ついたぞ。右側の奥の部屋だったな。今日から2人と1匹で同室なんだ。まあ、仲良くやろう」
「はい」

 つれないドラゴンくんと違って、青山さん自身は僕に歩み寄ってくれる気があるようだ。
 初日から親切だったし、オシャレな喫茶店苦手なのに付き合ってくれたし、基本的にいい人なんだろうな。

 右側の奥の部屋と言ってたけど、最上階には扉がふたつしかなかった。今までと、ドアの作りは変わりないように見える。

「あ、ここですよ」
「あまり酷い内装でないといいんだが」

 カードキーを差し込む。おそるおそる中に入ると、下品な感じはまったくなく、まるでスイートルームのように綺麗な部屋だった。いや、使ったことはないけど、それくらい凄いって意味で。

「なあ、あっちの部屋にあるのプールじゃないか?」
「うわっ、本当だ。凄い……! なんだこれ」
「司令官室にしてる部屋はテレビが大きかったが、部屋によってかなり違うものなんだな」
「ですねえ」

 青山さんの口ぶりから、そんなに利用したことがなさそうなのが窺える。
 ……どうしてここで、ホッとするんだ、僕は。

「そうだ。あと、この子の名前を2人で決めよう」
「2人で……」
「ああ。何か問題があるか?」
「い、いえ、別に……」

 ペットの名前を2人でつけるなんて、なんだかカップルとか家族っぽい。少しドキッとした。
 青山さん、ドラゴンを猫の子みたいに顔の横で持ち上げて、ニコーッと笑ってる。いつものクールな雰囲気はどこへいったんだ。かといって桃くんといる時のデレデレな感じともまた違う。

「キュイー!」
「ほら、この子もつけてほしそうにしてる」
「そうですね。自分の名前がほしいって言ってる気がします」

 でも僕、ネーミングセンスないんだよな。イエロービームとか言っちゃうくらいだし。思い出すと心が抉られる。

「青山さん、何かありますか?」
「鳴き声からとるなら、ピィとかキュイか?」
「グルル……」
「悪くない。って思ってそう。色からとるなら、メタル……かな」
「それかシルバーか」

 綺麗なメタリックドラゴン。青みがかってはいるけど、基本的には銀色だ。メタルシルバーとでもいうのか。

「僕たちはレッドとかピンクとか呼び合うことになるんだし、ここは少しだけ区別をつけて、ギンタってどうですか?」
「いいな。ギンだとさすがにそのまますぎるが、それなら名前っぽくていいと思う」
「ちなみにタはメタルから取りました!」
「うん。可愛い。今日から君の名前はギンタだぞ。それでいいか?」
「ピィィー!」

 ギンタは嬉しそうに鳴き声をあげ、青山さんの手に顔を擦りつけた。どうやら気に入ってくれたらしい。すんなり決まってよかった。
 下手な名前をつけて険悪になるという事態は避けられたようだ。

「それにしても、ずいぶんと長い時間、喫茶店にいたかと思ったが、まだ夕飯にもならないような時刻だな」
「出てみれば、外も明るかったですもんね」

 青山さんはベッドに腰掛けて、ギンタとイチャイチャしている。
 基本的にはずっと膝に乗せてるんだけど、ギンタがたまに伸び上がってキスしたりしてる。

 見てるとなんだか気恥ずかしい。青山さんも青山さんだ。僕とは別物と言ってはいたけど、もう少し気を遣ってはほしい。

「どうしたんだ、突っ立って。一緒にプールでも入るか? ギンタは入れるのかな。メカみたいだし……。でも氷の中に埋まってたから、プールくらいいけるか?」
「キュイ」
「大丈夫みたいですよ」

 青山さんがジッと僕を見る。そんなふうに真っ直ぐ見つめられると、ソワソワしてしまう。

「先程よりも、どんどんギンタの感情がわかるようになってきてないか?」
「そういえば……。一緒にいるから、感情がリンクしてきてるんですかね。こんなに早く」
「ピイ」

 ころんと転がって腹を見せる。撫でろってことだな。猫かよ。
 僕は別に腹を撫でられるのは好きじゃないから、やっぱり別の存在といえばそうなんだ。当たり前だけど。
 素直に撫でてやると、気持ち良さそうにしていた。

「お腹のほうはほんのりあったかいですね」
「頭とかもたまに温かくなってることがあるぞ」

 いくらギンタが間にいるとはいえ、青山さんは無防備すぎる。
 喫茶店でのこと、本当に……気にして、ないのかな。忘れてるなら、思い出させるようなことは言わないほうがいいよな。

「で、プールはどうする?」
「僕はやめておきます。今日はかなり疲れましたし。能力も、次の敵の襲撃までオアズケですしね」
「そうか。君は使ってみたくてしかたなかったんだものな。それはがっかりもするか」

 頭をヨシヨシッてされた。ギンタにでもするみたいに。

「あっ! す、すまない。セクハラになるか」

 大真面目な顔で言われて、思わず笑った。

「今更でしょ。頭を撫でたくらいで」
「いや、あの時は非常事態だったし」

 それに離せという青山さんを、抱きしめていたのはむしろ僕のほうだ。暖を取るという目的を越えた感じになってもいた。
 そう、むしろ貴方は僕に襲われる心配をするべきなんだよ。

 ……い、いや、別に……襲ったりしないけどさ。

 そもそも本当に僕のEDが治ったかどうかもわからない。男としては重要なことだけど、色々あって試す時間もなかった。青山さんと同室だから、下手に試すのも躊躇われる。

「よし。じゃあ、オレはひと泳ぎするかな」
「青山さんて、プール好きなんですか? なんか意外」
「別に好きではないが、部屋にこんな凄いのがあったら、入りたくならないか?」
「そういうものですかね……」
「大人になるとインドアな人間はプールにはそういかないものだから、新鮮な感じがするんだ」

 青山さんがジムやプールに自分から行ったりしなさそうなのはわかる。だからこそ、意外だと思ったわけだし。

「あ、でも水着は?」
「裸でいい。ギンタとオレとだし」

 僕もいるんですけど。

 確かに一緒には入らないけど、さっき僕が頷いてたらどうするつもりだったんだろ。男同士だから、気にせず入ったのかな。風呂ならいざ知らず、プールは少し恥ずかしい気もする。

「ギンタ、行こう」
「キュイ!」
「僕は疲れたし、少し寝てますね」
「ああ。おやすみ」

 そう言って、プール側から目を背けた。少し下のほうにあるプールは仕切りもあるとはいえ透明で、ジッと見ているのはなんかしらのプレイみたいに思えて。
 背けたものの気になって1人と1匹を盗み見ると、とても楽しそうにしていた。やっぱり僕も、入るって言えば良かったかも。
 いや、マズイか。なんかドキドキしてる。男の裸なのに、勃起しそうだ。治ってくれたのは嬉しいけど、誤作動しすぎだから。だって青山さんは男だし、好きなひとってわけでもないのに。

 絶対にギンタのせいだ、絶対。この浮ついたような気分も、全部。

 僕は再び背を向けて、目を閉じた。疲れた身体は幸いすぐに睡魔を運んできて、よけいなことを考える前に眠りにつけた。
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