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ブラック
サンタが街にやってきた
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もう二度と着るはずないと思っていたサンタの衣装を、本日も着ている。
連日でクリスマスパーティーをするなど、初めての経験。
ピンクはその日に向け、ケーキもいいところのを予約して、サプライズをすることを大層楽しみにしていたらしい。
司令官が用意したケーキがコンビニのだったことを考えると、思いつきでパーティーをしようとした感が強いし、昨日まではクリスマスという発想がないのだと他メンバーに思われていたことは想像に難くない。
サプライズ成功っとピンクがワクワクしていたところに……司令官からクリスマスパーティーのお知らせ。しかも、飾り付けを下心のありそうな見知らぬ男に手伝わせていた。そう、俺だ。
正直これで、虫の居所が良かったら逆に凄いというか……。
ともかく、昨日ピンクの機嫌はひたすらに悪かった。
秘密基地へ戻ってから念のため謝りに行ったのだが、不器用な俺は簡単に火に油を注いでしまった。
そもそも俺はそこまで悪くもない。とりあえず歳下相手だから謝っておけばいいという気持ちが透けて見えたに違いない。
その結果……『やっぱりサンタは必要だよね』の一言で、俺は今日も不肖ながら赤い衣装に身を包んでいる。
これを着ていると何故かイエローがやたらと怖がるので、みんなと仲良くしたい俺にとっては少し困るのだが……。
……まあ、怯えを口実にブルーに甘え倒していたようだから、キューピット役にはなれたかもしれない。
さて。
こんな格好をしているのに、かついだ袋から何も出てこないというのは、些か面白くない。エンターテイナー精神がほとんどない俺でさえそう思うのだから、端から見ればもっとだろう。
昨日は片付けの際、この袋にゴミを入れていったのだが、ピンクからはウワァというような顔で見られてしまった。
だから今日は。メンバー入りの挨拶も兼ねて。エセサンタからクリスマスプレゼントをひとりひとりに贈ろうという腹づもり。
まだ皆のことはよく把握できていないから、本当に気持ち限りの物なのだが。
それでも喜んでくれるといいなと、らしくもなく心を弾ませながら選んだ。
自分の稼いだお金で誰かにプレゼントをするのは、これが初めてだ……。プリンは結局、司令官に支払わせたからな……。今思い出しても紐なしバンジーをしたくなる気分だ。
ケーキを切り分け、乾杯をして、宴もたけなわ。
俺としては充分に空気を読んで話を切り出した。
「サンタからプレゼントがあるのだが」
「やるじゃん! まさか司令官サンだけにとか言わないよね」
「言わない。サンタだから」
そうでなければ、司令官にだけプレゼントを贈ったかもしれない。
思いの外……。ピンクが、一番喜んでくれた。まだまだ、サンタが嬉しい……年頃なのかもな。子どもらしくて可愛いところもある。
「まず、レッドに」
「なかなかいい心がけだ。まあ俺は、お前の身体をプレゼントしてくれてもいいんだけどな?」
「いや……」
どう返せばいいかわからない。何か反応しないと、つまらない男だと思われるかもしれない。
結局何も言えなかったが、レッドは特に気にした様子もなく、楽しげに包装を解き始めた。
「開ける瞬間ってワクワクするよな。中身は……。おっ。酒かぁ。無難なチョイスだけど嬉しいな」
喜んでもらえたらしい。良かった。
「次にイエロー……」
「ひっ……」
イエローは縮こまってブルーの腰にしがみついた。
「悪いな。黄原の分はオレが受け取っておく」
「……わかった。レトルトカレーの詰め合わせセットだ。辛いのが苦手だと聞いていたから甘口で」
何故わざわざカレーを選んだのかと言えば、司令官の好みを優先した。
やっぱりイエローにはカレーですよね、と嬉しそうにしているから、これで良かったと思う。
「甘口のでも、そんなに好きじゃないのに……」
「コラ。貰ったものに対してそういうこと言ったらダメだぞ。一緒に食べてやるから」
「……うん」
さすがに少し甘やかしすぎなのでは……。
「ブルーには、いちごのチョコレートだ」
「いちごか。ずいぶん可愛らしいな」
「なんとなく、こういうのが好きだと思った」
「どんなイメージだ……」
少し不服そうにしている。
「僕がそういうの好きです」
「そうか。ならこれも、一緒に食べよう」
「ふふふ……。うん」
なんだかんだで、プレゼント選びは成功した……気がする。
「ギンタにはこれを」
そう言って青色のリボンを首にキュッと結んでやった。
嬉しそうにピィと鳴いた。鳥みたいで可愛い。
「ギンタにもあるのか。良かったなー、ギンタ」
「青山さんの色のリボンを、ギンタがしてる……」
「オレは名字に青が入ってるだけで、そう青くもないと思うが……」
「それでも青色ってイメージがあるんです」
青白いからか……。と思ったが、口には出さなかった。
もしかして、ギンタはブルーのペットではないのか……? こんなに懐いてるのに。
何はともあれ、ギンタにしたプレゼントでまたイエローの機嫌が良くなった。カレーをプレゼントにした所業はこのあたりで相殺してほしい。
「ピンクには……。くまのぬいぐるみだ」
「は、はあ? ちょっと、アンタ、ボクのこといくつだと……」
「わあっ。ピンクがくまさんのぬいぐるみ持ったら、きっともっとカワイイですね!」
「……まあ、わ、悪くないんじゃないかなー。ボクカワイイから、こういうの持つと似合いすぎちゃうんだけどさ」
やや面白くないが、これくらいしか思いつかなかった。
この年頃なら定番はゲームだろうが、何しろこのラブホテルに全部あるからな……。
「そして司令官には、指輪を」
「アクセサリーですね、ありがとうございますー!」
「ち、ちょっと待ったー!! なんだよ、指輪ってなんだよ!」
「給料の3ヶ月分だ」
「……ソレ、焼肉屋の給料の? って、そんなことを訊いてるワケじゃないんだよ!」
意味が伝わってるのかいないのか、司令官はプレゼントを嬉しそうに開けている。
……受け取ってくれた……。俺の指輪を……。
「普通、指輪なんて恋人でもない相手にイキナリ送ったりしないでしょ!?」
「司令官の言う通り、単なるアクセサリーのつもりであげたものだ」
シレッと言うと、ピンクがギギギと悔しそうに歯噛みした。
「だからって、どんなセンスだよぉ。ボクも指輪とかにしたら良かった」
レッドは、おおー、なかなかやるなぁなどど、楽しそうにしている。
この男が第2のライバルではないかと密かに思っていたので、なんだか拍子抜けだ。
「それなら……ピンクは司令官に、どんなプレゼントを……選んだんだ?」
「えっ。それはぁ、もちろん、司令官のヒップラインを守るためのパンツだけどぉ。お年玉フンパツして……」
それはお年玉をあげた両親が泣いているな。
司令官が言っていた通り、本当に尻しか見ていないのか……。
「ピンクこそ、どんなセンスしてるんですか。パンツって……」
「別に下心はないよ! 守るための……、守るためのものだから。ねっ?」
下心ありすぎだろう。そもそも守るの意味が違っている気もするし、むしろ守るべきはピンクからなのではないか。
だが、司令官の反応は意外だった。パンツくらい受け取っても、普通にプレゼントとしてありがとうございますって笑うと思った。事実俺の指輪はそう対応された。
……喜んでもらえたのに、なんだか素直に喜べない。
何しろピンクは中学生。パンツを貰ったくらい、微笑ましく思って流してやればいい。もし俺が貰ったならそうする。まさかくれるやつはいないだろうが。
おそらく司令官は、ピンクをきっちり警戒する相手に見ているということになる。それは安全圏にいる男よりも、恋愛の対象に入る。……と、思う。経験はほぼないので断言はできない。
「でも、ありがとうございます」
「穿いてくれる?」
「パンツに罪はありませんから」
「やった……! 見せてはくれないだろうから、想像するね!」
「下心はなかったはずでは?」
「似合うと思って選んだんだもん。見てみたいのは当然じゃない? 服を贈るんだってそうでしょ?」
「……確かにそうですね」
そこで納得してしまうのか……。
「あっ! でも見せませんよ!」
うっかり見せそうだなと思ったが、そこは貫くらしい。
レッドが横からピンクに『念のためどんなパンツを贈ったのか教えてほしい』と言って2人に怒られていた。念のためとは。
……俺も少し、知りたかった。いや、凄く。
「まあ。これで、サンタからのプレゼントは……おしまいだ」
「モモはシロにだけだったな。なんつうか、徹底してるというか」
「バイトもできない中学生に、そこまで期待を寄せないでくれる? むしろ赤城サンとかが僕にくれるべきじゃない?」
「あ! お、オレは……。あるぞ、モモくんに」
ブルーが名乗り出る。どうやらピンクにしか用意していないようで、レッドとイエローは面白くなさそうにしている。
「ボクにフェイスパックのプレゼントとか……。本当にガチだよね、青山サンは……」
「可愛いモモくんに、これからも輝いてほしくて!」
「別に、別に光んないよ、ボクは」
ブルーは対ピンクだとこんな感じになるのか。いつもと違いすぎるな。アイドルを前にしたファンのようだ。……実際、ブルーにとってはそうなんだろう。
「んー。これは黄原サンにあげるよ。はい」
「えっ。フェイスパックなんて貰っても……。桃くんが貰ったものだし、それにどうして僕に」
「頑張ってほしい、的な」
「な、何を……?」
目の前でプレゼントを横流しにされる所業に、ブルーは悲しみの表情を浮かべている。
イエローの分も何かしら買ってやれば良かったのに。想いに応えられないから、期待をもたせるわけにはいかないということか。
「ともかく、貰っても困るから……。桃くんがこれで自分を磨いてシロさんを振り向かせるべきだよ」
「ボクもう、充分カワイイからなぁ」
若くて顔のいい未成年組が会話する様は、鳥がピィピイ囀っているようで可愛らしい。
実際には俺と黄原とはそこまで歳が離れていないとは思うが、見た目の差が凄いからな……。
「クロ、サンタ役、ありがとな。ところでお前がくれた酒だが、パーティーが終わったらゆっくり2人で」
レッドがやたらと爽やかな笑みを浮かべながら近づいて、俺に耳打ちしてくる。
同時に、その反対側からシャンという高い音が鳴った。
「……鐘」
「んっ!? なんだ? 金が必要なのか?」
何を言ってるんだこの人は。
「鐘の音が聞こえないか?」
まるで……。そう、サンタが来る時のような。
「ホントだ。まさか烏丸サン、登場BGMまで用意したの? 司令官サンの気を引こうと」
「……すでに俺は登場済みなんだが」
「いや、あの。冗談を真面目に返されてもね」
それにトナカイもいないのに。……と、そういうことでもない。
ラブホテルの近くでパレードでもしているのだろうか。
鐘だけではなく、ジングルベルまで聞こえ始めた。それと同時に悲鳴も。
「あっ! みなさん、時が止まってます……! 敵ですよ!」
司令官の言葉に各々時計をバッと見る。
いち早く窓際へ走ったレッドが、うおっと小さく声をあげた。
「おいおい……。大量のサンタが町中を襲ってんぞ……。地獄絵図ってか、シロ、お前ナニ考えてんだ! もう少し特撮に寄せろ!!」
この事態は司令官が作った装置を盗まれたことにより起こっていると聞いた。確かに何を考えてこの状況を作ったのか、気になるところだ。
「ええと。戦場のメリークリスマスって、よく聞くので……」
「響きだけで観たことねーだろ! クリスマスをめちゃくちゃにしやがって。ママがサンタにキスをしたとかその辺にしとけよ。モモなんて死ぬほどへこんでるし、なんでかキイは再起不能だぞ!」
ピンクは、せっかくのパーティーが……。と、呆然とし、イエローは部屋の隅でガタガタ震えている。サンタ怖いサンタ怖いと何度も繰り返している。嫌な思い出でもあるのだろうか。
「黄原、おい、大丈夫か。黄原……」
「あ、青山さぁん。せっかくギンタに意識を移せるチャンスなのに、怖くて、それどころじゃなくて……。ただでさえ身近に殺人サンタがいるから……」
おい、それは俺のことか。
「外にいるサンタも俺には人間にしか見えねーんだが、アレを殺るのか?」
レッドがそう言って窓のほうを親指でグイッと指さす。
横から下を覗いて見ると、サンタが歩き回ってるところだった。
ケーキ屋の宣伝……とか、母親に頼まれて娘のために……とか、そういう普通の人にも……見える。
しかしその手には何か刃物のようなものが握られており、通行人を切り裂いているようだった。
「敵っていうか、単なる犯罪者に見えるもんね。ゾンビとかならまだしも、ボクらが裁いてはいけない部類に入るっていうか」
いつの間に立ち直ったのか、すぐ横にピンクがいた。
なんだかんだで、この子は俺を怖がらない……。外にいる敵に怯える様子もないから、単に肝が座っているだけかもしれない。
「袋の赤いのは返り血かなあ。サンタの服が赤いのは返り血。そんな都市伝説、あった気がするけど、まさか実際に目にするなんてね」
「サンタ……返り血……ううっ……」
それに比べてイエローの怖がり方は、まるでサンタに襲われた経験でもあるかのようだ。
「ピンクならあれを捌くのもきっと容易です。頑張ってくださいね、活躍を楽しみにしています!」
「って、包丁を渡されても……。そっちの捌くじゃないっていうか……。でも、司令官サンが期待してくれてるなら、ボク頑張るね!」
ピンクは殺る気満々だ。その煌めく眼光は、まさに殺し屋のソレだった。
「黄原は今、行ける状態ではないぞ。応援して立ち直らせてから2人で駆けようと思う。モモくんのことは心配だが……」
「おいアオ、俺のことは!?」
「烏丸……。どうか、モモくんを……よろしく頼む」
「スルーかよ! ってか、頼りにすらされねーのかよ!」
よろしく……頼まれても……。
「俺はこんな見た目をしているが……。戦うことが……得意では、ない」
むしろ、人と争うのは苦手だ。必要以上に怖がられると、悲しくなる。
正直先程からのイエローの態度で、すでに深手を負っている。心が。
「でもまぁ、その図体だ。力はあるだろ。シロが作った武器は、まだ銃だけでな。クロには素手で頼みたい。銃は俺が使う」
素手……。素手だと。殴り殺せとでもいうのか?
「赤城サンだけズルイよ! ボクのは!?」
「お前にはシロから貰った包丁があるだろ」
「いたいけな中学生に近接戦させるなんて酷くない?」
「すげー…………、余裕そうな感じだったが」
ピンクはともかく、俺が……。いくらなんでも素手は。
いや。何も、殺すことはない。一般市民をサンタから守ればいい。
「そもそも、これは……。すべてのサンタを倒す……殺す? ことで、終わりに……なるのか?」
俺はまだ、仲間になったばかりだ。よくわかっていない。
1人につき何人殺すなどのノルマがあると困る。
「シロ、その辺はどうなんだ。クリスマスだし、なんか特殊な条件とかあったりすんのか?」
「サンタは全員、袋を抱えていますよね」
「ああ。律儀にな……」
「袋を奪えばサンタは無力化します。あれを全部奪ってください。それで……終わりになるはず」
「な、なんだぁ! 捌かなくてもいいんじゃん、別に! 良かった!」
良かった。本当に良かった……。
「あれは何人いるんだ? 目視した限りでは3人ほどだけどよ、数によっちゃあ相当骨が折れんぞ」
「そうだね。それに、サンタが幻影か洗脳かも重要だよね」
「幻影だったら殺る気なのかよ……」
袋を奪うだけとはいえ、簡単にはいかないかもしれない。それを訊いておくことは重要だ。さすがはピンク、戦い慣れをしている。
「殺してでも奪いとる……」
ボソッとレッドが呟いた。
「エッ、何急に、怖い! まあ、そういうこともあるかもしれないけど、なるべくそうしたくないから訊いてるの」
「いや今のはテンプレっつーか」
レッドの言うことは、たまに意味がわからない。
「数はハッキリしないですが、洗脳ではなく幻影のようなものなので、ソコは安心してください」
「そっか。少しホッとしたぜ。……ところであの袋の中は何が入ってるんだ?」
「サンタが殺した人たちの死体です」
場が水を打ったように静まり返った。
趣味が……悪すぎる。俺たちはそんなものを、サンタから奪うのか。
そこからは誰も何も訊けず、レッドからの合図で俺たちは変身をしてから秘密基地の外へ出た。
連日でクリスマスパーティーをするなど、初めての経験。
ピンクはその日に向け、ケーキもいいところのを予約して、サプライズをすることを大層楽しみにしていたらしい。
司令官が用意したケーキがコンビニのだったことを考えると、思いつきでパーティーをしようとした感が強いし、昨日まではクリスマスという発想がないのだと他メンバーに思われていたことは想像に難くない。
サプライズ成功っとピンクがワクワクしていたところに……司令官からクリスマスパーティーのお知らせ。しかも、飾り付けを下心のありそうな見知らぬ男に手伝わせていた。そう、俺だ。
正直これで、虫の居所が良かったら逆に凄いというか……。
ともかく、昨日ピンクの機嫌はひたすらに悪かった。
秘密基地へ戻ってから念のため謝りに行ったのだが、不器用な俺は簡単に火に油を注いでしまった。
そもそも俺はそこまで悪くもない。とりあえず歳下相手だから謝っておけばいいという気持ちが透けて見えたに違いない。
その結果……『やっぱりサンタは必要だよね』の一言で、俺は今日も不肖ながら赤い衣装に身を包んでいる。
これを着ていると何故かイエローがやたらと怖がるので、みんなと仲良くしたい俺にとっては少し困るのだが……。
……まあ、怯えを口実にブルーに甘え倒していたようだから、キューピット役にはなれたかもしれない。
さて。
こんな格好をしているのに、かついだ袋から何も出てこないというのは、些か面白くない。エンターテイナー精神がほとんどない俺でさえそう思うのだから、端から見ればもっとだろう。
昨日は片付けの際、この袋にゴミを入れていったのだが、ピンクからはウワァというような顔で見られてしまった。
だから今日は。メンバー入りの挨拶も兼ねて。エセサンタからクリスマスプレゼントをひとりひとりに贈ろうという腹づもり。
まだ皆のことはよく把握できていないから、本当に気持ち限りの物なのだが。
それでも喜んでくれるといいなと、らしくもなく心を弾ませながら選んだ。
自分の稼いだお金で誰かにプレゼントをするのは、これが初めてだ……。プリンは結局、司令官に支払わせたからな……。今思い出しても紐なしバンジーをしたくなる気分だ。
ケーキを切り分け、乾杯をして、宴もたけなわ。
俺としては充分に空気を読んで話を切り出した。
「サンタからプレゼントがあるのだが」
「やるじゃん! まさか司令官サンだけにとか言わないよね」
「言わない。サンタだから」
そうでなければ、司令官にだけプレゼントを贈ったかもしれない。
思いの外……。ピンクが、一番喜んでくれた。まだまだ、サンタが嬉しい……年頃なのかもな。子どもらしくて可愛いところもある。
「まず、レッドに」
「なかなかいい心がけだ。まあ俺は、お前の身体をプレゼントしてくれてもいいんだけどな?」
「いや……」
どう返せばいいかわからない。何か反応しないと、つまらない男だと思われるかもしれない。
結局何も言えなかったが、レッドは特に気にした様子もなく、楽しげに包装を解き始めた。
「開ける瞬間ってワクワクするよな。中身は……。おっ。酒かぁ。無難なチョイスだけど嬉しいな」
喜んでもらえたらしい。良かった。
「次にイエロー……」
「ひっ……」
イエローは縮こまってブルーの腰にしがみついた。
「悪いな。黄原の分はオレが受け取っておく」
「……わかった。レトルトカレーの詰め合わせセットだ。辛いのが苦手だと聞いていたから甘口で」
何故わざわざカレーを選んだのかと言えば、司令官の好みを優先した。
やっぱりイエローにはカレーですよね、と嬉しそうにしているから、これで良かったと思う。
「甘口のでも、そんなに好きじゃないのに……」
「コラ。貰ったものに対してそういうこと言ったらダメだぞ。一緒に食べてやるから」
「……うん」
さすがに少し甘やかしすぎなのでは……。
「ブルーには、いちごのチョコレートだ」
「いちごか。ずいぶん可愛らしいな」
「なんとなく、こういうのが好きだと思った」
「どんなイメージだ……」
少し不服そうにしている。
「僕がそういうの好きです」
「そうか。ならこれも、一緒に食べよう」
「ふふふ……。うん」
なんだかんだで、プレゼント選びは成功した……気がする。
「ギンタにはこれを」
そう言って青色のリボンを首にキュッと結んでやった。
嬉しそうにピィと鳴いた。鳥みたいで可愛い。
「ギンタにもあるのか。良かったなー、ギンタ」
「青山さんの色のリボンを、ギンタがしてる……」
「オレは名字に青が入ってるだけで、そう青くもないと思うが……」
「それでも青色ってイメージがあるんです」
青白いからか……。と思ったが、口には出さなかった。
もしかして、ギンタはブルーのペットではないのか……? こんなに懐いてるのに。
何はともあれ、ギンタにしたプレゼントでまたイエローの機嫌が良くなった。カレーをプレゼントにした所業はこのあたりで相殺してほしい。
「ピンクには……。くまのぬいぐるみだ」
「は、はあ? ちょっと、アンタ、ボクのこといくつだと……」
「わあっ。ピンクがくまさんのぬいぐるみ持ったら、きっともっとカワイイですね!」
「……まあ、わ、悪くないんじゃないかなー。ボクカワイイから、こういうの持つと似合いすぎちゃうんだけどさ」
やや面白くないが、これくらいしか思いつかなかった。
この年頃なら定番はゲームだろうが、何しろこのラブホテルに全部あるからな……。
「そして司令官には、指輪を」
「アクセサリーですね、ありがとうございますー!」
「ち、ちょっと待ったー!! なんだよ、指輪ってなんだよ!」
「給料の3ヶ月分だ」
「……ソレ、焼肉屋の給料の? って、そんなことを訊いてるワケじゃないんだよ!」
意味が伝わってるのかいないのか、司令官はプレゼントを嬉しそうに開けている。
……受け取ってくれた……。俺の指輪を……。
「普通、指輪なんて恋人でもない相手にイキナリ送ったりしないでしょ!?」
「司令官の言う通り、単なるアクセサリーのつもりであげたものだ」
シレッと言うと、ピンクがギギギと悔しそうに歯噛みした。
「だからって、どんなセンスだよぉ。ボクも指輪とかにしたら良かった」
レッドは、おおー、なかなかやるなぁなどど、楽しそうにしている。
この男が第2のライバルではないかと密かに思っていたので、なんだか拍子抜けだ。
「それなら……ピンクは司令官に、どんなプレゼントを……選んだんだ?」
「えっ。それはぁ、もちろん、司令官のヒップラインを守るためのパンツだけどぉ。お年玉フンパツして……」
それはお年玉をあげた両親が泣いているな。
司令官が言っていた通り、本当に尻しか見ていないのか……。
「ピンクこそ、どんなセンスしてるんですか。パンツって……」
「別に下心はないよ! 守るための……、守るためのものだから。ねっ?」
下心ありすぎだろう。そもそも守るの意味が違っている気もするし、むしろ守るべきはピンクからなのではないか。
だが、司令官の反応は意外だった。パンツくらい受け取っても、普通にプレゼントとしてありがとうございますって笑うと思った。事実俺の指輪はそう対応された。
……喜んでもらえたのに、なんだか素直に喜べない。
何しろピンクは中学生。パンツを貰ったくらい、微笑ましく思って流してやればいい。もし俺が貰ったならそうする。まさかくれるやつはいないだろうが。
おそらく司令官は、ピンクをきっちり警戒する相手に見ているということになる。それは安全圏にいる男よりも、恋愛の対象に入る。……と、思う。経験はほぼないので断言はできない。
「でも、ありがとうございます」
「穿いてくれる?」
「パンツに罪はありませんから」
「やった……! 見せてはくれないだろうから、想像するね!」
「下心はなかったはずでは?」
「似合うと思って選んだんだもん。見てみたいのは当然じゃない? 服を贈るんだってそうでしょ?」
「……確かにそうですね」
そこで納得してしまうのか……。
「あっ! でも見せませんよ!」
うっかり見せそうだなと思ったが、そこは貫くらしい。
レッドが横からピンクに『念のためどんなパンツを贈ったのか教えてほしい』と言って2人に怒られていた。念のためとは。
……俺も少し、知りたかった。いや、凄く。
「まあ。これで、サンタからのプレゼントは……おしまいだ」
「モモはシロにだけだったな。なんつうか、徹底してるというか」
「バイトもできない中学生に、そこまで期待を寄せないでくれる? むしろ赤城サンとかが僕にくれるべきじゃない?」
「あ! お、オレは……。あるぞ、モモくんに」
ブルーが名乗り出る。どうやらピンクにしか用意していないようで、レッドとイエローは面白くなさそうにしている。
「ボクにフェイスパックのプレゼントとか……。本当にガチだよね、青山サンは……」
「可愛いモモくんに、これからも輝いてほしくて!」
「別に、別に光んないよ、ボクは」
ブルーは対ピンクだとこんな感じになるのか。いつもと違いすぎるな。アイドルを前にしたファンのようだ。……実際、ブルーにとってはそうなんだろう。
「んー。これは黄原サンにあげるよ。はい」
「えっ。フェイスパックなんて貰っても……。桃くんが貰ったものだし、それにどうして僕に」
「頑張ってほしい、的な」
「な、何を……?」
目の前でプレゼントを横流しにされる所業に、ブルーは悲しみの表情を浮かべている。
イエローの分も何かしら買ってやれば良かったのに。想いに応えられないから、期待をもたせるわけにはいかないということか。
「ともかく、貰っても困るから……。桃くんがこれで自分を磨いてシロさんを振り向かせるべきだよ」
「ボクもう、充分カワイイからなぁ」
若くて顔のいい未成年組が会話する様は、鳥がピィピイ囀っているようで可愛らしい。
実際には俺と黄原とはそこまで歳が離れていないとは思うが、見た目の差が凄いからな……。
「クロ、サンタ役、ありがとな。ところでお前がくれた酒だが、パーティーが終わったらゆっくり2人で」
レッドがやたらと爽やかな笑みを浮かべながら近づいて、俺に耳打ちしてくる。
同時に、その反対側からシャンという高い音が鳴った。
「……鐘」
「んっ!? なんだ? 金が必要なのか?」
何を言ってるんだこの人は。
「鐘の音が聞こえないか?」
まるで……。そう、サンタが来る時のような。
「ホントだ。まさか烏丸サン、登場BGMまで用意したの? 司令官サンの気を引こうと」
「……すでに俺は登場済みなんだが」
「いや、あの。冗談を真面目に返されてもね」
それにトナカイもいないのに。……と、そういうことでもない。
ラブホテルの近くでパレードでもしているのだろうか。
鐘だけではなく、ジングルベルまで聞こえ始めた。それと同時に悲鳴も。
「あっ! みなさん、時が止まってます……! 敵ですよ!」
司令官の言葉に各々時計をバッと見る。
いち早く窓際へ走ったレッドが、うおっと小さく声をあげた。
「おいおい……。大量のサンタが町中を襲ってんぞ……。地獄絵図ってか、シロ、お前ナニ考えてんだ! もう少し特撮に寄せろ!!」
この事態は司令官が作った装置を盗まれたことにより起こっていると聞いた。確かに何を考えてこの状況を作ったのか、気になるところだ。
「ええと。戦場のメリークリスマスって、よく聞くので……」
「響きだけで観たことねーだろ! クリスマスをめちゃくちゃにしやがって。ママがサンタにキスをしたとかその辺にしとけよ。モモなんて死ぬほどへこんでるし、なんでかキイは再起不能だぞ!」
ピンクは、せっかくのパーティーが……。と、呆然とし、イエローは部屋の隅でガタガタ震えている。サンタ怖いサンタ怖いと何度も繰り返している。嫌な思い出でもあるのだろうか。
「黄原、おい、大丈夫か。黄原……」
「あ、青山さぁん。せっかくギンタに意識を移せるチャンスなのに、怖くて、それどころじゃなくて……。ただでさえ身近に殺人サンタがいるから……」
おい、それは俺のことか。
「外にいるサンタも俺には人間にしか見えねーんだが、アレを殺るのか?」
レッドがそう言って窓のほうを親指でグイッと指さす。
横から下を覗いて見ると、サンタが歩き回ってるところだった。
ケーキ屋の宣伝……とか、母親に頼まれて娘のために……とか、そういう普通の人にも……見える。
しかしその手には何か刃物のようなものが握られており、通行人を切り裂いているようだった。
「敵っていうか、単なる犯罪者に見えるもんね。ゾンビとかならまだしも、ボクらが裁いてはいけない部類に入るっていうか」
いつの間に立ち直ったのか、すぐ横にピンクがいた。
なんだかんだで、この子は俺を怖がらない……。外にいる敵に怯える様子もないから、単に肝が座っているだけかもしれない。
「袋の赤いのは返り血かなあ。サンタの服が赤いのは返り血。そんな都市伝説、あった気がするけど、まさか実際に目にするなんてね」
「サンタ……返り血……ううっ……」
それに比べてイエローの怖がり方は、まるでサンタに襲われた経験でもあるかのようだ。
「ピンクならあれを捌くのもきっと容易です。頑張ってくださいね、活躍を楽しみにしています!」
「って、包丁を渡されても……。そっちの捌くじゃないっていうか……。でも、司令官サンが期待してくれてるなら、ボク頑張るね!」
ピンクは殺る気満々だ。その煌めく眼光は、まさに殺し屋のソレだった。
「黄原は今、行ける状態ではないぞ。応援して立ち直らせてから2人で駆けようと思う。モモくんのことは心配だが……」
「おいアオ、俺のことは!?」
「烏丸……。どうか、モモくんを……よろしく頼む」
「スルーかよ! ってか、頼りにすらされねーのかよ!」
よろしく……頼まれても……。
「俺はこんな見た目をしているが……。戦うことが……得意では、ない」
むしろ、人と争うのは苦手だ。必要以上に怖がられると、悲しくなる。
正直先程からのイエローの態度で、すでに深手を負っている。心が。
「でもまぁ、その図体だ。力はあるだろ。シロが作った武器は、まだ銃だけでな。クロには素手で頼みたい。銃は俺が使う」
素手……。素手だと。殴り殺せとでもいうのか?
「赤城サンだけズルイよ! ボクのは!?」
「お前にはシロから貰った包丁があるだろ」
「いたいけな中学生に近接戦させるなんて酷くない?」
「すげー…………、余裕そうな感じだったが」
ピンクはともかく、俺が……。いくらなんでも素手は。
いや。何も、殺すことはない。一般市民をサンタから守ればいい。
「そもそも、これは……。すべてのサンタを倒す……殺す? ことで、終わりに……なるのか?」
俺はまだ、仲間になったばかりだ。よくわかっていない。
1人につき何人殺すなどのノルマがあると困る。
「シロ、その辺はどうなんだ。クリスマスだし、なんか特殊な条件とかあったりすんのか?」
「サンタは全員、袋を抱えていますよね」
「ああ。律儀にな……」
「袋を奪えばサンタは無力化します。あれを全部奪ってください。それで……終わりになるはず」
「な、なんだぁ! 捌かなくてもいいんじゃん、別に! 良かった!」
良かった。本当に良かった……。
「あれは何人いるんだ? 目視した限りでは3人ほどだけどよ、数によっちゃあ相当骨が折れんぞ」
「そうだね。それに、サンタが幻影か洗脳かも重要だよね」
「幻影だったら殺る気なのかよ……」
袋を奪うだけとはいえ、簡単にはいかないかもしれない。それを訊いておくことは重要だ。さすがはピンク、戦い慣れをしている。
「殺してでも奪いとる……」
ボソッとレッドが呟いた。
「エッ、何急に、怖い! まあ、そういうこともあるかもしれないけど、なるべくそうしたくないから訊いてるの」
「いや今のはテンプレっつーか」
レッドの言うことは、たまに意味がわからない。
「数はハッキリしないですが、洗脳ではなく幻影のようなものなので、ソコは安心してください」
「そっか。少しホッとしたぜ。……ところであの袋の中は何が入ってるんだ?」
「サンタが殺した人たちの死体です」
場が水を打ったように静まり返った。
趣味が……悪すぎる。俺たちはそんなものを、サンタから奪うのか。
そこからは誰も何も訊けず、レッドからの合図で俺たちは変身をしてから秘密基地の外へ出た。
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