ヒロイン系彼氏

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つきあうって、ことは

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 10月の終わりに文化祭がある。
 飲食は他に取られてしまい、ぼくのクラスではヨーヨー釣りなんかをやる予定だ。
 もし喫茶店をやることになっていれば、無駄にレベルアップした檜垣くんの女装スキルが役に立ったろうになーと、ぼんやり考えた。
 日曜、待ち合わせ場所に現れた檜垣くんは、それはそれは見事な女装姿だったもので。

「女装、なしの方向でって言ったはずだけど?」

 この前はどこかゴツめだと思ったけど、今日は体型を隠すように紺色のコートを着ていて、スカートの下に厚手のタイツ。靴は底がぺったんこのブーツ。
 喉仏も白のハイネックで見えないし、鼻から口はマスクで覆われている。胸もとても自然な形。

 まさか、ここまでの進化を遂げて現れようとは。
 背はぼくより高いけど、どう見ても女性にしか見えない。
 目の前で首を傾げられるまで、気づかなかったくらいだ。

「デートのつもりでいいって言ってくれたけど、酒井がそう思ってくれなきゃ意味がないから」

 檜垣くんは小さな声でボソボソと言った。マスクのおかげか声が低く掠れていても違和感はない。少しこもった感じにもなるし。
 確かに女装姿でいるほうが、デートみたいではある。カップル割引がある場所なら適用だってされるだろう。腕を組んでも目立たない。檜垣くんのほうがやや身長が高いとはいえ、頭ひとつ分違ったりするわけでないし。

 ……でも、モデルみたいで目立つ。美人だし。マスクしてるのも、素顔隠しっぽさがある。芸能人が変装してる的なアレ。
 元々少し細身なせいか、スタイルもよく見える……。

「よかった、ドキドキしてくれてる」
「それは気のせいだ」
「そうか……」

 檜垣くんは肩を落としたあと、気を取り直したように腕を組んできた。女装は完璧だけど、動きがぎこちない。

 ドキドキ? してるさ。だって本当に、別人みたいだし。
 正直落ち着かない。女の子といるみたいでトキメキのようなものは確かにある。でもそれ以上に虚しさがある。
 ……あと。あとな。いつもの檜垣くんじゃないの、ちょっと寂しいな、とかな。
 はあ。これは考えなかったことに。

「それじゃ、まずは映画へ……」
「この前のデートプランでいくんだ?」

 マスクつけててもわかるくらい、檜垣くんが真っ赤になる。

「アレを見られたのは、熱による幻覚だと思いたかった……」
「ちょっと気持ち悪い感じだったしな」
「酒井クン、意地悪言わないでッ」

 女装は進化してたけど、裏声は下手なまま。

 ……いつもの、檜垣くんだ。

 なんかホッとして、思わず笑ってしまった。




 セーラー服の時は美少女って感じだったけど、今の檜垣くんを表すなら間違いなく美人って言葉が合う。
 街を歩くその姿は、男だけでなく女も振り返って見るほどだ。
 黒髪ストレートなロング。……カツラだけど。
 すらりとした長い脚。……厚手のタイツ脱いだら筋張ってるけど。
 マスクをしていることで、その下が自然と理想の形に想像させるんだろう。マスク美人とはよくいったものだなと思う。
 そんな美人が、平凡なぼくのことを好きそうな感じに腕を擦り寄せて歩いてる。いい気分にならないわけない。男からの羨望の視線が気持ちいい。
 檜垣くんは元々イケメンだから見られることには慣れてそうなものだけど、たまに周囲の視線に反応して少し気まずそうな顔をする。自分がオカマにでも見えてそうで不安なのかも。

「今日はちゃんと女性に見えてるよ」
「そ、そうか。それで、酒井から見て……どう、かな?」
「普通に美人だと思うけど」
「その割には反応が薄いというか……」
「中身が檜垣くんだって知ってるからなあ」

 実は凄くドキドキしてるけど、それは内緒だ。
 さて。街を歩きながら、ぼくらがどこへ向かっているかというと。

「それで、決まった?」
「……まだ」

 ぼくは映画館でもよかったのに、檜垣くんが嫌がった。
 あのデートプランをぼくに見られている以上、違うコースにしたいと言い張ったのだ。
 新鮮味がない。酒井をドキドキさせたいんだ! ……と、いうことらしい。

「こういうのは。初デートなら、男がプラン立てるのがスタンダードなんじゃない?」

 提案してみると、檜垣くんは目を大きく見開いて瞬きした。
 もちろん女性がリードするパターンもあるだろうけど、檜垣くんの目指すところはあくまで『少女漫画のような』デートなわけだから。むしろ女性側からそれを演出するのは、凄く難しいことだと思うんだよ。
 出会いはともかく、そこから先はぼくの努力がなけりゃ、ときめくような展開になりはしない。男が受け身であるのなら、待っているのは少年漫画的なラッキースケベ展開だ。
 檜垣くんもその難しさには気づいていたのだろう。素直に頷いた。

「よ、よろしく……お願いします」

 シナを作っている。いつもならキモイって思うとこだけど、女性の姿だからかとても可愛い。

「正直助かる。デートプランもやっとのことで考えたから、もうネタ切れだったというか……」
「そういえばあれ、どうやって考えたの?」
「前日ギリギリまで姉さんの少女漫画を読みながらお出かけする場所上位をリストアップして、かつ起こった展開をこと細かに書き出し…」
「とりあえず、君が気持ち悪いというのはわかった」
「えっ」

 風邪引いたの、あの薄手のセーラー服のせいもあるだろうけど、無駄なことを頑張っていたせいでもあるのでは。
 これが秀才の無駄遣いか。いつか芋けんぴとか頭につけてきそうで怖い、マジで。

「なら、酒井はどこへ行くつもりなんだ。酒井クンのデートプラン、楽しみ……」

 考えたプランを馬鹿にされたのがよほど悔しかったのか、珍しく拗ねた口調になっている。
 女の子と出掛けたことなんてないから、デートとなるとぼくにも自信はないけれど。

「そうだな。カラオケでも行く?」
「カラオ……ケ」
「いや?」
「ううん。酒井クンが選んでくれたんだし」

 その演技続けるんだ……。
 裏声下手なこともあるし、歌うのが苦手なのかもしれない。それか、初デートとしてはどうかと思って、ガッカリしたのかも。
 確かに……友達と普段行く場所としてチョイスしただけで、デートのつもりで選んだわけじゃない。
 檜垣くんは頑張ってくれようとしてるけど、ぼく自身は少女漫画のようでなくてもいいと思ってる。
 初めはそれを期待して、このデートをオーケーしたはずだったのにな。なんでだろ。
 ただ、青春の1ページとして破り捨てるには、檜垣くんは健気すぎた。あのデートプランが破られていたら、ぼくもセロハンテープで繋ぎ合わせるくらいはしてあげると思う。
 まあその頑張りが、やや気持ち悪いのも事実ではあるんだけど。
 ……カラオケ、せめてちょっと高めのとこに入るか。友達と馬鹿騒ぎするのには、まず使わないようなところ。
 あ。そうだ、その前に。

「薬局寄ってっていい?」
「やっ、きょく」

 なんでさっきからいちいち身構えるんだ?
 デート中に行くような場所でもないからか……。

「ちょうど目の前にあるからいいだろ」
「別にだめとは言ってない」

 だめと言ってなくても、微妙そうな顔はしてる。自分で気づいてないのかな。

「すぐ戻ってくるから、前で待ってて」
「ん」

 ぼくは檜垣くんをマツキヨの前で待たせ、中でメイク落としとウェットティッシュを買った。
 化粧のことはよくわかんないけど、この拭くタイプので大丈夫なはず。姉ちゃんが夜遅く帰ってきたとき、顔洗うのめんどくせーとか言って使ってた。
 スカートを穿いてはいるけど幸い腰より下まであるコートにタイツだし、前を閉じてしまえば問題はないだろう。

「お待たせ」
「ん……」

 さっきまで微妙そうな顔してたのに、今度は赤い。
 また風邪でもぶり返したのかなと思って頬に触れると、檜垣くんはこっちが驚くくらい後ろに飛び退いた。

「あ。ごめん。いきなり触れたからビックリした?」

 男相手とはいえ、気安すぎたかも。今は女装してるし、何よりぼくを好きと言ってはばからない相手にしていい行動じゃなかったな。反省。

「いや、オレこそ過剰に反応してごめん。それより行くカラオケはどこにあるんだ?」
「あー。あの、先に見える赤い看板の。何か希望とかある?」
「希望?」
「機種とか……」
「機種?」
「……もしかして檜垣くん、カラオケ行ったことない?」
「2回くらいはある。中学卒業の時とか」

 つまり、個人的には行ったことないってことか。
 周りからねだられてマイクくらいは握ってそうだけど。
 それでなんか、さっきから様子がおかしかったのかー?

「そんな緊張するような場所じゃないから大丈夫だって。ほら、行こ」

 檜垣くんの手を引く。少女漫画っぽい。
 やっぱり多少はぼくがリードしなけりゃ、それっぽくはならないよな。
 ぼくに手を引かれて嬉しそうにする檜垣くんを見て、ぼくもなんだか嬉しくなった。





 一時間あたり、一人千円。学生には中々キツめの金額だ。まあ、そんなに長居するつもりではないし、映画を見ると考えたらそこまで差があるわけでもない。
 ぼくは高いなあと思うけど、普段カラオケに行かない檜垣くんならコレが普通だと思うんだろう。
 ワンドリンクサービスでぼくはコーラを注文、檜垣くんはオレンジジュース。グラスに等分されたオレンジの一欠片が刺さっていて、檜垣くんはそれをジーッと見てた。

「檜垣くん、曲は何いれる?」
「オレはあまり知らないから、酒井が……。いや、酒井クンの歌声が聞きたいなーって」

 ブリッコポーズ……。

「檜垣くん、自分では気づいてないかもだけど、美人系だからそういうポーズは似合わないと思うよ」
「そっ、そうか」

 檜垣くんがソワソワしてるけど、ぼくもソワソワしてる。
 そんなに広くない部屋、隣から女の子の匂いがして、ニセモノだってわかってても落ち着かない気分になる。
 化粧の匂いなのかな。でも姉ちゃんはこんな匂いしない。
 まさかぼくは、檜垣くんに異性を感じているとでもいうのか。まさかすぎる。やっぱり化粧は落としてもらおう……。

「檜垣くん。はい、これ」
「これは……?」

 檜垣くんはぼくが差し出した小さな包みを受け取ろうとして、途中で固まった。

「なんで?」
「ぼく女装なしでって言ったしさー。こういう密室で二人だと、なんか落ち着かないから」
「そのほうがいい。そういう気分にさせたくて、こういう格好をしてるんだ」

 スカートをギュッと握っている。メイク落とし、受け取るもんかっていう強い意志を感じる。

「なら、せめて二人の時はマスクくらいははずしてくれよ」

 せっかく、綺麗な顔してるんだし。
 ぼくは言葉の続きを飲み込んだ。口説くような台詞は吐くべきではない。

「酒井がデートオーケーしてくれたのって、オレが女装……してたから、だったと思うし。今更、意味がわからない」

 それな。自分でも不思議なんだけど。

「でも檜垣くんは楽しめないだろ」
「酒井が楽しそうにしててくれたら、オレは楽しい」

 このあたり、とても壁を感じる。檜垣くんはぼくに対して献身的すぎる。そういうの、望んでない。
 まあ、あれだけガチなメイク道具揃えてたし、むしろ趣味の領域なのでは? と思えなくもないけど……。

「檜垣くんが男の姿でいても、ぼくも……で、デートだって思うからさ」
「嘘だ」
「嘘じゃないって」
「だって酒井、めちゃくちゃラフな格好で来てる」

 安物のティーシャツにジーンズ。確かに、初デートには不向きだ。でも。

「男同士出かけるのに、そんな気合入れてくるのも変でしょ」
「オレなら男の格好でくるとしても、凄い気合入れた」

 ただでさえイケメンな檜垣くんが気合を入れた格好してたら、隣歩きたくねえなあとか思ってしまいそうだ。それを考えると、女装姿で現れたのは正しいことなのかも。

「……メイクは落とさなくてもいい。ただ、部屋ではカツラとマスクくらいは外して」
「それ、中途半端すぎて絶対気持ち悪いことになる」

 檜垣くんが、カツラを手で押さえながら首を振る。

「暑いだろ?」
「暑くない」
「汗かいてメイクも落ちるんじゃない?」
「う……」

 溜息ひとつ。観念したのか、そのままゆっくりとカツラを持ち上げた。

「へえ。中はこうなってるんだ。網?」

 地毛に網みたいなのをつけて、ピンで留めてる。これは相当蒸れそうだ。涼しくなってきたとはいえ、冬服ではまだ暑いくらいだから。
 檜垣くんは網も外して、手櫛で髪を整えた。ムースとかワックスつけなくても、普通に決まる。無造作ヘアでもカッコイイんだから、顔面偏差値の差を嘆かずにはいられない。

「マスクは……。酒井が、外して」
「え」

 それはなんか、照れる、ような。檜垣くんも目を泳がせてるし。恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。

「まあ、いいけど。マスクくらい」

 何気なさを装ったけど、手が震えそうだった。
 いつもは剥き出しになっている顔なのに、隠されているというだけでやらしい気持ちになるのは何故だろう。
 耳に指をかけると、檜垣くんが身を竦めて小さな声を上げた。

「あっ。ご、ごめ……」

 思わず手を引いたぼくに、檜垣くんが視線で先を促してくる。

「早く……」

 甘い響きが混じっているような、気がした。

 耳たぶの温度は他より低いと聞いたことがあるけど、ぼくの指より熱かった。
 紐に指をかけ、ゆっくりとマスクを外す。
 マスクを外したらいつもの檜垣くんが現れると思ったのに、そこまでキッチリメイクをしていた。
 イチゴのような匂いは、リップだろうか。男にしては薄い唇が、つやつやぷるんとしていてとても美味しそうに見える。

「ッ……。はい、外したよ」
「ありがとう。酒井」

 メイクしてても、さすがに男だってわかる感じ。
 檜垣くんを知らない人が見れば違うのかもしれないけど、今は充分面影がある。さっきまでは声だけ檜垣くんで、誰か知らない人みたいだった。
 だから落ち着かないのだと、そう思ってたのに……。ぼくはまだ、ドキドキしてる。
 くそ。マスクなんて外させるからだ。

 ぼくが目を逸らすと、檜垣くんもフイと顔を背けた。
 カツラを外したあとだからか後頭部の襟足が跳ねていて、綺麗なうなじが丸見えになっている。誘惑に負けて、思わずその白い肌に指を這わせた。

「ひっ!」

 檜垣くんが慌ててぼくを振り返る。
 悪戯が見つかったような気分になって、思わず下を向く……と。

「……なんで、勃ってるの?」
「あ……」

 檜垣くんがカーッと頬を染めて、コートで前を隠した。

「だって、その。うう。本当に本当に、この前酒井に言われるまでは、こういうこと考えたことなかったのに。酒井がオレを抱きたいとか言うから!」
「……!? そんなこと言ってない!!」
「言った!」
「考えすぎて夢でも見たんじゃない?」
「そ……」

 檜垣くんは反論しようとして、口を金魚みたいにはくはくさせる。

「そう……なの、かな」

 でもまあ確かに、それに近いようなことは言った。
 だからぼくも、まったくの無罪とは言えない。

「今日一日、緊張して。少しでも酒井が抱きたいような姿でいようって思ってた。薬局も、そ、そういうの、買うのかと……」

 ああー……。なるほど、それで。まさかカラオケも、カラオケついてるホテルだよーとか連れ込むと思われてたのではあるまいな。
 勃ってるってことは、ぼくに対して欲情してるんだろうけど、不思議と嫌悪感はなかった。
 それに、檜垣くん震えてて、むしろなんかこっちが悪いような気すらしてくる。きっかけは間違いなく、ぼくの台詞だったんだろうし。
 さすがにこの場面で気持ち悪いと突き放せるほど、冷徹でもない。

「その……。檜垣くんさあ……。付き合うってことは、確かにそういうこともするかもしれないけど……そういうことばかりでも、ないだろ」
「でも、付き合えるわけじゃない。酒井、オレとのデート……これが、最初で最後のつもりだろ? だったら、できることは全部しておきたい」

 ああ。まいったなあ。そのつもりだったんだけど。
 今日だけで終わりにしたくない、気は、してる。

 正直、檜垣くんと同じだけの気持ちを返せるかはわからない。
 ぼくの夢見た少女漫画とは違うけど、初めてのオツキアイというものを、君とならしてみてもいいかなと思った。
 今日の檜垣くんは指先まで綺麗にケアされていて、頑張ってくれたんだなというのがわかる。そういうとこも、健気で可愛い。
 ぼくはその手を、ギュッと握った。

「最後じゃなくて……いいから」
「え……。またデート、してくれるのか?」
「というか、その。ええと。つ、付き合お?」
「……オレ、男だけど」
「知ってるよ」
「酒井より、おっきいし」
「あー。まあ、ええ? 別に彼女として見てるわけじゃないから……」

 永遠を誓える気はしない。でも少なくとも、一緒にいたいとは思うし、ぼくのことで喜ぶ姿を見たいとは思う。
 男同士でも、好きって気持ちに差はないんだと知った。君に告白されてから、ぼくは本当に少女漫画の中にでも迷い込んだような気持ちだったよ。
 まあ、ギャグコメディに分類されるけどな……。
 
「ほ、ホントに?」
「ん。まあ……」
「嬉しい、同情でもいい」
「少なくとも、同情で男と付き合おうとは思わないぞ、ぼくは」
「なら、酒井、オレのこと好きなのか!?」
「……多分?」
「多分」

 檜垣くんは一瞬ガッカリして、すぐに瞳を輝かせた。

「ありがとう、酒井! オレ、頑張る! 頑張って酒井のヒロインになるから!」
「え? 別にそういうのは求めてない」
「大丈夫だ、任せてくれ」
「いや、あの……檜垣くん?」

 多分とか言ったのがいけなかったのか。お試し的な気持ちだと思われたのか。でも同情じゃないとは言ったのに。
 それからぼくが何を言おうとも檜垣くんは決意を歪めなかった。
 真っ直ぐで……澄んだ瞳をしてやがるぜ……。

 こうしてぼくに、ヒロイン志望の素敵な彼氏ができました。




 カラオケは一時間で切り上げて、その後はウィンドウショッピングとボーリングに行った。
 檜垣くんはボーリングも初めてだったらしく、最初はガーターばかりだしてへこんでた。悔しかったのかもう一度もう一度とねだられて、かなりのゲーム数をこなした。

 別にぼくは、檜垣くんが女装してるから好きになったわけじゃない。いや、ある意味そうなのかもしれないけど、そこまでする面白さと気概に惹かれたというほうが正しい。
 だから、女装しててもしてなくても変わらない。そう思ってた。でも違った。ぼくの意識というより、周りの視線がだ。
 カップルとして見られるから、それにあてられてデートという気持ちになりやすい。もしいつもの格好なら、ぼくは少なからず友達といる気分になっただろう。

 そんなぼくとは裏腹に、むしろ檜垣くんのほうが友達みたいな感覚で今日を楽しんでいたように思う。
 カラオケでもあれから疚しい雰囲気になることはなかったし、反応した身体に関しても『ジッとしてれば落ち着くから大丈夫!』ってわざとそういう空気を壊すような明るい声でガッツポーズをしていた。
 いまいち覚悟のできてないぼくにあわせたのか、檜垣くんにもそこまでの覚悟がないのか……どちらかはわからない。

 うっかり見てしまった夢の中では指輪を買ったりキスをしたりしてたけど、そのどちらもできずに初デートは終わりを告げたのだった。
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