ヒロイン系彼氏

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その後の話

温泉旅行編(R18)

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 冬休みの間に短期バイトをいくつか入れてお金を貯め、檜垣くんに温泉旅行をプレゼントした。

 親には高校生二人で旅行なんて、本当は女の子とじゃないでしょうねと心配されたけど、姉からの援護射撃もあって許可が出た。
 ちなみに檜垣くんちのほうは一発オーケーだったみたいだ。
 まあ……。あそこの家はな。むしろ相手が女の子だったら、責任とって嫁に貰いなさい、さあ早く、くらいの感覚だろうしな。

 そんなわけで今、ぼくらは温泉旅館にいる。
 息を吐けば真っ白い、寒空の下。身を寄せ合いながらの宿泊旅行は、恋人同士っぽくて凄くときめく。

 親の許可もきちんととってあるし、疚しいところはなんにもない。大手を振って宿泊できる。

 ……まあ、疚しいこと、するけど。

「酒井、ありがとう。とっても嬉しい」
「ぼくこそ。来てくれて、ありがとう。さすがに冬休み中は間に合わなくて、土日になってごめんね」

 土日の学校休みを利用してきているので、少し慌ただく落ち着かない。
 それでも、少しでも早く決行せねばならない理由があった。

 そう。ラブホテル以外で、リスクなくセックスしたかったからだ。

 ぼくも檜垣くんも実家暮らしだし、姉もいるし、家に長時間誰もいないなんてことは、滅多にない。
 もう二ヶ月もご無沙汰。さすがに我慢も限界だ。

 檜垣くんのほうは押せ押せな割には、性欲なんてありませんみたいな顔で、平然とぼくの隣にいる。今だって、涼しい顔をしている。いや、幸せそうではあるけど。

 男子高校生二人で旅館にお泊まりなんて、旅館の人にもどう思われるか不安ではあった。
 よほど仲がいいのね、くらいに思ってくれてるといいけど。

 親の同意もあるから、チェックイン自体はスムーズで、丁寧に部屋へ案内してもらえた。

「わあ……。凄いな。結構広い。畳に障子……。綺麗な和室だ」

 檜垣くんはソワソワと部屋の中を見回し、中央に置かれた大きな木製テーブル傍の座布団に、ちょこんと座った。

「茶菓子があるから、お茶を煎れよう」
「うん」

 久し振りすぎて、密室での接触は少し緊張する。
 ぼくはテーブルを挟んで座って、テーブルに頬をつけた。
 ……ひんやり。

「中は空調がきいて暖かいけど、テーブル冷たい」
「酒井のほっぺたが熱いからじゃないか? こっち、赤くなってる」

 檜垣くんの指先が、ぼくの頬に触れる。
 ますます、熱くなってしまいそうだ。

「檜垣くん。キスして、いい?」
「えっ。……えっと。うん……。オレも、したい」

 なんで今、間があったんだ。どうせまた、斜め上なこと考えてるんだろうけど。
 さすがに檜垣くんの思考回路にも慣れてきたぞ。

 嫌がってないことだけは、わかってる。
 身を乗り出してテーブル越し、触れるだけのキスを一度。二度目で深く。

「ちゃんとキスするのも、久し振りな気がする……」

 うっとりした顔で、檜垣くんが自分の唇に、確かめるように触れる。
 相変わらず、やらしい。

「でも、旅館だとヒロインっぽいことはできないな。いくら女物の浴衣を着ても、男でしかないし」
「そもそも少女漫画ってくっつくまでが主だから、二人で旅館なんて来てる時点で、また違う感じだと思う」
「確かに、なかったな。旅行だと大体は修学旅行とかだった」

 どうやら今回は檜垣くんの奇行に悩まされる心配はなさそうだ。
 ……少し残念に思ってなんてないぞ。癖になってもないからな。

 少女漫画で、恋人同士が温泉旅行。探せば出てくるとは思うけど、少なくとも王道からは外れる。
 ただまあ、エロがウリなら割とある。檜垣くんが何かしてくれるなら、ぼくとしてはそちらを希望したい、というか。

「ぼくの好みにあわせる必要はないし、檜垣くんがぼくを想ってしてくれることなら、なんでも嬉しいよ」
「酒井……」
「まあ、たまに迷惑な時あるけど」
「そ、それはもう大丈夫だ! 多分!」

 このあたりに関してはあまり、信用してない。
 檜垣くんにかけられるなら迷惑でも嬉しいと思っていることは言わないでおこう。エスカレートしたら厄介だから。

「それよりさあ、せっかくの温泉旅行なんだぞ。少女漫画らしいことの前に、ぼくを喜ばせられるようなこと、あるだろ?」

 再びテーブルに顔をつけながら、上目遣いに首を傾げる。
 さっきよりも火照った頬に、冷たさが心地好い。

「酒井を喜ばせる、こと……」

 檜垣くんはこっちがドキリとするくらい、やらしい顔でこくりと喉を鳴らした。
 そして、ぼくの傍まで歩いてきて……跪くように座って、ぼくのズボンのジッパーを。

「いやいやいや! 嬉しいけど、温泉旅行関係なくない!?」
「えっ!? で、でも、オレたちは旅行でもないと、あまりこういうことも、できないし……」
「それはそうだけどさ。せっかくだから、浴衣姿でやってほしい。屈んだ時に胸がチラッと見えたりしてほしい」

 檜垣くんはぼくに言われて、ぺったりした胸を服の上から掌で覆った。

「残念ながら、乳がない……」
「あのな……。そんなのわかってるって。君の乳首を何回舐めて吸ったと思ってるんだ」
「なのに、今更見えて嬉しいものなのか?」
「嬉しいものなの! 今更とか言わない!」

 この、きょとんとした顔。
 セーラー服まで着たくせに、ぼくがシチュエーション萌えだということを、イマイチよくわかってないみたいなんだよな。
 普通に、浴衣姿の君が見られるだけで、テンション上がるっていうのに。

「先に温泉行く?」

 訊かれて、首を横に振った。

「いや、するのはしたい。すっごく久し振りだし」
「つまりは、オレの浴衣姿が見たいってことか?」
「さっきからそう言ってるだろ」
「全然ニュアンスが違うと思う……」

 檜垣くんは少し不満気にそう言いながらも、ぼくの希望通り着替えてくれた。
 本当……何を着てもよく似合うなあ。優しく甘めな顔だちのせいか、少し儚げな雰囲気があるのがとってもいい。
 なんか、女装してくれた時よりずっと、ドキドキする。

 ぼくは檜垣くんのことを、漫画の登場人物のように眺めていた。
 観察対象でもあったし、いつか……ぼく好みのヒロインとくっついてくれることを、妄想してたりもして。

 それがなあ。今は君がぼくのヒロインだもんな。
 自分が漫画の世界に飛び込んでしまったみたいで、不思議な気分だ。
 ぼくが想像していた物語とは本当にまったく違うんだけど、とりあえずハッピーエンドなのは間違いない。

 今はそう、その先の世界。

「着たぞ」
「似合うよ」

 イケメン羨ましいという気持ちより、この顔がいい男、ぼくの恋人なんだぞという優越感が上回るから、恋って面白い。

「酒井にも着てほしい……」
「えー。浴衣でする意味あるのか? みたいに言っておいて」
「べ、別にそんなこと言ってないし、オレは単純に浴衣姿が見たいだけだから!」

 お前とは違うとでも言いたげだ。
 ……まあ、否定しない。ぼくは浴衣えっちがしたい。

 あの裾からチラチラのぞく白い足に手のひらを這わせて、舐めて、奥まった場所に触れて……。指先で、中の熱さを確かめたい。

「あとでいくらでも見せるから、今は先に触らせて」

 畳の上に押し倒して、浴衣の裾を割る。
 わー……凄い。ちょっと手を入れるだけで、すぐ中身に辿り着く。
 スカートもそうだけど、それよりもっと無防備でやらしく見える。

 でも割合きっちり着込まれてて、胸元なんかははだけないな……。
 そう思いながらジッと見てたら檜垣くんがいそいそと着崩してきたので可愛すぎて噴いた。

「丸見えだ」
「酒井が見たいって言ったんだろ」

 違うんだよなあ。見たいのは確かなんだけど、違うんだよなあ。
 でもこのズレた感じが相変わらずで愛しいから、このままでいてほしい気はする。

 それと、これはこれでやらしい。自分から乳首を見せつけてくるとかエロすぎ。
 ぼくはそのご期待に添えるよう、そっと唇を寄せた。

「っあ……。さ、酒井、オレもする……」
「うーん。もうちょっと。檜垣くんが浴衣姿で乱れるのを堪能したら」
「が、頑張る」
「……頑張らなくて、いいから……」

 どう頑張るつもりなのかちょっと気になったけど、それは夜のお楽しみにとっておくことにした。




 お互い一回ずつ手で抜き合ってから、温泉へ。変に反応してしまっても困るし、スッキリしておくのも大切。
 檜垣くんはまだ、何やら悶々と考え込んでる様子だった。
 別にぼくを喜ばせるとか考えなくていいから普通に楽しんでほしい。サービス精神旺盛すぎてホント困る。
 まあ、それだけ愛されてるってことなんだろうけどさ。

 特に露天風呂では男子高校生らしくワイワイ騒ぎたかったのに、なんだこの、縁側茶飲み友達のような老成さは。枯れるにはまだ早いぞ。
 二人並んでまだ高い陽を見ながら、いい湯だねえとか。

 ……はあ。でも、疲れが取れる。気持ちいい。

 それにしても。お湯も滴るイケメン。首筋にはぼくがつけたキスマーク。
 まさか隣の男に組み敷かれているなんて、誰も思わないだろうな。

「檜垣くん、背中流し合いっこする?」
「……なんだか、普通に友達同士みたいだな」
「他の利用客もいるのに、ここでソレな感じに振る舞うのはさすがに無理だろ」
「女装さえできれば……」
「全裸では厳しいな」
「水着着用できるなら……」
「どう考えても厳しいな……」

 色んな意味で。乳だけ作ればいいってもんじゃないぞ。
 まあ、なんだかんだぼくは、檜垣くんに甘いので。
 湯の中でそっと、手を握った。

「これならいい?」
「背中の流し合いもしたい」
「うん」
「さっきはああ言ったけど、友達同士というのも、悪くない」

 檜垣くん、友達いないもんな……。

「もし人がいなかったら、背中を流しながらおっぱいを押し当ててくるのはアリだと思う」
「そうか……」
「ここでやったら怒る。人いるし」
「……そうか」

 やる気だったか。
 でも正直、内風呂とかでなら、やってほしい。
 こう……身体を使って、身体を洗うとか。

 って、ぼくまで何、エロ本みたいなこと考えてるんだ。檜垣くんがうつったか。
 いやまあ、男としては正常だよな。少女漫画みたいな展開を夢見ていても、恋人ができたらエロ方向にシフトするのは普通のことだ。

「部屋についてる風呂でなら、やってほしい、かも……」
「念の為に確認するけど、乳がなくても嬉しいものなんだよな?」

 むにゅっとした感触はなくとも、平たい胸のほうが洗いやすくはありそう。
 それに檜垣くん筋肉ないから、なんか柔らかいし。

「嬉しいよ」
「……」

 檜垣くんが頬を染めながら、鼻のあたりまで湯に沈んだ。

「どうかした?」

 ぶくぶくしている。何かまずいことを言ってしまっただろうか。怒っているような表情には、見えないけど……。
 それとも、やっぱり乳がないのを気にしているのか。

「そんなふうに笑うなんて、反則だ」
「えっ?」

 ぼく、どんなふうに笑ってたんだ。自分ではわからない。
 言ってることが言ってることだっただけに、やらしい笑いを浮かべてたような気はするけど。
 思わず自分の頬を撫でさすってしまった。

 ぼくみたいな平凡顔より、檜垣くんのほうがよっぽど反則だと言いたくなるような表情をするけどな、いつも。
 それに、そんなふうに照れてる、姿とか……。

「はあ。のぼせそ……」
「オレもだ」
「檜垣くんは、そんな顔のあたりまで浸かってるからだろ。ほら、中に入って身体と頭を洗うぞ」

 檜垣くんを連れて湯から上がる。ナチュラルに手を繋いだままだったことに気づいてパッと離すと、ぼくに体重を預けていた檜垣くんがバランスを崩して再び湯に落ちた。

「あはは!」
「酷いぞ、酒井! 引き上げてくれたんだと思ったのに」

 確かにそういう見方もある。でも今のは、完全に無意識で掴んだままだったから。
 外では手を繋ぐことが自然であるような、そんな関係でもないのにな。男同士って時点で、どうしたって人目は気になる。

「しかも、湯に落ちたのを笑うなんて」
「ごめんごめん。カッコイイのが無様にダイブしたのが面白くってさ」
「反省の色がまったくない」

 拗ねてる顔は、可愛い。結局のところ、顔が良ければ何をしても萌えに繋がるんだから、イケメンは狡い。
 騒いですみませんと周りに言って、屋内にある洗い場のほうへ向かった。
 そこで普通に背中を流し合って、友達同士な距離感のまま、部屋へ戻る。湯上がり檜垣くんは、さっきぼくが虐めたことが尾を引いているのか、やや元気がない。
 
 そんなに気にすることかな。
 あんなの、友達同士でのじゃれ合いの範囲だろ……?

「その。さっき、笑ってごめん」
「えっ? ああ、いや。それはいいんだ」

 違った。謝り損だ。

「なら、もしかして少しのぼせた?」
「そうじゃなくて……。やっぱりオレは男でしかなくて、周りからは友人同士にしか見えないんだなって。酒井を上手く、楽しませることもできなくて……」
「檜垣くん……」

 何を今更なことを考えているんだか。
 ぼくはそんな顔が見たくて、温泉旅行をプレゼントしたわけじゃない。

「馬鹿!」

 ゴッと音がするくらい、額同士をぶつけて押し当てる。ぼくのほうも痛い。

「さ、酒井?」
「ぼくは君と来たくて誘ったんだぞ? 周りからどう見えるかなんて関係ないだろ。暗い顔でメソメソされるほうが楽しくない」
「……そうだよな。オレらしくなかった。ごめん!!」
「そうだよ。檜垣くんは無駄にポジティブじゃなきゃ」
「無駄にって」

 赤くなった額を、優しく撫でてやる。檜垣くんのほうは、デコチューをしてくれた。
 これはぼくのほうが、ヒロインになった気分。

「それにこう、湯上がりの浴衣姿見せてくれるだけで、充分眼福っていうか」

 仄かに色付く肌に、しっとりした髪。そして綺麗な顔。
 檜垣くんは自分の顔がいいことを自覚しているし、それを武器にもしてきたのに、たまにやたらと弱気になる。ぼくがときめくシチュエーションを、いつでも探しているんだ。

 ……まあ。初めフッてしまったし、男は無理とも言ったし、それからもキモイとかドン引きだとか、割と散々なことを……言ってきたからな。付き合うようになっても、どこかでぼくが正気になるのではと思っているのかもしれない。

 あんな、正気でもできないようなこと、散々してるのに。
 今日だって夜、たくさんするのに。

「あっ。さ、酒井。屈もうか!?」

 確かに屈んだ時にチラリと見える乳首がいいとか言ったけど、わざとらしく不自然に屈まれても。

「いや、もうまどろっこしいから、ガバッと見せてくれ」

 思いきり浴衣の前を開くと帯も一緒にほどけ、全身丸見えになってしまった。

「さ、さすがに恥ずかしい……」
「さっきまで素っ裸で温泉入ってたのに、何を今更」
「こんなふうに、正面から見られてない」

 隠そうにもぼくが浴衣の端っこを掴んだままだから叶わない。
 頬を染める檜垣くんにムラムラしながら、上から下まで舐めるように見た。

「勃ってきた」
「だっ……。当たり前だろ、そんなふうに……見られたら……」
「そうじゃなくて、ぼくが」
「ッ……そ、そう、か」
「男の身体見ただけでこうやって普通に勃つんだから、檜垣くんのこと、すっごい好きってことだよ? わかる?」

 擦り合わせるように腰を押し付ける。

「ん、わか……、わかる……ッ」

 薄い布越しだから、お互いの形がダイレクトに伝わる。なんなら体温まで滲んで、性器が触れ合っていること以上の気持ちよさがある。
 ゆるりと勃ち上がっていた檜垣くんのチンコは、すでにぼくのモノを押し上げるまでに育っていた。

 首筋を舐めて、甘く噛む。いつもと味が違うのは、温泉に入ったからだろう。

「ハァ……。す、するのか?」
「焦らそうかどうしようか迷ってる。そろそろ夕飯の時間だし」

 パンツに染みができてる……。
 先っぽを軽くグリグリってしてすぐに離すと、檜垣くんがぼくの手を追いかけるように押し付けてきた。

「エロ……」
「だって酒井が、そんな中途半端に」
「じゃ、したいって言って。奥にぼくのが欲しいって」
「準備がまだ……」
「実は家でしてきてるだろ。ほんとはすぐ入るんじゃない?」

 否定しないし、表情でわかる。図星だ。
 あんなに平然とした顔でぼくの隣にいたくせに……。恐ろしい。
 まあ、見た目が爽やかで理知的だからって、中身もそうとは限らないよな。そもそもが檜垣くん、頭いいのに馬鹿だし。

 縮こまる檜垣くんの頬にキスをして、身体を壁に縫い止める。
 馬鹿で、可愛くて、ぼくのこと大好きで……ほんと、愛しい。
 このキューッて鳴きそうな顔を見ると、ちょっと虐めてやりたくもなるけど。

「さすがに、すぐは無理だ。拡げないと……。でも、準備はしてきてる」
「まあ、しないけど」
「な、ならなんで訊いたんだよ!」 
「おねだりして欲しかったのと、いつでもぼくを挿れられる準備がしてあるって知りたかったから」
「さっ……。酒井のが、よっぽどエロいじゃないか……」
「そりゃまー、男ですから……」

 それに、どれだけお預けされてきたと思ってるんだ。
 だから君を焦らすってことは、ぼくにとっては諸刃の剣。
 でも、傷つけたくないし、せっかくの夕飯を一緒に美味しく食べたい。

「中には挿れないけど、ココ、かしてほしい」

 手のひらで腿の内側を撫で擦ると、檜垣くんがビクビクと身体を跳ねさせた。

「素股ってヤツ、やってみたい」
「それって、ココに酒井のが出入りしてるのが見えるってことか?」
「えっ」

 思いもしなかった反応が。まさかこんなに目をキラキラさせてくるとは。
 今、じっとりやらしい雰囲気で言ったと思ったのに、このやり場の無い感情をどうしたら。
 檜垣くんも男だってことなんだろうけど。ムードはもう少し、大切にしてほしかった……。いや、今更か。

「あまりジッと見られてるとやりにくいかな」
「でも、見たい……」

 檜垣くんが、ハァと熱い息を漏らして、ぼくの浴衣をはだけさせた。

「それに酒井はオレの裸を見てたくせに。不公平だ」

 確かに……。ぼくも逆だったら絶対に見るもんな。
 これに羞恥心を感じずにいられるほど、慣れてるわけじゃない。それでも興奮が上回る。檜垣くんもそうなのかもしれない。

「じゃ、見てて。ぼくも檜垣くんの気持ち良さそうな顔、いっぱい見るけど」
「うん……」

 下着も、脱がせてもらって。あとはもう、欲望の赴くまま。
 結局のところ、ぼくも檜垣くんも長らく欲求不満だったのだ。

 しかし……。

「す、滑らないな」
「オレの太腿が硬いせいか」
「いやそこは割とムチムチしてる……」
「してない!」

 上手くいかなかった。皮膚が引きつれる。気持ちよくないわけじゃないけど、スムーズに抜き差しできないし、これでイクのはまず無理。

「ぬめりが足りないからじゃないか?」
「ローション取りに行く余裕ない……。檜垣くんを一度イカせていい?」

 首筋を甘く噛みながら訊くと、檜垣くんが低く呻いた。

「なんでオレ……。ッ、あ、握るな……ッ」
「上手く檜垣くんまで気持ちよくできるかわからないし、先に……」

 その熱に触れるだけで、ぼくまで気持ちよくなってくる。
 早く中にも入りたい。二ヶ月ぶりだもんな。

「凄い。ちょっと触っただけでドロドロだ。今日、二回目なのに」
「……さ、さんかいめ……」
「もしかして、一人でもしたの?」
「ん……ッ。準備、する時に……。今日は、ここに、酒井のが入るんだって思ったら、我慢できなくて」

 想像してしまってヤバイ。檜垣くん、ぼくを煽りすぎ。

「や、やってみて……」
「え……」
「ぼくの前で、お尻に指入れてみせて」

 手を擦り合わせて、ぬめりを移す。
 檜垣くんは真っ赤な顔をして、首を横に振った。

「無理。絶対に無理!」
「ぼくを喜ばせたいって言ってたのに」
「う、うう……」

 狡い言い方をしたとは思う。でもどうしても、見てみたかった。

「うん。もう少し、膝立てて……そう」

 ああ。興奮してどうにかなりそうだ。
 檜垣くんが奥まった場所に指を滑らせて、肌を震わせる。
 時折漏れる吐息が死ぬほど色っぽくて目眩がした。

「はぁ……。ああ、ダメだ、こんなの……。欲しくなる、から」
「ごめん。夜はたっぷりしよ?」

 顔に何度もキスをしながら、やらしく動く檜垣くんの指先を上からなぞる。

「っあ……。あ、あ。酒井……」
「可愛いな」

 目元が染まって、ぱちぱちと瞬きする。潤んでいた瞳から、涙が溢れた。

「可愛い、檜垣くん」

 声に反応するように身体が跳ねるのが愛しくて、耳元でたくさん囁く。

「ん、ん……ッ」
「ね。ぼくも、していい?」

 今度はヌルヌルしてるから、きっといける。本当は先にイカせようと思ってたけど、これなら充分。
 檜垣くんはこくんと頷いて指を引き抜いた。

 そして、ぼくのを腿に挟んでもらって……。

「ど、どうだ?」
「気持ちいい。あとなんか、玉に擦れて新感覚……」
「オレも玉が擦られて変な感じがする……。気持ちよくは、あるけど……」

 顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。
 エロいことしてるはずなのに、間が開いたからか検証みたいになってる。

「あー。でも、ほんと、気持ちいいよ。檜垣くん笑ってると振動でヤバイし」
「ずっと笑っていようか?」
「ふふふっ。やらしいことしてんのに、それはないだろ……」

 檜垣くんが笑わせてくるから気が散って時間がかかったけど、最後はちゃんとイケた。

「檜垣くんのは、手で……するね」
「んッ……」

 今度は焦らさず、抜いてあげる。

 気持ちは良かったけど……これは、ダメだな。余計に最後まで、欲しくなる。挿れたくて、たまらない。

 それでもお腹は空くので、モヤモヤした気持ちを抱えながらぼくたちは浴衣を着直した。
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