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本編
兄弟デート2
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眼鏡でもかけてたら女避けになるかとも思ったが、ダメだわこれは。よほど分厚い眼鏡でもかけさせないと。
店員のお似合いですよ! の言葉にも熱がこもっている。
視力を測ったところ、そこまでは悪くはなく日常生活にはそう支障がない程度だった。昨日視界が霞んでいたのなら、視力の問題より疲れ目かもしれない。
「和彰もかけてみたらどうだ? ほら、これなんか頭がよさそうに見えるし、カッコいいぞ」
レッドフレームの眼鏡。知的に見えるどころか余計にチャラくね?
でも兄貴が俺に眼鏡かけてくれるっつうシチュエーションは中々いいな。俺は結構ドキドキしてるが、兄貴はウキウキって感じ。
「かけてないと俺、そんなに頭が弱そうに見える?」
「いや? 元からカッコいいし頭も良さそうに見える、自慢の弟だ」
「っ……あ、兄貴の眼鏡買いにきたんだろ! さっさと決めろ」
「そうだな。これください」
「早ッ!? 本当にさっさと決めてんなよ! そのレッドフレーム、兄貴だと浮くから、絶対!」
「なら、お前が選んでくれるか?」
「え? えーと……兄貴に似合うってんなら、この少し青が入った薄いグレーの……」
アンタな、これ絶対、店内にいる人や店員のねーちゃんに、ラインやツイッター流されるぞ。今日眼鏡屋で見たホモ兄弟みたいな感じで。
「なら、それにするかな。ありがとう、和彰」
兄貴はふっと笑って店員に声をかけた。なんか体よく選ばされてしまった気がする。似合うと思ったのは確かだが、そんなに簡単に決めていいのか? 自分が気に入ったもののほうがいいんじゃなかろうか。とはいえ、俺の選んだ物を兄貴が身につけるというのは……うん、悪くない。兄貴のほうも同じように考えてくれてんのかな。だったらちょっと嬉しいかも。
眼鏡ができるまで1時間ほどかかるとの話で、俺と兄貴はそれまで飯でも食うかと外へ出ることにした。
女性店員はすっかり兄貴にお熱らしく、背中に刺さる視線がとても痛かった。
「なあ、兄貴。さっきの店員、結構可愛かったな?」
眼鏡屋を出てから……つい嫉妬して、そんなことを言ってしまった。多少、探るような気持ちもあったと思う。
「和彰はああいうタイプが好みなのか」
ところが兄貴ときたら、全然わかってない。
……いや、普通に考えればこうなるか。俺は兄貴にとってはただの可愛い弟だもんな。今のところは。
「俺の話じゃなく、兄貴の話をだな……」
「僕は容姿は重視しない。だから、軽々しく声をかけてくる相手は苦手だ」
話しながら歩いていた兄貴が、ある店の前でピタリと足を止めた。
あ……。ネカフェの看板か。ヘブンズアースオンラインのイラストが描いてある。
「ネットカフェ。これはどういう感じの店なんだ? パソコンのついてる喫茶店? 和彰は入ったことがあるか?」
興味津々ですな、お兄様。
「少なくとも、二人でランチするような喫茶店でないのは確かだな。一畳くらいのスペースに椅子と机、デスクトップパソコンが置いてある。部屋の外に漫画がたくさん並ぶ本棚があって、ジュースも飲み放題。ペアシートもあるけど狭いから、男二人で入る奴はほとんどいないと思うぜ」
「なるほど。和彰はよく入るのか? 詳しいな」
まずい、ついうっかりペラペラと。
なるべくネトゲと俺は切り離しておきたいが、ここまで詳しく説明した以上、普通に話を続けるしかないか。
「友達とたまにな。入ってみたい?」
「い、いや。パソコンなら家にあるし、あえて外で入る必要はないな。うん……」
そう言いながらも、どこかソワソワしている。ログインしたいんだろう。外出してたら、ボス時間も何もないもんな。
でも、訊いてきたってことは、もし広い普通の喫茶店みたいな感じなら、ランチの場所候補だったってことなのか?
つまり……俺にサチを見せてくれたかもしれない?
なんだろう。俺、なんでこんなドキドキしてんだ。恋のトキメキとかじゃない。敵の前で装備をひとつずつ外していくような感覚。
「それに今日は、和彰が入るようなオシャレなお店に入ってみたい。普段、お前がどんな生活をしているか気になるしな」
「俺? 普通に大学生してるし、そんなオシャレな店とかじゃねえよ? サイゼとか……」
それに大学生といっても、ついこの前まで高校生だった。
友人だって、まだガキっぽいノリをしてる奴らばかりだ。
「なら、そこにしよう」
「ファミレスだぞ」
「僕もファミレスくらいなら、入ったことがある。お昼ならゆっくりできていいじゃないか」
「兄貴がそう言うなら……」
それに、洒落たカフェに男二人で入るよりは目立たなくていい。兄貴の容姿じゃ悪目立ちしそうだしな。
目についたファミレスへ行くと、お昼にはまだ少し早いからか並ばずに入ることができた。
兄貴がなんか天然なことをしでかすというハプニングイベントもなく、普通に入って普通に注文。なんというか、当たり前なんだが……ちょっと高嶺の花って感じの見た目以外は、兄貴は普通の男なんだなと再認識した。そう浮世離れしてるってこともないし。
そもそも、兄貴が俺の中で不思議チャンなイメージになってるのは、現実と仮想世界とのギャップによるものだ。フィルターを外して見ればだだのイケメン。
なのに、ときめいちまうんだよなー。目があって、フッと優しげに微笑まれるともうたまらん気分になる。
「和彰はもうスマートフォンなのか?」
「へ? あ、ああ。てか、今は大体の奴がそうじゃね? むしろ兄貴まだガラケー?」
「メールと電話ができればいいと思っていたからな」
なんか、ソワソワしてる。使いたいのかな、スマホ。
「俺の見る?」
「いいのか?」
見られて困るようなものは入ってなかったはず。手渡そうとすると、ウェイトレスが料理を運んできた。
「お待たせしました」
料理名を読み上げ、テーブルへ乗せていく。俺はパスタで兄貴はドリア。
「いただきます」
きちんと手をあわせている。前までは意識してなかったのに、食べる姿につい見惚れる。
咀嚼する口元やらしーなとか、歯を立てずに俺のももぐもぐしてくれねーかなとか。スプーンをくわえるってのが、妄想を掻き立てる。
「俺のも食べてほしい……」
「食欲ないのか?」
しまった、うっかり口に出てた。余裕でごまかせる台詞でよかった。
「少し。だから、皿貸して。少し俺のあげ……」
そこまで言った瞬間、俺の腹が鳴った。空気読みすぎだろ、おい。
「逆に僕のをやろう。人が食べているほうが欲しくなるとか、まだまだ子供だな」
「いや、待っ……! お、お願いシマス……」
どんだけ子供扱いだよ。そこまで離れてねえっつうの。
でも実際に腹は空いてたし、間接キスというまさにガキな理由によって、俺はおとなしく皿を差し出した。中学生かよ、俺の馬鹿。
「まあ、兄貴はデザートも食べるだろ。ほら、美味しそうだぞ、パフェとか。割りと甘党だもんな」
「食べながら見るのは行儀が悪いぞ」
そんなこと言いながら、デザートのページに目が釘付けになっている兄貴が可愛い。
「パフェはメニューにないな」
「ああ、確かに……」
食べたかったのか。パフェがあるファミレス選べばよかった……。
「でも、このティラミスとプリンの盛り合わせは美味いぜ」
「じゃあそれをオーダーしよう。和彰となら、気取らなくて済むからいいな」
「普段は気取って、外では甘いもんを食べないのか?」
「そういうわけではないが……。その、人と行った時は頼める雰囲気がないというか……。そして一人の時は頼むのが少し恥ずかしいな」
一応そういうの気にしてはいるんだな。もしかして今の性格こそ作られたものであって、本当は現実でもサチみたいな性格だったりすんのかな。少し毒舌だとか、明るいとか。いやさすがにそれはねーか。あれはない。
でも今の台詞、俺が特別って感じでちょっとイイ。
「なら、またいつでも一瞬に食いに行こう。今度こそパフェだな」
「迷惑じゃないか? 友達との付き合いもあるだろう?」
「むしろ兄貴と出掛けられるの、嬉しいけど?」
「そ、そうか」
今まで避けてきた奴がどの口で言うんだって……。
前と違う感情があるからか、今の俺は兄貴を誘いたくてしかたない。口説いてると言ってもいい。
ずっとすげなくしていた弟がいきなり親切面してくるんだから、そりゃ戸惑うよな。
「それとも兄貴は、俺とじゃイヤ?」
「いや、嬉しい……」
嬉しさより戸惑いのが強いのか、兄貴は目を泳がせながら口をもごもごさせている。
あー……くそ。可愛い。どうすっかな。好きだって言ってみようか。アンタのこと口説いてんだよって。どんな顔するか想像するだけで胸が熱くなってくる。
少なくとも、喜んではくれるんじゃないか? 応えてくれるかどうかはまた別の話として。
「あ、あのさ、兄貴」
「ん?」
心を決めたってのに、俺の言葉と同時にピンポーンなんて明るい音がして、ウェイトレスが走ってきた。
あ……いつの間にか食べ終わってんのね。だからデザートオーダーするつもりでボタン押したワケね。完全にタイミングがずれてしまった。まだ俺、ほとんど料理残ってるし。パスタ少しのびてる……。
「和彰もオーダーしておくか?」
「いや、俺はいい」
デザートが楽しみで浮かれてる兄貴が可愛いから、まあ、いっか。
いつでも言えるんだし、わざわざファミレスで言わんでも。
上手くいって可愛い反応されたところで、キスどころかハグすらしにくいもんな。うん。
それから……デザートはすぐに出てきたため、ひとくちあげる、みたいな可愛らしい展開もなく終わった。俺がまだパスタと分けてもらったドリアを完食していなかったからだ。
クールにデザートを食べ終えた兄貴と同時に俺も飯を食べ終えた。
「このあと眼鏡取りに行って、次はどこ行く?」
「図書館……いや、いい」
「なんでよ。行こうぜ」
「だってお前、図書館苦手だろう?」
覚えてんだ、兄貴も。俺が退屈そうにしてたことに気づいてたのかな。ちょっとキュンとしかかったが、裏を返せば気づいてたのに弟を放置で読みまくっていたという事実も明らかに!
「ガキじゃねーんだから、いーよそんくらい。別に本が嫌いってワケでもねーし。で、図書館で何を見たいんだ?」
「その……。て、手品の……本を」
悶絶しかけた。
腹筋がヤバイ。口の中何も入ってなくて良かった。
「そこは頑張らなくていいと思う……」
「しかし、せっかく和彰が考えてくれた言い訳だぞ」
この兄貴なら少しの練習で、手品もそりゃ華麗に披露してくれるんだろう。
でも俺はそんな姿を見せられたら、褒めるより先に笑い死にそうだ。
「兄貴が落ち着いたら、あれは嘘でしたって親父とおふくろに言おうぜ」
「……そうだな。そのためにも早く就職しないと」
「じゃあ、図書館はやめておいて……スマホでも見に行くか? 欲しいんだろ? ゲームでもすんの?」
「ゲームは……や、やらない」
動揺してる。やっぱり俺に言うつもりは今のところなさそうだ。
まあ、普通にゲームしてるだけならともかく、ネカマにニャンニャンだもんな。弟に知られたいはずもないか。
……何気に俺、結構な爆弾を抱えている気がしてきたぞ。
「スマートフォンは、そのうち付き合ってもらうかな。さあ、そろそろ店を出て、眼鏡を受け取って帰ろう」
「えっ? もう帰んの? 夕飯一緒するんじゃ」
「そのつもりだったんだが……」
またボスかよ! それともログインしてないことによる禁断症状か?
「和彰」
真剣な表情で見つめられて、心臓がドキリと音を立てる。
「実は、お前には言ってなかったし、恥ずかしいから言わないでおこうと思ったんだが……」
え、何。まさか告白? それともオンゲやってるって告白? 斜め上で財布落としたからここ奢れとか。
「足が……痛い」
「え、足?」
「今立とうとしたら、結構きている」
「ああ……」
一ヶ月以上引きこもってたもんな。足も弱ってるだろうし、痛くなっても仕方ないか。
「おんぶしてこうか、俺」
「そういう事態になりそうだから言っている。車だし、事故でも起こしたら大変だからな」
「俺が背負って電車で帰るって手も」
「却下だ」
ですよねー。まだ二人でいたくて、ついねばってしまった。
足が痛いのもあるだろうが、精神的なものもあるのかもしれない。家を出る時、少し外に怯えていた感じだったし。
今日の外出が少しでもリハビリになっていたら幸いだ。
「……また来よう。な?」
そんな甘い台詞を吐きながら俺にだけ向けるような優しい笑みで頭を軽く撫でられたら、残念に思う気持ちも全部吹っ飛んだ。
まあ……眼鏡を受け取って家に帰った後、兄貴は速攻部屋に引きこもっちまったワケだが。
俺もほんの少しだけ時間をあけて、ログインするつもりだ。
兄弟デートを済ませてきた今の心境を、アズキになって早く訊きたい。
……正体を隠したまま、相方としてプレイしているのはきっと、あまりよくないことだと思う。
それでも俺は。この二重生活をやめられそうにはない。
兄貴もこんな気持ちで、サチを演じ続けているのかもしれない。
店員のお似合いですよ! の言葉にも熱がこもっている。
視力を測ったところ、そこまでは悪くはなく日常生活にはそう支障がない程度だった。昨日視界が霞んでいたのなら、視力の問題より疲れ目かもしれない。
「和彰もかけてみたらどうだ? ほら、これなんか頭がよさそうに見えるし、カッコいいぞ」
レッドフレームの眼鏡。知的に見えるどころか余計にチャラくね?
でも兄貴が俺に眼鏡かけてくれるっつうシチュエーションは中々いいな。俺は結構ドキドキしてるが、兄貴はウキウキって感じ。
「かけてないと俺、そんなに頭が弱そうに見える?」
「いや? 元からカッコいいし頭も良さそうに見える、自慢の弟だ」
「っ……あ、兄貴の眼鏡買いにきたんだろ! さっさと決めろ」
「そうだな。これください」
「早ッ!? 本当にさっさと決めてんなよ! そのレッドフレーム、兄貴だと浮くから、絶対!」
「なら、お前が選んでくれるか?」
「え? えーと……兄貴に似合うってんなら、この少し青が入った薄いグレーの……」
アンタな、これ絶対、店内にいる人や店員のねーちゃんに、ラインやツイッター流されるぞ。今日眼鏡屋で見たホモ兄弟みたいな感じで。
「なら、それにするかな。ありがとう、和彰」
兄貴はふっと笑って店員に声をかけた。なんか体よく選ばされてしまった気がする。似合うと思ったのは確かだが、そんなに簡単に決めていいのか? 自分が気に入ったもののほうがいいんじゃなかろうか。とはいえ、俺の選んだ物を兄貴が身につけるというのは……うん、悪くない。兄貴のほうも同じように考えてくれてんのかな。だったらちょっと嬉しいかも。
眼鏡ができるまで1時間ほどかかるとの話で、俺と兄貴はそれまで飯でも食うかと外へ出ることにした。
女性店員はすっかり兄貴にお熱らしく、背中に刺さる視線がとても痛かった。
「なあ、兄貴。さっきの店員、結構可愛かったな?」
眼鏡屋を出てから……つい嫉妬して、そんなことを言ってしまった。多少、探るような気持ちもあったと思う。
「和彰はああいうタイプが好みなのか」
ところが兄貴ときたら、全然わかってない。
……いや、普通に考えればこうなるか。俺は兄貴にとってはただの可愛い弟だもんな。今のところは。
「俺の話じゃなく、兄貴の話をだな……」
「僕は容姿は重視しない。だから、軽々しく声をかけてくる相手は苦手だ」
話しながら歩いていた兄貴が、ある店の前でピタリと足を止めた。
あ……。ネカフェの看板か。ヘブンズアースオンラインのイラストが描いてある。
「ネットカフェ。これはどういう感じの店なんだ? パソコンのついてる喫茶店? 和彰は入ったことがあるか?」
興味津々ですな、お兄様。
「少なくとも、二人でランチするような喫茶店でないのは確かだな。一畳くらいのスペースに椅子と机、デスクトップパソコンが置いてある。部屋の外に漫画がたくさん並ぶ本棚があって、ジュースも飲み放題。ペアシートもあるけど狭いから、男二人で入る奴はほとんどいないと思うぜ」
「なるほど。和彰はよく入るのか? 詳しいな」
まずい、ついうっかりペラペラと。
なるべくネトゲと俺は切り離しておきたいが、ここまで詳しく説明した以上、普通に話を続けるしかないか。
「友達とたまにな。入ってみたい?」
「い、いや。パソコンなら家にあるし、あえて外で入る必要はないな。うん……」
そう言いながらも、どこかソワソワしている。ログインしたいんだろう。外出してたら、ボス時間も何もないもんな。
でも、訊いてきたってことは、もし広い普通の喫茶店みたいな感じなら、ランチの場所候補だったってことなのか?
つまり……俺にサチを見せてくれたかもしれない?
なんだろう。俺、なんでこんなドキドキしてんだ。恋のトキメキとかじゃない。敵の前で装備をひとつずつ外していくような感覚。
「それに今日は、和彰が入るようなオシャレなお店に入ってみたい。普段、お前がどんな生活をしているか気になるしな」
「俺? 普通に大学生してるし、そんなオシャレな店とかじゃねえよ? サイゼとか……」
それに大学生といっても、ついこの前まで高校生だった。
友人だって、まだガキっぽいノリをしてる奴らばかりだ。
「なら、そこにしよう」
「ファミレスだぞ」
「僕もファミレスくらいなら、入ったことがある。お昼ならゆっくりできていいじゃないか」
「兄貴がそう言うなら……」
それに、洒落たカフェに男二人で入るよりは目立たなくていい。兄貴の容姿じゃ悪目立ちしそうだしな。
目についたファミレスへ行くと、お昼にはまだ少し早いからか並ばずに入ることができた。
兄貴がなんか天然なことをしでかすというハプニングイベントもなく、普通に入って普通に注文。なんというか、当たり前なんだが……ちょっと高嶺の花って感じの見た目以外は、兄貴は普通の男なんだなと再認識した。そう浮世離れしてるってこともないし。
そもそも、兄貴が俺の中で不思議チャンなイメージになってるのは、現実と仮想世界とのギャップによるものだ。フィルターを外して見ればだだのイケメン。
なのに、ときめいちまうんだよなー。目があって、フッと優しげに微笑まれるともうたまらん気分になる。
「和彰はもうスマートフォンなのか?」
「へ? あ、ああ。てか、今は大体の奴がそうじゃね? むしろ兄貴まだガラケー?」
「メールと電話ができればいいと思っていたからな」
なんか、ソワソワしてる。使いたいのかな、スマホ。
「俺の見る?」
「いいのか?」
見られて困るようなものは入ってなかったはず。手渡そうとすると、ウェイトレスが料理を運んできた。
「お待たせしました」
料理名を読み上げ、テーブルへ乗せていく。俺はパスタで兄貴はドリア。
「いただきます」
きちんと手をあわせている。前までは意識してなかったのに、食べる姿につい見惚れる。
咀嚼する口元やらしーなとか、歯を立てずに俺のももぐもぐしてくれねーかなとか。スプーンをくわえるってのが、妄想を掻き立てる。
「俺のも食べてほしい……」
「食欲ないのか?」
しまった、うっかり口に出てた。余裕でごまかせる台詞でよかった。
「少し。だから、皿貸して。少し俺のあげ……」
そこまで言った瞬間、俺の腹が鳴った。空気読みすぎだろ、おい。
「逆に僕のをやろう。人が食べているほうが欲しくなるとか、まだまだ子供だな」
「いや、待っ……! お、お願いシマス……」
どんだけ子供扱いだよ。そこまで離れてねえっつうの。
でも実際に腹は空いてたし、間接キスというまさにガキな理由によって、俺はおとなしく皿を差し出した。中学生かよ、俺の馬鹿。
「まあ、兄貴はデザートも食べるだろ。ほら、美味しそうだぞ、パフェとか。割りと甘党だもんな」
「食べながら見るのは行儀が悪いぞ」
そんなこと言いながら、デザートのページに目が釘付けになっている兄貴が可愛い。
「パフェはメニューにないな」
「ああ、確かに……」
食べたかったのか。パフェがあるファミレス選べばよかった……。
「でも、このティラミスとプリンの盛り合わせは美味いぜ」
「じゃあそれをオーダーしよう。和彰となら、気取らなくて済むからいいな」
「普段は気取って、外では甘いもんを食べないのか?」
「そういうわけではないが……。その、人と行った時は頼める雰囲気がないというか……。そして一人の時は頼むのが少し恥ずかしいな」
一応そういうの気にしてはいるんだな。もしかして今の性格こそ作られたものであって、本当は現実でもサチみたいな性格だったりすんのかな。少し毒舌だとか、明るいとか。いやさすがにそれはねーか。あれはない。
でも今の台詞、俺が特別って感じでちょっとイイ。
「なら、またいつでも一瞬に食いに行こう。今度こそパフェだな」
「迷惑じゃないか? 友達との付き合いもあるだろう?」
「むしろ兄貴と出掛けられるの、嬉しいけど?」
「そ、そうか」
今まで避けてきた奴がどの口で言うんだって……。
前と違う感情があるからか、今の俺は兄貴を誘いたくてしかたない。口説いてると言ってもいい。
ずっとすげなくしていた弟がいきなり親切面してくるんだから、そりゃ戸惑うよな。
「それとも兄貴は、俺とじゃイヤ?」
「いや、嬉しい……」
嬉しさより戸惑いのが強いのか、兄貴は目を泳がせながら口をもごもごさせている。
あー……くそ。可愛い。どうすっかな。好きだって言ってみようか。アンタのこと口説いてんだよって。どんな顔するか想像するだけで胸が熱くなってくる。
少なくとも、喜んではくれるんじゃないか? 応えてくれるかどうかはまた別の話として。
「あ、あのさ、兄貴」
「ん?」
心を決めたってのに、俺の言葉と同時にピンポーンなんて明るい音がして、ウェイトレスが走ってきた。
あ……いつの間にか食べ終わってんのね。だからデザートオーダーするつもりでボタン押したワケね。完全にタイミングがずれてしまった。まだ俺、ほとんど料理残ってるし。パスタ少しのびてる……。
「和彰もオーダーしておくか?」
「いや、俺はいい」
デザートが楽しみで浮かれてる兄貴が可愛いから、まあ、いっか。
いつでも言えるんだし、わざわざファミレスで言わんでも。
上手くいって可愛い反応されたところで、キスどころかハグすらしにくいもんな。うん。
それから……デザートはすぐに出てきたため、ひとくちあげる、みたいな可愛らしい展開もなく終わった。俺がまだパスタと分けてもらったドリアを完食していなかったからだ。
クールにデザートを食べ終えた兄貴と同時に俺も飯を食べ終えた。
「このあと眼鏡取りに行って、次はどこ行く?」
「図書館……いや、いい」
「なんでよ。行こうぜ」
「だってお前、図書館苦手だろう?」
覚えてんだ、兄貴も。俺が退屈そうにしてたことに気づいてたのかな。ちょっとキュンとしかかったが、裏を返せば気づいてたのに弟を放置で読みまくっていたという事実も明らかに!
「ガキじゃねーんだから、いーよそんくらい。別に本が嫌いってワケでもねーし。で、図書館で何を見たいんだ?」
「その……。て、手品の……本を」
悶絶しかけた。
腹筋がヤバイ。口の中何も入ってなくて良かった。
「そこは頑張らなくていいと思う……」
「しかし、せっかく和彰が考えてくれた言い訳だぞ」
この兄貴なら少しの練習で、手品もそりゃ華麗に披露してくれるんだろう。
でも俺はそんな姿を見せられたら、褒めるより先に笑い死にそうだ。
「兄貴が落ち着いたら、あれは嘘でしたって親父とおふくろに言おうぜ」
「……そうだな。そのためにも早く就職しないと」
「じゃあ、図書館はやめておいて……スマホでも見に行くか? 欲しいんだろ? ゲームでもすんの?」
「ゲームは……や、やらない」
動揺してる。やっぱり俺に言うつもりは今のところなさそうだ。
まあ、普通にゲームしてるだけならともかく、ネカマにニャンニャンだもんな。弟に知られたいはずもないか。
……何気に俺、結構な爆弾を抱えている気がしてきたぞ。
「スマートフォンは、そのうち付き合ってもらうかな。さあ、そろそろ店を出て、眼鏡を受け取って帰ろう」
「えっ? もう帰んの? 夕飯一緒するんじゃ」
「そのつもりだったんだが……」
またボスかよ! それともログインしてないことによる禁断症状か?
「和彰」
真剣な表情で見つめられて、心臓がドキリと音を立てる。
「実は、お前には言ってなかったし、恥ずかしいから言わないでおこうと思ったんだが……」
え、何。まさか告白? それともオンゲやってるって告白? 斜め上で財布落としたからここ奢れとか。
「足が……痛い」
「え、足?」
「今立とうとしたら、結構きている」
「ああ……」
一ヶ月以上引きこもってたもんな。足も弱ってるだろうし、痛くなっても仕方ないか。
「おんぶしてこうか、俺」
「そういう事態になりそうだから言っている。車だし、事故でも起こしたら大変だからな」
「俺が背負って電車で帰るって手も」
「却下だ」
ですよねー。まだ二人でいたくて、ついねばってしまった。
足が痛いのもあるだろうが、精神的なものもあるのかもしれない。家を出る時、少し外に怯えていた感じだったし。
今日の外出が少しでもリハビリになっていたら幸いだ。
「……また来よう。な?」
そんな甘い台詞を吐きながら俺にだけ向けるような優しい笑みで頭を軽く撫でられたら、残念に思う気持ちも全部吹っ飛んだ。
まあ……眼鏡を受け取って家に帰った後、兄貴は速攻部屋に引きこもっちまったワケだが。
俺もほんの少しだけ時間をあけて、ログインするつもりだ。
兄弟デートを済ませてきた今の心境を、アズキになって早く訊きたい。
……正体を隠したまま、相方としてプレイしているのはきっと、あまりよくないことだと思う。
それでも俺は。この二重生活をやめられそうにはない。
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