廃スペックブラザー

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本編

兄弟デート

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 昨夜早く寝たせいか、早朝すっきりと目覚めてしまった。そういや出かける時間とか決めてなかったな。兄貴が深夜までネトゲやってたとしたら、昼からになるか?
 そんなことを考えながらダイニングへ降りて行くと、すでに兄貴とおふくろの姿があった。

「おはよう、二人とも。兄貴、起きるの早いな」

 まさか……寝てないとかじゃなかろうな。

「誘っておいて待たせるわけにはいかないからな。出る時間は和彰の都合にあわせる。声をかけてくれ」
「あら、二人とも今日は一緒におでかけ? 息子二人が仲良くて、母さん嬉しいわ」

 おふくろはもうニッコニコだ。
 兄貴が引きこもりをやめたのが相当嬉しいんだろう。まあ、そりゃそうか。
 兄弟以上に仲良くなっちまったらこの笑顔も消えるのかなと考えると、少し胸が痛んだ。
 兄貴はどうだか知らんが、俺のほうはもう……割りと、重症。

「これから眼鏡を買いに行く予定なんだ」
「幸ちゃんに眼鏡! 絶対似合うわ! 私は若い頃、父さんの眼鏡姿に惹かれて結婚したのよ、ウフフ」

 始まったノロケをほのぼのと聞きながら朝食を食べる。
 これ食べ終わったら俺も支度してさっさと出るか。
 そしてノロケ話は俺が食べ終わるまで延々と続いていた……。

「ごちそうさま。すぐ支度終わらせるから、10分ほどしたら玄関行ってて」
「そんなに急がなくてもいいぞ」

 少しでも早く兄貴と出かけたいから。なんて口説くような台詞はさすがに吐けない。
 言葉よりも早く手を動かし、きっちり10分で支度を終えて玄関へ向かった。

 兄貴は薄手のダークグレーのシャツにジーンズというあっさりした服装。髪もきちんと整えて、ヒゲも剃ってある。というか、ヒゲ生えてるの見たことないな、そういえば。
 なんてことない姿だが、素材がいいから眩しく見える。惚れた欲目とかは関係ない。まごうことなきイケメン様だ。俺もルックスならそこまで負けてないと思いたいが、滲み出るオーラがまったく違う。気品みたいなものがあるっつうか……。痩せたせいかそこに儚げな雰囲気が追加されてマジでヤバイ。何がヤバイって、俺の心臓が。

「なんか、不思議な気分だ」

 玄関で靴を履いて、ドアノブに手をかけながら兄貴がポツリと呟いた。

「俺と出かけるのが?」
「それもだが、外へ行くのが……かな。たった1ヶ月と少しなのに、もう何年も陽を浴びていなかったような気がする。僕はどこも、おかしくないよな?」

 自分の服を確認するように背を少し屈めながら上目遣いで訊いてきたので、思わず笑ってしまった。そして萌えた。
 いや、兄貴にとっちゃ笑い事じゃねえっつうのはわかってんだけどさ。

「大丈夫。相変わらずかっこいいよ」
「茶化すな」

 普通に真実を言っただけなんだが。兄貴が自分をかっこよくないとか言うなら、どんだけ自己評価低いんだよって話だ。

「どこも、おかしくない」
「よし」

 よしって。あー、可愛いーなー、もう。兄貴ってこんなに、可愛らしい性格してたっけ?

 兄貴が軽く深呼吸して扉を開ける。きっとその扉はただの玄関って以上に、とても重いはずだ。
 元々兄貴には引きこもりなんて似合わない。晴れ晴れとした太陽の下、賞賛されながら歩くような人間だ。見た目だけのイメージなら、月とか夜とかのが似合ってるかもしんねーけど。

「眩しいな。それに結構暑い」
「もうそろそろ夏になるしな」
「そうだな」

 そして一歩、踏み出した。

「……外だ」
「どきどきする?」
「ああ。自分でもおかしいくらい、高揚している」

 そして俺たちは……すぐ、車に乗った。
 久々の外出なら散歩がてら駅まで歩いて電車でのお出かけも有りじゃないかとは思うが、車内で二人きりもオイシイので黙っておく。色々話しやすいし。そう、色々。

 引きこもりをやめた後だから、今まで気になってたことをようやく訊ける。
 アズキの姿でいる時より素直に答えてくれるかはわからんが。

 あと。あとな、運転する兄貴、めちゃくちゃカッコイイわ。
 これに惚れないヤツがいたら見てみたい。

「俺、兄貴の運転する車初めて乗るよ」
「こうやって一緒に出かけること自体、十数年ぶりだしな」
「……そうだったな。でも兄貴、車の運転すげー上手くてビックリだよ。たいして乗ってないよな? 通勤に使ってたくらいで」

 そして社会人になるまではほぼペーパードライバーだったと思うんだが。どこまでハイスペックなんだか。苦手なことがないのか、この男は。

「ああ。大学では他の友人が車を出すことが多かったし……。会社は、すぐ辞めてしまったしな」

 どうやって持ちかけようと思ってたディープな話題を兄貴から振ってきた。

「なあ、兄貴。その……どうして、会社辞めたんだ? なんかあったのか?」
「いや、いい会社だった。上手くやっていたよ。本当に申し訳ないことをしたと思っている」

 でも、会社の人と話があわないって……言ってたんだよな。
 乙女ゲーマーオタクな幼馴染、ミキの言葉が本当なら。

「会社の人と、もめたりとかは?」
「はは、ないない。少し話題があわない部分はあったけどな。それは仕事には関係ないことだ」

 兄貴を苛めようなんて奴はまずいなさそうだしな。
 でも、話が合わなかったのは事実らしい。
 俺なら気にせずなあなあでやり過ごしてしまうだろうが、それは兄貴にとってはツライことだったんじゃないだろうか。

「和彰は、どうして僕が引きこもったか、聞きたいんだな?」
「ま、まあ、平たく言えば……。気にならないわけねーし」
「……言いにくいな」

 言いにくいのは俺が原因だったりするから?
 そう考えてしまうのは、兄貴が俺のことを好きなのだと期待をしているせいか。

「じゃあ、外出しようと思ったきっかけは?」
「……い、言いにくい、な」

 これもかよ。と思ったが、さっきと違って兄貴は少し頬を染めていて、俺までソワソワしてきた。
 今度こそ、理由は俺かもしれない。俺とたくさん話すようになったから、昔みたいに一緒に外出したくて。とかな……。

「月並みだが、これ以上家族に迷惑をかけられないと思った。ということで、いいだろうか」

 よ、よくねー! 重要! 重要なことだから、ここ!

「いやいや、それ違うって言ってるようなもんだろ」
「知らなかった感情を知ることができたという意味では、とても充実した時間だったと思っている」

 そりゃ、充実してたろうよ。あんだけ極めてりゃ。
 結局答えてもらえなかったが、ここは飲み込むしかなさそうだな。

「……じゃあ、知らなかった感情って?」
「たとえば、外へ出るのが怖くなったり、かな」
「それはできたら知らないままのほうが良かったんじゃね」
「そんなことはないぞ。人の気持ちがわかるようになるのは、悪くない」

 そういうもんかね。
 まあ、兄貴はできないことがあんまないから、当たり前の感情に少し鈍いとこがあんのかもな。完璧なのに人と少しずれてたり。
 そして、そういうとこがちょっと可愛いと思ったりしちまう俺は末期だな。

「あとはちょっと恥ずかしいから聞き流してほしいんだが。和彰がたくさん話してくれるようになった、こと……は、とても、嬉しい」

 心臓直撃したぞ、おい。
 なんかいい雰囲気なんだがどうしたらいい。俺もたくさん話せるようになって嬉しいとか言っていいの?
 一歩進んじまうんじゃねーか、これ。いや待て、避けていた張本人が白々しくそんな台詞吐くのはどう考えても嫌味だろ。

「お……俺も、兄貴が、こうして……一緒に出かけてくれて、嬉しい」
「そうか」

 嬉しそうに、兄貴が笑った。あー、もう。なんなんこれ。本当やばい。顔赤くなってないよな、俺。
 こんな時でもさわやかな兄貴と裏腹に、腹の下で欲望が渦巻いてんだけど。
 今まで知らなかった感情か……。俺も、知らなかったよ。兄貴に対してこんな感情抱けるなんてさ。だから、できれば責任とってください。




 駅の近くの駐車場に車をとめ、俺たちは眼鏡屋へ向かって歩いていた。
 道が空いていたおかげで早めについてくれて助かったぜ……。あれ以上密室に二人きりでいたら、気分が浮つきすぎて何を口走ったかわからない。

「結構人多いけど、大丈夫か? 久々だと人酔いとかしねえ?」
「騒がしいほうが気が楽かもしれない。誰もこちらなど気に留めなくなるだろう」

 ……いやいや。気に留められまくってるから。さっきから女の子たちにめちゃくちゃチラ見されてるから。
 男でも数人に一人は振り返るし、兄貴は自分が目立つことをもう少し自覚したほうがいいな。
 でも教えたら、またうっかり引きこもりそうだから言わないでおこう。

「あのー……すいません」

 案の定、後ろから二人組みの女の子に声をかけられた。

「ごめん、俺たち急ぐから!」
「えっ、和彰?」

 兄貴が何か口を挟む前に、速攻でバイバイだ。デートを邪魔されてたまるかよ。
 しかし敵は彼女たちだけではなかった。それから更に3回も逆ナンされた。
 最初は怪訝な顔をしていた兄貴も、そのあたりでようやく彼女らの意図に気づいたらしい。

「女性からナンパをされるのか。凄いな、和彰は」
「は? 兄貴だろ、兄貴」
「いや、僕は一人の時に女性から声をかけられることなどないぞ。せいぜいが道を聞かれるくらいだ」

 そのお嬢さん、絶対に道を聞きたかったわけじゃないと思う。
 でも確かに……言われてみれば兄貴はちょっと声をかけづらいタイプだな。イケメンってより、鋭利な美形。ナンパしても絶対断られるのがわかってる。だから、声をかけないって感じか。
 かけてみりゃいーのに。案外のってくれるかもしれん。今だって声をかけられてテンション上がってるのがわかるし。

 もっとも今日は俺が阻止してやるがな!

「見目のいい友人達と歩いている時なら声をかけられることもあるが、こんなに頻繁にということはない」
「そりゃ、光栄っつーか、なんつーか。多分俺も餌だけどな」
「餌?」
「や。まあ、わかんなくていいよ」

 言っちゃなんだが、俺はいかにも逆ナンにノりそうな外見だ。声をかけてくる女共の狙いは兄貴だろうが、おそらく結果的にモテるのは俺。兄貴を本気で好きになる女は、少なくとも逆ナンをしてくるようなタイプじゃない。

「しかし、こんなに声をかけられると心臓に悪いな……」
「ぶっ……」
「わ、笑うな!」

 弟に見せるような、こーゆー緩みきった姿なら、胸にズドンときそうだけど。ちなみに俺は今まさに犠牲になっている。

「じゃ、昔みたいに手を繋いで歩くか? したら、カップルだと思われて声かけられなくなるかもよ?」

 兄貴は一瞬、嬉しそうな顔をして……すぐ、首を横に振った。
 ちょ、なんだよ、その嬉しそうな顔は。俺を殺しにかかってきてるな。そろそろ心臓に穴が開くぞ。

「年齢を考えろ。だいたい、男同士でカップルも何もないだろう」
「周りから見てだって。ほら、手」
「入店の時に白い目で見られるのは嫌だ」

 差し出した手は残念ながらとられることはなかった……が、兄貴が声をかけるなオーラをまとったせいか、それから眼鏡屋までは声をかけられることもなかった。
 サチと同じくらいネトゲのキャラっぽいよ、アンタ……。
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