廃スペックブラザー

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本編

家族団らん

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 抜いてしまった。兄貴がオナニーする妄想で。

 朝起きたら朝勃ちしてて、時間もあるから抜くかと適当なオカズをパラパラめくって。兄貴はどんなので抜くのかなとかふと考えて。もしかして俺で抜いてるんだろうか。俺にどんなことされる想像してるんだろう。気づいたらそんな感じで俺のほうが妄想してて、そのまま……はあ。

 俺は童貞でもないし、そういう関係はセックス込みだと思っているが、さすがに兄貴相手ではブレーキがかかっていたんだと思う。
 今までは初めての恋する乙女のごとく、そこには愛があるだけだった。
 それが突然、これだ。きっかけなんてわからない。知らず溜まっていたモノが限界値を越えたのかもしれない。
 ついに、くるところまできたか、という感じだ。

 そもそも、うちは兄弟でお互いの性事情を話したりしないし、どうしてるのかなんて今まで考えたこともなかったんだよな。いや、考えないようにしていたのか。
 頭がよくてかっこよくて優しい兄貴を尊敬してたし、憧れてた。そこで終われたらよかったのに。
 サチを見て憧れが崩れたところから始まり、可愛いとか思い始め、果てには俺の精神が崩壊してしまったんだろうか……。
 正直こうなってしまってはシャレにならなくて、どうしたもんかと悩んでいる。
 兄貴が俺を好きだとしても、兄弟で男同士でハッピーエンドが待っているなんて思えない。
 もし俺が兄貴に告白したら……兄貴の性格なら、俺の幸せを考えて拒む気がする。それとも喜んでくれるだろうか。兄貴も俺を好きだとしたら気持ち悪く思われることはない、そう思うと余計にタガが外れそうになる。
 それより兄貴は俺にフられたと思ってんだから、新しい恋を見つける決心をしてたりして、実際見つかったりなんかしたら……。

 あー。駄目だ。俺は兄貴と違って人間できてないから、結婚相手や恋人連れてこられたら絶対祝福できねー。
 ここはいっそのこと拉致監禁! って、拉致してくるまでもなく既に隣の部屋にいて引きこもってる状態だっつうの。
 ……新しい恋に関してはしばらく心配する必要はないか。

 そんな感じでもんもんとしていたら、二日間、ネトゲにログインし損ねた。だから今夜は絶対に入ろうと決めた日の夕飯。

 久し振りに家族が揃った。当然、兄貴も含め。

 あまりに突然すぎて、俺、汗ダラダラ。ダイニングが暑いせいもあるが……。ぎこちなく座る三人を前に、立ち尽くすことしかできない。
 だって、兄貴は昨日まで絶賛引きこもり中で。今日になってなんで急に。もしネトゲに入ってればアズキとして、心境の変化を知ることができた?
 親父もお袋も少し涙ぐみながらニコニコしてるし、兄貴は気まずそうに緊張してるし。もちろん俺も、混乱してる。
 いや、いいことなんだよ。ようやくリアル復帰する気になってくれたんだろうし。ただ、突然すぎて頭がついていかない。

「和彰。何をつったっているんだ。座りなさい」
「あ、ああ」

 親父にたしなめられて、すとんと腰を降ろす。
 落ち着け。落ち着くんだ、俺。下手に焦ると兄貴が気を遣う。とりあえずお茶でも飲んで……。

「あー。その、ところで幸平。どうなんだ。手品のほうは」

 親父の台詞に一口飲んだお茶を勢いよく噴き出しそうになってしまった。
 そういえばありましたね、そんな設定も。

「あー、それより兄貴。今日からはもう、こうして毎日夕飯食えるのか? つってもうちは元から揃ってること少ねーけど」

 兄貴が目を軽く瞬かせて、頷いた。

「ああ。心配をかけたが……。もう大丈夫だ。新しい会社もすぐに探すから。父さんも母さんも、安心して」
「そうか……まあ、焦らず頑張りなさい」

 手品は挫折したんだな、と勝手に納得したらしい親父は、生温いけど優しい瞳をしていた。

「でも母さん、幸ちゃんが舞台に立つの結構楽しみにしてたのになー。器用だし、絶対に素質あると思って!」

 おふくろぉぉ! 頼むからそのあたりにしてやって! いたたまれねえぇ。

「いや、僕には人を笑顔にさせるような楽しいトークはできないから、やはり向いてないと悟ったんだ」

 !? まさか、ノッてきた……だと……。

 さすがはハイスペック様。経緯を推測したのか話をあわせてくれたようだ。少し恥ずかしそうにはしていたが。

 でも、ネトゲの中じゃ抱腹絶倒モノなトークしてるじゃん? なんて言えるはずもない。
 そもそもネトゲトークに関しては現実とのギャップに俺が一人でウケてるだから、周りが聞いても面白くもなんともなさそうだしな。
 とりあえず今、手品の話題にノッてきた兄貴のせいで腹筋がヤバイ。お茶はなんとか飲み込んだ。

 そして、楽しい夕飯が始まった。どこか浮つく家族団らん。俺は正直針のムシロだが。
 しかも兄貴、めちゃくちゃ俺のこと睨んでるし。対面に座ってるから視線がきてるだけだ……という慰めが許されないレベルの眼光。

「こ、幸ちゃん? 和ちゃんのことそんなに睨んでどうしたの?」

 気のせいではない証拠に、俺の隣に座っているおふくろが、兄貴にそう尋ねた。

「え……? ああ。睨んでるつもりはなかったんだ」

 兄貴が目をつむり、目尻を押さえて溜息をつく。

「どうも、視力が落ちたみたいで……」

 じゃあ、睨んでたわけじゃなく、熱烈な視線で俺を見てたってことか? 両親がいる前で大胆だな。……ということにしておきたい。
 まあ、目のほうは……。あれだけ長時間ネトゲやってりゃ、そうなるわな。

「手品って、動体視力も必要になりそうだものね!」

 口から夕飯が飛び出そうだからやめてくれおふくろ。
 ってか、必要なのか? 動体視力。

「そうだな、タネによっては……」

 いいから。無理しなくていいから兄貴……。ゴメン俺のせいで。

「じっと見てしまってすまない。和彰、後でお前の部屋に行っていいか? 少し話がある」

 優しい兄貴が俺を怒ることなんて滅多になかったが、これはさすがに文句を言われるんだろうな。そう覚悟しながら、こくりと頷く。
 なんか兄貴が俺の部屋に来るってだけで、ときめいてたりもして。男の部屋にホイホイくるなんていいのかよっつっても、兄貴も男だし、そもそも兄貴にとっても自宅だし、とか何考えてんだかな俺。

「おお、いいな。手品を見せるのか。父さんも見たいぞ」
「母さんも!」

 とりあえずそろそろ手品から離れてください頼むから。
 自業自得とはいえ、ひたすら落ち着かない夕飯だった。




 夕飯後、部屋へ来た兄貴に開口一番お礼を言われた。
 絶対に文句を言われると思ったのに。

「両親に心配をかけまいと、適当にごまかしてくれていたんだな。ありがとう。でも、和彰には心配も迷惑もかけたよな」
「別に……。俺は、兄貴のこと信用してたし」
「自殺なんてするわけないって?」
「う……」
「一応、自分が他人から見てどう映るかは理解しているつもりだ」

 思い詰めて自殺しそうだと思われていることは自覚していたらしい。

「だから、そろそろ出てくるつもりになったのか?」
「そう……多分まだ少し、リハビリが必要だけどな」
「リハビリ?」
「笑わないで聞いてくれるか?」
「ああ」
「最近、外へ出ていなかったせいか、外出するのが怖いんだ。それで、その……悪いが明日の休み、眼鏡を買いに付き合ってもらえないか?」

 まさかの、デートの誘い!?
 笑わないで聞くとは言ったが、別の意味では笑いがもれそうになる。にやける的な。しかも外へ出るのが怖いとか言ってて可愛いし、俺を頼ってくれるのが凄く嬉しい。
 じわじわと、足元から幸せが滲んでいく。

「俺でよければ、喜んで」
「ありがとう、助かる」
「でも、兄貴が目ェ悪くなるなんてな。やっぱり、画面をずっと見続けてると視力が落ちるものなんだな」
「え? 画面……?」

 あ。しまっ……。頭をフル回転させろ、俺! 手品というごまかしを思いついた時のように! いやそれはダメだ!

「いや、ほら……。ずっと部屋にこもってるなら、何をするにもまずパソコンかなって。適当に言っただけ」
「それもそうか。何か資格をとろうかと、検索もしていたしな」

 クエストに必要な資格ですか? と突っ込みたいが黙っておく。
 兄貴も少し焦ってるみたいだから、細かいことは言ってこないだろう。上手くごまかせた、うん。

「でも、兄貴が眼鏡か。似合いそうだけど、悪いとこも苦手なとこもひとっつもないハイスペックだったのに、勿体ないな……」
「か、和彰?」

 気づけば俺は、兄貴の頬を撫でていたらしい。頬に添えた手から、びくりと震えた感触がつたわる。

 ……何やってんだ、俺。めっちゃ怪訝そうな顔で見られてるし!
 こんな女口説いてるみたいな台詞ねーよ、兄貴相手に。
 でも柔らかくてなんかいい匂いがして、離しがたい。いっそこのままキスでも。なんて、そこまでの勇気は、まだちょっとない。

「やっぱ、痩せたよな。頬がこけてる。体重落ちただろう」
「……5キロくらい」
「筋肉落ちて腹に肉はついてそうだな。若くして腹が出てるのはみっともないぞ」

 せっかくなので、話題ついでに腹をむにっと……摘まめなかった。腹は割りとスッキリしてる。そのまま腰を撫でると、くすぐったそうに身を捩った。

「ふ、ふふっ……。やめてくれ、くすぐったい」

 な、なんか色っぽい。このあたりにしといたほうがよさそうだな。
 俺は兄貴からパッと手を離した。

「あー。腹は、スッキリしてるな」
「そうか、良かった」

 弟にこんなからかい方をされてるのに、どうしてそんな嬉しそうにしてんだよ。スキンシップが嬉しい、みたいにされるとさあ、ときめいちゃうだろ。やっぱ俺を好きってことでいいのかな、これ……。

「じゃあ、僕はそろそろ部屋に戻るな。また明日……」
「あ、兄貴! ひとつだけ……訊かせてくれないか」
「……なんだ?」

 少しだけ、兄貴の顔が強ばる。
 ネトゲのことを訊かれると思ってんのかな。そんなんじゃないぜ。俺が訊きたいのは……。

「兄貴って、どういうオカズ使ってる? あ、抜く時のな」
「ッ……ば、馬鹿っ、知るか!」

 逃げられてしまった。
 優しい兄貴は俺がそんなことを訊いても赤くなるだけで本気で怒ったりしない。可愛い。
 明日のデートも楽しみだ。眼鏡を一緒に選んだりするのも、なんか恋人同士みたいでいいし。
 俺ってこんなに恋愛体質だったかな。ブレーキかけてるつもりでこれとは。やっぱ隣の部屋にいるってのがなー。意識しちまうとなー。

 あ……。ネトゲどうしよ。これ以上遅くなると、明日のデートに響くよな。風呂も入らねえとだし。
 ネトゲの中でしか聞けない話題が、サチの口から出そうな気もすんだけど……。それに昨日もおとといもログインしていないから、きっと心配している。
 でも、今サチに会ったら、兄貴と家族団らんできた現実が、薄れてしまいそうな気がした。

 手のひらで、頬に触れて。近くで、顔を見た。

 あの綺麗な顔が眼鏡で隠れてしまうのはもったいないが、虫よけにはいいかもしれない。
 俺は手のひらにキスをして、ウズウズする気持ちを抑えながらベッドへ寝転がった。
 せっかくだし、もう開き直ってさっきの照れた顔をオカズに一回抜いておくか。ほどよく発散しといたほうが、明日のためにもなるよな。

 兄貴も、明日のデート……楽しみにしてくれてんのかな。どんな気分でいるんだろ。乙女みたいにときめいてたりして。サチみたいに?
 ふふっ……。やばいな、俺。ちょっと浮かれすぎ。あー、楽しみすぎてやばい。

 そして下半身もやばい。
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