廃スペックブラザー

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本編

はじめて

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「ごめん、兄貴、入る!」

 凄い勢いで部屋に押し入り、パソコンデスクに座っている兄貴を見る。少し怯えたような表情をしているのは、俺が相当鬼気迫る顔をしているからだろうか。
 言いたいことはたくさんある。だが、とりあえず俺が今しなきゃならんのは……。

「すいませんっしたあああ!」

 兄貴の足元へスライディング土下座。これしかない。

「も、もういいから、顔を上げろ」
「顔を上げたら抱き締めてもいい?」
「……やはりそのままで」

 ちっ。覚悟が足りねえぞ、兄貴!
 ほだされるまで土下座し続けてやろうか。
 待てをしている犬の気分だ。早くよしって言ってくれたらいいのに。

「討ち入りみたいな勢いで部屋へ飛び込んでこないでくれ。何かと思っただろう」
「ごめん。でも、あんな誘い方されたらさ……」

 思ったよりも普通な様子の兄貴にホッとする。でも普通すぎても、それはそれで不安になる。さっきのチャットが幻なんじゃないかと思えてきて。

「なあ、兄貴。今更、現実では弟としてしか見れないとか言わないよな?」
「そうだと言ったらどうするんだ。お前は諦めるのか?」
「無理。それはもう無理。絶対諦められない」

 俺の気持ちに応えないつもりなら、こんな意地の悪い訊き方はしないだろう。ここは押すべき。
 もしかしたら、アズキと偽って接したことによる報復だったりするかもしれないが……兄貴の性格的にそれはない、と思いたい。
 頭の上で、溜め息ひとつ。緊張で思わず身体が硬くなる。

「……もういいぞ。顔を上げても」

 やった! お許しきた!!
 嬉々として顔を上げると、予想外の展開が待っていた。 
 すぐ目の前に、兄貴の整った顔がある。唇にふにゃりとした感触。もしかして、俺……キス、されてる? やばい。身体中の血が沸騰しそう。

「あ、兄貴ッ……!」

 抱き締めたかったのに、兄貴はそんな俺を嘲笑うかのように後ろへ引いた。俺は床に這いつくばったままの体勢で、それを見上げる。

「おとといの、お返しだ」

 うおあああ、くそおぉ。すげー、なんかすげえしてやられた感。でもめちゃくちゃ嬉しくて、萌える。リアル兄貴はサチなんて目じゃないな。てか、触れるだけのキスなのに、やたら気持ちよかったんですけど。どんなテクニック駆使したんだよ。それとも俺が、兄貴を好きすぎるからそう感じんのか?
 照れずに微笑浮かべたままとか、童貞かと思ってたけど実は慣れてるんじゃ。

「なあ、兄貴。本当にアンタのことが好きだよ。からかってるとかじゃなくて」
「嘘だったら、また引きこもるかな」
「兄貴!」
「ははっ」

 うずうずする。飛び付きたい。でもまだ待ての姿勢。許可なくゴーするには、気持ちに勢いがつきすぎている。押しつぶした際に許可を得てると得てないじゃ、その後の対応に雲泥の差が出そうだからな。

「僕が想いを伝える前に……言っておかなければならないことがある」
「何?」
「兄弟で男同士だ。道を踏み外すことになるが、その覚悟はできているのか?」
「できてる。兄貴こそ、いいのかよ」
「よくはないな。でも、もう仕方ないかとも思う」

 兄貴の頬が染まる。再び近づいてきて、俺の頬にそっと手をあてて瞳をじっと見てくる。今日も眼鏡はかけていないから、視線がまっすぐ突き刺さる。

「和彰が僕のことを心配してくれて嬉しかった。再び話せるようになって幸せだった。好きだと言ってくれて、動揺したが……嬉しかったんだ。アズキの中身が和彰だったから……僕は、好きになったんだと思う」

 ぎゅっと抱き締められた。

「和彰。僕も……お前が好きだ。返事が遅くなって、すまなかった。相当不安だったろう」

 優しい兄貴の声と言葉に、目の奥が熱くなってくる。怒鳴られたり嫌われたりしてもおかしくないだけのことをしたのに、天使すぎるだろ……。

「俺こそ、その。ごめん、本当に……。ずっと、黙ってて。バレたら兄貴に嫌われると思ったら、怖くてさ」

 まさか嫌われるどころか、功を奏するなんて思ってもみなかった。

「アズキのことがなかったら、弟としてしか見てもらえなかったのかと思うと、ちょっと複雑だけどな」
「そうだろうか。それは単なる、きっかけだったと思う」

 中身が俺だと知って、それでも好きだというのなら確かにそうなのかもしれない。いろいろと複雑だが。
 俺も兄貴のことを恋愛の意味で好きだと気づいたきっかけは、サチの存在だ。今回のことがなかったら、兄貴に対してずっとよそよそしくしていたと思う。そしてそのうち結婚なんて言い出されて、どこか寂しく思いながら疎遠になっていた。簡単に想像がつく。

「それに元々、初めてアズキに会った時……何故かお前のことを思い出して、親近感を覚えた。だから親しくなりたいと思ってアプローチしたんだ」

 そういや最初からすげー親しげだったな。いっそ馴れ馴れしいレベルで。俺にとってはにゃんにゃん言ってる兄貴のほうが衝撃的で、そういうロールプレイなんだとしか思わなかったが。
 アズキは可愛い可愛いウサ耳女の子アバターだが、正体バレしない範囲には、素を出しちまってると思う。少なくとも兄貴演じるサチよりは。まったくの別人になりきることは、俺には難しい。
 俺がいたから、アズキがいる。恋のきっかけなんて、本当に些細なものなのかもしれない。

「その、まあ、サチとして出会った頃のことを思い出すと、本当に恥ずかしさで死にそうなんだがな。僕は、お前の前で……お前だってことに気づかないまま、にゃんにゃん……」
「今更だろ。サチの姿で告白までしといてさ」
「アズキに想いを知ってもらった上で、きっちりとお前に伝えたかったからな。自分の気持ちを整理する、意味でも……」
「何その順序。イコール俺だよ。別人じゃないよ。兄貴、わかってる?」
「わかってるさ。でなければこんなに、悩まなかった。二日間、ずっとお前のことばかり考えていた」

 熱い告白に、胸が高鳴った。引きこもってる間、ずっと俺のことばっか考えてくれてたんだ……。それで出した答えが告白に繋がるなら、俺は都合のいい部分だけ信じてもいいんじゃなかろうか。
 勘違い? 上等だ。セックスできる権利をもらっておいて文句なんか何もないね。健全な青少年としては性欲が前にくるのは当たり前。精神論はその次だ。
 俺は兄貴をぎゅっと抱き締め返して、後ろにあるベッドへ、その身体を押し倒した。

「か、和彰?」
「ごめん、俺、結構我慢の限界。兄貴に触りたい」

 そう言って腰のあたりを撫で上げると、兄貴の身体がびくびくと震えた。感度よさそう。やべーな。

「我慢って、まさか」
「そう。エッチなことがしたい」
「こ、告白を済ませてすぐこれか!? ありえないだろう!」
「だって俺、好きだって気づいてからもう、アンタにキスしたくて触れたくてしゃーねーんだよ」

 それに、お互いをよく知り合う期間なんて俺たちには必要ない。ずっと一緒にいるんだ。ネトゲの中でだって一緒にいたんだ。兄弟の壁を崩す意味でも早く押し切って、退路を断ってやりたい。後戻りなんて絶対させない。

 首筋にキスをする。少し汗ばんでて余計に興奮した。兄貴の匂い、たまんねえ。
 感じたらどんな顔すんだろう。イク時は? クールできっちりしているアンタが乱れる様は、きっと相当色っぽい。
 そのまま首筋をぺろりと舐め上げると、手で顔を押し戻された。

「む、無理、無理だ」
「なんで? 男同士だから? 兄弟だから?」

 兄貴は頬を染めて俺から逃げるように俯せになる。耳まで赤いのが可愛くて、後ろから思わずかしりと噛んだ。

「っ……その……。は、初めてなんだ、こういうことは」
「ふ、ふーん。初めてなんだ。そっか」
「遅れていて悪かったな」
「いや、めちゃくちゃ嬉しいけど? 好きな子に初めてなのとか言われて燃えない男はいないね」
「和彰は……慣れてそうだな」
「うん。妬いちゃう?」

 無言ってさ、この状況じゃ肯定と一緒だから。
 あー、もう、可愛いなー。よくぞ今まで清い身体でいてくれた。きっと今日のために初めてでいてくれたんだな、なんて思うくらいには、俺の頭の中が重症。

「可愛い。俺、もうこんなだよ。わかる?」
「うわ、お、押しつけるな」

 そう言われて簡単にやめると思ってんの?
 はあ……。身体あったけー。細い。案外抱き心地いい。でもこれじゃ足りない。素肌をくっつけたい。ぶっちゃけ奥まで挿れて擦りあげたい。

「き、昨日風呂に入ってないし」
「そう? じゃあ俺、兄貴の匂い好きなんだな。いい匂い」
「和彰ッ!」
「こっち向いて」
「無理……」
「後ろからでもイロイロできんだぜ? 男同士なら体位的にはこっちのほうが楽だし。でも、やっぱ顔が見たいなあ」

 兄貴に勝てることなんてあまりないと思ってたが、力は俺のほうがあるようだ。意外と楽に押さえ込めた。兄貴が本気で抵抗してるわけじゃないってのもあるか。
 なんとか仰向かせて動きを封じてみたものの、兄貴の両手首を掴むことで、俺の両手も塞がってしまっている。

「せめてもう少し、イチャイチャしよ。キスならい?」

 兄貴は目をつぶって唇を噛み締めて、首を力強く横に振った。
 めちゃくちゃ怯えられてない? これ……。
 とりあえず緊張をほぐしてやらないことには、これ以上進めそうにないな。いくら好き同士でも、無理矢理はまずい。

「わかった。じゃあ、許してほしいにゃ。ってハートエモーション出るくらい可愛らしく、上目遣いで言ってくれたら、やめてやるよ」
「なっ……! で、できない……」
「なら、しちゃおっかな。幸い俺のが力は強いみたいだし?」

 兄貴は俺に腕を掴まれたまま、顔を歪める。唇を震わせ、小さな声でポツリと。

「ゆ、ゆる……し………、っ……ダメだ、言えない!」

 そこまで言って、口と手をぎゅっと引き結んで真っ赤になった。

「あー、もう、俺もダメ。兄貴可愛すぎ」

 兄貴の肩口に額を埋めて、ぐりぐりと擦り付ける。

「じゃ、言えなかったから、お仕置きな」

 ようやく、俺からキスできた。馬鹿なやりとりで兄貴の緊張も少しは解けたかな……。
 こうやって引っ付いてちゅっちゅしてるだけでも幸せだが、やっぱ、もうちょっとなあ。可愛らしい姿を見て微笑ましく思うだけで済むほど枯れてない。

「キスなら平気?」
「それは、僕からもしているし」
「うん。じゃあさ、舌、少し出してみて」

 兄貴は視線をさまよわせ、それから俺の言った通りにしてくれた。
 舌と舌を触れあわせて、開かれた唇ごと飲み込むようにキスをする。
 そんで後は口の中をひたすら舐めた。最初にあった軽い抵抗はすぐに止んで、拘束も必要なくなる。軽く唇を離して、また重ねる。一度離れたタイミングで、兄貴からも舌を絡めてくれた。俺の動きをそのままなぞるようなキスが気持ちよくて、酩酊する。
 やっぱ、上手いし……。甘く噛まれると、たまらない。何より兄貴が積極的だってのが、凄く嬉しい。
 長いキスが終わる頃には、兄貴の腕は俺の背中に回されていた。
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