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お初編
休日プレイ2
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「じゃー、ログインするな」
俺はノートパソコンを引き寄せ、タッチパッドを操作してゲームを立ち上げる。
普通に遊ぶにはやっぱりマウスかコントローラが必要だな。操作しづらい……。
兄貴は自分が見られたくないくせに俺のアカウントには興味津々らしく、傍によってきて液晶ディスプレイを覗いている。目が輝いてて可愛い。
「俺のばっか見てないで、兄貴もログインしろよ。俺だって少しは恥ずかしいんだぜ。ウサコのネカマだしさあ」
「いや……。どういうアイテムを持っているのか、とか……スキルのショートカットパネルをどうしているのか気になって」
「ああ」
「あと、本当に……和彰が、その指でアズキを動かすのか、見たい」
なんか兄貴の言い方エロい。あー、もう俺、欲求不満すぎだろ、マジ。大体兄貴のせいだけどな。俺は悪くない。むしろ我慢してて偉い。
つか、もしかして兄貴はまだ、俺がアズキだってことが頭の中でいまいちハッキリしてないんかな。
会話の端々や俺しか知らない話題を出したり、正体がわかってから狩りに行ったりもしてるしで、今更疑ってはいないだろうが。
でも俺だって初めは兄貴がサチだって信じられなかったもんな。わかってても尚。だからまあ気持ちはよくわかる。
よし、じゃあ現実を見せつけてやるとしますかね。
「ほら、アズキちゃんだよ。これスキル振りと配置なー」
ハートのエモーションを出してから、スキルウィンドウを開く。ショートカットは画面内に常に表示されてはいるが、ウィンドウだと隠れているページもすべて見える。
「本当に……アズキだ。いや、もちろん、わかってはいるのだが……不思議なものだな」
兄貴はうんうんと頷きながら画面を見て、指を液晶に近づけた。
「初期回復魔法はスキルショートカットパネルに入れておく必要はないんじゃないか? もう使わないだろう」
「あー、まあ、確かに」
「レジストは同じページにまとめるのもいいが、この……よく使うものだけは回復と一緒にするとか」
「え、これよく使う?」
「使ってくれと言うことが多いと思うが」
「そういやそうかも」
甘ったるい空気はすっかりなくなったが、友人のような兄弟のような、こんな感じも悪くない。
……悪くはない、が。
「俺のばっか見て狡くね? 早く兄貴も立ち上げろよ。これじゃ俺のプレイ見守ってもらってるだけじゃん」
「そ、そうだな……」
やっぱり見せるほうは抵抗があるらしい。往生際の悪い。
覚悟、決めたんじゃなかったのかよ。
兄貴はゆっくりと俺の傍から離れて再びパソコンデスクへ座った。ゆっくりだったのは、そこまでだった。
カチャカチャッターンなんて音すら聞こえてこないほどの高速タイピング。いや、神速。指の動きが見えねえ。どんなカスタマイズをしているのか、ゲームの立ち上がりも早い。兄貴の指を見ればいいのか画面を見ればいいのか顔を見つめればいいのか迷う。見処満載すぎる。
「……サチだ」
少し照れたような声でそう紹介されたので、俺は思わず恥ずかしそうな兄貴の横顔を眺めていた。
「見るのは僕ではないだろう」
恥ずかしそうに怒ってきた。可愛い。
画面の中のサチも可愛いが俺にとってはリアルに勝るものはない。
「サチ、ピンクの傘、ずっと装備してんだ」
「アズちゃ……アズキとの思い出の装備だしな」
「俺も傘、大切にしてるぜ」
そう声に出してから、今度はチャット入力する。
オープンチャットは恥ずかしいからフレンドチャットで。
【サッちゃん、大好き】
【サ、サチも……】
可愛らしい返事がくる。後ろから見る兄貴、耳まで赤い。
アズキの台詞に照れたのもあるだろうが、返事をタイピングする時に一番悶えていたように思う。
【まだ夕飯まで時間あるし、今日こそ薔薇のブローチ出しに行く?】
あれからもう一度行ったが結局出ずだった。アップデートがあればプチメタ以上に美味しいモンスターも出てくるかもしれないが、専用の耐性装備ってわけではないし、ひとつは持っておきたいところだ。
【そうにゃね。ちょうどデロイもいるにゃあ】
ちょうどってか、いつでもいんだろアイツは。
【でもデロイは休日だと少しだけ様子がおかしいにゃ】
【忙しいんじゃない? 普段は仕事に行ってるウサコちゃんたちがログインしてるからとか……】
【確かに……その可能性は高いにゃ】
俺はそこまで付き合いが長いわけじゃないから、どうおかしいのかはよくわからない。ほんの少し気になるが、今日の兄貴のパンツの色を知りたい気持ちに比べればたいしたことない。……さっき見損ねたからな。
【……今日は都合が悪いみたいにゃ。他のフレさんと狩りに行ってるって】
やっぱウサコちゃんたちと戯れるのに忙しいようだな。
【ちょっとキツイけど、アズちゃんのレベルも上がってきてるしボチボチ二人で行ってみるにゃ?】
【うん!】
もう正体もバレてることだし、多少迷惑かけても、ごめんなの一言で済む。
それでも自分のスペックの低さが少し恨めしい。
【ごめんなー、ごめんな! オレ様の愛しいウサコちゃんたちが離してくれなくて! アズキちゃんはサチのもんだしなー】
いつもと変わらぬ様子のロイからフレンドチャットが飛んできた。
兄貴が言うような違和感はない。いつも通りにおかしい男だ。
【気にしてないからそっちのウサ子ちゃんたちと仲良くどうぞ】
【あっ、ちくしょう。本当にアズキちゃんはサチ以外に興味ねーのな!】
それは正しいがむしろアンタにまったく興味がない的。
というわけでもないか。ぶっちゃけリアルデロイはちょっと気になる。
「もしかしてデロイからフレンドチャットか?」
ナマ兄貴の声に顔を上げる。
「ああ、うん。そう」
そっか、チャット打ってる音はするのに俺の発言がないから一発でわかるんだな。同じ部屋でプレイしていると、こういうのが面白い。
ロイは俺とサチがデキてると嬉しいような感じではしゃぐ。他人の色恋沙汰に首を突っ込みたがる辺りは少し女っぽいと言えなくもない。
いや、それは偏見だな。リアルでの色恋にまったく興味がない女もいるしな。主に2次元にしか興味のない女とかな……。
「ロイにさー、サチと恋人同士になったって言ってもいい? 性別は言わないからさー」
「…………いいぞ」
少し間を開けて、兄貴が許可を出した。その間にも、チャットを打つ音も聞こえる。ロイと会話でもしてるのかもしれない。
【うん。サッちゃんは私のだから、手を出しちゃダメですよ】
【!!!!!!!!!!!!!】
驚きすぎ。ウザすぎ。
【やー、いやー。そっかー、うんうん。恋人同士の間に割り込むのは野暮かもしれねーけど、またオレとも一緒に狩ってくんな!】
別に……今誘ったのに、断ったのはそっちだろうと。
【ゲームの中ではゲームを遊ぶから、大歓迎です】
【つまり! もう現実的な付き合いまで!】
なんでこんなにテンション高いの?
……ああ、よく考えたらいつもテンションが高いから、通常運転か。
【ご想像にお任せします】
くすくすと笑う声がして再び顔を上げる。
「……何よ」
「和彰ってプレイしてる時、意外と百面相するんだな」
「マジ!?」
思わず顔を両手で押さえてしまった。恥ずかしい……。
兄貴のほう見る余裕もあんまないし、むしろ兄貴には余裕ありありだし。いや、ゲームより俺を見てるからかもしれないが。
ゲームより俺を見てる……このフレーズは中々いいな……。
【もしかして、今、サチと並んでゲームやってたりして!】
なんなのこいつ。エスパー?
鋭いロイの一撃に、内緒、と可愛らしく答えてチャットを終えた。
じゃあこれから狩りだから、また。でしめてしまえばそれ以上しつこくチャットを送ってくることもなく、こういうところはわきまえてるなーと思う。
【お待たせ、行こうか、サッちゃん】
【ふふ、それじゃあ出発にゃあ。頑張って回復してにゃ】
それから回復アイテムを持てるだけ持ってダークエルフを狩りに行ったが、ロイとマリーの壁がないと回復がおっつかず大変だった。判断を少し誤ればサチを死なせてしまう。
もうひたすら回復回復回復。たまにサチが自分でもポーションを使ってくれてなんとかって感じだった。当然チャットしてる余裕はない。
「そこ、矢がくる。右避けて」
「おう」
「闇魔法発動してる。遠距離だから2秒後に敵に近づいてヒール」
「あ、あ、あー! 喰らっちまった」
「詠唱じゃ間に合わないぞ。回復アイテム使って、ロングレジストを延長してくれ」
リアルで会話できることが役に立った。
サチやロイに守られて、普段相当ぬるい狩りをしていたことを思い知らされる。
俺のレベルには見合わない狩り場にソーサラーとペアで来ているんだから当然と言えば当然かもしれない。そもそもこの敵は重装備ができてヒットポイントも高い戦士向けなんだろう。
というか、紙装甲のソーサラーを盾にしている時点でもうな。本来はクレリックが盾をしたほうがまだマシに違いない。ただ俺の防御がサチを超えて紙すぎる。
俺のせいでハードな狩りになっちまってるの、やっぱ少しだけ申し訳ないな……。
「ギリギリのバトルは心が踊るな」
……その点に関しては問題なさそうだ。
兄貴が楽しそうで何よりです。
あれから、30分ほど狩って俺が先にギブした。精神力がもたなかったし、アイテムもすっからかんになった。
じゃあ最後の一匹にゃあとサチが言って……まあ、その瞬間さ、出たんだよ。ブローチが!
実は俺はレア装備を目的にした狩りはこのダークエルフ相手が初めてだったりする。そして前に来た時は連続して出てなかったこともあって、もう感無量。
「よっしゃああ!」
思わず叫んでたね、現実で。
チャットだったら大量のジャンプマークを打っていたことだろう。
凄まじい達成感。脳内アドレナリン出まくり。
次の敵が近づいて来ていたから慌てて帰還スクロールを発動して、顔を上げる。今度は気が抜けて、溜息ひとつ。
はしゃぎすぎて、なんだか気恥ずかしかった。
「やー、ハハハ。兄貴のこと笑えねーな」
「和彰が楽しそうだと僕も嬉しい。自分が好きなものを、好きな人が好きというのは嬉しいものだろう?」
「あー、うん、まあ。そうね」
兄貴の生暖かい感じの視線が眩しい。兄貴はネトゲにはまりたてだから気にならんかもしれんが、正直ちょっと大人としては恥ずかしいことなんだぜ、データひとつでこんなにはしゃぐのは。
まあここには俺と兄貴しかいないから、いっか。
嬉しいもんは嬉しいし、楽しかった。兄貴も喜んでて、俺もそれ見て幸せ。いいじゃないか、それで。
「あー、兄貴、次どうする? せっかくブローチ手に入れたし、プチメタ行っておく?」
「いいな、行こう」
そんなに長いこと狩っていたわけじゃないのに、かなり疲れたな。でもテンションは凄い上がってる。
初めて手にいれたブローチが嬉しくて、それを装備して早速一緒にプチメタを狩りに行った。
……途中で流れ矢に当たって死んだ。
ゲームは一日一時間。俺は廃人にはなれないと悟った休日だった。
俺はノートパソコンを引き寄せ、タッチパッドを操作してゲームを立ち上げる。
普通に遊ぶにはやっぱりマウスかコントローラが必要だな。操作しづらい……。
兄貴は自分が見られたくないくせに俺のアカウントには興味津々らしく、傍によってきて液晶ディスプレイを覗いている。目が輝いてて可愛い。
「俺のばっか見てないで、兄貴もログインしろよ。俺だって少しは恥ずかしいんだぜ。ウサコのネカマだしさあ」
「いや……。どういうアイテムを持っているのか、とか……スキルのショートカットパネルをどうしているのか気になって」
「ああ」
「あと、本当に……和彰が、その指でアズキを動かすのか、見たい」
なんか兄貴の言い方エロい。あー、もう俺、欲求不満すぎだろ、マジ。大体兄貴のせいだけどな。俺は悪くない。むしろ我慢してて偉い。
つか、もしかして兄貴はまだ、俺がアズキだってことが頭の中でいまいちハッキリしてないんかな。
会話の端々や俺しか知らない話題を出したり、正体がわかってから狩りに行ったりもしてるしで、今更疑ってはいないだろうが。
でも俺だって初めは兄貴がサチだって信じられなかったもんな。わかってても尚。だからまあ気持ちはよくわかる。
よし、じゃあ現実を見せつけてやるとしますかね。
「ほら、アズキちゃんだよ。これスキル振りと配置なー」
ハートのエモーションを出してから、スキルウィンドウを開く。ショートカットは画面内に常に表示されてはいるが、ウィンドウだと隠れているページもすべて見える。
「本当に……アズキだ。いや、もちろん、わかってはいるのだが……不思議なものだな」
兄貴はうんうんと頷きながら画面を見て、指を液晶に近づけた。
「初期回復魔法はスキルショートカットパネルに入れておく必要はないんじゃないか? もう使わないだろう」
「あー、まあ、確かに」
「レジストは同じページにまとめるのもいいが、この……よく使うものだけは回復と一緒にするとか」
「え、これよく使う?」
「使ってくれと言うことが多いと思うが」
「そういやそうかも」
甘ったるい空気はすっかりなくなったが、友人のような兄弟のような、こんな感じも悪くない。
……悪くはない、が。
「俺のばっか見て狡くね? 早く兄貴も立ち上げろよ。これじゃ俺のプレイ見守ってもらってるだけじゃん」
「そ、そうだな……」
やっぱり見せるほうは抵抗があるらしい。往生際の悪い。
覚悟、決めたんじゃなかったのかよ。
兄貴はゆっくりと俺の傍から離れて再びパソコンデスクへ座った。ゆっくりだったのは、そこまでだった。
カチャカチャッターンなんて音すら聞こえてこないほどの高速タイピング。いや、神速。指の動きが見えねえ。どんなカスタマイズをしているのか、ゲームの立ち上がりも早い。兄貴の指を見ればいいのか画面を見ればいいのか顔を見つめればいいのか迷う。見処満載すぎる。
「……サチだ」
少し照れたような声でそう紹介されたので、俺は思わず恥ずかしそうな兄貴の横顔を眺めていた。
「見るのは僕ではないだろう」
恥ずかしそうに怒ってきた。可愛い。
画面の中のサチも可愛いが俺にとってはリアルに勝るものはない。
「サチ、ピンクの傘、ずっと装備してんだ」
「アズちゃ……アズキとの思い出の装備だしな」
「俺も傘、大切にしてるぜ」
そう声に出してから、今度はチャット入力する。
オープンチャットは恥ずかしいからフレンドチャットで。
【サッちゃん、大好き】
【サ、サチも……】
可愛らしい返事がくる。後ろから見る兄貴、耳まで赤い。
アズキの台詞に照れたのもあるだろうが、返事をタイピングする時に一番悶えていたように思う。
【まだ夕飯まで時間あるし、今日こそ薔薇のブローチ出しに行く?】
あれからもう一度行ったが結局出ずだった。アップデートがあればプチメタ以上に美味しいモンスターも出てくるかもしれないが、専用の耐性装備ってわけではないし、ひとつは持っておきたいところだ。
【そうにゃね。ちょうどデロイもいるにゃあ】
ちょうどってか、いつでもいんだろアイツは。
【でもデロイは休日だと少しだけ様子がおかしいにゃ】
【忙しいんじゃない? 普段は仕事に行ってるウサコちゃんたちがログインしてるからとか……】
【確かに……その可能性は高いにゃ】
俺はそこまで付き合いが長いわけじゃないから、どうおかしいのかはよくわからない。ほんの少し気になるが、今日の兄貴のパンツの色を知りたい気持ちに比べればたいしたことない。……さっき見損ねたからな。
【……今日は都合が悪いみたいにゃ。他のフレさんと狩りに行ってるって】
やっぱウサコちゃんたちと戯れるのに忙しいようだな。
【ちょっとキツイけど、アズちゃんのレベルも上がってきてるしボチボチ二人で行ってみるにゃ?】
【うん!】
もう正体もバレてることだし、多少迷惑かけても、ごめんなの一言で済む。
それでも自分のスペックの低さが少し恨めしい。
【ごめんなー、ごめんな! オレ様の愛しいウサコちゃんたちが離してくれなくて! アズキちゃんはサチのもんだしなー】
いつもと変わらぬ様子のロイからフレンドチャットが飛んできた。
兄貴が言うような違和感はない。いつも通りにおかしい男だ。
【気にしてないからそっちのウサ子ちゃんたちと仲良くどうぞ】
【あっ、ちくしょう。本当にアズキちゃんはサチ以外に興味ねーのな!】
それは正しいがむしろアンタにまったく興味がない的。
というわけでもないか。ぶっちゃけリアルデロイはちょっと気になる。
「もしかしてデロイからフレンドチャットか?」
ナマ兄貴の声に顔を上げる。
「ああ、うん。そう」
そっか、チャット打ってる音はするのに俺の発言がないから一発でわかるんだな。同じ部屋でプレイしていると、こういうのが面白い。
ロイは俺とサチがデキてると嬉しいような感じではしゃぐ。他人の色恋沙汰に首を突っ込みたがる辺りは少し女っぽいと言えなくもない。
いや、それは偏見だな。リアルでの色恋にまったく興味がない女もいるしな。主に2次元にしか興味のない女とかな……。
「ロイにさー、サチと恋人同士になったって言ってもいい? 性別は言わないからさー」
「…………いいぞ」
少し間を開けて、兄貴が許可を出した。その間にも、チャットを打つ音も聞こえる。ロイと会話でもしてるのかもしれない。
【うん。サッちゃんは私のだから、手を出しちゃダメですよ】
【!!!!!!!!!!!!!】
驚きすぎ。ウザすぎ。
【やー、いやー。そっかー、うんうん。恋人同士の間に割り込むのは野暮かもしれねーけど、またオレとも一緒に狩ってくんな!】
別に……今誘ったのに、断ったのはそっちだろうと。
【ゲームの中ではゲームを遊ぶから、大歓迎です】
【つまり! もう現実的な付き合いまで!】
なんでこんなにテンション高いの?
……ああ、よく考えたらいつもテンションが高いから、通常運転か。
【ご想像にお任せします】
くすくすと笑う声がして再び顔を上げる。
「……何よ」
「和彰ってプレイしてる時、意外と百面相するんだな」
「マジ!?」
思わず顔を両手で押さえてしまった。恥ずかしい……。
兄貴のほう見る余裕もあんまないし、むしろ兄貴には余裕ありありだし。いや、ゲームより俺を見てるからかもしれないが。
ゲームより俺を見てる……このフレーズは中々いいな……。
【もしかして、今、サチと並んでゲームやってたりして!】
なんなのこいつ。エスパー?
鋭いロイの一撃に、内緒、と可愛らしく答えてチャットを終えた。
じゃあこれから狩りだから、また。でしめてしまえばそれ以上しつこくチャットを送ってくることもなく、こういうところはわきまえてるなーと思う。
【お待たせ、行こうか、サッちゃん】
【ふふ、それじゃあ出発にゃあ。頑張って回復してにゃ】
それから回復アイテムを持てるだけ持ってダークエルフを狩りに行ったが、ロイとマリーの壁がないと回復がおっつかず大変だった。判断を少し誤ればサチを死なせてしまう。
もうひたすら回復回復回復。たまにサチが自分でもポーションを使ってくれてなんとかって感じだった。当然チャットしてる余裕はない。
「そこ、矢がくる。右避けて」
「おう」
「闇魔法発動してる。遠距離だから2秒後に敵に近づいてヒール」
「あ、あ、あー! 喰らっちまった」
「詠唱じゃ間に合わないぞ。回復アイテム使って、ロングレジストを延長してくれ」
リアルで会話できることが役に立った。
サチやロイに守られて、普段相当ぬるい狩りをしていたことを思い知らされる。
俺のレベルには見合わない狩り場にソーサラーとペアで来ているんだから当然と言えば当然かもしれない。そもそもこの敵は重装備ができてヒットポイントも高い戦士向けなんだろう。
というか、紙装甲のソーサラーを盾にしている時点でもうな。本来はクレリックが盾をしたほうがまだマシに違いない。ただ俺の防御がサチを超えて紙すぎる。
俺のせいでハードな狩りになっちまってるの、やっぱ少しだけ申し訳ないな……。
「ギリギリのバトルは心が踊るな」
……その点に関しては問題なさそうだ。
兄貴が楽しそうで何よりです。
あれから、30分ほど狩って俺が先にギブした。精神力がもたなかったし、アイテムもすっからかんになった。
じゃあ最後の一匹にゃあとサチが言って……まあ、その瞬間さ、出たんだよ。ブローチが!
実は俺はレア装備を目的にした狩りはこのダークエルフ相手が初めてだったりする。そして前に来た時は連続して出てなかったこともあって、もう感無量。
「よっしゃああ!」
思わず叫んでたね、現実で。
チャットだったら大量のジャンプマークを打っていたことだろう。
凄まじい達成感。脳内アドレナリン出まくり。
次の敵が近づいて来ていたから慌てて帰還スクロールを発動して、顔を上げる。今度は気が抜けて、溜息ひとつ。
はしゃぎすぎて、なんだか気恥ずかしかった。
「やー、ハハハ。兄貴のこと笑えねーな」
「和彰が楽しそうだと僕も嬉しい。自分が好きなものを、好きな人が好きというのは嬉しいものだろう?」
「あー、うん、まあ。そうね」
兄貴の生暖かい感じの視線が眩しい。兄貴はネトゲにはまりたてだから気にならんかもしれんが、正直ちょっと大人としては恥ずかしいことなんだぜ、データひとつでこんなにはしゃぐのは。
まあここには俺と兄貴しかいないから、いっか。
嬉しいもんは嬉しいし、楽しかった。兄貴も喜んでて、俺もそれ見て幸せ。いいじゃないか、それで。
「あー、兄貴、次どうする? せっかくブローチ手に入れたし、プチメタ行っておく?」
「いいな、行こう」
そんなに長いこと狩っていたわけじゃないのに、かなり疲れたな。でもテンションは凄い上がってる。
初めて手にいれたブローチが嬉しくて、それを装備して早速一緒にプチメタを狩りに行った。
……途中で流れ矢に当たって死んだ。
ゲームは一日一時間。俺は廃人にはなれないと悟った休日だった。
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