廃スペックブラザー

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番外編

兄貴にはナイショで

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かずあきくんがお兄ちゃんに隠れてパーティープレイするだけの話。



■■■

 これはまだ、兄貴が一人暮らしを始める前の、ちょっとした話。

「兄貴……」
「ん」

 キスして、愛を囁いて、身体をまさぐる。ベッドの上で甘い雰囲気。
 後ろではログインしたままのネトゲからBGMが流れているが、そんなの知ったこっちゃない。
 最後までしようとしなければ、兄貴が俺を拒むことはほとんどなく、いつでも甘く迎え入れてくれる。情熱的に、向こうから舌を絡めてきてくれたりして。

 だがしかし。兄貴のスマホから着信音。

「すまない、出る」 

 兄貴はしっとりした雰囲気が嘘のように、電話向こうの相手に通常対応。
 マジさあ。今までのとろけた表情なんだったのっていうか、実は演技なんじゃねーのかとか、凹むんですけど……。

 今日が初めてじゃないこのパターン。正直、初めてこういうことがあった日、俺はショックで勃たなくなった。割りとナイーブな俺のチンコ。
 まあまだ突っ込ませてはもらえないから、少々勃たなくなったところでなんら問題はないんですけど。俺の精神的ショック以外は。

「……ああ。大丈夫だ。……わかった。ではまた後で」

 優しい顔、してる。電話越しの相手が少し羨ましい。
 恋人とのコトの最中に出ておいて、そんな顔を見せつけやがりますか。
 これはちょっと、腹いせにからかってやらないと。

「彼女?」 

 電話が終わったのを見計らってそう言った。
 さてどんなリアクションをしてくれるかなと思ったら、兄貴はスマホを置いて頬を染めた。 

「ば、馬鹿なことを言うんじゃない。まだ……そういう関係じゃないぞ」 
「えー、じゃあこれから? って、ちょっ、どんな相手だよ!」 
「お前がいるのに、そんなはずないだろうって言ってほしかったか?」

 からかうつもりが、あっさりやり返された。
 しかもこんな、古典的な手で。

「うう。クソっ。兄貴、ほんと演技うめーよな」 
「そうか?」 
「でも俺を嫌いっていう演技だけはしないでくれよ。絶対」 
「和彰……」 

 真実なら、尚更。
 嘘だったとしても俺は、きっと見抜けないんだろうが。 

「で、結局なんの電話だったんだ? 友達?」 
「ああ、それなんだが、これから少し外出することになった」 
「えー! マジかよ」 
「ああ。仕事の仲間が夕食会を開いてくれるそうだ。歓迎会みたいなものだな」
「そっか。ならしかたねーな。俺は、仕事と俺とどっちが大事なの? とか言わねーし」 

 残念だとは思うけどな。ぶっちゃけちょっと寂しいし。
 でも普段は俺が家族枠も恋人枠も奪ってるんだから、友人枠くらいは譲ってやるさ。 

「和彰だ」 
「えっ?」 
「お前のほうが大事だよ。すぐ帰ってくるから、またあとで」 

 兄貴は俺の額にキスをして、部屋から出ていった。 

 で……デコチューですかああ!
 恋愛経験ゼロとか言ってたくせに、何この手慣れた感。
 なんつう王子様っぷりだよ!

 しっかし、兄貴のスマホ着信音、ネトゲのなんだが……大丈夫なのか、あれ。聞かれたら引かれんじゃねえの。オタクでもイケメンなら無罪なのか。
 ……まあ、俺としては虫除けになるなら大歓迎だ。

 とか考えていると、つけっぱなしだったノートパソコンが音を立てた。 

【アズキちゃん、もしかしてサチ落ちたー?】 
【うん。落ちましたよ。私も落ちるところ】
【そっか。じゃあまたな】

 そして俺も、兄貴に倣ってログアウトする。
 買ったばかりのノートパソコンは、液晶から何からピカピカしてる。
 
 んー……。夕飯にはまだ早い……。
 落ちたばっかでアレだけど、たまにはソロで狩りに行ってみようかな? 
 俺のレベルが上がればサチと二人だけで行けるところも増えるし、みんなで狩る時も心強く思ってもらえる。兄貴も喜んでくれるかも。
 いや、案外嫉妬したりして。誰と狩りに行ったのにゃー! なんて。

 考えたら楽しくなってきて、俺は再びログインアイコンを押した。 

【何言ってんだよ。愛してんのはお前だけだよ】
【はい?】
【え、アズキちゃん? あれっ。あああ、誤爆ったあああ!】 
【今の、誰に送ったつもりだったんですかー?】
【こっ、これから遊ぶ、ウサコちゃんだよ。恥ずッ!】

 誤爆……というのは、送るはずだったメッセージを別の相手に送ってしまう、またはパーティーのつもりが全体チャットになっていたことなどをさす言葉だ。

 ロイくらいプレイ慣れしてても誤爆ってするもんなんだな。
 兄貴がフレンドチャットでもサチの仮面を脱ぎ捨てない理由は、このあたりにあるんだろう。
 ……というか、ロイの場合はすげえ通常運転なんだが……照れる要素がどこにあるのか……。

【今のは忘れろよ。なっ? じゃ、デートだから、また!】

 一方的に会話を切られた。追い込んでやりたい気もする。

「アズキちゃん?」 
「は、はい!」 

 突然オープンチャットで名前を呼ばれて画面を見ると、金髪エンジェルが立っていた。
 マリーだ。タイミング良すぎ。もしや! ロイのチャット相手って……。 

「もしかして、これからロイさんと狩りですか?」 
「えっ。何、急に。違うよ。金策行くとこでさ、野良で仲間を集めてたんだ」 

 違ったか。あの焦りようからして、意表をつく相手に送っていたパターンも有り得るかなと。

「でさ、アズキちゃん、ひょっとして暇? それともサチにゃん待ち?」 
「いえ、暇ですー。サッちゃんは出かけちゃったので」 
「おっ。マジかあ。珍しいな。でもラッキーだ。キミさえ良かったらだけど、パーティ組まない? クレリックだけ揃わなくて困ってたんだ」 
「行きます!」 

 知らない相手とパーティーを組むのは怖い。かといってソロもキツイ。そんな俺にとって、マリーと一緒に狩れるなんて願ってもない申し出だ。

「はは、即答。じゃあ行こう。僕がパーティリーダーだから今誘っちゃうね」 
「はい!」 

 うわー、サチとロイがいないパーティなんか初めてだ。なんかすっげえドキドキしてきた!
 パーティに加入しますか、とサチ以外からコマンドが出て、それを請ける。

『クレリック見つかったよ。アズキちゃんでーす』
『わーい。初めましてー! シーフのクラウです!』
『マーチャントのコールです!』

 金策パーティー、なるほど。
 普段ソーサラーとナイトとしか狩らないから、新鮮だな……。

『あまり人と狩り慣れてないので、ヒールミスったらごめんなさい。よろしくお願いします』

 兄貴とペアはしているが、三人以上で狩ることはほとんどない。人数が増えるほどヒットポイントやレジストの管理が難しくなっていく。
 クラスが違えば立ち回りも違うだろう。特にシーフとマーチャントと狩ることはないと思ってたから、どんなスキル持ってるとかもまったく調べてない。
 それにやっぱり、多少は緊張する。

『行く場所は、金鉱山だよ』
『クエストとかでたまに鉱石を取りに行く場所ですか?』
『そうそう。マーチャントは装備整えればナイトの5倍は積載量があるから、金策としていいんだよ』
『5倍!? 凄いですね!』

 俺とサチでは、行ってすぐ帰ることになってしまい、効率が悪すぎる場所だ。
 まあ、俺はともかくソーサラーであるサチは重いものがほとんど持てないから……。鉱石クエストも天敵だと言っていた。
 その分、後衛からの攻撃力はダントツなんだけどな。

『ぼくは当然、5倍』
『そしてシーフのクラウくんも、罠外し率、ワールドで最高ランククラス』

 廃人の見本市かな?
 さすが、マリーの人脈もおっかねぇわ……。
 まあデロイのフレンドやってるって時点でもうな……。

 ……ハッ!? 俺もそう思われてる気がする。
 俺は普通だ。本当に普通なんだ。そんな期待はしないでくれえええぇ!

 内なる叫びを抱えつつ、クレリックを待ちかねていたらしい三人と、会話もソコソコに金鉱山へと向かった。




 サチと狩るのは俺にとってもちろん一番楽しい。けど、こなれてきて初めて他人とする狩りは酷く新鮮でむちゃくちゃ面白かった。
 見たことのないスキル、シーフがする罠外しの安心感。
 マーチャントは攻撃力こそ低いが、ナイトと同じくらいの耐久を誇り、避けアサシンであるマリーが火力不足を補う。
 敵が密集している場所ではコールが半歩避け、それによってヒールがかけやすくなって感動した。ロイはマジ、暴走機関車のように突っ込んでいくだけだからな……。
 まあ、攻撃力の高さで敵の数を減らせるから、狩り効率的な問題もあるんだろう。

『アズキちゃんてさ、もう決まった相棒いるの?』
『なんだ、コール、ナンパかー?』
『ち、違うよ!』

 これは、まさかモテ期……!?
 ネカマの本領発揮な展開ですか?
 一応男だってことを伝えておいたほうがいいんだろうか。
 女で回復職相手だと男は惚れやすいらしいからな……。

『アズキちゃんには、ラブラブなパートナーがいるよ。ね?』
『は、はい!』

 そっか。何もネカマだってバラさなくても、決まった相手がいることにすればいいのか。

『だよねえ。ここまでパーティー特化のクレリック、中々いないもの。決まった相手がいなければ、しないよね』
『あー、確かに。あわよくば自分が相棒になりたいって思うよなあ。MPやレジストタイム管理も完璧で、プレイヤースキルも申し分ないし……』

 おぉ。何やら褒めてもらえてる。

『そりゃ、アズキちゃんはサチにゃん仕込みだし、ロイともよく狩ってるから』
『まさか、あのサチと、デブストロイか!? そりゃ納得』
『えっ、ひょっとしてロイさんの彼女だったり? ウサ子さんだし……』
『サチにゃんのほうだよ』
『ああー……』

 何故だろう。やたら恥ずかしい感じがするのは。

『でも、よかったら今日みたいにまたパーティー参加してほしいな。サチさんがいない時だけでいいので。よかったらあとで、フレになってくれる?』
『このゲーム、クレリック少ないからなぁ。オレもお願いしたい』
『あ。なら、僕もお願いしておこうかな』

 えっ。ええー。まさかの! マリーからのフレ要請!?
 兄貴が願ってやまなかったあの!
 もちろん他二人からの申し出も嬉しいが、俺にとってマリーとフレンドになるということは、とても特別な意味を持つこと。

『はい、是非……』

 それから二時間、ポワポワした気分で鉱山での狩りを続け、終える頃には分配ゴールドもたくさん、フレリストも三人増え、なんとも実りの多い金策となったのだった。

 おお……。俺のフレリストに、初めてサチとロイ以外の名前が。
 しかもそのうちひとつは……マリーちゃんの。

 兄貴に自慢するか、隠しておくか。それが問題だ。
 フレリストをニヤニヤしながら眺めつつ、ログアウト。

 ……そして、現実に戻る。兄貴のベッドへ大の字になって溜息をつく。 

 楽しかった……。現実を忘れるってこんな感じか。いつもはサチがいるから、俺にとってこのゲームはどこかでリアルと繋がっていた。きっと兄貴は今までこんな感じでプレイしてたんだ。
 箱の中には俺を知る者も、俺が知っている者もいない。みんなは作られたアズキしか知らない。

 別にオンラインゲームはこれが初めてってワケじゃない。
 でも俺はロールプレイをするのも、リアル知り合いがいないっていう状況も初めてだった。こんなに違う感覚になるんだ。
 まるで自分が本当に女になったみたいな、くすぐったい感じ。そういう願望があるわけでもないのにな。

 まあ、すげー楽しかったけど……やっぱ、俺は……兄貴と遊びたいなあと思う。感動も、会話も、一緒に楽しみたい。 
 まいったなあ。今すぐ、会いたいや。仕事の邪魔はできねえけど、兄貴大好きとかライン送っとこ。すぐ帰ってくるかも。

 とりあえず何か腹に入れるかとダイニングへ行って、冷凍の唐揚げをレンチンしたところで兄貴が帰ってきた。

 え、マジですぐに帰ってくるとか。
 愛のメッセージ、効果ありすぎ?

「お帰り、早かったな」
「ああ。和彰はからあげ食べてるのか」

 ……普通の態度だな。まだラインは見てなさそう。

「冷凍モノだけど意外と美味いぜ。ひとくち食べる?」

 唐揚げを箸で摘まんで差し出すと、嫌がられるかと思ったのに素直に食べた。少し頬を染めながら嬉しそうに。兄貴そんなに唐揚げ好きだったっけ。

「そうだな。意外といける」
「だろ?」
「なんだか新婚さんみたいだな。……なんて、ずっと一緒に暮らしているのに、おかしいか」 

 思わず箸を取り落としそうになった。 

 しん、こん、さん……。

 何、その場合、俺が嫁なわけ? 
 はー……。くっそ可愛い。手が震えそうだ。 

「早く新婚初夜したい」 
「お前は本当にそればかりだな」 

 呆れられてしまった。兄貴が可愛いからいけない。本音もだだ漏れになるってもんだ。 

「それはもう少し待て」 
「少し少しってさあ。まあ、待つけどよー」 

 呆れた顔をしつつも、兄貴はなんか楽しそう。
 新婚さんの余韻が残っているからか? いや、帰ってきた時から機嫌はよさそうだった。 

「今日、楽しかったか? 夕食会」 
「ああ。久し振りに友人に会えて、話せて。ゲームをしていた時はそればかりになっていたが、やはり現実も素晴らしい」 

 とかアッサリ言ってのけるあたりが人生イージーモードのハイスペック様だよな。

「ゲームばっかりでもねーだろ。俺と……さあ、恋人同士にだってなったんだし……」 

 兄貴がフフッと笑って俺の頭を撫でる。 

「わかってる。お前がいてくれるから頑張れるし、ここ最近は毎日が生きてきて今までで一番楽しいよ」 

 それって、俺とこうなってからってことだよな。またサラッと凄いこと言いやがって。 
 もちろん無茶苦茶嬉しいが、真っ直ぐにとれない。宥めてるように思えるから。 
 いや、実際そうなんだろう。だって俺、今無茶苦茶拗ねてるし、兄貴にはきっとそれがバレバレだ。大人だから口に出さないだけで。 

「……うん」 
「っ、ああ、もう、可愛いな、和彰は」 

 抱きしめられた。 

「なっ、なんだよ!」 
「恋人を可愛く思うのは普通の感情だろう?」 

 兄貴のこれはなんか違う気がする。でもじんわり幸せなのがまた悔しい。 

「それに、お前にとってもいい報告があるんだ、ほら」 

 目の前に差し出された本は、住宅情報誌だった。 

「ま、まさか、マンションも決まったとか? いくらなんでも早すぎね?」 
「社員寮とは違うが、起業した奴の親がマンション経営をしているそうでな。安く貸してくれるそうだ」 
「なるほど」 

 驚きはしたが、つまりこれって、いよいよ。兄貴とついに最後までエッチできるってことだ。 
 ふと顔を上げると兄貴と目が合う。頬を染められて、なんか俺まで気恥ずかしくなる。 

「まあ、だから……おあずけもそろそろ先が見えてきたし、もう少し我慢してくれ」 
「わかった。今にでもテーブルに押し付けて足開かせて突っ込みたいけど我慢する」 
「……可愛くない」 
「兄貴が大好きだから我慢するって、目を潤ませながら言うような可愛い弟のが良かった?」 
「どっちの和彰でも、愛しいよ」 
「っ……」 

 どこまで本気なのか。全部本気なのか。兄貴の言葉に嘘はないだろうと思ってはいるが、あまりに自分にとって都合が良すぎてだな。 
 だって兄貴には俺の他に好きな奴がいたわけで。俺が勘違いから強引に迫って振り向かせたという過程がある。 
 こんな簡単になびいていいもんなの? ちょろすぎじゃね? 好きだって言われたら、他の奴にもホイホイついていきそうでちょっと怖い。まあ、させねーけどな。 
 兄貴を抱き締め返して、甘い唇をたっぷりと堪能する。 
 甘さの中に微かに香るアルコール。
 それがなんだか悔しくて、食い尽くすように舌を舐めた。 

「っ……ん、和彰、しつこいぞ」 
「いや? 嬉しいくせに」 
「ここではこれ以上、禁止だ」 

 咎めるように唇に指先をあてられた。少しムスッとしているのが可愛らしい。頬は赤いまんまだし。 

「兄貴から抱き締めてきたんだろ」 
「あれは僕の中で兄弟としてのスキンシップ範囲内だからいいんだ」 

 俺もよく使う口実ではあるが、一度として兄弟のスキンシップだと思ったことはない。恋人として触れてる。 
 この、ボタンをかけ違えたみたいなちぐはぐな感情は、身体を繋げたら落ち着くんだろうか。きっともうすぐだってのに、気持ちばかり焦ってしまう。 

「そんな顔をするな」 

 俺の頬を優しく優しく撫でてくれる。我慢できない……って言って、この場で押し倒して無理矢理イカせるくらいなら、しても兄貴は笑って許してくれそうな気がする。 
 婉曲にだが、もうすぐエッチできるぞなんて恋人から甘く囁かれて盛らない男なんている? いや、いまい。ただでさえ俺若いんだから本当無理。味見くらいはしたい。 
 俺の頬を撫でる兄貴の腕を取って、テーブルへ押さえつけようとした瞬間。 

「ただいまー。二人とも帰ってるのー?」 

 デートへ行っていた両親が帰ってきて、俺は兄貴に思い切り突き飛ばされて床へ転がった。 
 物音に驚いてか、二人がぱたぱたとかけてくる。 

「ちょっと、やだ、どうしたの?」 
「喧嘩じゃないだろうな」 

 二人は俺を心配そうに、兄貴を不安そうに見ている。この構図じゃ無理もない。前までなら俺が転げている側でも俺が何かやったんだと決め付けられそうなところだが、最近まで引きこもっていた兄貴は精神的に不安定だと思われているんだろう。 

「なんでもないなんでもない。俺がちょっとふざけたことして、兄貴に押されて勝手によろけただけ。なっ?」 
「あ、ああ。手品の練習を、していて……」 

 まだ引っ張るのかそのネタ。どんだけアグレッシブなショータイムだよ。 

「まあ。和ちゃんが無理矢理タネでも覗こうとしたんでしょ!」 
「まったくしかたないな、和彰は」 

 結局俺が悪者にされたー! 親父もおふくろも、二人してひでえ。

「いや、和彰は悪くないんだ、何も……。それより二人に重大な話がある」 

 ちょ、まさかの修羅場が始まるんじゃねーだろうな。罪を背負うなら一蓮托生だし、心の準備もできてないし、突然の兄弟ホモカミングアウトは困る……! 

「実は、会社が決まって……この家を出ることになったんだ」 

 拍子抜け。つか、よく考えりゃそっちだよな。俺も相当テンパってたみたいだ。
 さっきの続きも、さすがにもうする気はない。 なんだかんだで、両親に対しては俺も後ろめたいんだ。二人が家にいなければ目先の餌につられて欲望が先走るが、いるともうダメ。気分も身体も萎えちまう。背徳感とはまた別のところだ。 

「まあ、本当に? おめでとう! でも寂しくなるわ……」 
「うちは手狭じゃないし、わざわざ急いで出る必要はないんだぞ? 彼女でもできたとかなら話は別だが」 

 まさに家を出る理由は彼女じゃないが恋人を連れ込みたいから。 
 兄貴は動揺などおくびにも出さず笑ってる。
 俺も知らない振りをして、お祝いの言葉をのべた。 




 ……で、部屋へ戻ってきて。 

「はあ、どっと疲れた」 
「和彰。お前、何を自然に僕の部屋へ戻ってきているんだ」 
「だってノートパソコンこっちの部屋だもん」 
「なんだ、あのあと狩りでも行ってたのか?」 
「あー、うん。マリーとかとな」 
「そうか」 

 やっぱり気になるのか、兄貴はそわそわしている。 

「デロイも一緒か?」 
「いや……ロイはウサ子とデートだとかで」 
「そうか。あいつらしいな」 

 兄貴はフフッと笑ってから俺の前にきて、唐突に頭を下げた。

「な、なんだよ」 
「さっきはお前を悪者にしてしまってすまなかった」 
「さっき?」 
「手品の……」 
「あー」 
「咄嗟に口から出たはいいが、そこから先は理由が思い付かず、母さんたちの言葉を否定できなかった」 

 別にいいのに、そんくらい。でもそうだな……せっかくだし。 

「じゃ、ごめんねのキスして。軽いのでいい。それで今日はおとなしく寝るから」

 改めてねだられると照れるのか、それとも緊張するのか……兄貴の身体が少し、強張る。そこがなんか、こう。慣れてない感じがしてたまらない。 
 手慣れたふうに見えるより、こういうほうが俺は好きだ。
 
 少しだけ唇を尖らせて待っていると、なんとも可愛らしいキスが落ちてきた。
 ま、ごめんねのキスだしな。兄貴だし、舌を入れてきたりはしてくれねえか。

「へへ……。じゃあ、おやすみ」 
「ああ、おやすみ。今日はもう、ログインしないのか?」 
「んー。どうすっかな」

 フレンドリストにマリーがいることを、見せて自慢したいような気もした。
 でも、今日は……なんかな。今ログインしたり、それを知られたりしたら……楽しかった時間が、全部なくなってしまうような、そんな気がして。

「今日はやめとくわ。また明日」
「そうか。それじゃあ、また明日な」
「ん」

 ゲームの中での、兄貴への秘密ごと。
 すぐにバレるだろうし、むしろ隠す理由もない。自慢もしたい。
 けどまあ。今日のところは、兄貴には、ナイショで。


 小さな箱の中の大冒険に想いをはせながら、そっとノートパソコンを持ち上げた。
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