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番外編
正月イベント(R15
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恋人同士の正月イベントといえば、初詣に姫始め。俺と兄貴の正月イベントといえば。
「運営からのお年玉が豪華だな、和彰」
もちろんこれだ。
俺たちのやっているオンラインゲームは一般的なソシャゲと違い、月額課金といって始めにプレイ料金を一定払って後はお金がかからないシステム。これは本当に良かったと思う。もし装備ガチャとかがあったら兄貴死ぬほど課金してそうだからな。なまじ経済力があるだけにヤバイ。
ただ今回は正月ってことで、消費アイテムが販売される。もちろん兄貴は意気揚々と装備エンチャント用の正月福袋、小中大を買ってる。お前はどれを買うんだ? とか訊いてくるし。買うの前提かよ。
幸い各サイズひとつまでとなってるため、兄貴の重課金兵デビューはまだ先だ。
正月はイベントが目白押しでパソコンの電源を切る暇もないと言う兄貴に、俺も覚悟を決めて付き合う気でいた。
「さて、それじゃあ行くか」
だが何故か兄貴はパソコンデスクから移動してコートを羽織りはじめた。
「え?」
「なんだ。初詣くらい行くだろう?」
「だって電源を切る暇もないって」
「それくらい楽しみだという意味だ」
まあそりゃそうなんだろうが、アンタ本当に電源切らずに延々やってそうだから。
「あと、今日は……初詣以外にも凄いイベントがあるぞ」
「ゲームの中で?」
「いや、現実でだ」
俺と兄貴の間では割りと頻繁にされる会話の応酬。その度に俺は喜んだりガッカリしたりする。
さて今回はどっちだ。初詣に行けることが確定という時点でガッカリはない。
兄貴は妖艶に笑っている。俺の頭ん中がやらしいことでいっぱいになってるせいで、そう見えるだけかもしれない。
だって初詣以外で。イベント。ゲームじゃなくて現実で。兄貴、好奇心が先に経つと『マジでいいのか?』ってくらいエロイこともさせてくれるからな。これは当然姫始めだろう。そうに違いない!
「デロイと神社で会ってみることになった」
「えええええぇぇえ!?」
今回は、がっかりなんてどっかに飛んでっちまうくらい、度を越えたびっくりだった。
いや、いやいや。え? マジかよ。嘘だろ。
「……マジで?」
「ははっ。凄い顔してるぞ、和彰」
「冗談だろ?」
「いや、本当だ」
俺のリアクションに満足したのか会えるのが楽しみだからか、兄貴はやたらと上機嫌だ。
「なんでよりによって元旦?」
「それが……遠方に住んでいるデロイが、正月はこちらに戻ってくると言っていてな。せっかくだから実際に会ってみようという話に」
「でもなあ、せっかく集まっても店とか開いてねえだろ」
「ははは、何を言ってるんだ。店になど寄るものか。帰ってゲームの中で会うだろう?」
「歪みねーな、オイ」
確かに兄貴とデロイなら、それで納得するだろうなっていう。
俺はオフ会といえばみんなでワイワイ、カラオケで盛り上がったり飲み屋行ったり。ネットで知り合った相手と現実で会うことに、特に抵抗はない。会った相手にガッカリされない自信もあるし。
しかしあのデロイとなると話は別だ。あのデロイだぞ。
マトモな奴がくるのか? むしろ実在しているのか?
「つか、兄貴。アンタ、デロイに……ニャンニャン言ってるサチの中の人として会うんだぞ。それ、わかってんの?」
「わ、わかっている。だが、誘惑に抗えなかった。こんな僕を見ないでくれという気持ちと、あのデロイがどんな奴なのか知りたいという気持ちと……」
「ああ……」
多分デロイも、似たような心境でオーケーしたんだろうな。
自分のことは詮索されたくないけど、サチとアズキの関係は気になる、そんな感じだった。
俺、今までやったネットゲームは完全にイコール俺でネカマなんて初めてなんだよな。デロイは俺が男だって知ってるから、ガッカリするってこたぁないと思うが。
……デロイ。正式名デブストロイ。あのウサコウサコ言ってるキチガイ一歩手前のファイターがどんな男なのか。イメージとしてはガチムチしか思い浮かばねぇ。前にチラッと素を見せてもらえたが、正直いつもの印象が強すぎる。兄貴なんて素のデロイを知らないんだから尚更だろう。
「和彰がどうしても嫌なら考え直すが。すまないな、お前はこういうことに抵抗がないと思っていたから、確認もとらなかった」
「や。いや、いいよ。確かに、俺も会ってみたいしな」
「そうか。良かった。なら行こう」
「って、なんで頭にハチマキ巻くんだよ!」
コートにハチマキとかシュールすぎんだろ。見た目がエリートサラリーマンという風情なだけに、かなりおかしなことになっている。
「そうか。何も家からしていく必要はなかったな」
「そういうことじゃねーだろ。なんでハチマキだよ」
「これは、ヘブンズアースオンラインの販促ハチマキだ」
「お、おう」
「目印としてお互い巻いていこうということになっている」
「いやいやいや……。目印なら何も馬鹿正直に頭に巻く必要はないよな?」
「なるほど」
兄貴、面白すぎる。
目印にお互いハチマキを巻いていくという字面から、正しい使い方をしたんだろう。
「では、神社についたら腕に巻こう」
「そうして」
デロイなら、マジで頭に巻いてきそうだけどな。
ガチムチな男が神社でハチマキ巻いて立ってたら、俺は待ち合わせどころか約束なかったことにして逃げ出す勢いだぞ。
かくして俺たちは、不安と期待を胸に初詣へ向かうのだった。
鳥居前に佇み、白いワンピースを着た姿は、まるで雪の妖精のように見えた。
スレンダーな身体つきだが病的な細さではなく、すらりとした足は健康的な美しさだ。
道行く人が誰しも彼女を振り返り二度見する。
俺は確信した。彼女がデロイだと。
何故なら頭にハチマキを巻いていたから──……!
なんで巻いちゃうかなあ、頭に!
やりそうだとは思ったが、まさか本当にやりやがるとは。
というか女性な上、清楚系美人とかありえねええぇ。ハチマキ堂々と頭に巻いてんのはもっとありえねえけど!
「あの、すみません、もしかしてデロイ……さんですか?」
兄貴も普通に躊躇いなく話しかけてんなよ。あと、外で呼ぶのに呼び方もうちょっとどうにかなんなかったの? 話し合ってねえから俺もデロイって呼ぶしかねえよ、ちきしょう。
「えっ!? サッ、サチ……さん、ですか!?」
デロイの驚きようは凄かった。
兄貴、めちゃくちゃ美形だもんな。その上、クールな印象を裏切って、口を開くと優しそうとか。女なら間違いなく恋に落ちる。
とてもゲーム内でにゃんにゃん言っているようには見えない。
これが男女の出会いの場であれば、間違いなく代理を立てたと思われるだろう。
「はい。サチです」
「で、俺が和彰です」
「かずあ……、あー……」
俺は本名のほうを言って、すぐにわかってもらえた。口に出してみると、あずきというフレーズにかなり近い。そもそもサチといる時点で、まあ。
「えっ、その、本当に二人が……? ネカ、女性のキャラを?」
「は、はい」
恥ずかしそうに頬を染める兄貴たまらん可愛い。
「僕こそ驚きました、彼がこんなにまと……美しい女性だったなんて」
まともな人とか言おうとしたな、兄貴。気持ちはわかるぜ。テンションも普通だしな。
「いいんです、慣れてます。よく、人間だったんだとか実在してたんだとか、本物? とか疑われますから」
バリエーション豊富だなオイ。
でも確かに、本物かどうかは疑いたくなるところだ。この、普通の……むしろ可愛らしい女性が、あのデロイだなんて。
ハチマキを頭に巻いてさえいなければ疑ってた。
「では、せっかくなので一緒にお参りだけしましょうか! レア祈願ですッ!」
「あ、おい、デ、デロ……」
どこで切ってもアレな呼び方に……。い、いや。
「ロイさん。とりあえず、ハチマキ外していったら?」
これでもまだ恥ずかしい。明らかに男名ってか、外人名だし。だが、ハチマキを巻いてるその姿に比べれば霞んでしまうので、呼ぶのに躊躇いはなかった。
「あっ。そういえば、サチさん腕に巻いてます。そんな手が……」
デロイは素直にハチマキを頭から外し、兄貴も腕から外した。
「でも、わかりやすくて良かったですよ」
「なら結果オーライです!」
フォローする兄貴の言葉をそのまま受けとめるデロイ。
オーライなのか。それで済むのか、本当に。
俺たちは、初詣をするため賽銭箱があるほうへ向かった。
兄貴に言われて参道を右足から入ったり、真ん中を避けて歩いたりした。理由は知らないし、兄貴も話すつもりはなさそうだ。デロイに初めて会うから、小難しいことを言うのはやめようと思ったのかもしれない。
デロイは、見れば見るほど『本当にデロイか?』ってなったし、話せば話すほどデロイだった。
「でも、本当にどこかお店に入らなくてもいいのか? せっかく会ったのに」
「え? ゲームの中で会うじゃない?」
「ニューイヤーイベント楽しみだな」
「ねー」
「……ああ、うん、そうだな……」
こんなんは軽い……つか、俺と兄貴の間でも割りとよくある会話なんで、慣れてるから気にならない。
まあ、二人にさも当たり前のように言われると、俺がおかしいのかって気にはなるが。
一番衝撃的だったのは、デロイの旦那とのエピソードだ。既婚者だってのにも、まず驚いたが。
「だ、大丈夫だったのか、既婚者が元旦に出てきても……」
「嫁は昨日遅くまでFPSやって寝てるから」
「……嫁?」
「あっ。旦那ね、旦那。出会いが出会いだったから、つい癖で嫁って言っちゃう。実は、ヘヴンズアースオンラインの前にやってたネトゲで、中の人などどうでもいいってくらい惚れ込んだ女エルフちゃんがいて、プロポーズしたのね。そしたら実は男の人だったから、結婚に至ったみたいな……」
「その気持ちわかるな」
「だよね!」
兄貴、あずきにプロポーズでもする気だったのか……?
「それ、旦那さんよくプロポーズ受けたな。どうせ前のゲームでも、男戦士で今みたいなキャラだったんだろ?」
「うん、そう。だから、最初はネカマに騙された馬鹿な男を笑おうと思って会ったらしいんだけど……」
「そうしたら、君みたいな綺麗な人だったと」
「えっ、その……」
「兄貴、人の嫁をたらしこむの禁止だから!」
「なんのことだ?」
自分のハイスペックさをわかってないから困る。
今までは周りが気後れしてくれてただろうが、サチのことを知っている奴なら親しみやすさがプラスされてマジでやばい。
それこそデロイなら気も合うのがわかってる。何より兄貴には、乙女ゲーオタで病気一歩手前の幼馴染みに惚れていた過去もある。
「綺麗とかはおいといて……。私、相手が女の子だと思ってたから少しでもイケメンに見せようかと思って、リアルの待ち合わせに白いタキシードを着て赤いバラを持って行ったのよ。それを見た嫁が腹痛くなるほど笑ってくれて、結婚するならコイツしかないってなったみたい。今では笑い話だけど」
すげえ。今ではというか、当時から普通に笑い話だぞ。現に旦那爆笑してんじゃねえか。
「確かにそれは、僕でも貴方にプロポーズしたと思います」
「兄貴!!」
……とまあ、少し会話しただけでも、目の前の女性がゲーム内デロイに見えてくるような威力抜群のエピソードが。
あとはゲーム内のことを少し話しながら水で手を洗ったり賽銭入れて祈願しておみくじ引いたりして、もう解散のお時間だ。
ちなみにおみくじは、3人とも小吉という面白味のない結果だったが、悔しがる俺と気にしてなさそうな兄貴、現実では小だからゲームの中で運が向いてくるに違いないとハイテンションなデロイという、三者三様の反応。
願い事は多分、二人はレア祈願だろう。俺は兄貴とイチャイチャできますようにって祈っといた。
「今日はありがとう! 二人で来てくれて良かった。片方だったら、本物か疑っちゃったかも。二人のやり取り見てると、間とかで印象が重なるんだけどね」
それじゃ、またあとでー。と、デロイ嬢は元気よく去っていった。名残惜しげな様子は微塵もない。それにホッとしてしまうのは、兄貴に対して気がなさそうだとわかるからか。多少寂しく感じてしまうのは俺が思いのほかリアルデロイに好感を抱いたからだろう。
そして隣に居る兄貴は何故か暗い顔。
「どした? がっかりしたとか?」
「いや、デロイは可憐な人だった」
「あ、そ……」
「初詣の作法通りにできなかったのが気になってな……。いちいち口煩く言うのは水を差すだけだと、細かいところを言ったりしないんだが」
「端を歩くとか、ああいうの?」
兄貴が頷く。かなり想定外なポイントで表情を曇らせていた。隣でデロイといい雰囲気なのを見せつけられて、俺のほうがしたかったぞ、そんな顔。
「和彰に甘えてるのかもな。お前ひとりなら、きっと口煩く言っていた」
それは喜ぶべきなのか?
できたらもうちょっと、別のところで甘えてほしい。
でも兄貴が兄であり俺が弟である以上、ある一定のラインは越えられないかなとも思う。
「和彰こそ、さっきから少しふてくされた顔をしているぞ」
「そ、そりゃ、兄貴がやたらデロイのこと、気に入ってたし……」
「ああいう、ハキハキと喋る女性が好みなんだ。僕の周りにはしとやかな女性が多いからな」
そりゃみんな明らかにしとやかを作ってんだよ! ネトゲのキャラ作るみたいにさあ。というか、ちゃっかり肯定しやがるし。
「付き合ったりしたいって思った? 可愛い女性だったしさ」
「和彰。僕にはお前以外考えられないから、心配しなくていい。それに、結婚していると言ってたじゃないか」
「兄貴だったら、寝取るくらいは余裕だろ」
兄貴は、本当に不思議そうな顔をしながら首を傾げた。
「ねと……? ネトゲをするの略か?」
何それ新しい。
……寝取るの意味がわかんなかったのか。
いや、もうネト……の響きがネットで固定されていて、他の意味に結び付かないのかもしれない。重症だ。
「その略、絶対外で使うなよ」
「あっ。わかったぞ。下ネタか。下ネタなんだな、和彰」
「いや、そういう……。そうかも。つか、普通に言葉通りだよ。相手にパートナーがいるのをわかってて、セックスして身体から落とすってこと」
「和彰は。僕がそんなことをするような人間だと思うのか?」
「思いません、ごめんなさい」
怒るでもなく焦るでもなく静かに言われて、謝るしかない。
兄貴に対してもデロイに対しても失礼だ。
俺が妬いてるだけで、口説くような台詞も兄貴にとっては日常なんだろうし。むしろ本音を口にしていただけみたいな?
「まあ、妬いてくれたのは嬉しいから、よしとするかな」
「うっ……。兄貴、わかっててやってたんじゃねーだろうな」
「さあどうかな。好印象を与えておけば、僕のレアアイテムは安全だとでも思ったのかもしれない」
「ネトゲかよ……」
俺の尖らせた唇を、兄貴が笑いながら指先で弾く。
「レアアイテム」
「……あっ? は? えええ!?」
お、俺のことかぁあああ! やばい、なんなのこの突然のデレ。
つまりは兄貴も妬いてたってことなんだよな?
この余裕綽々な顔を見る限りどこまで本当か怪しいもんだけどさ。
でも……。嬉しいぞ、クソッ。兄貴に弱すぎるだろ、俺。にやけそうな顔をこらえるので精一杯だ。
「さあ、納得したなら帰ろう」
早くゲームがやりたい兄貴に丸め込まれてるのではないか。そう思わないでもなかったが、素直にのせられてやることにした。
……というか、もうすっかり帰ったらゲームの前にまず姫初めをする気になってる。
一年の計は元旦にあり。今年はちょっと強引な俺でいくぜ。去年は兄貴にしてやられてばっかりだったしな。
とまあ、そんな感じで。人通りの少ない道を、手を繋いで歩けないかなーなんて思いながら兄貴のマンションまで帰って。
何故か今、俺のほうが押し倒されているわけですが。
いや、うん。兄貴が積極的なのは嬉しいんだけどさ。なんか、なんかさあぁ。きっと今年もこんな感じで兄貴は俺の上をいくんだろうな。
「どうした? あまり乗り気じゃないな」
「兄貴が俺の上に乗ってるから」
「前は乗ってほしいと自分からねだっておきながら」
その時は、まさか兄貴がこんなにノリノリで乗るようになるとは思わなかったんだよ。
初めての騎乗位は恥ずかしがったと思うだろ? もの凄い楽しそうだったんだぜ。ネトゲで新しいイベントが来た時みたいに……。この体位はとてもお気に召したらしく兄貴がその気になる時は大体コレだ。
「マグロでいろとまでは言わねえけど、俺も兄貴に色々してやりてえんだよ」
「はっ。下から突き上げておきながら、よく言う……」
兄貴が身を震わせると、中がきゅうっと締まった。
「ッ……兄貴」
「和彰……」
壮絶に色っぽい。この表情だけでもっていかれそうになる。
衣服は上だけが申し訳程度にかかっていて、素肌はしっとり汗ばんでいる。少し撫でただけで手のひらになじんで、このままくっついてしまうんじゃないかってほど離れがたい。
俺に跨がっている太股を掴んで付け根を押すと、兄貴が短く喘いで背をしならせた。
こぼれ落ちる汗がすっげえ綺麗で、思わず身を起こして舐めあげる。
「あ、和ぁ……ッ。急に深い……」
普段はクールな兄貴のこんなとろけた顔、俺しか知らないんだと思うとたまらない。これから先も、誰にも見せたくない。兄貴だって少しはそう思ってくれてるんだろ?
兄という立場上、素直になるのは難しいかもしれないが、俺はアンタが少しでも独占欲を見せてくれるその瞬間が。
「好きだ、兄貴……」
「あ、あ、あッ……」
身を起こした俺の背を、兄貴がかきいだく。強くしがみつかれて、肉体的な快感以上の幸福が脳を痺れさせた。
「や、噛む、な……ぁ」
「もう食っちまいてぇ」
「ッ……」
報復とばかりに、俺の肩には赤い歯形が残された。
ヒリヒリはするが、血が出るまでは噛んでくれない。こういうところも兄貴らしい。
「ごめんなー、兄貴」
「反省の色が足りない。抉れるほど噛むやつがあるか。本当に……僕はいつかお前に、喰われそうだ」
血の味を舌で確かめた途端ヒートアップした俺に揺すられまくった兄貴は、起きあがれなくなってベッドで寝転がりながらネトゲにログインしている。
イベントがあるのはわかるが、こんな状態でもネトゲするんだから相当だ。しかも俺のノートパソコンで。
俺は兄貴の身体を綺麗に拭いたり、手当てをしたり、甲斐甲斐しくしている。
「和彰のノートパソコン、少し動作が遅いな。もっとハイスペックなものにしたほうがいいんじゃないか?」
廃スペックなのは兄貴だけで充分だから……。
「これでも、かなりいいヤツなんだぜ。兄貴のと比べるなよ」
血の滲む噛み跡に舌を這わせると、額をピシャリと叩かれた。
「今日はもうしない」
「舐めただけだろ」
「今のは確実に先がある舐め方だった」
鋭い。というよりは経験則か。だって、こんなふうに剥き出しの肩をさらされてたらさあ。
暖房でかなり暖かいとはいえ、冬の露出はやたらエッチに見える気がする。
「さっきはノリノリだったのに、一発ヤッたら用済みかよ……」
「そう拗ねるな」
兄貴はふふっと笑って、俺の頭を撫でた。
「実家にも顔を出さなきゃいけないから、そんなに無理はできないだろう?」
「すでに無理しちまったけどな」
「だからこそ、これ以上は……本当に動けなくなる」
「風邪でも引いたとか言って、今日は家で休んでりゃいいだろ」
「そういう嘘はつきたくないな。理由も理由だ」
「そうかよ」
俺としては実家に帰るより、二人でいたい気持ちのほうが強い。これじゃ母親の愛情を欲しがる子供と一緒だ。ガキくせえ。
「でも、和彰に欲しがってもらえるのは凄く好きだ」
俺が一時期よそよそしくしていた影響から、兄貴は俺の執着心に酷く安心するらしい。これだけ噛んでもあまり怒らないのはそのせいだろう。
「欲しがっても、そう簡単にヤらせてくれないくせに」
「思うままにさせてたら、飽きられそうだろ?」
「飽きねーよ」
てか、それむしろ、俺のがやばくね? 兄貴に飽きられたら……。今は好奇心の塊だから相手をしてくれてるが、性欲自体はあまり強くなさそうだし。
これからは、あまり迫らないでおくか。いや無理。
「かずあき」
優しい声で兄貴が俺の名前を呼ぶ。ああ、好きだなと思う。どうしようもなく。あまりワガママは言わないでおきたいのに、つい口にしちまうのはアンタが兄で俺が弟だからなのかな。
振り返った兄貴にキスをされて、考えていたことがすべてどうでもよくなった。
「実家に帰ればおせちもある」
「あんまり好きじゃない」
触れるだけのキスを深くしようとすると、押し返された。
「今年もよろしくな」
「とってつけたようにさあ。せめてネトゲ落ちてから言えよな」
まあ、さっきは俺を優先して、姫はじめ、してくれたけどさ。
どっちかっていうと、アレは俺から強引にいこうとしたら逆に乗られたみたいな? つまり、不完全燃焼なんだよ、俺としては。
「可愛い弟にお年玉をやるつもりでいたのに、そんな態度をとるんだな」
「えっ!? マジ!?」
「ああ。治療はもういいから、僕のパソコンからログインするんだ」
「ゲームマネーかよ……」
と言いつつも、素直にログインしてしまう俺。
……一年の計。まあ、その通りにいったことなんて、結局一度もねーからな。今年もそういうことになるんだろう。
「なあ。兄貴の、一年の計は?」
「常にレベルキャップマックスでいることだな」
「ネトゲかよ!」
きっと兄貴は、元旦に立てた一年の計画が崩れたことなんてない人生。はなから勝ち目はない。現実でもレベルマックスな男だ。
「……こ、今年は俺に突っ込みたい、とかねえの?」
「それは。お前次第だな」
そう言って笑った兄貴が本当に男前過ぎたので、思わず尻を押さえてしまった。
俺の中に処女を捨てる計画はまだない。
「兄貴に飽きられそうな時がきたら、考える」
「つまり、一生ないってことか」
「ああ、もう!」
抱いて! って言いたくなるところだが、今年も一年……兄貴がネコで、どうぞよろしくお願いいたします。
「運営からのお年玉が豪華だな、和彰」
もちろんこれだ。
俺たちのやっているオンラインゲームは一般的なソシャゲと違い、月額課金といって始めにプレイ料金を一定払って後はお金がかからないシステム。これは本当に良かったと思う。もし装備ガチャとかがあったら兄貴死ぬほど課金してそうだからな。なまじ経済力があるだけにヤバイ。
ただ今回は正月ってことで、消費アイテムが販売される。もちろん兄貴は意気揚々と装備エンチャント用の正月福袋、小中大を買ってる。お前はどれを買うんだ? とか訊いてくるし。買うの前提かよ。
幸い各サイズひとつまでとなってるため、兄貴の重課金兵デビューはまだ先だ。
正月はイベントが目白押しでパソコンの電源を切る暇もないと言う兄貴に、俺も覚悟を決めて付き合う気でいた。
「さて、それじゃあ行くか」
だが何故か兄貴はパソコンデスクから移動してコートを羽織りはじめた。
「え?」
「なんだ。初詣くらい行くだろう?」
「だって電源を切る暇もないって」
「それくらい楽しみだという意味だ」
まあそりゃそうなんだろうが、アンタ本当に電源切らずに延々やってそうだから。
「あと、今日は……初詣以外にも凄いイベントがあるぞ」
「ゲームの中で?」
「いや、現実でだ」
俺と兄貴の間では割りと頻繁にされる会話の応酬。その度に俺は喜んだりガッカリしたりする。
さて今回はどっちだ。初詣に行けることが確定という時点でガッカリはない。
兄貴は妖艶に笑っている。俺の頭ん中がやらしいことでいっぱいになってるせいで、そう見えるだけかもしれない。
だって初詣以外で。イベント。ゲームじゃなくて現実で。兄貴、好奇心が先に経つと『マジでいいのか?』ってくらいエロイこともさせてくれるからな。これは当然姫始めだろう。そうに違いない!
「デロイと神社で会ってみることになった」
「えええええぇぇえ!?」
今回は、がっかりなんてどっかに飛んでっちまうくらい、度を越えたびっくりだった。
いや、いやいや。え? マジかよ。嘘だろ。
「……マジで?」
「ははっ。凄い顔してるぞ、和彰」
「冗談だろ?」
「いや、本当だ」
俺のリアクションに満足したのか会えるのが楽しみだからか、兄貴はやたらと上機嫌だ。
「なんでよりによって元旦?」
「それが……遠方に住んでいるデロイが、正月はこちらに戻ってくると言っていてな。せっかくだから実際に会ってみようという話に」
「でもなあ、せっかく集まっても店とか開いてねえだろ」
「ははは、何を言ってるんだ。店になど寄るものか。帰ってゲームの中で会うだろう?」
「歪みねーな、オイ」
確かに兄貴とデロイなら、それで納得するだろうなっていう。
俺はオフ会といえばみんなでワイワイ、カラオケで盛り上がったり飲み屋行ったり。ネットで知り合った相手と現実で会うことに、特に抵抗はない。会った相手にガッカリされない自信もあるし。
しかしあのデロイとなると話は別だ。あのデロイだぞ。
マトモな奴がくるのか? むしろ実在しているのか?
「つか、兄貴。アンタ、デロイに……ニャンニャン言ってるサチの中の人として会うんだぞ。それ、わかってんの?」
「わ、わかっている。だが、誘惑に抗えなかった。こんな僕を見ないでくれという気持ちと、あのデロイがどんな奴なのか知りたいという気持ちと……」
「ああ……」
多分デロイも、似たような心境でオーケーしたんだろうな。
自分のことは詮索されたくないけど、サチとアズキの関係は気になる、そんな感じだった。
俺、今までやったネットゲームは完全にイコール俺でネカマなんて初めてなんだよな。デロイは俺が男だって知ってるから、ガッカリするってこたぁないと思うが。
……デロイ。正式名デブストロイ。あのウサコウサコ言ってるキチガイ一歩手前のファイターがどんな男なのか。イメージとしてはガチムチしか思い浮かばねぇ。前にチラッと素を見せてもらえたが、正直いつもの印象が強すぎる。兄貴なんて素のデロイを知らないんだから尚更だろう。
「和彰がどうしても嫌なら考え直すが。すまないな、お前はこういうことに抵抗がないと思っていたから、確認もとらなかった」
「や。いや、いいよ。確かに、俺も会ってみたいしな」
「そうか。良かった。なら行こう」
「って、なんで頭にハチマキ巻くんだよ!」
コートにハチマキとかシュールすぎんだろ。見た目がエリートサラリーマンという風情なだけに、かなりおかしなことになっている。
「そうか。何も家からしていく必要はなかったな」
「そういうことじゃねーだろ。なんでハチマキだよ」
「これは、ヘブンズアースオンラインの販促ハチマキだ」
「お、おう」
「目印としてお互い巻いていこうということになっている」
「いやいやいや……。目印なら何も馬鹿正直に頭に巻く必要はないよな?」
「なるほど」
兄貴、面白すぎる。
目印にお互いハチマキを巻いていくという字面から、正しい使い方をしたんだろう。
「では、神社についたら腕に巻こう」
「そうして」
デロイなら、マジで頭に巻いてきそうだけどな。
ガチムチな男が神社でハチマキ巻いて立ってたら、俺は待ち合わせどころか約束なかったことにして逃げ出す勢いだぞ。
かくして俺たちは、不安と期待を胸に初詣へ向かうのだった。
鳥居前に佇み、白いワンピースを着た姿は、まるで雪の妖精のように見えた。
スレンダーな身体つきだが病的な細さではなく、すらりとした足は健康的な美しさだ。
道行く人が誰しも彼女を振り返り二度見する。
俺は確信した。彼女がデロイだと。
何故なら頭にハチマキを巻いていたから──……!
なんで巻いちゃうかなあ、頭に!
やりそうだとは思ったが、まさか本当にやりやがるとは。
というか女性な上、清楚系美人とかありえねええぇ。ハチマキ堂々と頭に巻いてんのはもっとありえねえけど!
「あの、すみません、もしかしてデロイ……さんですか?」
兄貴も普通に躊躇いなく話しかけてんなよ。あと、外で呼ぶのに呼び方もうちょっとどうにかなんなかったの? 話し合ってねえから俺もデロイって呼ぶしかねえよ、ちきしょう。
「えっ!? サッ、サチ……さん、ですか!?」
デロイの驚きようは凄かった。
兄貴、めちゃくちゃ美形だもんな。その上、クールな印象を裏切って、口を開くと優しそうとか。女なら間違いなく恋に落ちる。
とてもゲーム内でにゃんにゃん言っているようには見えない。
これが男女の出会いの場であれば、間違いなく代理を立てたと思われるだろう。
「はい。サチです」
「で、俺が和彰です」
「かずあ……、あー……」
俺は本名のほうを言って、すぐにわかってもらえた。口に出してみると、あずきというフレーズにかなり近い。そもそもサチといる時点で、まあ。
「えっ、その、本当に二人が……? ネカ、女性のキャラを?」
「は、はい」
恥ずかしそうに頬を染める兄貴たまらん可愛い。
「僕こそ驚きました、彼がこんなにまと……美しい女性だったなんて」
まともな人とか言おうとしたな、兄貴。気持ちはわかるぜ。テンションも普通だしな。
「いいんです、慣れてます。よく、人間だったんだとか実在してたんだとか、本物? とか疑われますから」
バリエーション豊富だなオイ。
でも確かに、本物かどうかは疑いたくなるところだ。この、普通の……むしろ可愛らしい女性が、あのデロイだなんて。
ハチマキを頭に巻いてさえいなければ疑ってた。
「では、せっかくなので一緒にお参りだけしましょうか! レア祈願ですッ!」
「あ、おい、デ、デロ……」
どこで切ってもアレな呼び方に……。い、いや。
「ロイさん。とりあえず、ハチマキ外していったら?」
これでもまだ恥ずかしい。明らかに男名ってか、外人名だし。だが、ハチマキを巻いてるその姿に比べれば霞んでしまうので、呼ぶのに躊躇いはなかった。
「あっ。そういえば、サチさん腕に巻いてます。そんな手が……」
デロイは素直にハチマキを頭から外し、兄貴も腕から外した。
「でも、わかりやすくて良かったですよ」
「なら結果オーライです!」
フォローする兄貴の言葉をそのまま受けとめるデロイ。
オーライなのか。それで済むのか、本当に。
俺たちは、初詣をするため賽銭箱があるほうへ向かった。
兄貴に言われて参道を右足から入ったり、真ん中を避けて歩いたりした。理由は知らないし、兄貴も話すつもりはなさそうだ。デロイに初めて会うから、小難しいことを言うのはやめようと思ったのかもしれない。
デロイは、見れば見るほど『本当にデロイか?』ってなったし、話せば話すほどデロイだった。
「でも、本当にどこかお店に入らなくてもいいのか? せっかく会ったのに」
「え? ゲームの中で会うじゃない?」
「ニューイヤーイベント楽しみだな」
「ねー」
「……ああ、うん、そうだな……」
こんなんは軽い……つか、俺と兄貴の間でも割りとよくある会話なんで、慣れてるから気にならない。
まあ、二人にさも当たり前のように言われると、俺がおかしいのかって気にはなるが。
一番衝撃的だったのは、デロイの旦那とのエピソードだ。既婚者だってのにも、まず驚いたが。
「だ、大丈夫だったのか、既婚者が元旦に出てきても……」
「嫁は昨日遅くまでFPSやって寝てるから」
「……嫁?」
「あっ。旦那ね、旦那。出会いが出会いだったから、つい癖で嫁って言っちゃう。実は、ヘヴンズアースオンラインの前にやってたネトゲで、中の人などどうでもいいってくらい惚れ込んだ女エルフちゃんがいて、プロポーズしたのね。そしたら実は男の人だったから、結婚に至ったみたいな……」
「その気持ちわかるな」
「だよね!」
兄貴、あずきにプロポーズでもする気だったのか……?
「それ、旦那さんよくプロポーズ受けたな。どうせ前のゲームでも、男戦士で今みたいなキャラだったんだろ?」
「うん、そう。だから、最初はネカマに騙された馬鹿な男を笑おうと思って会ったらしいんだけど……」
「そうしたら、君みたいな綺麗な人だったと」
「えっ、その……」
「兄貴、人の嫁をたらしこむの禁止だから!」
「なんのことだ?」
自分のハイスペックさをわかってないから困る。
今までは周りが気後れしてくれてただろうが、サチのことを知っている奴なら親しみやすさがプラスされてマジでやばい。
それこそデロイなら気も合うのがわかってる。何より兄貴には、乙女ゲーオタで病気一歩手前の幼馴染みに惚れていた過去もある。
「綺麗とかはおいといて……。私、相手が女の子だと思ってたから少しでもイケメンに見せようかと思って、リアルの待ち合わせに白いタキシードを着て赤いバラを持って行ったのよ。それを見た嫁が腹痛くなるほど笑ってくれて、結婚するならコイツしかないってなったみたい。今では笑い話だけど」
すげえ。今ではというか、当時から普通に笑い話だぞ。現に旦那爆笑してんじゃねえか。
「確かにそれは、僕でも貴方にプロポーズしたと思います」
「兄貴!!」
……とまあ、少し会話しただけでも、目の前の女性がゲーム内デロイに見えてくるような威力抜群のエピソードが。
あとはゲーム内のことを少し話しながら水で手を洗ったり賽銭入れて祈願しておみくじ引いたりして、もう解散のお時間だ。
ちなみにおみくじは、3人とも小吉という面白味のない結果だったが、悔しがる俺と気にしてなさそうな兄貴、現実では小だからゲームの中で運が向いてくるに違いないとハイテンションなデロイという、三者三様の反応。
願い事は多分、二人はレア祈願だろう。俺は兄貴とイチャイチャできますようにって祈っといた。
「今日はありがとう! 二人で来てくれて良かった。片方だったら、本物か疑っちゃったかも。二人のやり取り見てると、間とかで印象が重なるんだけどね」
それじゃ、またあとでー。と、デロイ嬢は元気よく去っていった。名残惜しげな様子は微塵もない。それにホッとしてしまうのは、兄貴に対して気がなさそうだとわかるからか。多少寂しく感じてしまうのは俺が思いのほかリアルデロイに好感を抱いたからだろう。
そして隣に居る兄貴は何故か暗い顔。
「どした? がっかりしたとか?」
「いや、デロイは可憐な人だった」
「あ、そ……」
「初詣の作法通りにできなかったのが気になってな……。いちいち口煩く言うのは水を差すだけだと、細かいところを言ったりしないんだが」
「端を歩くとか、ああいうの?」
兄貴が頷く。かなり想定外なポイントで表情を曇らせていた。隣でデロイといい雰囲気なのを見せつけられて、俺のほうがしたかったぞ、そんな顔。
「和彰に甘えてるのかもな。お前ひとりなら、きっと口煩く言っていた」
それは喜ぶべきなのか?
できたらもうちょっと、別のところで甘えてほしい。
でも兄貴が兄であり俺が弟である以上、ある一定のラインは越えられないかなとも思う。
「和彰こそ、さっきから少しふてくされた顔をしているぞ」
「そ、そりゃ、兄貴がやたらデロイのこと、気に入ってたし……」
「ああいう、ハキハキと喋る女性が好みなんだ。僕の周りにはしとやかな女性が多いからな」
そりゃみんな明らかにしとやかを作ってんだよ! ネトゲのキャラ作るみたいにさあ。というか、ちゃっかり肯定しやがるし。
「付き合ったりしたいって思った? 可愛い女性だったしさ」
「和彰。僕にはお前以外考えられないから、心配しなくていい。それに、結婚していると言ってたじゃないか」
「兄貴だったら、寝取るくらいは余裕だろ」
兄貴は、本当に不思議そうな顔をしながら首を傾げた。
「ねと……? ネトゲをするの略か?」
何それ新しい。
……寝取るの意味がわかんなかったのか。
いや、もうネト……の響きがネットで固定されていて、他の意味に結び付かないのかもしれない。重症だ。
「その略、絶対外で使うなよ」
「あっ。わかったぞ。下ネタか。下ネタなんだな、和彰」
「いや、そういう……。そうかも。つか、普通に言葉通りだよ。相手にパートナーがいるのをわかってて、セックスして身体から落とすってこと」
「和彰は。僕がそんなことをするような人間だと思うのか?」
「思いません、ごめんなさい」
怒るでもなく焦るでもなく静かに言われて、謝るしかない。
兄貴に対してもデロイに対しても失礼だ。
俺が妬いてるだけで、口説くような台詞も兄貴にとっては日常なんだろうし。むしろ本音を口にしていただけみたいな?
「まあ、妬いてくれたのは嬉しいから、よしとするかな」
「うっ……。兄貴、わかっててやってたんじゃねーだろうな」
「さあどうかな。好印象を与えておけば、僕のレアアイテムは安全だとでも思ったのかもしれない」
「ネトゲかよ……」
俺の尖らせた唇を、兄貴が笑いながら指先で弾く。
「レアアイテム」
「……あっ? は? えええ!?」
お、俺のことかぁあああ! やばい、なんなのこの突然のデレ。
つまりは兄貴も妬いてたってことなんだよな?
この余裕綽々な顔を見る限りどこまで本当か怪しいもんだけどさ。
でも……。嬉しいぞ、クソッ。兄貴に弱すぎるだろ、俺。にやけそうな顔をこらえるので精一杯だ。
「さあ、納得したなら帰ろう」
早くゲームがやりたい兄貴に丸め込まれてるのではないか。そう思わないでもなかったが、素直にのせられてやることにした。
……というか、もうすっかり帰ったらゲームの前にまず姫初めをする気になってる。
一年の計は元旦にあり。今年はちょっと強引な俺でいくぜ。去年は兄貴にしてやられてばっかりだったしな。
とまあ、そんな感じで。人通りの少ない道を、手を繋いで歩けないかなーなんて思いながら兄貴のマンションまで帰って。
何故か今、俺のほうが押し倒されているわけですが。
いや、うん。兄貴が積極的なのは嬉しいんだけどさ。なんか、なんかさあぁ。きっと今年もこんな感じで兄貴は俺の上をいくんだろうな。
「どうした? あまり乗り気じゃないな」
「兄貴が俺の上に乗ってるから」
「前は乗ってほしいと自分からねだっておきながら」
その時は、まさか兄貴がこんなにノリノリで乗るようになるとは思わなかったんだよ。
初めての騎乗位は恥ずかしがったと思うだろ? もの凄い楽しそうだったんだぜ。ネトゲで新しいイベントが来た時みたいに……。この体位はとてもお気に召したらしく兄貴がその気になる時は大体コレだ。
「マグロでいろとまでは言わねえけど、俺も兄貴に色々してやりてえんだよ」
「はっ。下から突き上げておきながら、よく言う……」
兄貴が身を震わせると、中がきゅうっと締まった。
「ッ……兄貴」
「和彰……」
壮絶に色っぽい。この表情だけでもっていかれそうになる。
衣服は上だけが申し訳程度にかかっていて、素肌はしっとり汗ばんでいる。少し撫でただけで手のひらになじんで、このままくっついてしまうんじゃないかってほど離れがたい。
俺に跨がっている太股を掴んで付け根を押すと、兄貴が短く喘いで背をしならせた。
こぼれ落ちる汗がすっげえ綺麗で、思わず身を起こして舐めあげる。
「あ、和ぁ……ッ。急に深い……」
普段はクールな兄貴のこんなとろけた顔、俺しか知らないんだと思うとたまらない。これから先も、誰にも見せたくない。兄貴だって少しはそう思ってくれてるんだろ?
兄という立場上、素直になるのは難しいかもしれないが、俺はアンタが少しでも独占欲を見せてくれるその瞬間が。
「好きだ、兄貴……」
「あ、あ、あッ……」
身を起こした俺の背を、兄貴がかきいだく。強くしがみつかれて、肉体的な快感以上の幸福が脳を痺れさせた。
「や、噛む、な……ぁ」
「もう食っちまいてぇ」
「ッ……」
報復とばかりに、俺の肩には赤い歯形が残された。
ヒリヒリはするが、血が出るまでは噛んでくれない。こういうところも兄貴らしい。
「ごめんなー、兄貴」
「反省の色が足りない。抉れるほど噛むやつがあるか。本当に……僕はいつかお前に、喰われそうだ」
血の味を舌で確かめた途端ヒートアップした俺に揺すられまくった兄貴は、起きあがれなくなってベッドで寝転がりながらネトゲにログインしている。
イベントがあるのはわかるが、こんな状態でもネトゲするんだから相当だ。しかも俺のノートパソコンで。
俺は兄貴の身体を綺麗に拭いたり、手当てをしたり、甲斐甲斐しくしている。
「和彰のノートパソコン、少し動作が遅いな。もっとハイスペックなものにしたほうがいいんじゃないか?」
廃スペックなのは兄貴だけで充分だから……。
「これでも、かなりいいヤツなんだぜ。兄貴のと比べるなよ」
血の滲む噛み跡に舌を這わせると、額をピシャリと叩かれた。
「今日はもうしない」
「舐めただけだろ」
「今のは確実に先がある舐め方だった」
鋭い。というよりは経験則か。だって、こんなふうに剥き出しの肩をさらされてたらさあ。
暖房でかなり暖かいとはいえ、冬の露出はやたらエッチに見える気がする。
「さっきはノリノリだったのに、一発ヤッたら用済みかよ……」
「そう拗ねるな」
兄貴はふふっと笑って、俺の頭を撫でた。
「実家にも顔を出さなきゃいけないから、そんなに無理はできないだろう?」
「すでに無理しちまったけどな」
「だからこそ、これ以上は……本当に動けなくなる」
「風邪でも引いたとか言って、今日は家で休んでりゃいいだろ」
「そういう嘘はつきたくないな。理由も理由だ」
「そうかよ」
俺としては実家に帰るより、二人でいたい気持ちのほうが強い。これじゃ母親の愛情を欲しがる子供と一緒だ。ガキくせえ。
「でも、和彰に欲しがってもらえるのは凄く好きだ」
俺が一時期よそよそしくしていた影響から、兄貴は俺の執着心に酷く安心するらしい。これだけ噛んでもあまり怒らないのはそのせいだろう。
「欲しがっても、そう簡単にヤらせてくれないくせに」
「思うままにさせてたら、飽きられそうだろ?」
「飽きねーよ」
てか、それむしろ、俺のがやばくね? 兄貴に飽きられたら……。今は好奇心の塊だから相手をしてくれてるが、性欲自体はあまり強くなさそうだし。
これからは、あまり迫らないでおくか。いや無理。
「かずあき」
優しい声で兄貴が俺の名前を呼ぶ。ああ、好きだなと思う。どうしようもなく。あまりワガママは言わないでおきたいのに、つい口にしちまうのはアンタが兄で俺が弟だからなのかな。
振り返った兄貴にキスをされて、考えていたことがすべてどうでもよくなった。
「実家に帰ればおせちもある」
「あんまり好きじゃない」
触れるだけのキスを深くしようとすると、押し返された。
「今年もよろしくな」
「とってつけたようにさあ。せめてネトゲ落ちてから言えよな」
まあ、さっきは俺を優先して、姫はじめ、してくれたけどさ。
どっちかっていうと、アレは俺から強引にいこうとしたら逆に乗られたみたいな? つまり、不完全燃焼なんだよ、俺としては。
「可愛い弟にお年玉をやるつもりでいたのに、そんな態度をとるんだな」
「えっ!? マジ!?」
「ああ。治療はもういいから、僕のパソコンからログインするんだ」
「ゲームマネーかよ……」
と言いつつも、素直にログインしてしまう俺。
……一年の計。まあ、その通りにいったことなんて、結局一度もねーからな。今年もそういうことになるんだろう。
「なあ。兄貴の、一年の計は?」
「常にレベルキャップマックスでいることだな」
「ネトゲかよ!」
きっと兄貴は、元旦に立てた一年の計画が崩れたことなんてない人生。はなから勝ち目はない。現実でもレベルマックスな男だ。
「……こ、今年は俺に突っ込みたい、とかねえの?」
「それは。お前次第だな」
そう言って笑った兄貴が本当に男前過ぎたので、思わず尻を押さえてしまった。
俺の中に処女を捨てる計画はまだない。
「兄貴に飽きられそうな時がきたら、考える」
「つまり、一生ないってことか」
「ああ、もう!」
抱いて! って言いたくなるところだが、今年も一年……兄貴がネコで、どうぞよろしくお願いいたします。
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