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本編
花を持ってきた
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昨日夜、王子様と出会う。そして今朝、家の周りを妙な黒服がうろついているのを発見。
これはもう明らかに、金城さん関係だよな。
どうしよう。彼に伝えてあげたほうがいいのか。でも鬼気迫るような感じもないし、本当に見てるだけみたいな……見守ってるような。
そう、あれだ。遠い昔に見た、初めてのお使いを思い出す。
プロならもっと上手くやるだろうし、おそらく金城さんちの使用人か何かじゃなかろうか。
声をかけようかどうしようか多少迷ったけど、面倒事に手を出さないほうがいいのはわかっている。僕には王子様との近所づきあいだけで精一杯。
充分な食費を貰えたから、奮発して少しいい肉を買ってきた。安く済ませて後は貯金も考えたけど、お金を貰っている以上、きちんとした食材買うべきだと思った。僕自身も便乗して美味しいものが食べられて、言うことなし。まあ、調達は近所のスーパーだけれど。
それにしても……人のためにご飯を作るなんて、どれくらいぶりだろう。でも、あんなお金持ちそうな人に、僕の料理なんて口にあうかどうか。不味くても紳士的な態度で、美味しいよって背中に花をしょいながら言いそうだけど。
今日は豚のしょうが焼きに南瓜の煮付け、豆腐のかつおオクラ乗せ。えのきの味噌汁。しょうが焼きはカリカリバージョンだ。
そういえば金城さん、朝や昼はちゃんと食べたのかな。
あの額を貰って夕飯だけじゃ悪いし、明日の朝の分くらいタッパーに詰めといてあげようかな。
約束の時間まであと少し。後ろで炊飯器が、炊き上がりの音を告げた。
それからほどなくして、インターフォンがひび割れた音を鳴らす。少しドキドキしながら扉を開けると……薔薇の花束を抱えた金城さんが立っていた。思わず閉めたくなった。
「本日はお招きありがとう」
「お招きって、いうか……」
続く言葉が出てこない。こういう時、どういう行動をとったらいいんだろう。
笑顔で受け取る? 迷惑そうな顔をしてみる?
「こういうプレゼントは、食べられる物とか洗剤のほうが嬉しいです」
素直な心の内を話すと、金城さんはエッと固まって不思議そうに首を傾げた。
そんな仕草、僕のほうがしてやりたい。
きっと花束を贈って迷惑がられることなんてない人生だったのだろう……。
「この薔薇、食べられますかね?」
冗談でそう言うと、本気で困った顔をしていて、胸がすくような感じがした。
こういう顔が見られるなら、この人の突飛な行動も、まあ悪くはないか。
結果的に言うと、僕の料理を食べた金城さんの反応は、だいたい予想通りだった。花をしょってる感じの笑顔で、美味しいよって言う。まさか本物の花を持ってくるとは予想だにしなかったけど。
「食後に紅茶をいれましょうか。安物のティーバッグですけど」
「悪いね、そんなことまでしてもらって」
「自分のをいれるついでですから」
さすがに再度乾かして使うほど貧困ではないにしろ、おつとめ品になっていたティーバッグ。ちなみに、既に賞味期限は切れてしまっている。
金城さんは見た目だけでなく、胃もお上品そうだからな。お腹を壊してしまうかもしれない……。
せめてロイヤルミルクティーにしてあげようと、貴重な牛乳をミルクパンに入れて火にかけた。牛乳は一応期限切れではない。開封後はなるべくお早目にお飲みくださいと書いてあるけど、早めに飲めたことはあんまりない。
ジワジワと紅茶を煮出しながら、食事中の金城さんを思い出す。
箸はきちんと使えていたし、食べ方も綺麗だった。ボロい折り畳み式のちゃぶ台の前に正座をし、ピシリと背を伸ばして箸で和食を食べる……。物語の世界を垣間見ているような気分になった。なんとなく、昔読んだ不思議の国のアリスを思い出す。もっともアリスにしては、ガタイが良すぎるけれど。簡単に言ってしまえば、ちぐはぐなメルヘンの世界に見えたってこと。
綺麗に色が出たミルクティーを100均一で買ったマグカップに注いで完成。
「砂糖、要ります?」
「欲しいな。甘いの、好きなんだ」
シュガー2本とスプーンを一緒に渡す。
金城さんは何がそんなに嬉しいのか、ひたすらニコニコ笑っている。猫舌らしく、何度かフウフウと息を吹きかけて、両手でマグカップを持って傾けた。
「凄く美味しい。初めて飲む味だ」
貴方の家ではこんな安物の紅茶、出さないでしょうしね。
でも、まあ……。計算か演技かわからないけど、こうまで嬉しそうにされると悪い気はしない。
きっと、大切に大切に育てられたんだろうなあ。どうして家を出てこんなトコに住むはめになったんだろう。
僕の視線に気づいたのか、金城さんがマグを掲げながらニコッと笑った。
「貴方が気持ちを込めて入れてくれたから、こんなに美味しいんだろうね」
賞味期限切れてるけど大丈夫かなくらいしか考えてなかったけど。あとは食事中の……。金城さんのことを考えながら煮出してたのは確かか。なんか少し、照れくさくなってきた。こういう台詞を臆面なく吐けるのは、一種の才能だな。
「本当にそう思ってますか?」
少し意地悪をしたくなって、そう訊いてみる。
僕、こんなに性格悪かったかな。確かに真っ直ぐに育った覚えはないけれど、人を困らせて楽しむようなひねくれ方はしてないはず。面倒事が嫌いだから、波風を立てないように生きてきているし。
多分僕は、この純粋培養で育ったような王子様の色々な反応が見たいんだろう。未知の生物に興味がわくのは仕方ないこと。
お隣さんでもなければ、絶対に僕からは近寄らないタイプの人だし。
「……うん? 美味しいよ」
首を傾げて、もう一度啜って頷く。
嫌味なんてまったく気づいてない感じ。むしろ、再確認するなんて可愛いなーとか思ってそうな顔してる。
まいったな。毒気なんてすっかり抜かれる。調子が狂う。
王子様を観察していて口をつけていなかったマグカップの中身を、僕もひとくち。
賞味期限は切れてるし、煮出し方も適当なのに、なるほど確かに凄く美味しいような気がした。
温かい飲み物と、お隣の王子様。心までホカホカした気分になるのは、彼のおかげなのかもしれない。
……牛乳、明日も買っておこうかな。
これはもう明らかに、金城さん関係だよな。
どうしよう。彼に伝えてあげたほうがいいのか。でも鬼気迫るような感じもないし、本当に見てるだけみたいな……見守ってるような。
そう、あれだ。遠い昔に見た、初めてのお使いを思い出す。
プロならもっと上手くやるだろうし、おそらく金城さんちの使用人か何かじゃなかろうか。
声をかけようかどうしようか多少迷ったけど、面倒事に手を出さないほうがいいのはわかっている。僕には王子様との近所づきあいだけで精一杯。
充分な食費を貰えたから、奮発して少しいい肉を買ってきた。安く済ませて後は貯金も考えたけど、お金を貰っている以上、きちんとした食材買うべきだと思った。僕自身も便乗して美味しいものが食べられて、言うことなし。まあ、調達は近所のスーパーだけれど。
それにしても……人のためにご飯を作るなんて、どれくらいぶりだろう。でも、あんなお金持ちそうな人に、僕の料理なんて口にあうかどうか。不味くても紳士的な態度で、美味しいよって背中に花をしょいながら言いそうだけど。
今日は豚のしょうが焼きに南瓜の煮付け、豆腐のかつおオクラ乗せ。えのきの味噌汁。しょうが焼きはカリカリバージョンだ。
そういえば金城さん、朝や昼はちゃんと食べたのかな。
あの額を貰って夕飯だけじゃ悪いし、明日の朝の分くらいタッパーに詰めといてあげようかな。
約束の時間まであと少し。後ろで炊飯器が、炊き上がりの音を告げた。
それからほどなくして、インターフォンがひび割れた音を鳴らす。少しドキドキしながら扉を開けると……薔薇の花束を抱えた金城さんが立っていた。思わず閉めたくなった。
「本日はお招きありがとう」
「お招きって、いうか……」
続く言葉が出てこない。こういう時、どういう行動をとったらいいんだろう。
笑顔で受け取る? 迷惑そうな顔をしてみる?
「こういうプレゼントは、食べられる物とか洗剤のほうが嬉しいです」
素直な心の内を話すと、金城さんはエッと固まって不思議そうに首を傾げた。
そんな仕草、僕のほうがしてやりたい。
きっと花束を贈って迷惑がられることなんてない人生だったのだろう……。
「この薔薇、食べられますかね?」
冗談でそう言うと、本気で困った顔をしていて、胸がすくような感じがした。
こういう顔が見られるなら、この人の突飛な行動も、まあ悪くはないか。
結果的に言うと、僕の料理を食べた金城さんの反応は、だいたい予想通りだった。花をしょってる感じの笑顔で、美味しいよって言う。まさか本物の花を持ってくるとは予想だにしなかったけど。
「食後に紅茶をいれましょうか。安物のティーバッグですけど」
「悪いね、そんなことまでしてもらって」
「自分のをいれるついでですから」
さすがに再度乾かして使うほど貧困ではないにしろ、おつとめ品になっていたティーバッグ。ちなみに、既に賞味期限は切れてしまっている。
金城さんは見た目だけでなく、胃もお上品そうだからな。お腹を壊してしまうかもしれない……。
せめてロイヤルミルクティーにしてあげようと、貴重な牛乳をミルクパンに入れて火にかけた。牛乳は一応期限切れではない。開封後はなるべくお早目にお飲みくださいと書いてあるけど、早めに飲めたことはあんまりない。
ジワジワと紅茶を煮出しながら、食事中の金城さんを思い出す。
箸はきちんと使えていたし、食べ方も綺麗だった。ボロい折り畳み式のちゃぶ台の前に正座をし、ピシリと背を伸ばして箸で和食を食べる……。物語の世界を垣間見ているような気分になった。なんとなく、昔読んだ不思議の国のアリスを思い出す。もっともアリスにしては、ガタイが良すぎるけれど。簡単に言ってしまえば、ちぐはぐなメルヘンの世界に見えたってこと。
綺麗に色が出たミルクティーを100均一で買ったマグカップに注いで完成。
「砂糖、要ります?」
「欲しいな。甘いの、好きなんだ」
シュガー2本とスプーンを一緒に渡す。
金城さんは何がそんなに嬉しいのか、ひたすらニコニコ笑っている。猫舌らしく、何度かフウフウと息を吹きかけて、両手でマグカップを持って傾けた。
「凄く美味しい。初めて飲む味だ」
貴方の家ではこんな安物の紅茶、出さないでしょうしね。
でも、まあ……。計算か演技かわからないけど、こうまで嬉しそうにされると悪い気はしない。
きっと、大切に大切に育てられたんだろうなあ。どうして家を出てこんなトコに住むはめになったんだろう。
僕の視線に気づいたのか、金城さんがマグを掲げながらニコッと笑った。
「貴方が気持ちを込めて入れてくれたから、こんなに美味しいんだろうね」
賞味期限切れてるけど大丈夫かなくらいしか考えてなかったけど。あとは食事中の……。金城さんのことを考えながら煮出してたのは確かか。なんか少し、照れくさくなってきた。こういう台詞を臆面なく吐けるのは、一種の才能だな。
「本当にそう思ってますか?」
少し意地悪をしたくなって、そう訊いてみる。
僕、こんなに性格悪かったかな。確かに真っ直ぐに育った覚えはないけれど、人を困らせて楽しむようなひねくれ方はしてないはず。面倒事が嫌いだから、波風を立てないように生きてきているし。
多分僕は、この純粋培養で育ったような王子様の色々な反応が見たいんだろう。未知の生物に興味がわくのは仕方ないこと。
お隣さんでもなければ、絶対に僕からは近寄らないタイプの人だし。
「……うん? 美味しいよ」
首を傾げて、もう一度啜って頷く。
嫌味なんてまったく気づいてない感じ。むしろ、再確認するなんて可愛いなーとか思ってそうな顔してる。
まいったな。毒気なんてすっかり抜かれる。調子が狂う。
王子様を観察していて口をつけていなかったマグカップの中身を、僕もひとくち。
賞味期限は切れてるし、煮出し方も適当なのに、なるほど確かに凄く美味しいような気がした。
温かい飲み物と、お隣の王子様。心までホカホカした気分になるのは、彼のおかげなのかもしれない。
……牛乳、明日も買っておこうかな。
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