銀色の噛み痕

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3章

拗ねるリゼル

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 どれくらい眠ったのか……。寒さに身を震わせながら目を覚ます。
 でも、腕の中のリゼルは暖かい。
 よく寝てる。僕に体重を預けながら気持ち良さそうに眠るその姿に幸せを感じる。
 リゼルにとって僕の腕の中は安心できる場所なんだなぁと思うと、なんとも言えない気持ちになる。

「ん……。シアン?」
「ごめん、起こした?」
「ヘイキ。外で寝るのも、シアンと一緒ならシアワセだな」

 甘えるように、身体を擦り寄せてくる。ホンット可愛い。

「今日も晴れみたいだよ。良かった」
「でも気温は低いぞ。シアン、大丈夫か?」
「うーん。寒い……」

 思わずクシャミが出た。リゼルが僕を暖めるように、ギュッギュッとしてくれる。心も身体もじんわりと温まる。

「歩いてるうちに平気になるだろうし、行こう。宿でゆっくり休みたい」
「ウン。……あっ、あの薬草、前にシアンが教えてくれた、高く売れるっていうヤツだぞ!」
「ホントだ。ちょっと摘んでこう。生活費、必要になるし」

 僕らは道すがら薬草を採取しつつ、街へ向かった。
 森歩きは慣れていても体力と精神力が低下しているから、想像よりもずっとつらい。
 まあ、精神力のほうは……。

「シアン、どうした? 手、もっとギュッとするか?」

 リゼルを見ているだけで回復するからいいとして。

「おんぶしようか?」
「こ、この体格差で、それはさすがに」

 ただでさえ荷物を全部持ってもらっているのに、そこまで甘えられない。

「確かに狼の時より小さいけど、力はそこまで変わるわけじゃないからなぁ。シアン軽いし、オレは平気だぞ」
「僕の心が平気じゃないです……」
「そっか? まあ、もし誰かと行き合ったとき、変に思われるのもマズイしな……」
「そうそう」

 結局それから6時間以上歩いて、ようやく街に到着した。
 正直最後は親としてのプライドなんて投げ捨てて、リゼルに背負ってもらおうかと思ってしまった……。
 ちなみにそんな僕とは逆にリゼルはピンピンしているし、むしろ普段より元気が良さそうなくらいだ。

「凄い! おっきい街だ! なんか、立ってる人がいる」
「守衛さんだよ。魔物や獣が入ってこられないように、見張ってるんだ」
「お、オレ、大丈夫かな」
「別に身体検査とかされるわけじゃないから。普通に通れば平気」

 軽く会釈して通り抜けようとしたら、ガッと腕を掴まれた。

「あっ、あの、な……なんですか?」

 疚しいことがあるせいで、思わずビクビクしてしまう。
 リゼルが見えないように庇いながら、僕よりもずっと背の高い鎧姿を見上げる。

「ああ。急に掴んだりしてスミマセン。あまりにも、お綺麗だったものですから」
「えっ?」
「うわー! 俺はなんで今日、仕事なんだ! そ、その、観光ですか? 宿に泊まります?」

 まさかの、ナンパだった。

「オレのシアンに手を出すな!」
「わっ、こら。リゼル、出てこないで」

 噛みつかんばかりのリゼルを窘める。
 オレのって……変な誤解をされそうだからやめてほしい。

 それにしても、まいったな。さっそく目立ってしまった。
 ここはいっそのこと、もう少し会話をしておいたほうが良さそうだ。

「観光ではないんですけど、今日はここに宿をとろうと思ってます。オススメの場所はありますか?」
「おお! それでしたら……」

 目を輝かせる守衛さんに、街の簡単な案内を口頭でしてもらう。
 オススメのパン屋さんとか、食事処、安くていい宿。

「ありがとうございました。助かります」
「いえいえ! あとで宿のほうに伺いますね!」
「ええ。でも、僕には息子がいるんで、気持ちにはお答えできませんよ?」
「構いません! そっか、息子だったのか。ごめんな、トーチャンに声かけちまって」

 リゼルは頬を膨らませて、プイッとそっぽを向いた。

「拗ねてて、可愛いでしょ?」
「はい、とても!」

 すっかり機嫌の悪くなったリゼルを引きずりながら街へ入る。

 印象付けてしまったなら、僕の味方にしておくべき。これで誰かに僕のことを尋ねられても、それが不利に働くと思えば答えたりしないはず。
 ……というような打算で愛想よくしていたことは、できればリゼルには知られたくないなあ。気づかれてるかもしれないけど。

「ね。リゼル。ご飯食べに行こ。お腹空いてるよね? 肉食べよう、肉」
「さっきのヤツに教えてもらった店だろ? やだ、行かない!」
「リゼルー……」

 わかりやすい拗ね方が微笑ましくて、にやけそうになる。
 でもリゼルは怒ってるんだから、ここで笑ってはいけない。

「でも僕もお腹空いてるんだけど」
「それなら仕方ないな……」
「よかった。確か、あの花屋さんを右に行ったところだよ」

 人通りが多く、歩いていると、かなり視線を感じる。
 リゼルの服がダボダボだから?
 いや……この歳で手を繋いで歩いてるのが、おかしいのかも。リゼルは外見なら13歳前後に見えるし。
 でもムスッとしながらも手だけはギュッと握りしめてくれてるとか、可愛すぎて離せないよね……。

 教えてもらったお店はテラスのある石レンガ造りのオシャレなカフェで、昼から少し外れた時刻だというのにとても賑わっていた。残念ながらテラスは満席だったので、僕らは中だ。
 注文して待つ間も、リゼルは相変わらずムスッとしている。

「肉きたよ、リゼル」

 僕はハーフサイズの150。これでも結構量があるのに、リゼルはなんとダブルサイズの600グラムステーキ。
 ナイフを入れると少しの抵抗もなく入っていく。肉汁が白いお皿の上に薄赤く広がった。
 口に含めば、塩と胡椒の淡い味付けとともに、香草がアクセントになって肉の旨味を際立たせている。

「ん! 美味しい! 美味しいよ。早く食べないと冷めちゃうよ?」
「……オ、オレの機嫌が、いつも肉で直ると思ったら大間違いなんだからな」

 僕をジーッと見ながら肉をパクパク食べて、噛みしめるごとに顔が緩んでいき、食べ終わる頃にはニコニコしていた。

「気に入った?」
「ウン! また来たい!」
「デザート頼む? 桃のタルトが人気みたいだよ」
「ウン!」
「この分なら教えてもらったパン屋も期待できるね」
「ウ……」

 リゼルは唸り声を発するように固まって、ハァーと息を吐く。
 ごまかしても、ウンって言いかけたのはわかってる。

「この街に来るのは初めてだし、色々聞けて助かった。これからのことを考えたら、安い宿だって知っておいたほうがいいだろうし。わかってんだけどさ。シアンが……」

 リゼルは押し黙って、今度こそウーと低く唸った。

「リゼル? どうかした?」
「なんか……。なんかオレ、変かも」
「変?」
「うーん……」
「デザート頼むのやめる?」
「食べる!!」

 なんだかよくわからないけど、この様子なら大丈夫そうだな。

「ともかく、シアン。あまり変な人にはついていくなよ」

 親が子どもにするような心配を、リゼルにされてしまった。




 桃のタルトまでしっかり食べて店を出たのに、値段は思ったよりもずっと安く、これで大丈夫なのか心配なくらいだった。
 安くてボリュームがあって美味しいと聞いてはいたけど、これほどとは。

「パンも買っていこうか」
「ウン!」

 お腹がいっぱいになったリゼルは、もうすっかり上機嫌だ。
 結局いつでも肉で機嫌が直る……可愛い。
 そのあたりを差し引いても、やたらと浮かれている気はする。

「ご機嫌だね」
「シアンに申し訳ない気持ちはちゃんとあるんだけどさ、やっぱこうして一緒に出かけられんのは、嬉しいんだよな」

 確かに僕も、そうかも。
 もちろんこれからに対しての不安がないと言ったら嘘になるけど、リゼルが隣にいてくれるならその日暮らしも悪くないなって。

「あっ、でもシアンが変なのに引っかからないかっていうのは不安」
「はは……」

 これ、ずっと言われそうだな……。

「パン屋についたら、店員さんに洋服屋と薬屋の場所を聞こう。思ったよりも広くて、探すの大変そうだ」
「薬屋ならオレ、わかるけどなー」
「えっ? どうして?」
「苦そうな匂いがする……」

 リゼルは苦そうな顔をしたあと、キョロキョロとあたりを見回した。

「リゼル?」
「なんか、懐かしい匂いもする……」
「もしかしてリゼルの仲間がいるのかな」

 冗談で言ったのに、リゼルは浮足立った様子で頷いた。

「え、街の中ってこと!?」
「わからない」
「リゼルは会ってみたくないの?」
「あまり……。理由は、わかるだろ」
「えっ? 僕が、わかるの?」
「わからないのか?」

 リゼルはシラーッとした目で僕を見ている。
 あっ、そうか。僕が食べられたらどうしようって不安だからか!
 噛み痕があるなら平気だと思っていたけれど、絶対ではないのかもしれない。

「まあ、そんなことより、早く買い物をして宿を取るぞ。シアン、さっきからフラフラしてる」
「ほんと? 自覚なかった……」
「余計に危ないな……」

 リゼルに言われた途端ずっしりと足が重くなる。上手く眠れてなかったから、眠くもなってきた。

「睡眠の質って大事だよ、リゼル」
「オレは今まさにそれを実感してる。シアンの顔で」

 このままでは、リゼルにおんぶをされてしまう。

「パンも洋服もオレが買ってくるから、先に宿を取ろう! 今のシアン、あまり人に見せたくない」
「そんなに酷い?」
「……ひ、ヒドイ」
「じゃあ、お願いしようかな。宿、すぐそこだし……」

 リゼルは大きな溜息をついた。
 僕は一体、どんな酷い顔をしているんだろう。怖い。

「食事より先にシアンを寝かせるべきだった。オレが子どもみたいに拗ねてたから……」
「みたいじゃなくて、まだ子どもだろ」

 でももう、一人で買い物を任せられるほど、大きくもなってるんだよな。そう思うと、誇らしい。
 この親想いな可愛い子、僕が育てたんですよ、凄いでしょ! そう自慢して回りたくなる。

「ほら、今度は笑い始めてるから! いよいよヤバイ!」
「これは、そうじゃなくて……」

 言い訳虚しく、今度は僕がリゼルに引きずられる。

 ……なんだ。あの守衛さんと会話してる時そっぽ向いてたくせに、話はしっかりと聞いてたんじゃないか。
 リゼルの足は、教えられた宿屋を迷うことなく目指していた。
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