銀色の噛み痕

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5章

お手伝い

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 空が白むまで睦み合って、起きた時にはもう昼過ぎ。
 相変わらずリゼルは魔力酔いみたいになってたけど、ぐっすり寝たからかもう問題はなさそうだ。
 あとは動いてるだけで消費されて、少しずつ抜けてくから大丈夫だと言っていた。

「今日は、その、大工ってのに会いに行くんだろ?」
「うん。せっかく紹介してもらったし、話だけでも……。リゼルと棲む家だから、なんとかなりそうなら頑張ってみたいかなって」

 それに都合よく、空き家があるとは限らない。
 宿屋暮らしを続けるよりは、建ててもらうほうが夢がある。

 もちろん懐と相談の上、借金させてもらえるならという話。
 紹介状があれば、そのあたりの融通は少しつけてもらえそうな気がする。

「この街、かなり広いけど……。場所の目星はついてるのか?」
「うん。昨日宿の人に確認しておいたよ。港の近くに住んでて、仕事がない日は釣りしてるらしい」
「釣りかあ。上手いのかな?」
「どうだろうね」

 まだ見ぬ大工さんの好感度がリゼルの中で上がっているのがわかる。
 釣りは苦手で、手でバシャッとやるほうがいいって言ってたのに。釣れないから強がり言ってたのかな。可愛い。

「釣り勝負して勝てたら安くしてもらうとかはどうだ?」
「のってくれるかなあ。それでリゼル、勝算はあるの?」
「まあ、自信はない」
「ないんだ……」

 それは負けた時のリスクが怖い。
 上がった好感度をわざわざ下げることもないからリゼルには秘密なんだけど……。宿屋の人が僕をジロジロ見て、手を出されないように気をつけろって言ったんだよね。正直、ちょっと嫌な予感はする。
 でもまあ、シトレさんの紹介だしおかしなことにはならないだろう。

 と。思ったのだけど。僕の嫌な予感は見事に大当たりすることになる。




「あーッ! オマエ、昨日の酔っ払い!」
「おっ!? シアンくん、俺が恋しくて訪ねてくれたんだあ? いいね、いいねえ」
「は、ははは……は」

 まさか、シトレさんから紹介された大工さんが、昨夜街で出会った酔っ払いだなんて。

 赤い前開きの服、逞しい身体、暑苦しい顔。そして昨日と違うところ。
 ……腕に、包帯を巻いている。

 リゼルは低く唸り、様々な感情からか百面相をしていたのだけど、最後に頭を下げた。

「商売道具、傷つけてゴメンナサイ!」

 そう言いながらも、謝っているとは思えない悔しそうな顔をしている。
 きっとこんな奴に建ててもらわなくていいって出ていきたいのを我慢してるんだろうなあ。お世話になったシトレさんの紹介だから。
 こういうところ、リゼルは割と義理堅いんだよね。

「まあ、俺も悪かった。昨夜は酷く酔っ払っててな。あ、でも今夜兄ちゃんが酌してくれるっていうなら、家を建てるの安くしとくけどな?」
「シアン、コイツ、酔ってても酔ってなくても変わんないぞ!?」
「コラ、リゼル。指でささない」

 リゼルの忍耐が限界を越える前に、なんとか僕が話をつけなくては。

「ええと。ローダさん、初めまして。シトレさんからの紹介できました、シアンといいます」

 もらった紹介状を見せると、男はニヤリと笑った。

「そうか、シトレの……。なあ、エリスのヤツ、少しは大きくなってたか? いやあ。あれは美人になるぞ。嫁にもらいたい」
「シアン、コイツ、やべーヤツだ!!」

 確かにヤバイ。でも、そのあたりは僕も、リゼルに手を出している時点で人のことは言えない。
 リゼルの正体を知らない人から見れば、ただの子どもだし。
 ……でも、実年齢よりは、上に見えるから……。うん。

「そういえばアンタ、本当にシアンっていうんだな。これが運命か」
「いえ。あのー……あの。それより家の話を……」

 本当に仕事ができる人なのか? なんだか暇そうにも見えるんだけど。
 いや、シトレさんはやり手の商人。付き合う相手も一流に違いない。品性は最悪だとしても。

「そんなの髪色を見れば予測がつく話だろ? 仕事の話をしにきてるのに口説くなんてプロ失格だぞ、オッサン!」

 さすがに全面同意すぎてフォローに入れなかった。
 ブチ切れ寸前なリゼルにそう言われたローダさんの表情が、キリッとしたものに変わる。

「ガキにそうまで言われちゃ、俺もしっかりしねえといけねえな。プロとして」
「はい、お願いします!」
「それで、予算はどれくらいなんだ?」
「むしろどれくらいかかるんですか? その、家を建てたこと、なくて……」
「ふむ……」

 提示された金額は、シトレさんに貰ったお金をあわせても、到底足りなかった。

「これでもかなり安くしたんだがな」
「分割、とかは……」
「できなくもない。が、俺はなあ。今はこの腕だしなあ。しばらく仕事もな」
「そ、そんなに強く叩いてないだろ。オオゲサなんだよ。回復魔法かけてやるから」
「子どもの回復魔法程度でどうにかなるのか? 骨折してるんだぞ」

 ローダさんはそう言って、包帯を巻いた腕をチラつかせた。
 こ、骨折してたのか。リゼル、手加減上手なのに。
 嫉妬で力加減を誤ったのかな。

「どうにかなる! ほら、手を……」
「おっと、ダメだ。治したからヨシッてもんでもないだろ。こういうのはきちんと責任を取らんと」
「いや……だから、責任を取って治すんだろ。そもそも原因はオッサンだし、オレ本当にそんな強く叩いてないし……実は帰り道とかで転んだだけだろ……」

 何を言っても、頑なに治療を拒むローダさん。
 大工として、手が動かないのは困るだろうに。

「俺の出す条件を飲んだら、さっきの半値で建ててやるし、分割も受け入れてやる」
「このエロオヤジ! シアンに手を出そうったってそうはいかないからな!」
「それも捨て難いがなー。まあ、ちょっとしたお手伝いをしてほしいんだ」
「絶対にエロイ手伝いだろ!」

 リゼルからの好感度は、もはや氷点下だ。

「条件も聞いてないのに決めつけたらダメだよ、リゼル」
「で、でもさあ……」

 大工は何もこの人だけじゃないし、さっさと出ていきたいのはやまやまだけど、お手伝いの内容によっては考えたい。
 だって……半値はさすがに、大きすぎる。
 身体を差し出すとかは無理だけど、こう、少しくらいなら、エロイことでも……。

 なんて考えてるって知ったらリゼルが暴れだすから、絶対にしないけど。

「家を建てるのに使うブロックオイルが作りたいんだけどな、今年は不作でその材料が中々見つからんのよ。アンタらにはそれを採ってきてほしい」
「なんだ。普通の手伝いだな……」

 ローダさんの提示したお手伝いとやらは、至極真っ当なことだった。
 その材料がなければ、家だって建てられないのだから、僕らに関係がないわけでもない。

「でもそんなことで、本当に半値にしてもらえんのか? 話がウマすぎねえ?」
「そんな。ローダさんは善意で言ってくれてるんだから」
「いやいやいや、そんな綺麗なオメメで言われると、罪悪感も疼くけどな……。材料見つけんの、相当苦労すんだよ。不作って言ったろ」

 不作というからには作物の類だろうけど、腕っぷしの強くなさそうな僕らに頼むんだ。危険はそんなにないと思っていい。

「その材料って、どんな作物を使うんですか?」
「黒スズランだよ。花も茎の部分も全部真っ黒いんだ」
「苦そうだな……」
「毒があるからな!? 食うなよ!? 絶対に食うなよ!?」

 匂いに特徴でもあれば、リゼルならなんとかなりそうだけど……。

「今、現物はありますか? リゼルに見せたいので……」
「ああ? そんな珍しい花、それくらいしかないから見つかればイッパツでわかるぞ」
「オレ、勘が鋭いんだよな。失せ物とか探すの得意でさ。見ておいたほうが、勘が働くと思うんだよなー」
「そうなんですよ。この子、勘がよくて……!」

 さ、さすがにちょっと苦しいか?
 ローダさんは疑わしそうな顔をしていたけど、深く頷いた。

「うんうん。子どもの頃は自分に特別な力があるって信じていたい時期があるよな。ちょっと待ってな」

 そして奥へ引っ込んでいった。

「シアン、オレ悔しい……!!」
「単なる言い訳だって僕はわかってるから……。でも、おかげで現物を見せてもらえそうだよ」

 しばらくして、ローダさんが部屋へ戻ってきた。

「ほら。これだ」
「あれ? 茎は黒くないですよ? 花の部分は黒いですけど……でも、形は本当にスズランですね」
「ああ。昼間は花も真っ白でな、普通のスズランと見分けがつかん。で、夜のうちに摘まないと必要な成分が出ないんだ」
「なるほど、それは確かに……見つけにくそう。でも普通のスズランなら、冬には咲きませんよね?」
「それが、なんでだか咲くんだよ。このあたりのは」

 リゼルはジーッと花を見ている。

「結構、匂いに特徴があるな」
「そうかあ? そんなに匂わないだろ」

 ローダさんは不思議そうな顔をしながら、花に顔を近づけて匂いを嗅いだ。自然、顔がリゼルの傍に寄る。

「ち、近いから、二人とも!」
「おっ、悪い悪い。兄ちゃんたちはデキてるんだったな」

 どこまでその言葉を信じているのか、ローダさんが豪快に笑った。
 まあ、基本的に……倫理観が薄いのかもしれない。
 リゼルは嫉妬されて嬉しそうにしていた。

「じゃあまあ、あまり期待はしてないがよ、とりあえず100本だ。よろしく頼むな」

 仕事を見つけるのも大変だし、半値にしてもらえるというならこちらこそお願いしたいくらいだ。
 薬草採取のついでに探せるのだし、最高の条件と言ってもいいかも。

「あっ。そうだ。もう一個の条件としてだな。リゼル、昨夜この兄ちゃんがどうだったのか聞かせてくれ」
「……シアン、いいか?」
「絶ッッ対にダメ!」

 僕の表情と返事が何より雄弁だろうとわかってはいたけど、反応せずにはいられなかった。
 そもそもよく考えれば、どうだったのか聞かせてくれと言っただけで、情事の内容を説明しろとは言っていない。完全な自爆だ。
 ニヤニヤする二人に、とてもいたたまれない気持ちになった。
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