銀色の噛み痕

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5章

新しい家

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 リークレーの宿屋で冬を越し、春が来て……ついに、僕らの家が完成した。
 お金のほうはローダさんが黒スズランを定期的に買ってくれたおかげで、かなりの余力ができていた。
 とはいえ、ほとんどを返済にあててしまったので、相変わらず懐は寒いままなんだけど。

「凄い、凄いぞシアン! 二階がある!」

 新居に初めて足を踏み入れ、感動しながら部屋を見て回る。
 当然のようにローダさんもいる。

「言われた通り、下は水回り、上は二人の部屋……とざっくり分けたが、本当にそれで良かったのか?」
「ウン! オレとシアンの仲だからな」
「……なんだあ。アンタら本当にデキてんだな」
「だからそう言ってるだろ」

 いくらこちらを見ても、肯定はしない。絶対にだ。
 まあ……二階にはもうドーンと大きなベッドがひとつだけ置いてあるし、この状態では今更か。

「本当にありがとうございます。こんな立派な家をあの価格で建てていただいて」
「いやいや。うちも黒スズランをかなり売ってもらえて助かった。おかげで他の大工も軒並み出し抜けてな、これから大忙しだ。ハッハッハッ」

 上機嫌なローダさんをお礼にと夕飯へ招待し、初めてお酌をしてあげた。この日ばかりはリゼルも怒らなかった。
 ただ、ものすごく渋い顔はしていたけれど。

 ローダさんは僕が腕によりをかけた夕飯を食べ終わると、新居ができたばかりの夫婦を邪魔しても悪いからなーと、どこまで本気かわからない台詞を吐いて、すぐに帰っていった。
 早く村へ戻らないと馬車がなくなるだろうしな。
 ……さすがに、今夜ばかりは泊まらせるわけにはいかない。

 それにしても。二人になると、改めて嬉しさが込み上げてくる。

「リゼル、これ、僕らの家だって」
「宿屋暮らしも悪くなかったけど、やっぱり自分の家っていうのはいいな! まあ……まだ、ちょっと落ち着かないけど」

 そして始まるいつもの儀式。部屋内をひたすら歩き回る。
 広さを身体で把握したり、自分の匂いをつけておくとか、そういう行動なのかもしれない。
 一階が終わったら次は二階。僕もついていって、端から端までうろうろするリゼルの身体を真ん中の位置で抱きとめてみた。
 僕よりも小さな身体がぽすっと腕の中におさまる。

「んっ。邪魔すんなよ、シアン!」

 飛び込んできたのに、ツレないことを言う。

「避けることだってできたよね?」
「……そんなもったいないことできない」

 可愛くてギュッと抱きしめると、リゼルは僕の身体を持ち上げて、そのまま部屋の端まで移動を完了させた。

「んー。前の家はシアンの匂いが染み込んでたから、新しい匂いが気になる」
「木の匂いに違和感を覚えるのは僕もわかるよ」
「石も不思議な匂いがする」
「僕は木ばかりかな。黒スズランの匂いする?」
「色々混ざってるみたいで、それはわかんないな」

 お次の移動先は、当然のようにベッドだった。
 柔らかいシーツに身体を横たえられ、黙々と服を脱がされる。
 そしてリゼルは僕の胸元に顔を埋めたかと思うと……存分に、匂いを嗅いできた。

「はあー。落ち着く……!」
「り、リゼル……」

 でもちょっとわかる。新しい家の匂いは他人の家にいるような気分がして、居心地が悪い。もちろんそれ以上の嬉しさがあるけど、リラックスできるかどうかというと、また別の話になる。
 僕も……リゼルの匂い、落ち着く。胸元を嗅がれると頭がちょうど顔の前にくるから、堪能できる。

「シアンもオレの匂い、嗅いでる?」
「ん……」
「落ち着く?」
「そうだね。リゼルが傍にいるの、嬉しい」
「へへー。オレ、ずうっと傍にいるからな!」

 これはヤバイ。なんだろう。感極まって泣いてしまいそうだ。
 リゼルと……リゼルと、ずっとこの家で、一緒に暮らすんだと思ったら。

「ど、どうした、シアン! まさか昨日噛んだところが痛むのか!?」

 こらえきれなかった僕の涙に、リゼルがオロオロしている。
 宥めようと抱きしめて頬ずりしてくれたり、頭を撫でてくれたりする。愛しくてまた泣けてくる。
 ……今まで翌日に噛み痕が痛むと言ったことなんて一度もないのに、本当は気にしていたのかな。

 昨夜……リゼルがどうしてもと言うので、肩を噛ませた。
 日数的にはまだ早かったけど、ローダさんを招待することがわかっていたから、牽制の意味もあったんだろう。

「ううん。平気。これは、嬉し涙だから」

 僕の言葉にオロオロしていたリゼルがピタッと止まって、目から大粒の涙を零した。

「り、リゼル?」
「……シアンが、そんなふうに思ってて、泣いてくれて……オレ、すっげえ嬉しい。オレが押しかけて、二人で暮らすようになって、人間の考え方とかリクツとかわかってきて……シアンがオレを好きって気持ちは疑ってなかったけど、やっぱ……やっぱさ。不安なことも、あったし……」

 リゼルは少しずつ言葉を吐き出して、最後に泣きながら笑った。

「ハハッ。言ってることメチャクチャかな。シリメツレツってヤツ?」
「ううん。ちゃんと、わかるよ。伝わってる。ありがとうリゼル。僕ね、本当に……こんなことを言ったら君にまた怒られてしまうかもしれないけれど、僕は食べられてひとつになりたいくらい、君のことが好きなんだよ」
「シアン……ッ!」

 噛みつくような、食べられてしまうような、キスをされた。
 リゼルが触れるところ全部気持ちいい。心も身体もとろとろにとけていく。
 小さな指先も揺れる黒髪も、僕に夢中で余裕のない顔も、全部が愛おしくてたまらない。金色の瞳に見つめられて体温が跳ね上がる。

 新居でする初めてのセックスは、真新しいベッドが壊れてしまうんじゃないかというくらい激しかった。

 もう、リゼルの匂いしかしない。他は、気にならない。
 僕の身体はあますことなくリゼルのモノ。

 新しいこの家で、これからもずっと一緒に……幸せに、暮らせますように。
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