銀色の噛み痕

used

文字の大きさ
37 / 41
結婚しようよ

4話目

しおりを挟む
 腹ごしらえをしたあと、僕らは依頼を完遂させるべく、広い草原を歩いていた。

 リゼルは目立ちたくないという理由で難易度の低い依頼しかしないんだけど……。その中でも面倒な依頼を選んで受けてくれると、ギルド職員からの評判はやたらといいらしい。残り物が片付くのだから、それもそうだろう。相談をされたりもするらしく、リゼルは『依頼料にちょっとイロをつけてもらえるんだぜ~』と自慢気に話していた。

 ちなみに……面倒な依頼といっても普通の人間にはということで、魔なしである僕と銀色の魔物であるリゼルがこなすなら楽だったりする。退治系から採取系まで様々だ。
 ……基本的に、僕は役に立たないけれども。

 今日の依頼は虹色狼の駆除だ。大きさ的には中型犬くらいで、カメレオンみたいに周囲の景色に同化するため、とても見つけにくいらしい。
 同じ狼を殺すってリゼル的にはどうなんだろうと訊いてみたけど、まったく別の種族だから大丈夫だと言っていた。よく考えればリゼルは人型でいる時間のほうが長いし、姿が似ている程度は気にならないのかもしれない。

「よし、このあたりでいいか。シアンはいつもどおり、好きに薬草採ってていいぞ」
「ありがとう。助かるよ」

 リゼルが匂いで虹色狼を見つけ、バッサバッサと斬っていく。
 返り血すらまとわない。いくら強くない獣とはいえ、圧倒的すぎる。僕なら噛まれてる、絶対。リゼルの噛み痕があるから僕には寄ってこないけど、近くで獣の悲鳴が聴こえてくるのは怖い。

 それに虹色狼は死んだ途端に元の色に戻るらしく、景色に溶け込んでいたその姿が突然現れたように見えてビックリする。現れた死体の山にも。いつの間にこんなに狩ってたんだ……。

「うーん。中々、虹色の毛皮にはならないなー」
「虹色に……?」
「ああ。他の部位を傷つけずに首のみを一撃で切り落とすと、ごく稀に虹色に変色して絶命すんだってさ。ギルドの人が教えてくれた。高く売れるらしいぜ」

 そんな恐ろしいことを、そんな楽しそうな顔で。

「へ、へえ……。でも、なんかこんなふうに殺すのは可哀想な気分になるよ。食べるわけでもないのに」
「そ、そう言われると殺しにくくなるだろ。それに討伐依頼なんて何度も受けてんのに、今更さぁー」

 わかってる。今日が初めてってわけでもない。いつものこと。
 だけど……。 

「そうなんだけど、その……。狼の姿をしてるから、どうしてもリゼルに重ねちゃって……」
「はっ!? いや全然、全ッ然、違うだろ! このバッサバサの茶色い毛並みとシアンにいいもん喰わせてもらって愛情込めて大切に育てられキレイにブラッシングもしてもらってるオレの銀色で美しい毛並みを一緒にされたくない!」

 地雷を踏んでしまった。リゼルにとって……というか、銀色の魔物にとってはとてもコダワリの強い部分だったのかもしれない。後半はほぼノンブレスで言い切ってた。

「ご、ごめん」
「まったくだぜ。一緒にするなよなー。ほんと」

 相当気分を害したのか、プリプリしながら僕に背を向ける。今は黒い髪が、サラリと揺れた。
 美しいリゼルの毛並みを思い出す。言われてから見ると、虹色狼の姿は虹とつくわりには美しさの欠片もない煤やけた茶色で、リゼルが腹を立てるのも当然だなと思った。

 その虹色に変わるという毛皮も見てみたいけれど、元がこんなにバサバサした毛質で高く買い取ってもらえるモノなんだろうか。珍しいならコレクター相手の取り引きとかなのかも。
 でも価格をつけるのなら、きっとリゼルの銀色の毛皮には足元にも及ばない。本当に……本当に、綺麗なんだ。

「リゼルの毛並みは、世界で一番素敵だよ」
「さすがにそれは言いすぎだろ」
「本当なのに。拗ねちゃって」
「だってさあ。世界一は、シアンの髪だからな」
「リ、リゼル……」

 本気で言ってるっぽいところがまた。
 キュンッとしていいのか、毛並みとはまた別だよと突っ込むべきかで心が揺れている。
 とりあえず、まあ、機嫌が直ったようでよかった。

 僕のほうもリゼルの強い説得のおかげか、さっきよりはツライ気持ちが消えて薬草採取に集中することができた。
 このあたりではあまり見ない毒草なんかも生えていたので、それもここぞとばかりに採っておく。

 さほどそう時間も経たないうちに、リゼルの討伐依頼が完了した。
 死体はざっと30匹ほど。残念ながら1匹も虹色には変化しなかった。

「スジばっかですげーマズイっていうけど、オレはシアンの顔見ながら食べたらなんでもご馳走になるから、少し肉も持ってくか」
「い、いいよ、無理しなくて」

 明らかに僕が言ったことを気にしてるんだろうなと思うと、申し訳ない気持ちになってくる。

「僕はリゼルには、美味しいものだけたくさん食べてほしいよ」
「草は食わせるくせに……」
「それはまた話が別」

 リゼルは僕の答えに唇を尖らせながら、魔法石に虹色狼の血を吸い込ませていく。個体によって血の成分が違うので、魔法によって倒した数が判別される仕組みになっている。依頼を受けた時に石を渡され、それを提出することで完了になる。ユニコーンの角みたいに部位を手に入れる依頼や、その討伐対象が少ない時は渡されることはない。1体1体に触れる必要もなく、剣についた血をなぞっていくだけでいいらしい。かなり高精度だ。

 リゼルが手のひらサイズの魔法石を剣にすうっと滑らせていく姿を見るのが、僕は好きだった。正直、かなりカッコイイ。今日はちょっとカッコ悪い台詞を吐きながらだったけど。

「そういやさ、結局虹色になんなかったなー」
「そうだね。少し見てみたかったけど」
「リリがいたら、案外あっさり出たかもしれないな。ええと……なんて言ったっけ。ケ……ケ……ケーキシロップ?」
「……ケしかあっていないっていうか、全然違うものだよね、それ。ケサランパサランかな?」
「そうそれ! 幸せ運んでくるんだろ」

 実は…………試しにと、リリにミシェルくんと村で待つように言ってみた。本当についてこなかった。もしかしてミシェルくんの元がよくなったのか不安になって少し呼んでみたらフワフワと近づいてきたから、ただ言葉に従っているだけらしい。
 こんなに長く離れたのは初めてだから、話していたらリリがどうしているのか、凄く気になってきた。

「じゃあ早く会いに行かなきゃね。僕らの幸せに」
「依頼も達成したことだし、このままリリを村に置いてって旅に出たらどうなるかな?」
「か、可哀想なこと言わない!」

 きっと今頃、寂しがってる。僕も寂しい。
 名前までつけてくれたのに、リゼルはやっぱりどこかリリに冷たい気がする。
 依頼を受けたのは村から少し遠い、大きな街だから……確かに、置いていくのは可能なんだけど。でもやらないって、普通は。

「……だってさ。あんなにオレたちにベッタリだったのに、ちょっと言っただけでアッサリ村に残ってさ。なんか、面白くないだろ」

 なんだ。また拗ねてただけか。
 本当に、リリだけじゃなく大きな子どもまでいて大変だ、僕は。

 ……まあ、リゼルの言い分も、少しわかるけど。

 でも村へと向かうリゼルの歩みはいつもより早かったし、どこかソワソワしてた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

処理中です...