全裸から始まる恋もある

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全裸でバレンタイン

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 恋人同士になってからしばらく経つが、つづるはいまいちその自覚がない。というか友達の域を出ないというか……。
 一緒に風呂まで入る仲なのに、クリスマスには『彼女がいない独り身の会』称するパーティーに参加しやがるし。まあ俺も参加したが。間違ってはいないしな……。俺もつづるも男だから。
 しかしお前みたいなイケメンがそんなパーティに参加したってイヤミなだけだっつの。
 
 つづるとは次元が違うが、俺もそうモテないわけでもない。普通に彼女だっていたし、恋人同士としてのあれやこれやを確実にこなしてきた。
 だからこう、今までのパターンがまったく当てはまらない今の恋愛に、少しだけ戸惑っている。もちろん、相手が男ってのもその理由のひとつだが。……そしてトイレで全裸になるような変態だというのもかなり関係しているが。
 友情から恋愛ってパターン自体初めてだから、つづるの気持ちもわからないでもない。どこからが恋愛なのか、わからないというか。セックスも擦り合いの延長みたいな。
 
 明らかに、俺のほうが入れ込んでる。つづるは彼女ができたら、彼女とお前は別だとか言って、普通に……俺とはただの友達に戻るんだろう。そんな気がする。結婚もきっと、そんな感じでしてしまう。
 初めの頃は俺もそんな感じだったんだ。でもつづると身体を繋げてみたらよけいに情がわいちまって、今ではお前と結婚したいレベルなんだよ……どうしてくれんだよ、全裸男め。
 愛してるとか好きだとか、言ってはいるが、いつものことみたいな感じに思われてる。だから……仕切直しだ。新たな気持ちで告白だ。
 
 今日は聖バレンタイン。きっちりチョコを用意した。女々しい男と笑うなら笑え。チョコを貰うことはあってもあげるなんざ初めてだ。しかも本命……。俺は、笑えない。
 恥ずかしいからネットで注文したがな。今の世の中は凄く便利だ。もてない男にも優しい。
 
 そして鞄にチョコを忍ばせ、普通に大学で講義を受けた。途中女の子に義理チョコを貰ったり、本命チョコっぽいのを断ったりしながら。
 なんだ、俺もまだまだモテんじゃねーの。断る必要なかったかな。さっきの娘も結構可愛いし。つづるに入れ込みすぎてもあとで傷つくのは絶対俺だし。と思いながらつづるに会って、やっぱりこいつが一番可愛いとか思っちまって、もうダメだと確信した。
 いや、もう何度かこんな考えループさせてんだけどさ、俺……。
 
「透、はよー」
「ああ、おはよ」
 
 つづるの鞄、もう凄い膨らんでる。周りの男共はお約束のようにつづるを小突いている。
 
「こいつ、相変わらずモテモテなんだぜ。世の中は不公平だよなあ。見ろよ、この量。毎年何人泣かせてんだ~?」
「はっはっは。十人はくだらないな」
 
 ……俺もその中に加えておいてくれ。泣きそうだ。
 
「で、透はいくつ貰った?」
「ん……三個」
「なんだよ、リアルな数字だな……! おれなんかまだ一個も貰ってないのに、お前も何気にもてるよな。顔は普通なのに」
「そりゃあ、お前が普通以下だからだろ」
「な、なんだとおおお!」
 
 といういつものやりとりを、五、六人でワイワイと繰り返す。
 チョコの数はステータス。俺も毎年そう思っていたのに、あげる側って結構緊張する。
 一応恋人相手に渡すだけなのに緊張するって、それもどうだよ。それを考えると、本当に女の子って勇気あるよな。
 
「義理ならこれから貰えるだろ。俺は本命っぽいのは断ってるし、今年は」
 
 そう、つづるをちらりと見ながら言ってみる。目を逸らされた。
 ……何その態度。理由を問いつめたい。
 
「なんだと! お前、いつの間に彼女ができたんだ! クリスマスはモテない独り身パーティーに参加してたろ!」
 
 別の友達にむしろ俺が問いつめられた。
 
「まー、クリスマスのあとだよ、あと。これがまた、ツレない奴でさ、つきあってるかどうかハッキリわからないレベル。だから今日……ハッキリさせてやるんだよ」
「なるほど。チョコを貰えたら向こうもお前のことを恋人だと思っているし、貰えなかったら思われてないってことだな!」
 
 そ、それを言われたら……確実に恋人じゃなくなっちまうぜ……。
 でも相手は男だし、チョコをあげるって概念が元々ないんだろうからあてはまらないよな、うん……。貰う側なわけだし。
 
「ま、まあそんな感じだ」
 
 つづるは、相変わらず俺と目をあわせようとしなかった。
 まあ、確実にくれるつもりもないんだろうな……チョコ。
 いいさ。俺がやるから。告白つきでな。突っ返したらその場でキスのひとつでもかましてやる。さすがに突っ返されることはないとは思うが。
 自覚がないだけで、言葉としては『恋人同士』だとつづるも認めてくれてはいるんだから……。
 そう思いつつも、ギチギチに膨らんだつづるの鞄を見て、不安にならずにはいられなかった。
 ……断れよお前は。もう……ホント……。 
 
 
 
 
 甘い香りの立ちこめる一日が終わって、つづると二人帰り道。
 俺はなんとなく無言で、つづるも何を考えているかはわからないが黙ったまま。
 それでもなんとはなしに、俺のマンションへ向かっている。
 バレンタインに他の女の子と一緒に遊びに行かないで俺につきあっているんだから、意識してくれてるってことでいいんだろうな。
 帰り道、チョコを渡されまくるつづるを見ていると心が揺らぎそうになるが。
 ……ちなみに、俺も大学の外でひとつだけ渡されたが、あとはつづるの横で女の子に睨まれる役目をやっていた。
 俺が邪魔ってことなんだよな、わかってるさ。正直へこむ。へこむが……同時に、優越感だ。
 どんなに可愛い女の子たちより、つづるにとっては俺が優先。それを確認できるから。
 マンションについて鍵を開ける。つづるは何も言わずに上がり込んで……。
 玄関先でチョコでギチギチに膨らんだ鞄を俺に投げつけてきた。
 なんだこのバイオレンスな事態は。
 
「つ、つづる!?」
「なんだよ、お前! オレのこと好きだって言ったくせに、今日はわかれ話かよ!」
「は?」
 
 話が見えないんですが。
 俺がチョコ貰ってきたから……? いや、つづるだって貰ってっし。しかも本命っぽいの。俺より酷いじゃねーか。鞄に入りきらず、女の子から貰った紙袋に追加してってるレベル。
 ま、まさか……。このギチギチの鞄の中身は、つづるからのバレンタインチョコだったりするのか? で、俺が貰ってきてたから当てつけのように俺の前でチョコを貰い始めたと! なるほど!
 
「これ、つづるからのバレンタインチョコか……?」
「は? なんでオレがお前にやんなきゃいけねーんだよ!」
 
 ふっ……この照れ屋さんめ……と、色ぼけながら鞄を開けると女の子たちから貰ったとおぼしきチョコが入っていた。メッセージカードつきで。
 はい、夢を見すぎてましたね、すいません。ちくしょうが。
 だったら、別れ話ってなんのことだよ。やっぱ棚上げか?
 
「つづる、言っておくが俺は本命っぽいのは全部断ってるぞ。今日もらったのは全部義理だ。だって、お前がいるから……」
「何言ってんだ、馬鹿! く……クリスマスのあとにできた彼女がいるんだろ! ツレない奴で、まだ落ちてなくて、今日ハッキリさせるんだろ? オレはキープかよ!」
 
 ……あ、あああぁ、あれかあぁぁ!
 で、でも普通わかんだろ。俺、ほとんどお前としかいてないんだぞ。いつ作るんだよ、他にそんな相手。まあつづるは普通じゃないしな……言わなきゃわかんないよな。俺が馬鹿だった、本当。
 
「あれはお前のことだ、つづる。彼女ってのは方便に決まってるだろ」
「そりゃ男同士だから、言いにくくて彼女って言うのまではわかる。でもオレとお前は、その……つきあってるんだから……あの話には、あてはまらないだ……ろ……」
 
 そう言って頬を染めながら俯くつづる。胸の奥からじわじわと、幸せがこみ上げてくる。
 なんだ……。つづる、きっちり恋人同士って自覚あんじゃねーか。
 
「俺が恋人同士っぽいことしようとするたびに、恋人同士でもあるまいし、みたいな態度だからさ、あんまりその自覚がないんじゃないかって、思ってた」
「そんなことは……」
 
 言葉を切って瞳を逸らす。心当たりがあるからだ。
 誰もいないところで手をつなごうとすると、照れるでもなく不思議そうな顔になってみたり。
 クリスマスを二人で過ごそうとすれば、さっさと飲み会の予定を入れちまいやがるし。
 ……俺の機嫌が悪くなるのを見て、初めてハッと気づく感じ。
 
「オレだって多少は悪いと思ってる。友達期間が長かったからさ、どうしても上手く移行できないんだ。友達のお前がオレの中では大きくて、好きだって言ってくれたお前はまた別にいる。そんな感じで……」
 
 つづるが俺の手からチョコの詰まった鞄をもぎとり、もそもそとただの板チョコレートを取り出した。明らかに、女の子から貰ったんじゃないっぽいチョコ。バレンタイン仕様ではなかったが、それが逆に俺をどきりとさせた。
 だって、まさか……そんな、本当に?
 
「つまり、恋人だと思ってるって、ことだろ」
 
 つづるは拗ねたようにそう言って、俺の胸にとすんとチョコを押しつけた。心の中にまで、入ってきた気がした。
 俺と友達の台詞、しっかり聞いてるしな。気にしてたのかと思うと、もう愛しくてたまんねえ。
 
「いつもさ、友達感覚が強すぎて、透をやきもきさせているとは思う。だから、まあ……バレンタインだしさ、きっちり仕切り直しをしてやろうと思ったんだよ」
 
 俺とまったく同じこと考えてたのか。
 
「オレ、お前のこと恋人だって思ってる。普段は照れくさくってなかなか言えないけど、ち、ちゃんと……その、あ、あ、愛してるぜ」
「つづる……!」
 
 俺はチョコを掴んだまま、つづるをぎゅうっと抱きしめた。耳元で息が吐き出されるのが、なんかリアルで、でも、夢みたいで。まさか本当に夢じゃないよな?
 
 そうだ、俺もチョコ……渡さないと。俺のはきちんとラッピングしてある。ネット注文だが。
 
「俺もお前に、チョコがあるんだ。本当はさ、お前が恋人としてこれを受け取ってくれるかどうか不安だった。なのにまさかお前から貰えるなんて夢みたいだ」
「透は……いつでもきっちり、オレのこと好きだって言ってくれるだろ。オレ以外にも言ってんのかと思ったら、マジショックだった。オレ、やっぱお前のこと本当に好きだったんだな」
「つづる……」
 
 ……それって、チョコを用意しておいたに関わらず、ちょっと半信半疑な部分もあったってことじゃ……。い、いや、今は考えないでおこう。感動だけしておこう。
 俺はつづるにキスをして、そのままベッドに……。
 
「あ、チョコ先食っていい? お前のくれたヤツ、美味そう」
 
 いや、今すっげーいい雰囲気だったろ。普通流れでいくだろ。
 真なる恋人同士にはまだ遠い……のか?
 まあ、甘いチョコの味がするキスもいいかもしれん。そう思い直して二人でチョコを食べた。
 
 つづるが俺のことをきちんと恋人同士だと思っていてくれた。
 チョコまでくれた。これ以上の幸せはないぜ。
 つづるががっつり食いすぎて腹を壊し、ベッドで全裸になっているのに何もできないという超オアズケをくらってることなんて、まったく気にならないくらい幸せだぜ。本当にな!
 
 
 
オマケのオマケ◆最初から最後まで全裸◆
 
 
 そんな我慢を重ねたバレンタインから一夜明けた。
 さすがにつづるも悪いと思ったらしく、俺の願いをひとつだけ聞いてくれるという。
 外のトイレでは全裸にならないように頼むか……? いや、だがつづるの中では俺もトイレで全裸になる人間だってことにされているし、棚上げになるのはな……。
 
「じゃあ……俺の、舐めてくれ」
「うっ……」
 
 そうあからさまに嫌そうな顔すんなよ。悲しくなるだろ。
 
「好きなら、舐めてやりたくなるもんじゃね? 俺はいつもつづるのここ、たっぷり舐めてやってるだろ?」
 
 ベッドへ座って、ズボンの前を開けてつづるに見せつける。
 昨日、俺のことを好きだと言ってくれた。恋人同士だと思っているその証を、目に見える形でも見せてほしかった。
 
「わ、わかった……」
 
 つづるはそう言って、俺の足の間にそっと顔を埋める。ぎこちない手つきに煽られて、まだ触られる前なのに俺のソレは柔らかな布地を押し上げてしまった。
 
「興奮しすぎだろ、お前」
 
 そう呆れた声を出されて、さすがの俺もちょっと恥ずかしい。でもそれより期待のほうが大きくて、無言のままつづるの髪を撫でた。
 
「抵抗があったら、初めは舌の先で舐めるだけでいいから」
「眼前で見るのすら抵抗ある……」
「ひでぇ。お前は普通の時すら俺の前で丸出しだったのに」
 
 おそるおそるといった様子で、つづるが俺のそれをトランクスの前あきから取り出す。
 少しためらっていたものの、上目遣いに俺を見ながらちろりと舐めた。
 すげっ……エロい。このちょっと怯えた感じがたまらん!
 舌は気持ちいいってよか、くすぐったいだけだが……。
 
「も、もう少し絡めるようにしてくれ。アイスでも舐めるみたいに」
「ん……」
 
 にゅるりと絡みつくぬめった感触に、足下から快感が駆けあがる。
 してもらうの……久しぶりだ……。
 
「今度は、少しずつ口の中に含んで……そう」
 
 少しずつ飲み込まれていく俺の欲望をみているとそれだけで射精しそうになる。つづるの整った唇が、俺の汚いモノを……。すげぇ。
 
「う、つづ……るっ……」
 
 耳の後ろを愛撫するようにかきあげて、髪の毛にキスをしてやる。
 あー、もう。愛しい。愛しくてたまらん。
 じゅぷじゅぷといういやらしい音と共につづるの頭が揺れるのがリアルすぎる。夢では何回くらい見たかな。
 
「っ……気持ちいいか?」
「いい。すげー……。な、も……出そう」
「出せよ。の……飲んで、みる……」
 
 マジか!? ホントに夢じゃないか、これ! 現実か!?
 そんなつづるの台詞と吸い上げに、俺はあっさりと限界突破した。
 
「っく……出る……っ」
 
 つづるの頭を押さえつけて、喉の奥に射精する。
 喉が動くのを見て、股間がまた張りつめそうになる。
 本当に飲んでる……つづるが、俺の。
 
「……変な味。でも、飲んだぜ」
 
 ドヤ顔なのも、今は可愛く見えてしまう。
 うん、本当に……飲んでくれたんだな。
 
「サンキュ、つづる。マジ嬉しい。今死んでもいいってくらい」
「大げさだな、透は………………」
 
 そう言うつづるの顔がだんだん青くなっていく。
 
「つ、つづる?」
「やっぱちょっと……すまん」
 
 トイレへ駆け込むつづる。嘔吐の音。
 ……いや、仕方ないとは……思うが、ちょっとショックだな……やっぱり。
 しかもこの後盛り上がって続きを! 今日こそ続きを! と思っていた身としては。
 戻ってきたつづるは、全裸のままぐったりとベッドへ倒れ込んだ。
 
「だ、大丈夫か、つづる?」
「しばらく、ダメそう」
 
 その後、具合悪いのはなんとか治ったものの再び腹をくだして全裸でベッドに眠るつづるを横に、俺は結局今日もオアズケするはめになるのだった……。
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