39 / 50
ステージ7
オレの名前は真山千里
しおりを挟む
主のいなくなったマンションを出て、久々に実家へ帰った。
前に彼が消えた時はノートパソコンに記憶らしきものが刻まれていたのを思い出し、新しい真山くんをインストールしたデスクトップパソコンを立ち上げる。
ゲームを起動してみたけれど、今度はタイトルも変わらなかったし、記憶みたいなものも流れなかった。
今度は……どんな形であれ、エンディングを迎えなかったから、なんだろうか。期限が切れた場合はバッドエンドには分類されないのか……?
念のためインストールし直して見たけど、変化は訪れない。やっぱり同じパソコンを使うんじゃダメなのか。
どうしよう……どうしたら。真山くんに記憶がなくても、俺のことを知らなくても、同じことの繰り返しでも、また泣くことになっても……。
君に、会いたい。
俺はさんざん悩んだ末、CDを持って完全個室タイプのネカフェを訪れた。
数人用の大きいパーティールーム。
あとから友人がくるので、と嘘をついて通してもらった。
なるべく人の少ない時間をと、平日の真っ昼間。周りの部屋はガラ空きで、安いオープンタイプの座席ばかりが埋まっていた。
ドライブにCDを入れてインストール。
結局俺は……君がいないことにたえられそうにない。
親友のままでいい。恋人じゃなくていい。傍にいてくれたらいい。
周りの人が君を知っているから、俺も初めましての振りをする訳にはいかないけれど、今度は恋人同士だったってことは内緒にしておこう。
そんなことを考えながら君があらわれるのを待ったけど……。
「え……?」
スタートボタンを押しても、名前を入力してしばらく待っても、画面から真山くんが出てくることはなかった。
どうして? ネカフェなんかで済まそうとしたから? 新しいパソコンをきちんと買えってこと?
「お前は嫁を、ネカフェなんかでインストールするつもりなのか?」
「えっ……」
聞き慣れた声に後ろを向くと、真山くんが立っていた。
「ど、ど……どうし……」
「部屋番言って名前告げて、友達が先に入ってますって言ってきたけど?」
「…………! そ、そういう、ことじゃないっ」
「あはは、わかってる、わかってる」
真山くんが俺を抱きしめて、背中をぽんぽんと叩く。
「画面から嫁が現れるのは、漫画やゲームの中だけだぜ」
「君がそれを、言うかよ……!」
これは、どっちの真山くん?
それとも単に消えてなかっただけ……? だって、前と違って君の『記憶』は俺のパソコンに現れなかった。
「オレが消えたままなら、普通の人生歩けただろうに、三回もインストールしようとしやがって。この馬鹿……」
真山くんの目から、涙が一筋こぼれ落ちる。その涙を含めるようにして、キスをされた。
これが三回目であることを知っているのは、新しい真山くんだけだ。
抱きしめる腕の力も、キスの仕方にも差がない。
それでもわかった。理屈じゃない。
これは……俺の恋人だった真山くん。
「俺は君に何度も言ったよ。俺のハッピーエンドは、自分で決めるって」
「……そうだったな。でも、システム的には、そうじゃなかった。オレはお前をハッピーエンドへ導けなかったペナルティとして、今ここにいる」
「ペナルティ……?」
「そう。プログラムであるオレにとっては、本来ならゲームの中へ戻れることこそ、幸せなんだよ」
そう言って、真山くんは凄く幸せそうに微笑んだ。
プログラムである彼にとって、本来幸せじゃないはずの、この世界で。
「だから、ハッピーエンドを迎えさせてやれなかった挙げ句、お前の心に傷跡を残したオレは、きっちりゲームの中へ戻れなかった。前回は記憶だけプログラムの中に沈んだが、二度も失敗したんじゃな。今回はついに、完全に戻れなくなっちまったよ」
「完全に……。じゃあ、本当に……もう、俺の前から、消えない……ってこと?」
「ああ」
「本当に……?」
「ああ。本当だ。ずっとお前の傍にいるよ、冬夜」
俺は、確かめるように真山くんを抱きしめ返した。
……消えない。ちゃんと、ここに、いる。
「……っ。真山く……」
「泣くなよ。オレも泣いちゃうだろ」
「君のほうが先に泣いてたくせに」
「うるさい」
真山くんが俺から顔を隠すように、肩に頭を乗せた。
……耳、真っ赤。可愛い……。
「真山くんは……記憶をなくしていた間のことは、その……覚えてるの?」
「ああ、覚えてるぜ。お前、あんなに簡単にキスされやがって」
「……いや、あれも真山くんなんだろ……」
「そうだけど、姿形が一緒ならなんでもいーのかって気になるじゃんかよ」
馬鹿だな。なんでもいいなら、記憶をなくした君であっても、とうにどうこうしてたよ。
まあ……これは、彼なりの照れ隠しなんだろうけど。
「プログラムにとっての幸せがゲームに戻れることなら……真山くん。君にとっての、幸せは?」
「お前にハッピーエンドが訪れること」
「今もう、まさにエンディングロールが流れてる感じなんだけど、俺の中では」
「だから……今、すげー……幸せだよ。もう、何も気にせず、お前に好きだって……愛してるって言えるんだ」
俺は、真山くんの顔を上げさせて、そっと唇を近づける。
真山くんはそんな俺をかわして、一歩後ろに下がってしまった。
「ま、真山くん……?」
真山くんは、こほんと一つ咳払いをして、俺に手を差し出す。
「オレの名前は真山千里……。今度は、恋人から始めてくれますか?」
「……喜んで」
HAPPYEND!
前に彼が消えた時はノートパソコンに記憶らしきものが刻まれていたのを思い出し、新しい真山くんをインストールしたデスクトップパソコンを立ち上げる。
ゲームを起動してみたけれど、今度はタイトルも変わらなかったし、記憶みたいなものも流れなかった。
今度は……どんな形であれ、エンディングを迎えなかったから、なんだろうか。期限が切れた場合はバッドエンドには分類されないのか……?
念のためインストールし直して見たけど、変化は訪れない。やっぱり同じパソコンを使うんじゃダメなのか。
どうしよう……どうしたら。真山くんに記憶がなくても、俺のことを知らなくても、同じことの繰り返しでも、また泣くことになっても……。
君に、会いたい。
俺はさんざん悩んだ末、CDを持って完全個室タイプのネカフェを訪れた。
数人用の大きいパーティールーム。
あとから友人がくるので、と嘘をついて通してもらった。
なるべく人の少ない時間をと、平日の真っ昼間。周りの部屋はガラ空きで、安いオープンタイプの座席ばかりが埋まっていた。
ドライブにCDを入れてインストール。
結局俺は……君がいないことにたえられそうにない。
親友のままでいい。恋人じゃなくていい。傍にいてくれたらいい。
周りの人が君を知っているから、俺も初めましての振りをする訳にはいかないけれど、今度は恋人同士だったってことは内緒にしておこう。
そんなことを考えながら君があらわれるのを待ったけど……。
「え……?」
スタートボタンを押しても、名前を入力してしばらく待っても、画面から真山くんが出てくることはなかった。
どうして? ネカフェなんかで済まそうとしたから? 新しいパソコンをきちんと買えってこと?
「お前は嫁を、ネカフェなんかでインストールするつもりなのか?」
「えっ……」
聞き慣れた声に後ろを向くと、真山くんが立っていた。
「ど、ど……どうし……」
「部屋番言って名前告げて、友達が先に入ってますって言ってきたけど?」
「…………! そ、そういう、ことじゃないっ」
「あはは、わかってる、わかってる」
真山くんが俺を抱きしめて、背中をぽんぽんと叩く。
「画面から嫁が現れるのは、漫画やゲームの中だけだぜ」
「君がそれを、言うかよ……!」
これは、どっちの真山くん?
それとも単に消えてなかっただけ……? だって、前と違って君の『記憶』は俺のパソコンに現れなかった。
「オレが消えたままなら、普通の人生歩けただろうに、三回もインストールしようとしやがって。この馬鹿……」
真山くんの目から、涙が一筋こぼれ落ちる。その涙を含めるようにして、キスをされた。
これが三回目であることを知っているのは、新しい真山くんだけだ。
抱きしめる腕の力も、キスの仕方にも差がない。
それでもわかった。理屈じゃない。
これは……俺の恋人だった真山くん。
「俺は君に何度も言ったよ。俺のハッピーエンドは、自分で決めるって」
「……そうだったな。でも、システム的には、そうじゃなかった。オレはお前をハッピーエンドへ導けなかったペナルティとして、今ここにいる」
「ペナルティ……?」
「そう。プログラムであるオレにとっては、本来ならゲームの中へ戻れることこそ、幸せなんだよ」
そう言って、真山くんは凄く幸せそうに微笑んだ。
プログラムである彼にとって、本来幸せじゃないはずの、この世界で。
「だから、ハッピーエンドを迎えさせてやれなかった挙げ句、お前の心に傷跡を残したオレは、きっちりゲームの中へ戻れなかった。前回は記憶だけプログラムの中に沈んだが、二度も失敗したんじゃな。今回はついに、完全に戻れなくなっちまったよ」
「完全に……。じゃあ、本当に……もう、俺の前から、消えない……ってこと?」
「ああ」
「本当に……?」
「ああ。本当だ。ずっとお前の傍にいるよ、冬夜」
俺は、確かめるように真山くんを抱きしめ返した。
……消えない。ちゃんと、ここに、いる。
「……っ。真山く……」
「泣くなよ。オレも泣いちゃうだろ」
「君のほうが先に泣いてたくせに」
「うるさい」
真山くんが俺から顔を隠すように、肩に頭を乗せた。
……耳、真っ赤。可愛い……。
「真山くんは……記憶をなくしていた間のことは、その……覚えてるの?」
「ああ、覚えてるぜ。お前、あんなに簡単にキスされやがって」
「……いや、あれも真山くんなんだろ……」
「そうだけど、姿形が一緒ならなんでもいーのかって気になるじゃんかよ」
馬鹿だな。なんでもいいなら、記憶をなくした君であっても、とうにどうこうしてたよ。
まあ……これは、彼なりの照れ隠しなんだろうけど。
「プログラムにとっての幸せがゲームに戻れることなら……真山くん。君にとっての、幸せは?」
「お前にハッピーエンドが訪れること」
「今もう、まさにエンディングロールが流れてる感じなんだけど、俺の中では」
「だから……今、すげー……幸せだよ。もう、何も気にせず、お前に好きだって……愛してるって言えるんだ」
俺は、真山くんの顔を上げさせて、そっと唇を近づける。
真山くんはそんな俺をかわして、一歩後ろに下がってしまった。
「ま、真山くん……?」
真山くんは、こほんと一つ咳払いをして、俺に手を差し出す。
「オレの名前は真山千里……。今度は、恋人から始めてくれますか?」
「……喜んで」
HAPPYEND!
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる