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自分で確かめろよ
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それから、旭は葉月に手を引かれるままカジノを抜け出し、駐車場へ連れていかれた。出会った時と変わらぬ手の冷たさは、いつしかとても愛しいものになっていた。これからは、手を握って温めてあげることもできるのだと思うと、じんわり胸が熱くなる。
車へ乗り込むまで無言でいた葉月が、乗り込んだ後ハンドルに突っ伏して小さく旭の名前を呼んだ。唇から紡ぎ出される自分の名前が、いつもより特別に思えた。
「な、何?」
「すぐ、帰ってヤるぞ」
「ヤ……。え、ええぇ」
「精算は迅速にしたいタチなんだよ。カラダを賭けろと言ったのはお前だろ? 何驚いてんだ?」
葉月が顔を上げ、助手席に座る旭を上目遣いで睨む。
「……そのつもりがなかった、なんて言わせねえぞ」
「いや、あった。ありましたけど! 勢いのよさに驚いたっていうか」
愛しているからこそ抱きたい旭としては、ヤケになっているような態度が気になる。身体を賭けの対象にしておいて何を言ってるんだと言われればそれまでなのだが。
「まさか、俺をそういった方向で満足させて、俺のモノ期間終わり、とか言わないよな?」
「さすがにそんなコトバアソビのようなコトを言うつもりはない。ちゃんと、お前の意思は組むつもりだ」
後頭座席には小さめのバッグがポツンと置いてある。
葉月は普段、鞄を持ち歩かない。きっとこんな小さな鞄ひとつで、どこかへ行ってしまうつもりだったのだ。
今日、カジノで会えなかったら。そして勝負に勝てなかったらと考えるだけでゾッとする。
「絶対、だからな。俺はもう、葉月なしじゃ生きていけないから……捨てないでくれ」
「わかったから、捨て犬のような目で見るのはやめてくれ」
葉月は旭から目を逸らし、車を発進させた。
ようやく手に入れたのに、不安がつきまとう。本当に彼は、もう二度と自分の傍から離れないのか。逃げていかないのか。
先程ギャラリーが大勢いる中でしてみせたキスは、そんな旭の不安を軽減させるためのものだったのかもしれない。
「おれは笑って嘘をつくギャンブラーだしな。身体で示せばお前も少しは安心するだろう? なあ、旭?」
葉月はニッと笑って、何かを喋ろうと開いた旭の口に、ミントの飴を押し込んだ。
「わかったら少し、イイコにしてな」
相変わらずどこまでも、お見通し。
ミントの飴を舐めながら気持ちを落ち着かせようとするが、その試みはまったく上手くいかない。
涼しげな顔をしている葉月のほうが、旭には不思議に思えてくる。
掘られるのは初めてだと言っていたし、最後までではないが肌を重ねた時も、そこまで物慣れた様子はなかった。ならば、もう少し緊張の色が見えてもよさそうなものだ。
しかし、相手はあの葉月。内心がどうであれ、外には見せないだけかもしれない。
ぐるぐる考えているうちに、車はマンションではなく、オシャレなファッションホテルへと突入した。いわゆる、ラブホテルである。
「え、え、なんで!?」
「ココのが便利だろう、イロイロと。それにお前、前に行きたいようなコト言ってたしな」
いくらなんでも思い切りがよすぎだ。これではどちらが襲われる側かわからない。
葉月は駐車場へ車を停めると、低い声でククッと笑った。
「初めて会った時を思い出すな。あの時のお前は、怯えてて可愛かった」
「葉月が散々からかったからだろ。何をされるかわからなかったし」
「今日はわかってるだろ。お前がイヤなら、眠るだけでも構わないんだぜ、おれは」
「嫌とか……ありえない」
「なら、なんでそんな顔をしている。勝ったんだから、堂々と喰ってくれよ。骨のヒトツも残らないくらい」
あからさまな誘いの言葉に、旭はぶるりと身を震わせた。恐怖ではなく、興奮で。
「俺がどれだけ葉月に飢えてるから知らないから、そんな台詞が吐けるんだ。もう無理だって言っても、やめてやれないからな」
「上等」
幸い、人と会わずにチェックインできるタイプのホテルだった。もし見られていたら、通報でもされていたかもしれない。旭はそれくらい獣のような顔をしている自信があった。更には、隣に童顔の葉月である。
そんなただならぬ気配を発しながら部屋へ飛び込めば、葉月が旭をベッドへ押し倒し、その身体の上に乗り上げた。
「積極的すぎる!」
「純情、従順なのがお好みか?」
「いや、嬉しいけど、なんか葉月らしくなさすぎて」
「そうでもないだろ。前にも言ったが、勢いづいたお前にのしかかられるのは男として思うところがあんだよ」
「ああ、そういう……」
確かに、前にもそのような感じのことを言い、されるくらいならとキスをしてきたことがある。
ネタが明かされてしまえば、どこまでリードしてくれるつもりなのかを楽しむ余裕が出てきた。
葉月の腰を、細さを確かめるように両手で掴む。
「なら、早くコート脱いで、俺のも脱がせて。葉月が」
「その前にだな……。これ、覚えてるか?」
その気になった途端、今度は待ったをかけられて焦れる。まるで遊ばれているみたいだ。
だが、葉月がコートの内ポケットから取り出した物を見て、旭は驚きに目を見開いた。
ショッキングピンクの包みが眩しいそれは、素直になれる薬と謳われたミント味のキャンディ。実際にはアダルトグッズの類だと予想している。
旭が忘れた頃に食べさせると言っていたのに、何故今取り出すのか。まさか食べさせるつもりなのだろうか。
葉月がそれを望むなら、そんな物はなくても、いくらでも素直な気持ちを口にするのに。と、思った途端、葉月はその包装紙を開けて丸い飴玉を舐めてしまった。
「好きだ、旭」
「はづ、き?」
「本当はな、おれ、お前がおれに告白してきた頃には、同じようなイミで好きだったんだよ」
「ええ!? う、嘘……」
「嬉しかったぜ、お前の気持ち。でも、凄く怖かった。おれを好きになったヤツは、大抵狂うか壊れちまうから」
葉月は旭に、この言葉を信じさせたいのだろう。だから、わざわざ目の前で飴を舐めた。ジョーク品だろうとなんだろうと、目に見える形で表現したかったのだ。
そこには、自分を勢いづかせるため、という意味もあったのかもしれない。
「葉月が、俺を……」
好かれているのはわかっていた。だが、それはあくまで友情としてなのだと疑わなかった旭は、急な葉月の告白に戸惑っていた。
けれどそれもすぐ嬉しさにかわり、胸がじわじわと喜びでいっぱいになっていく。
確かに葉月が今までとってきた行動や旭を赦してきたことから考えれば、何もおかしくはない。だがそれは、あくまでポーズなのだと思っていた。
「……今はお前のくれた薬が効いてるからな。嘘はつかない。ほら、何か訊くなら今のうちだぞ」
「これが終わった後、逃げたりしないな?」
「ああ。って案外シツコイな、お前……。何度言わせるんだよ、それ」
「実年齢は?」
「うっ。それをココで訊くか……。さ、35……」
「見えない!」
「わかってる!」
「葉月でも、実年齢晒すの恥ずかしかったりする?」
「ま、まあな」
「若く見えるのはコンプレックス?」
「ああ……。って、なんだこの質問……」
「好きな食べ物は?」
「トマト。どちらかといえばそのままよりジュースが好きだ。これくらい、いつでも答えるぞ。薬が効いてなくても、フツーに」
「……本当は、俺に抱かれるの、嫌なんじゃないか?」
冗談の次に言われた緊張のこもった言葉に、葉月の身体が固まった。ああやっぱりと思った旭だったが、葉月の顔を見れば真っ赤に染まっていた。
「お前相手なら……イヤじゃない。トクベツ、だからな」
普段なら間違いなく話をすり替えるか煙にまく葉月が、本当に恥ずかしそうに答えるので、旭は知らず生唾を飲み込んだ。
「……じ、じゃあ……葉月が、一番感じるところは?」
「それは、自分で確かめろよ。バカ」
素直に答えてくれないじゃないか、なんて冗談を言う余裕はもうなく、起き上がってその細い身体を痛いほど強く抱きしめた。
車へ乗り込むまで無言でいた葉月が、乗り込んだ後ハンドルに突っ伏して小さく旭の名前を呼んだ。唇から紡ぎ出される自分の名前が、いつもより特別に思えた。
「な、何?」
「すぐ、帰ってヤるぞ」
「ヤ……。え、ええぇ」
「精算は迅速にしたいタチなんだよ。カラダを賭けろと言ったのはお前だろ? 何驚いてんだ?」
葉月が顔を上げ、助手席に座る旭を上目遣いで睨む。
「……そのつもりがなかった、なんて言わせねえぞ」
「いや、あった。ありましたけど! 勢いのよさに驚いたっていうか」
愛しているからこそ抱きたい旭としては、ヤケになっているような態度が気になる。身体を賭けの対象にしておいて何を言ってるんだと言われればそれまでなのだが。
「まさか、俺をそういった方向で満足させて、俺のモノ期間終わり、とか言わないよな?」
「さすがにそんなコトバアソビのようなコトを言うつもりはない。ちゃんと、お前の意思は組むつもりだ」
後頭座席には小さめのバッグがポツンと置いてある。
葉月は普段、鞄を持ち歩かない。きっとこんな小さな鞄ひとつで、どこかへ行ってしまうつもりだったのだ。
今日、カジノで会えなかったら。そして勝負に勝てなかったらと考えるだけでゾッとする。
「絶対、だからな。俺はもう、葉月なしじゃ生きていけないから……捨てないでくれ」
「わかったから、捨て犬のような目で見るのはやめてくれ」
葉月は旭から目を逸らし、車を発進させた。
ようやく手に入れたのに、不安がつきまとう。本当に彼は、もう二度と自分の傍から離れないのか。逃げていかないのか。
先程ギャラリーが大勢いる中でしてみせたキスは、そんな旭の不安を軽減させるためのものだったのかもしれない。
「おれは笑って嘘をつくギャンブラーだしな。身体で示せばお前も少しは安心するだろう? なあ、旭?」
葉月はニッと笑って、何かを喋ろうと開いた旭の口に、ミントの飴を押し込んだ。
「わかったら少し、イイコにしてな」
相変わらずどこまでも、お見通し。
ミントの飴を舐めながら気持ちを落ち着かせようとするが、その試みはまったく上手くいかない。
涼しげな顔をしている葉月のほうが、旭には不思議に思えてくる。
掘られるのは初めてだと言っていたし、最後までではないが肌を重ねた時も、そこまで物慣れた様子はなかった。ならば、もう少し緊張の色が見えてもよさそうなものだ。
しかし、相手はあの葉月。内心がどうであれ、外には見せないだけかもしれない。
ぐるぐる考えているうちに、車はマンションではなく、オシャレなファッションホテルへと突入した。いわゆる、ラブホテルである。
「え、え、なんで!?」
「ココのが便利だろう、イロイロと。それにお前、前に行きたいようなコト言ってたしな」
いくらなんでも思い切りがよすぎだ。これではどちらが襲われる側かわからない。
葉月は駐車場へ車を停めると、低い声でククッと笑った。
「初めて会った時を思い出すな。あの時のお前は、怯えてて可愛かった」
「葉月が散々からかったからだろ。何をされるかわからなかったし」
「今日はわかってるだろ。お前がイヤなら、眠るだけでも構わないんだぜ、おれは」
「嫌とか……ありえない」
「なら、なんでそんな顔をしている。勝ったんだから、堂々と喰ってくれよ。骨のヒトツも残らないくらい」
あからさまな誘いの言葉に、旭はぶるりと身を震わせた。恐怖ではなく、興奮で。
「俺がどれだけ葉月に飢えてるから知らないから、そんな台詞が吐けるんだ。もう無理だって言っても、やめてやれないからな」
「上等」
幸い、人と会わずにチェックインできるタイプのホテルだった。もし見られていたら、通報でもされていたかもしれない。旭はそれくらい獣のような顔をしている自信があった。更には、隣に童顔の葉月である。
そんなただならぬ気配を発しながら部屋へ飛び込めば、葉月が旭をベッドへ押し倒し、その身体の上に乗り上げた。
「積極的すぎる!」
「純情、従順なのがお好みか?」
「いや、嬉しいけど、なんか葉月らしくなさすぎて」
「そうでもないだろ。前にも言ったが、勢いづいたお前にのしかかられるのは男として思うところがあんだよ」
「ああ、そういう……」
確かに、前にもそのような感じのことを言い、されるくらいならとキスをしてきたことがある。
ネタが明かされてしまえば、どこまでリードしてくれるつもりなのかを楽しむ余裕が出てきた。
葉月の腰を、細さを確かめるように両手で掴む。
「なら、早くコート脱いで、俺のも脱がせて。葉月が」
「その前にだな……。これ、覚えてるか?」
その気になった途端、今度は待ったをかけられて焦れる。まるで遊ばれているみたいだ。
だが、葉月がコートの内ポケットから取り出した物を見て、旭は驚きに目を見開いた。
ショッキングピンクの包みが眩しいそれは、素直になれる薬と謳われたミント味のキャンディ。実際にはアダルトグッズの類だと予想している。
旭が忘れた頃に食べさせると言っていたのに、何故今取り出すのか。まさか食べさせるつもりなのだろうか。
葉月がそれを望むなら、そんな物はなくても、いくらでも素直な気持ちを口にするのに。と、思った途端、葉月はその包装紙を開けて丸い飴玉を舐めてしまった。
「好きだ、旭」
「はづ、き?」
「本当はな、おれ、お前がおれに告白してきた頃には、同じようなイミで好きだったんだよ」
「ええ!? う、嘘……」
「嬉しかったぜ、お前の気持ち。でも、凄く怖かった。おれを好きになったヤツは、大抵狂うか壊れちまうから」
葉月は旭に、この言葉を信じさせたいのだろう。だから、わざわざ目の前で飴を舐めた。ジョーク品だろうとなんだろうと、目に見える形で表現したかったのだ。
そこには、自分を勢いづかせるため、という意味もあったのかもしれない。
「葉月が、俺を……」
好かれているのはわかっていた。だが、それはあくまで友情としてなのだと疑わなかった旭は、急な葉月の告白に戸惑っていた。
けれどそれもすぐ嬉しさにかわり、胸がじわじわと喜びでいっぱいになっていく。
確かに葉月が今までとってきた行動や旭を赦してきたことから考えれば、何もおかしくはない。だがそれは、あくまでポーズなのだと思っていた。
「……今はお前のくれた薬が効いてるからな。嘘はつかない。ほら、何か訊くなら今のうちだぞ」
「これが終わった後、逃げたりしないな?」
「ああ。って案外シツコイな、お前……。何度言わせるんだよ、それ」
「実年齢は?」
「うっ。それをココで訊くか……。さ、35……」
「見えない!」
「わかってる!」
「葉月でも、実年齢晒すの恥ずかしかったりする?」
「ま、まあな」
「若く見えるのはコンプレックス?」
「ああ……。って、なんだこの質問……」
「好きな食べ物は?」
「トマト。どちらかといえばそのままよりジュースが好きだ。これくらい、いつでも答えるぞ。薬が効いてなくても、フツーに」
「……本当は、俺に抱かれるの、嫌なんじゃないか?」
冗談の次に言われた緊張のこもった言葉に、葉月の身体が固まった。ああやっぱりと思った旭だったが、葉月の顔を見れば真っ赤に染まっていた。
「お前相手なら……イヤじゃない。トクベツ、だからな」
普段なら間違いなく話をすり替えるか煙にまく葉月が、本当に恥ずかしそうに答えるので、旭は知らず生唾を飲み込んだ。
「……じ、じゃあ……葉月が、一番感じるところは?」
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