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運のいい男(R15
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何回もことに及び、ベッドはどちらのものかわからない液体でぐちゃぐちゃだ。葉月のことを何度かイカせることもでき、満足させられないんじゃないかと不安に思っていた旭は心底安心した。
「お前の出したのが、足の間からスゲー垂れてくる……。さすがにもう、終わりだな」
葉月がベッドから足だけ下ろし、大きく伸びをする。今まで色事をしていたし、言っていることもそれなりにやらしいのだが、どこかスポーツでも終えたような妙な清々しさがあった。
「シャワー浴びてくる」
「あ、俺も一緒に」
「なんだ、掻き出した後すぐに、またヤるつもりか?」
できるものならしたいが、おそらく葉月の腰は限界だろう。
いくら彼のポーカーフェイスが上手くても、身体の反応は顔ほどごまかせない。わかっていて彼の好意に甘えてしまったことを、旭はかなり反省していた。
今、一緒に行くと言ったのも葉月の身体が心配で、それとなく支えようと思ったからだ。
葉月はなんでもないように笑っていて、無理についていけば矜持を傷つけかねない。しかも、事後処理に関する部分はデリケートでもある。
「もうしないよ。俺も弾切れ。ベタついてるし、早く流したかっただけ」
「そうか。でも、少しだけイイコで待ってろよ?」
葉月は旭の頬に軽い音を立ててキスをし、バスルームへ入っていった。
……直後、大きな物音がして、旭もバスルームへ駆け込んだ。
「葉月!?」
「イテテ……。あ、バカ! 入ってくるな!」
狭い洗い場のタイルへ尻をついた葉月が、前を隠すように膝を揃えて抱える。素っ裸のまま歩いていたくせに今更だ。それに、もう散々見ている。旭にとって、見飽きる、ということはないだろうが。
「やっぱ、一緒に入ろう」
「イヤダ」
「別に変なことしないって。ほら、立って」
手をかそうとするが、葉月は少し拗ねたような表情で、抱えた膝に額をつけた。
「……た、てない」
「え?」
「まあ、少し無理しすぎたかな」
「ど、どうして無理したんだよ。葉月が拒めば、俺……」
「だからだよ。お前に好きなだけ、ヤらしてやりたかったから。今まで我慢させた分な。でも、こんな格好悪い姿は見せる予定じゃなかった」
ハァ、と溜息をついて、目を伏せながら濡れた髪をかきあげる様が酷く色っぽい。旭は思わず、ごくりと生唾を飲み込んだ。
「それであんな、自分から乗ったり、腰振ったり……?」
「好きなようにとれよ」
葉月の性格を考えれば鵜呑みにはできないだろうが、追求する気にはならない。それに、それよりも、今これからのほうが重要だ。
「じゃ、もう少しつきあって。ほら、俺が掻き出してあげるから」
「……いや、さすがに、もう……。んっ……」
シャワーを出して上からかけながら背中の筋にそって撫でると葉月がびくりと震えた。
「ま、マジかよ……」
「ごめん、葉月。最初に謝っておく」
「ゴメンで済んだら警察いらねーし」
「俺、拳銃も持てない民間ボディーガードですし」
「……知ってる」
今までの我慢と、葉月に煽られ続けたことによって、旭はすっかり暴走していた。
恐らくバスルームでの情交は葉月にとって完全に計算外だったのだろう。軽い抵抗と乱れる姿に興奮し、葉月が気を失うまでやり倒してしまった。
自分の下でぐったりとする身体を抱きしめて、目尻に浮かんだ涙を舐めとる。
「傷つけたくないって、思ってたのになあ」
けれど腕の中で弱々しくなっている姿は、とても可愛く映る。もちろん、いつもの強気で食えないところも大好きで、だからこそギャップに胸が熱くなる。
丁寧に身体を清めてからバスローブを着せ、自分の硬い膝を枕にソファへ寝かせる。
葉月の細い身体に、フリーサイズのバスローブはかなり余裕がある。しかし丈はちょうどいい。細見ながらスタイルは悪くない。身体だけ見れば中性的なモデルのようだ。細さが際だって見えるのは、顔に女性らしさがまったくないせいかもしれない。その顔がやらしく歪む様は、酷く淫靡だった。思い出して、旭は顔を熱くした。
いつの間にか、苦しそうな息遣いが穏やかな寝息へと変わっている。
このまま朝まで寝顔を眺めているのもいいかと思っていたが、葉月はソファへ移動してものの5分も経たないうちに目を開けた。
「……旭?」
少し舌ったらずな声で旭の名前を呼び、けだるげに目を瞬かせる。愛しくて、額にかかる髪を払うように葉月の頭を撫でた。
「ごめん、無茶して」
「さすがに最後のはキツかったな。お前の体力を侮っていた」
正直、詰られてもおかしくないだけのことをしたはずなのに、葉月は怒らない。多少呆れてはいるようだが。
「まあ、薬が効いてて助かった」
「え、まさかアレ、媚薬だったとか!? どうりで凄い乱れよう」
「そんなに乱れてない!」
最後まで言い切る前に、下から額をはたかれた。
「あの飴、お前の同僚が彼女から貰ったものだったよな? フツウ、自分の彼氏に媚薬は渡さんだろ。多分精力剤かそのへんか。そんな強いものじゃないと思うが」
「あ、なるほど……」
「つまりお前の同僚は、彼女から回数が足りないと思われているのかもな」
「そうか。確かにそれなら、素直になる薬、なんて言い方も頷ける」
「な?」
不名誉な会話に、くだんの同僚は今頃くしゃみのひとつでもしているに違いない。
「しかし、お前の膝枕、硬いなー」
「ごめん。柔らかくもないし、むしろごついし、男だし……掘っちゃったし」
「ああ。ずっと護ってきたのに、ついに掘られちまったなー。でもまあ、お前ならいいよ」
葉月はソファの上で外側へ軽く寝返りを打って、旭に顔が見えない角度で呟いた。
「男でも、おれよりごつくても、膝が硬くても。おれは、お前がいい」
「葉月……ッ!」
これも、今まで我慢させた分だというのか、デレのバーゲンセールだ。いや、考えてみれば最近おとなしかっただけで、出会った頃は割りとこんな感じだった。
しかしそこには、からかうためと愛を伝えるためという、決定的な差がある。
「俺も、どうしたらいいかわからないくらい、大好きだ!」
「もう、散々聞いたよ」
「いいや、葉月は俺の気持ちがどれほどか、わかってない。葉月がいなきゃ、生きていけないくらいなんだからな。だからもう、絶対に離れるなんて言うなよ」
「言わねーよ。もう、言わない。お前には、生きててもらわなきゃ困るしな」
葉月は旭の上で、決まり悪そうに頭を動かし、起き上がって隣に座った。
「……それに、どれほどおれを好きかは伝わったよ。底無しか。もう無理だぞ、マジで」
「いやっ、その、これは!」
おとなしく膝枕される葉月が可愛かった上、更に可愛いことばかり言うので、素直な旭の下半身は素直に反応していた。かつて葉月に対してはピクリともしなかった日々は、カケラも面影がない。
「葉月がこれ以上、変に刺激しなければ大丈夫。多分」
「むしろ今の流れでおっ勃てるお前が怖いね、おれは」
「え、そんな! バスローブから覗く肌とか、素直に頭乗せてくれるのとか……。もよおしても無理ないだろ? そんな、人をケダモノみたいに」
「……ケダモノ」
葉月はバスローブの合わせをすすっと中央に寄せた。
せっかくいい雰囲気だったのに引かれてしまい、旭は焦る。
「そうだ、そういえば、今日はクリスマスイブだよな」
「ずいぶんと強引な話題転換だな」
「ぐっ……。ま、まあ、ご機嫌とりって言われればそれまでなんだけどさ、プレゼント、買ってあるんだよ」
このタイミングではご機嫌取りを疑われても仕方ない。実際、話題転換と好感度を上げるには最適な内容だし、旭自身それを狙って口にした。
「へえ。まさかペアリングとかベタな代物じゃないだろうな? 付き合ってもいなかったのに?」
そうからかうようにニヤニヤする葉月を見ると、お前本当に俺のこと好きだったのかよと突っ込みたくなる。プレゼントを買った時点で付き合っていなかったのは事実だが、葉月の話が本当ならば想い合ってはいたのだから。
しかし旭の言うプレゼントに興味を引かれてはいるようで、目論みは成功したと言える。
「違う。葉月相手じゃ値段なんて気にしても仕方ないから、本当に気持ち程度だ」
「ミントの飴だな」
「もう、それに近い」
旭は床にとっちらかったコートを探り、ポケットから小さな包みを取り出した。四角い、それこそ指輪でも入っていそうな箱だが、それにしては、縦に大きい。
「潰れなくてよかったよ。はい、メリークリスマス、葉月」
「あ、ああ。メリークリスマス」
渡してからコートをハンガーにかけ、隣に落ちている葉月のコートもあわせてかけた。
プレゼントを貰うのが初めてというわけでもないだろうに、葉月は妙にしんみりとした感じで、箱を手の平に乗せたまましげしげと眺めている。
「ありがとう、旭。ところでお前、バスローブの裾が長めだな」
「ちょっ……それ、今言わなきゃいけないことか……?」
「いや、お前が立ち上がったから気になって」
いいから隣に座れという遠回しなおねだりだろうか。
旭は急いで隣に座り直した。足の短さを隠すためではない、と主張したいところだ。
「やたら期待されても困るような中身なんだけど」
「ミントの香りがする。……あと、少し土臭い?」
プレゼントの中身は、ミントの小さな鉢植えだった。鉢は小さいながらも可愛くクリスマスデコレーションされている。
ターゲットは明らかに女性層だろうそれを見て、葉月は怪訝そうに眉をひそめた。
「おれ、こういうの育てないぞ」
「だから、俺が……。葉月のために頑張って水あげたりするので、俺をずっと傍に置いてください。って意味の……プレゼントだったり……するんだけ……ど」
なんだかやたら恥ずかしくなってきて、最後はもごもごと声にならないような声になっていた。
「フッ……。じゃあ、責任もって面倒見ろよ、お前が」
「! あ、ああ! もちろん!」
途端に目を輝かせる姿が面白かったのか、葉月はもう一度ククッと笑って旭の身体に寄り掛かった。
「あー、でもまいったな」
「え、やっぱり困る?」
「じゃなくてだな。おれは用意してないからさ、何も。プレゼント」
「そんなの葉月が……」
「俺のモノになってくれただけで充分だ、なんて言うなよ?」
ギロリと睨まれた。見事に、読まれている。
「何しろお前は、このおれに勝ったんだ。当然の権利をプレゼントにあてがわれるのは面白くない」
旭としては、プレゼントより勝利の権利としてより、そこに愛があるほうが当然嬉しい。葉月を疑っているわけではないが、多少不安にはなる。
「……なら、舐めて、くれるとか」
そして、ついそんな試すようなことを言ってしまった。
愛があるならできるはずだと、言外に訴えている。葉月もそれを感じ取ったのか、下手に茶化すことはしなかった。ただ、顔は少し強張っていた。
「それで、いいんだな?」
「最高のプレゼントかな。貰いすぎってくらい」
「わかった。じゃ、そのままじっとしてろ」
葉月がソファから降りて旭の足の間に顔を埋める。そっとめくられたバスローブの下は、既に天を仰いでいた。
「す、凄いな」
「ごめん、葉月が舐めてくれるって思ったら」
先程のシャワーで綺麗に洗いはしたが、やはり形に抵抗があるらしく、見据えたまま唇はピクリとも動かない。
舌先だけ怯えるようにのぞいて、先端にそっと押し当てられた。
もし何度も出した後でなければ、それだけで達していたと思えるほど興奮した。
「さすがに少し、イキにくくなってると思うから、疲れたらそこでやめてくれていい」
「ん……。そんなんじゃ、満足できないだろ?」
「気持ち的には凄く満ち足りてる」
いやらしい水音が室内に響く。たまに旭の反応を確かめるように、葉月がチラと上目遣いをするのがたまらなかった。
手触りのいい葉月の髪を耳にかけるように愛しさを込めて撫でる。
「夢みたいだ。葉月が俺の、舐めてくれてるなんて」
「……お前、フェラされながら泣くなよ?」
「な、泣いてない!」
実は少し泣きそうになっていた。
初めはぎこちなかったものの、元来器用な葉月はすぐに素晴らしいテクニックを披露してくれて、うっかり顔にかけてしまって散々叱られるハメになった。風呂へ入り直しになるだろう、と。
怒るポイントがそこなら、またやってもらおうと旭が心に決めたのは、言うまでもない。
それからホテルを出て、今度は旭の運転でマンションへ向かう。
葉月が自分の車を運転させてくれるのはこれが初めてだ。それだけ信頼されているようで嬉しいが、実際は耐えられないほど尻や身体が痛いからかもしれない。
「しかしお前も、本当に酔狂な男だよ。不幸になるのがわかってて、おれの傍にいたいなんて」
「俺って世界一幸せだなって幸福に浸っている時に、それを言いますか……」
「あー、ハイハイ」
「いや、でも、実際に俺、相当運がいいと思うけどな」
「勝ち知らずのギャンブラーが何言ってんだ」
「そ、そういう話じゃなくて、現実的にさ。こんな仕事してるし、トラブルにも巻き込まれるけど、大きい怪我は一度もない。昨日だって無事だったろ」
「なるほど。悪運、ね」
「葉月だってストーカー被害に遭いやすい点では運がイイとは言えないわけだし」
「まあなあ」
葉月は腑に落ちない顔をしていたが、旭は一気にたたみかけた。
「だから俺は運がいい! 葉月の隣にいても、大丈夫だ。何があっても死なない!」
男に惚れて道を踏み外した時点で、運がいいとは言えないかもしれない。だが、それでこれ以上ないほど幸せだと思えるなら、それはやはり幸運で括ってもいいのではないかと思う。
あまりにも自信満々に言う旭がおかしかったのか、葉月が隣で噴き出した。
「あっ、笑うなんて酷い!」
「ふっ……フフフ。そうだな。おれに勝ったしな。あんな場面で勝つなんて、漫画やゲームの主人公くらいだぜ」
「……いいんだよ、俺は。脇役で」
ずっと、映画のヒーローを守るようなボディーガードになってみたいと思っていた。今、その夢が叶ったのかもしれない。
どんな銀幕のスターより眩しい、凄腕のギャンブラー。そして……愛しい恋人。
「お前の出したのが、足の間からスゲー垂れてくる……。さすがにもう、終わりだな」
葉月がベッドから足だけ下ろし、大きく伸びをする。今まで色事をしていたし、言っていることもそれなりにやらしいのだが、どこかスポーツでも終えたような妙な清々しさがあった。
「シャワー浴びてくる」
「あ、俺も一緒に」
「なんだ、掻き出した後すぐに、またヤるつもりか?」
できるものならしたいが、おそらく葉月の腰は限界だろう。
いくら彼のポーカーフェイスが上手くても、身体の反応は顔ほどごまかせない。わかっていて彼の好意に甘えてしまったことを、旭はかなり反省していた。
今、一緒に行くと言ったのも葉月の身体が心配で、それとなく支えようと思ったからだ。
葉月はなんでもないように笑っていて、無理についていけば矜持を傷つけかねない。しかも、事後処理に関する部分はデリケートでもある。
「もうしないよ。俺も弾切れ。ベタついてるし、早く流したかっただけ」
「そうか。でも、少しだけイイコで待ってろよ?」
葉月は旭の頬に軽い音を立ててキスをし、バスルームへ入っていった。
……直後、大きな物音がして、旭もバスルームへ駆け込んだ。
「葉月!?」
「イテテ……。あ、バカ! 入ってくるな!」
狭い洗い場のタイルへ尻をついた葉月が、前を隠すように膝を揃えて抱える。素っ裸のまま歩いていたくせに今更だ。それに、もう散々見ている。旭にとって、見飽きる、ということはないだろうが。
「やっぱ、一緒に入ろう」
「イヤダ」
「別に変なことしないって。ほら、立って」
手をかそうとするが、葉月は少し拗ねたような表情で、抱えた膝に額をつけた。
「……た、てない」
「え?」
「まあ、少し無理しすぎたかな」
「ど、どうして無理したんだよ。葉月が拒めば、俺……」
「だからだよ。お前に好きなだけ、ヤらしてやりたかったから。今まで我慢させた分な。でも、こんな格好悪い姿は見せる予定じゃなかった」
ハァ、と溜息をついて、目を伏せながら濡れた髪をかきあげる様が酷く色っぽい。旭は思わず、ごくりと生唾を飲み込んだ。
「それであんな、自分から乗ったり、腰振ったり……?」
「好きなようにとれよ」
葉月の性格を考えれば鵜呑みにはできないだろうが、追求する気にはならない。それに、それよりも、今これからのほうが重要だ。
「じゃ、もう少しつきあって。ほら、俺が掻き出してあげるから」
「……いや、さすがに、もう……。んっ……」
シャワーを出して上からかけながら背中の筋にそって撫でると葉月がびくりと震えた。
「ま、マジかよ……」
「ごめん、葉月。最初に謝っておく」
「ゴメンで済んだら警察いらねーし」
「俺、拳銃も持てない民間ボディーガードですし」
「……知ってる」
今までの我慢と、葉月に煽られ続けたことによって、旭はすっかり暴走していた。
恐らくバスルームでの情交は葉月にとって完全に計算外だったのだろう。軽い抵抗と乱れる姿に興奮し、葉月が気を失うまでやり倒してしまった。
自分の下でぐったりとする身体を抱きしめて、目尻に浮かんだ涙を舐めとる。
「傷つけたくないって、思ってたのになあ」
けれど腕の中で弱々しくなっている姿は、とても可愛く映る。もちろん、いつもの強気で食えないところも大好きで、だからこそギャップに胸が熱くなる。
丁寧に身体を清めてからバスローブを着せ、自分の硬い膝を枕にソファへ寝かせる。
葉月の細い身体に、フリーサイズのバスローブはかなり余裕がある。しかし丈はちょうどいい。細見ながらスタイルは悪くない。身体だけ見れば中性的なモデルのようだ。細さが際だって見えるのは、顔に女性らしさがまったくないせいかもしれない。その顔がやらしく歪む様は、酷く淫靡だった。思い出して、旭は顔を熱くした。
いつの間にか、苦しそうな息遣いが穏やかな寝息へと変わっている。
このまま朝まで寝顔を眺めているのもいいかと思っていたが、葉月はソファへ移動してものの5分も経たないうちに目を開けた。
「……旭?」
少し舌ったらずな声で旭の名前を呼び、けだるげに目を瞬かせる。愛しくて、額にかかる髪を払うように葉月の頭を撫でた。
「ごめん、無茶して」
「さすがに最後のはキツかったな。お前の体力を侮っていた」
正直、詰られてもおかしくないだけのことをしたはずなのに、葉月は怒らない。多少呆れてはいるようだが。
「まあ、薬が効いてて助かった」
「え、まさかアレ、媚薬だったとか!? どうりで凄い乱れよう」
「そんなに乱れてない!」
最後まで言い切る前に、下から額をはたかれた。
「あの飴、お前の同僚が彼女から貰ったものだったよな? フツウ、自分の彼氏に媚薬は渡さんだろ。多分精力剤かそのへんか。そんな強いものじゃないと思うが」
「あ、なるほど……」
「つまりお前の同僚は、彼女から回数が足りないと思われているのかもな」
「そうか。確かにそれなら、素直になる薬、なんて言い方も頷ける」
「な?」
不名誉な会話に、くだんの同僚は今頃くしゃみのひとつでもしているに違いない。
「しかし、お前の膝枕、硬いなー」
「ごめん。柔らかくもないし、むしろごついし、男だし……掘っちゃったし」
「ああ。ずっと護ってきたのに、ついに掘られちまったなー。でもまあ、お前ならいいよ」
葉月はソファの上で外側へ軽く寝返りを打って、旭に顔が見えない角度で呟いた。
「男でも、おれよりごつくても、膝が硬くても。おれは、お前がいい」
「葉月……ッ!」
これも、今まで我慢させた分だというのか、デレのバーゲンセールだ。いや、考えてみれば最近おとなしかっただけで、出会った頃は割りとこんな感じだった。
しかしそこには、からかうためと愛を伝えるためという、決定的な差がある。
「俺も、どうしたらいいかわからないくらい、大好きだ!」
「もう、散々聞いたよ」
「いいや、葉月は俺の気持ちがどれほどか、わかってない。葉月がいなきゃ、生きていけないくらいなんだからな。だからもう、絶対に離れるなんて言うなよ」
「言わねーよ。もう、言わない。お前には、生きててもらわなきゃ困るしな」
葉月は旭の上で、決まり悪そうに頭を動かし、起き上がって隣に座った。
「……それに、どれほどおれを好きかは伝わったよ。底無しか。もう無理だぞ、マジで」
「いやっ、その、これは!」
おとなしく膝枕される葉月が可愛かった上、更に可愛いことばかり言うので、素直な旭の下半身は素直に反応していた。かつて葉月に対してはピクリともしなかった日々は、カケラも面影がない。
「葉月がこれ以上、変に刺激しなければ大丈夫。多分」
「むしろ今の流れでおっ勃てるお前が怖いね、おれは」
「え、そんな! バスローブから覗く肌とか、素直に頭乗せてくれるのとか……。もよおしても無理ないだろ? そんな、人をケダモノみたいに」
「……ケダモノ」
葉月はバスローブの合わせをすすっと中央に寄せた。
せっかくいい雰囲気だったのに引かれてしまい、旭は焦る。
「そうだ、そういえば、今日はクリスマスイブだよな」
「ずいぶんと強引な話題転換だな」
「ぐっ……。ま、まあ、ご機嫌とりって言われればそれまでなんだけどさ、プレゼント、買ってあるんだよ」
このタイミングではご機嫌取りを疑われても仕方ない。実際、話題転換と好感度を上げるには最適な内容だし、旭自身それを狙って口にした。
「へえ。まさかペアリングとかベタな代物じゃないだろうな? 付き合ってもいなかったのに?」
そうからかうようにニヤニヤする葉月を見ると、お前本当に俺のこと好きだったのかよと突っ込みたくなる。プレゼントを買った時点で付き合っていなかったのは事実だが、葉月の話が本当ならば想い合ってはいたのだから。
しかし旭の言うプレゼントに興味を引かれてはいるようで、目論みは成功したと言える。
「違う。葉月相手じゃ値段なんて気にしても仕方ないから、本当に気持ち程度だ」
「ミントの飴だな」
「もう、それに近い」
旭は床にとっちらかったコートを探り、ポケットから小さな包みを取り出した。四角い、それこそ指輪でも入っていそうな箱だが、それにしては、縦に大きい。
「潰れなくてよかったよ。はい、メリークリスマス、葉月」
「あ、ああ。メリークリスマス」
渡してからコートをハンガーにかけ、隣に落ちている葉月のコートもあわせてかけた。
プレゼントを貰うのが初めてというわけでもないだろうに、葉月は妙にしんみりとした感じで、箱を手の平に乗せたまましげしげと眺めている。
「ありがとう、旭。ところでお前、バスローブの裾が長めだな」
「ちょっ……それ、今言わなきゃいけないことか……?」
「いや、お前が立ち上がったから気になって」
いいから隣に座れという遠回しなおねだりだろうか。
旭は急いで隣に座り直した。足の短さを隠すためではない、と主張したいところだ。
「やたら期待されても困るような中身なんだけど」
「ミントの香りがする。……あと、少し土臭い?」
プレゼントの中身は、ミントの小さな鉢植えだった。鉢は小さいながらも可愛くクリスマスデコレーションされている。
ターゲットは明らかに女性層だろうそれを見て、葉月は怪訝そうに眉をひそめた。
「おれ、こういうの育てないぞ」
「だから、俺が……。葉月のために頑張って水あげたりするので、俺をずっと傍に置いてください。って意味の……プレゼントだったり……するんだけ……ど」
なんだかやたら恥ずかしくなってきて、最後はもごもごと声にならないような声になっていた。
「フッ……。じゃあ、責任もって面倒見ろよ、お前が」
「! あ、ああ! もちろん!」
途端に目を輝かせる姿が面白かったのか、葉月はもう一度ククッと笑って旭の身体に寄り掛かった。
「あー、でもまいったな」
「え、やっぱり困る?」
「じゃなくてだな。おれは用意してないからさ、何も。プレゼント」
「そんなの葉月が……」
「俺のモノになってくれただけで充分だ、なんて言うなよ?」
ギロリと睨まれた。見事に、読まれている。
「何しろお前は、このおれに勝ったんだ。当然の権利をプレゼントにあてがわれるのは面白くない」
旭としては、プレゼントより勝利の権利としてより、そこに愛があるほうが当然嬉しい。葉月を疑っているわけではないが、多少不安にはなる。
「……なら、舐めて、くれるとか」
そして、ついそんな試すようなことを言ってしまった。
愛があるならできるはずだと、言外に訴えている。葉月もそれを感じ取ったのか、下手に茶化すことはしなかった。ただ、顔は少し強張っていた。
「それで、いいんだな?」
「最高のプレゼントかな。貰いすぎってくらい」
「わかった。じゃ、そのままじっとしてろ」
葉月がソファから降りて旭の足の間に顔を埋める。そっとめくられたバスローブの下は、既に天を仰いでいた。
「す、凄いな」
「ごめん、葉月が舐めてくれるって思ったら」
先程のシャワーで綺麗に洗いはしたが、やはり形に抵抗があるらしく、見据えたまま唇はピクリとも動かない。
舌先だけ怯えるようにのぞいて、先端にそっと押し当てられた。
もし何度も出した後でなければ、それだけで達していたと思えるほど興奮した。
「さすがに少し、イキにくくなってると思うから、疲れたらそこでやめてくれていい」
「ん……。そんなんじゃ、満足できないだろ?」
「気持ち的には凄く満ち足りてる」
いやらしい水音が室内に響く。たまに旭の反応を確かめるように、葉月がチラと上目遣いをするのがたまらなかった。
手触りのいい葉月の髪を耳にかけるように愛しさを込めて撫でる。
「夢みたいだ。葉月が俺の、舐めてくれてるなんて」
「……お前、フェラされながら泣くなよ?」
「な、泣いてない!」
実は少し泣きそうになっていた。
初めはぎこちなかったものの、元来器用な葉月はすぐに素晴らしいテクニックを披露してくれて、うっかり顔にかけてしまって散々叱られるハメになった。風呂へ入り直しになるだろう、と。
怒るポイントがそこなら、またやってもらおうと旭が心に決めたのは、言うまでもない。
それからホテルを出て、今度は旭の運転でマンションへ向かう。
葉月が自分の車を運転させてくれるのはこれが初めてだ。それだけ信頼されているようで嬉しいが、実際は耐えられないほど尻や身体が痛いからかもしれない。
「しかしお前も、本当に酔狂な男だよ。不幸になるのがわかってて、おれの傍にいたいなんて」
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「あー、ハイハイ」
「いや、でも、実際に俺、相当運がいいと思うけどな」
「勝ち知らずのギャンブラーが何言ってんだ」
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「なるほど。悪運、ね」
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「まあなあ」
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「だから俺は運がいい! 葉月の隣にいても、大丈夫だ。何があっても死なない!」
男に惚れて道を踏み外した時点で、運がいいとは言えないかもしれない。だが、それでこれ以上ないほど幸せだと思えるなら、それはやはり幸運で括ってもいいのではないかと思う。
あまりにも自信満々に言う旭がおかしかったのか、葉月が隣で噴き出した。
「あっ、笑うなんて酷い!」
「ふっ……フフフ。そうだな。おれに勝ったしな。あんな場面で勝つなんて、漫画やゲームの主人公くらいだぜ」
「……いいんだよ、俺は。脇役で」
ずっと、映画のヒーローを守るようなボディーガードになってみたいと思っていた。今、その夢が叶ったのかもしれない。
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