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飴と飴

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「直人さんが自炊してるって、凄い意外ですよね。自炊のレベル越えてる出来映えだし……」

 オシャレなイタリアンとか完璧な和食とかなんでも作る。もし彼が料理人だというなら僕はそれを信じたと思う。 

「手料理を振る舞うのは嫌いじゃない。男を騙すにはいい手段だしな」 

 そういえば、僕と直人さんが初めて結ばれた時も料理を作ってくれたっけ。あのシチューは凄い美味しかったなあ。釣った魚に餌を与えないスタイルだから、最近は僕が作ってばかりだけど。 

「散々苛め抜いてコトが終わった後はご馳走を作って甘やかしてやるんだ。まあ、飴と鞭ってやつだ」 
「なるほど……って、僕全然甘やかされてませんけど!?」 

 今は人間椅子の真っ最中。四つん這いになった僕の背中に直人さんが乗っている。そんな僕の尻を、直人さんが渾身の力を込めて叩いた。 

「あっ……あん!」 
「俺はお前が喜ぶことをしてやっているだけだが?」 
「はい、嬉しいですぅ……」 
「サドのSはサービスのS。マゾにとっての飴を見極めてやるのが大切なんだ。ドMのお前には甘さなんて必要ないんだよ」 

 確かに僕は割りとどんな痛みも快楽に変えてしまうマゾだ。尽くすのも大好き。でもたまには僕を甘やかす直人さんも見てみたいと思ってしまう。 
 常日頃から殴る蹴るされたい、罵られたいとしか思ってこなかった僕がこんな感情を抱くなんて産まれて初めて。これが好きってことなんだろうな。こんな気持ちになれるなんて、恋って凄い。 

「僕もたまには直人さんの手料理が食べたいし、優しくされたいです」 
「気持ち悪い」 

 ああ、即答……。イイ……。 

「そんなに優しくされたければ、ネコをやるんだな。そうしたら甲斐甲斐しく優しく世話してやるよ」 
「あ、常に冷たくていいです。むしろそれがイイです」 




「……というような会話を、出会って少し経った頃にしましたよねえ。まだ僕が花も恥じらう処女だった頃に」 
「なんだ、唐突に」 
「人間椅子させていただいてたら思い出しました。今日は僕がネコ、しかも無理矢理だったのにこの仕打ちじゃないですか!? ハアハア……優しさはどこへ!?」 
「興奮しながら言う台詞じゃないな」 

 クールな切り返しもたまんない。もう直人さん大好き! 

「ヤッた後、一服するのにちょうどいいんだよ。そのまま灰皿にできるしな」 
「アッー! ハァハァ……イイ……」 

 背中に煙草を押し付けられた。ことが終わった後で素っ裸だ。これを何回かされて僕の背中は煙草の跡だらけ……これが愛の歴史か。とか思っていたら、この前まったく残ってないことが判明した。我ながら凄い回復力だ。 

「それに、背中に尻の感触を感じられるのは嬉しいだろう?」 
「は、はいぃ。重さも幸せです……」 

 ちなみに直人さんはきっちり服を着ている。生尻だったらもっと嬉しいのに。僕だけ全裸とか……。興奮せざるをえない。 

「むしろお前にとっては鞭が存在しないんじゃないか? されること全部飴だろう」 
「苦痛を感じるから気持ちいいんですよ!」 
「セルフで鞭と飴か。さすがだな」 

 ……本当は、ネコをさせられることが唯一の鞭なんだけど、それを言ったら飴の比率が多すぎるからなとか言われて回数が増えそうだから黙っていよう。 

 僕にとっての一番の飴は、貴方を抱かせてくれることなんですけどね! 
 愛しい人の存在には、どんな痛みも快感も罵りも敵わない。
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