恋とかできるわけがない 〜ヲタクがJC拾ってもなにもできない件

茉莉 佳

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8th stage

リアクションのしかたがわからない

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「え?」
「嘘つき」
「…」
「お兄ちゃん… あたしの事、見捨てた」
「そっ、そんな事、ハァハァ、ない。ないから!」
「嘘!」
「ほんとに、喉が、渇い、ハァハァ、だけだから、、、 だから、、コンビニ、行って」
「…」
「そしたら、バルコニーに、栞里ちゃんの影が、見えて、、、 飛び降りたかと思って、急いで帰ってきて、、、」
「…」
「よかった、、、 栞里ちゃんが、ちゃんと、生きてて」
「…」
「服が落ちてきた時は、もう、こっちが死ぬかと、思ったよ」
「あたし… 死んだりしないもん」
「え?」
「負けたくないもん! お姉ちゃんにも美優にも、ガッコのだれにも!」
「栞里ちゃん、、、」
「あたし、ひとりでも生きてくもん。だれの力も借りずに!」
「…」
「だれも信じない! だれの助けもいらない!」
「ぼっ、ぼくが…」
「お兄ちゃんも、いらない! お兄ちゃんなんか、大っキライ!!」

そう言って栞里ちゃんは顔を上げ、ぼくを睨みつけた。

なんて鋭くて、ギラギラとした瞳。

今までの様な、どこか投げやりで虚ろで、この世界のどこも見てないみたいだった栞里ちゃんとは、まるで違う。
『怒り』という命の炎が燃えさかって、その炎を全力を込めて、ぼくにぶつけてるみたいだった。
あまりの迫力にぼくは怖くなり、思わず身じろぎして逃げたくなったけど、それをこらえて必死でそこに留まろうとした。

栞里ちゃんの気持ちを、ちゃんと受け止めてあげたい。
例えそれが怒りや憎しみだとしても、、、
それを面と向かってぶつけられても、、、
どんなにひどい言葉を投げつけられても、、、
そうする事で彼女の気がすむのなら、ぼくはそれを受け止めてあげたい。
なんの力もないぼくには、そのくらいの事しか、してあげられない。

「ごめん栞里ちゃん。ぼくが悪かったから、、、 栞里ちゃんに嫌われても当然だよね。
でも、ぼくは栞里ちゃんの事、好きだから。
ちゃんと信じてるから。
栞里ちゃんにいてほしいから。
栞里ちゃんの側にいたい。
ずっと栞里ちゃんの事、見守っててあげたい!
こんなデブサなキモオタで、なんにもできないぼくだけど、栞里ちゃんが幸せになるんだったら、ぼくはなんでもするから!」

自然と口をついて出た言葉だった。
その気持ちに偽りはなかった。

ぼくは、栞里ちゃんが好きだ。
彼女が死んだら、ぼくも生きていけないくらい、好きだ!
女の子には全然モテないぼくだから、栞里ちゃんから嫌われても、しかたない。
それでもぼくは、遠くからでもそっと、彼女を見守っていきたい。

もう逃げない。
栞里ちゃんからも、自分の気持ちからも。

相手が14歳だから、とか。
自分がデブサなキモオタだから、とか。
彼女いない歴=年齢だから、とか。
バージンじゃないから、とか、、、

もうそんな事を、言い訳にしたくない。

『恋とかできるわけがない』なんて言い訳して、逃げ回る様な事は、もうしたくない!


「………」

爛々らんらんと怒りの炎を燃やしながら、ぼくを見つめてた栞里ちゃんだったが、ぱっちりとしたその瞳は、またたくまに透明なしずくで濡れてきた。

、、、涙?

その水滴は止まる事なく瞳から溢れ、頬を伝って、ポタポタとこぼれ落ちる。

「し、栞里ちゃん、、、?」
「バカ…」

ひと言そうつぶやいて、クシャクシャに顔を歪ませた栞里ちゃんだったが、立ち上がってツカツカと歩み寄ってくると、いきなりぼくをギュッと抱きしめた。

いや、、、
正確には、『しがみついた』と言った方がいいかもしれない。

栞里ちゃんの突然のアクションにびっくりしたが、それでもぼくは彼女のするがままにしていた。
ありったけの力を込めて、栞里ちゃんはぼくの二の腕を握りしめる。
思いっきりぼくの胸元に噛みつく。
爪が腕にめり込み、血がにじむ。
歯形がつく程強く噛まれる。食いちぎられそうだ。

痛い。

だけどぼくは、耐えた。
ぼくにはそのくらいしかできない。
そのあと彼女は、なにも言わず肩を震わせて、可愛らしいその顔を、ぼくの胸に埋めた。
これって、、、

ぼくは栞里ちゃんから、頼られてるって事?

『お兄ちゃんも、いらない! お兄ちゃんなんか、大っキライ!!』

なんて言ってたけど、ほんとはそうじゃないって事?
こういう場面シーンを人生で今まで経験した事ないぼくには、どうリアクションすればいいかわからない。

とりあえず、おずおずと、栞里ちゃんの素肌の背中に、両腕を回してみる。
ピクンと肩が震えたけど、彼女はぼくの腕を拒まなかった。
栞里ちゃんを、そっと、抱いてみる。
折れそうなくらい華奢で、つぼみの様に固い、栞里ちゃんのからだ。
それはまだ、おとなになり切れてない、少女のもの。
妄想でもなんでもなく、今、栞里ちゃんが、ぼくの腕のなかにいる。

『だれかが守ってやらなきゃいけない。それはぼくなんだ』

そう思うと、彼女を抱きしめる腕に、自然と力が入る。
夜のバルコニーで、ぼくたちはずっとひとつになったままだった。

つづく
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