ブラックアウトガール

茉莉 佳

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2nd sense

2nd sence 2

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<それって、どんな感情なの?>
「ふつうは恨みや憎しみ、絶望みたいな、マイナスの感情が多いですけど」
<恋みたいな感情って、マイナスじゃないと思うんだけど、、、>
「恋。ですか…」

軽く首をひねって、彼女は考え込む。
そのとき、うしろに並んでたクラスの女子が、ひそひそと友達に耳打ちするのが聞こえてきた。

「如月ったら、いつまで焼香してんの? またなにか、わけわかんないことつぶやいてるし。相変わらず気味悪いやつ」
「だよね~。まるでだれかと話してるみたい」
「見えない敵と戦ってるんじゃない?」
「中二病?」
「それ、痛すぎ」

ふたりはクスクス笑い出した。
なんか不愉快。
如月はあんたらみたいな、平凡な人間じゃない。
あたしのことがちゃんと見えて、話しもできる特殊能力を持ってるんだ。
そりゃ、生きてるときはあたしも彼女のこと、『不気味で変なヤツ』だと勘違いしてたけど…
だいたいあたしのお通夜の席で笑うなんて、ふざけるのもいい加減にしてよね!

「おまえら、不謹慎じゃないか? だまって焼香しろよ」

不意に男の声がした。
あたしはそちらを振り向いた。
そこには航平くんが立ってて、ムスッとした顔でふたりを睨んでる。

えっ?
もしかして、、、
あたしをかばってくれたの?!

あたしは航平くんをじっと見つめてみた。
もちろん彼は、わたしの視線に気づかない。
慌てて焼香をすませた女子に続き、航平くんは父母に深々と一礼すると祭壇の前に立ち、合掌した。
そのあと抹香をつまみ、額の前まで捧げると、祈るように目を閉じて抹香を香炉に落とし、もう一度合掌して、目を閉じた。

そんな彼の一挙手一投足を、あたしは隣で穴が開く程見つめてた。
今までは恥ずかしくて、目を合わせることもできなくて、いつだってチラッと盗み見するだけだったけど、こうして死んでしまうと、気づかれることなく心ゆくまで見つめてられる。
それはそれで、案外便利かも。

焼香がすんだ航平くんは、棺の小窓からあたしの顔を覗き込んだ。
瞬きもせず、凍りついたように固まってた航平くんの顔は、次第に険しくなっていく。
最後はイヤそうに眉間にしわを寄せて目を背けると、そそくさと両親にお辞儀して、自分の席に戻っていった。

そんなにあたしの顔見るの、イヤだったのかなぁ?
そりゃ、死に顔なんて気持ち悪いよね。ふつー。

如月のことも忘れ、あたしは航平くんのあとをフラフラついていった。
席に座った航平くんの隣に立ち、ずっと彼のことを見つめる。
ガン見されてるとも知らず、航平くんは読経の間中、ずっと神妙にうつむいてた。
だけどお通夜が終わると、だれとも話すこともなく、真っ先に斎場を飛び出して大通りに出てしまった。

あたしのお通夜に出るの、そんなにイヤだったの?
もしかしてあたしって、嫌われてた?
なんだか切なくなってくる。

無意識のうちに、あたしは早足で歩く航平くんのうしろを、ずっと追いかけてった。



 いつの間にかあたしは、航平くんの部屋にいた。
六畳くらいのフローリングの洋室で、窓際にはベッドが置いてあり、その隣には小学校の頃から使ってるような、シールを貼ったり落書きした跡がたくさんある木製の勉強机。
向かいの壁には本棚が並んでいて、部活で使ってるバトミントンのラケットやスポーツバッグが、部屋の隅に無造作に置いてある。
インテリアには特に凝ってるってわけじゃないみたいだけど、掃除が行き届いてて、男子の部屋にしては、けっこう清潔。
ちなみにそれは、あたしの兄貴と比較してって話しで、男子の部屋、それも好きな人の部屋に上がり込むなんて、はじめてのこと。
なんだかドキドキしてきちゃう。

つづく
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