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level 4
「他人の痴話喧嘩には興味はないつもりです」
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そんなロリータショップなどを見ながら、優花さんと竹下通りを歩いていたときだった。
前を歩いていた彼女がなにかに反応したらしく、急に歩をゆるめてひそひそ声でささやき、目配せをした。
「ほら。カップルのけんか」
言われてわたしは、優花さんの視線の先を見た。
ショップの袋をたくさん抱えた大学生くらいの小太りの男の人と、まだ中学生くらいの可愛い女の子が、通りの真ん中でなにか言い合っている。
「サイテー!」
「だ、だからいったい、どうしたの? 栞里ちゃん?」
「…」
「栞里ちゃん。なに怒ってるの?」
「…」
「栞里ちゃんっ!」
「気やすく名前呼ばないでっ!」
「?」
「ばかにしないでっ! 二股かけないでっ!」
「え?」
「さっきからスマホばっかり気にして、何度も何度も他の女と電話して、、、 ふざけないでよっ!」
「あ、、、」
「『あ』じゃないわよ、、、 っとにもう、最悪」
「ごっ、、、ごめん。だ、だけど、、、」
「もういい。別に、カレカノとかじゃないし…」
「え?」
「お兄ちゃんとは、別にカレカノとかじゃないし! 他の誰と電話してたって、別にどーでもいい」
「…」
「じゃ、さよなら」
そう言って『栞里ちゃん』と呼ばれた女の子は踵を返し、駆け出した。
「まっ、待って!」
たくさんの紙袋を抱えていた男の人は、あわてて追いかけようとしたが、向こうから来たカップルの若い男にぶつかり、紙袋のひとつを落としてしまった。
「すっ、すみません; 栞里ちゃん、この服、、、」
男に謝りつつ、彼は紙袋を拾いながら大声で女の子に言うが、もう彼女はそこらにはいない。
「いらない! その女にやれば!?」
雑踏の向こうから、返事だけが返ってきた。
行き交う人たちはみんな興味ないふりをしつつ、呆然とその場に立ちすくんでいるこの男の人を、好奇の目線で眺めていった。
「ふられ男かぁ。
にしても、いかにもオタクっぽい感じの冴えない男のくせに、よく、あんな可愛い子とデートなんてできるよね~」
「ええ。まあ」
「しかも、あの顔で二股かけてるとか、すご過ぎ。
どんな事情があるのかな?」
「さあ」
「ネットかなんかで知り合ったのかなぁ。女の子はまだ中学生くらいだったでしょ。あのショッパーの山といい、ATM代わりに使われてるっぽいけど、犯罪の匂いさえする。なんか謎だわ」
「優花さん、下世話ですよ。そういうの」
「凜子ちゃんってば、他人の痴話喧嘩に興味ないの?」
「ありません」
「ふうん~。真面目なんだ」
「まあ、全然ないといえば、嘘になりますけど… 優花さんはどうなんですか?」
「なんだかんだ言って、女って恋バナ好きじゃない。
集まるとすぐにそういう話になって、自分の恋を他の人と較べて安心するのよ。
そういえば凜子ちゃんが参加したレイヤーのオフ会も、マウントの取り合いだったんでしょ。
ね、聞かせてよ。みんなどんなこと話してたの?」
「もうっ。その話は今はいいですから、早く行きましょう」
ここにいるのは、なんとなくバツが悪い。
わたしは優花さんの背中を押し、まだその場に立ち尽くしている男を、できるだけ見ないようにしながら追い越した。
彼がヨシキさんの親友だということを知ったのは、それから数日経ってからだった。
つづく
前を歩いていた彼女がなにかに反応したらしく、急に歩をゆるめてひそひそ声でささやき、目配せをした。
「ほら。カップルのけんか」
言われてわたしは、優花さんの視線の先を見た。
ショップの袋をたくさん抱えた大学生くらいの小太りの男の人と、まだ中学生くらいの可愛い女の子が、通りの真ん中でなにか言い合っている。
「サイテー!」
「だ、だからいったい、どうしたの? 栞里ちゃん?」
「…」
「栞里ちゃん。なに怒ってるの?」
「…」
「栞里ちゃんっ!」
「気やすく名前呼ばないでっ!」
「?」
「ばかにしないでっ! 二股かけないでっ!」
「え?」
「さっきからスマホばっかり気にして、何度も何度も他の女と電話して、、、 ふざけないでよっ!」
「あ、、、」
「『あ』じゃないわよ、、、 っとにもう、最悪」
「ごっ、、、ごめん。だ、だけど、、、」
「もういい。別に、カレカノとかじゃないし…」
「え?」
「お兄ちゃんとは、別にカレカノとかじゃないし! 他の誰と電話してたって、別にどーでもいい」
「…」
「じゃ、さよなら」
そう言って『栞里ちゃん』と呼ばれた女の子は踵を返し、駆け出した。
「まっ、待って!」
たくさんの紙袋を抱えていた男の人は、あわてて追いかけようとしたが、向こうから来たカップルの若い男にぶつかり、紙袋のひとつを落としてしまった。
「すっ、すみません; 栞里ちゃん、この服、、、」
男に謝りつつ、彼は紙袋を拾いながら大声で女の子に言うが、もう彼女はそこらにはいない。
「いらない! その女にやれば!?」
雑踏の向こうから、返事だけが返ってきた。
行き交う人たちはみんな興味ないふりをしつつ、呆然とその場に立ちすくんでいるこの男の人を、好奇の目線で眺めていった。
「ふられ男かぁ。
にしても、いかにもオタクっぽい感じの冴えない男のくせに、よく、あんな可愛い子とデートなんてできるよね~」
「ええ。まあ」
「しかも、あの顔で二股かけてるとか、すご過ぎ。
どんな事情があるのかな?」
「さあ」
「ネットかなんかで知り合ったのかなぁ。女の子はまだ中学生くらいだったでしょ。あのショッパーの山といい、ATM代わりに使われてるっぽいけど、犯罪の匂いさえする。なんか謎だわ」
「優花さん、下世話ですよ。そういうの」
「凜子ちゃんってば、他人の痴話喧嘩に興味ないの?」
「ありません」
「ふうん~。真面目なんだ」
「まあ、全然ないといえば、嘘になりますけど… 優花さんはどうなんですか?」
「なんだかんだ言って、女って恋バナ好きじゃない。
集まるとすぐにそういう話になって、自分の恋を他の人と較べて安心するのよ。
そういえば凜子ちゃんが参加したレイヤーのオフ会も、マウントの取り合いだったんでしょ。
ね、聞かせてよ。みんなどんなこと話してたの?」
「もうっ。その話は今はいいですから、早く行きましょう」
ここにいるのは、なんとなくバツが悪い。
わたしは優花さんの背中を押し、まだその場に立ち尽くしている男を、できるだけ見ないようにしながら追い越した。
彼がヨシキさんの親友だということを知ったのは、それから数日経ってからだった。
つづく
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