Campus91

茉莉 佳

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01 PERKY JEAN

PERKY JEAN 8

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…あったまにきた。

手に持っていたコーヒーを、このふたりにぶっかけてやりたいくらい。
そんな褒められ方、全然嬉しくない。
こんな男たちに女の子を愛する資格なんて、ない!
もういい!
こんなのとはこれ以上、いっしょにいたくない。
みっこ、もう帰ろう!
せっかくの楽しいバカンスが台無し。

ふたりに気づかれないよう、テーブルの下でわたしはみっこをつついた。
「もう出ましょ。あたしたち、外で待ってるわ」
わたしからのサインを待っていたかのように、ふたりにそう言うと、みっこは席を立った。


「最悪!」
レストランの外に出るなり、わたしはみっこに怒りをぶつけた。だけど彼女は、涼しげな顔をして応える。
「でしょうね」
「なんであんなのと食事したりしたのよ。いくら高級フレンチ目当てといっても、あれはないわ」
「さつきが『男の子のことはよくわかんない』って言うから、見せてあげようかなって思って」
「…む。そうかもしれないとは思ったけど、でも、あれはひどいんじゃない? どうせなら、もっといい男のことを知りたいわ。
みっこも言ってたじゃない。『くだらない男に関わってると、こっちまで低く見られる』って。
わたし、いっしょに食事してても、店員さんや他のお客さんに『くだらない女』って見られてるようで、すごく恥ずかしかったわよ」
「そうね。失敗したかもね。今度はもっといい男、ナンパしようね」
そう言ってみっこはクスクスと笑った。

ん~。
彼女にとっては全部計算どおりってわけ?
彼らの言動もわたしの反応も。
そう考えると、ちょっぴり安心できるかも。この人たちにつきあったのが、みっこの行き当たりばったりの行動じゃないってわかって。
「ねえ。これからどうするの?」
「そうね…」
「今、あの人たちもいないし、このままこっそり帰っちゃおうよ。これ以上いっしょにいるのは、まずい気もするし」
「まあ、あたしに任せてよ」
「なにか考えがあるの? じゃあ、どうするのか教えて。今度はわたしもみっこの行動知っとかないと。今日はもう、振り回されっぱなしだから」
「そうね。おもしろくなるのはこれからよ」
「おもしろくなる?」
「食事に6万円も投資すれば、元を取ること考えるはずでしょ」
「もと?」
「さつきはあたしのそば、絶対離れちゃダメよ」
そう言ってみっこはわたしを見つめ、意味深な笑みを浮かべた。
いったいこの子はなにを企んでいるんだろ。なんだか怖い。

 レジをすませたふたりが、レストランから出てきた。さすがに高額の食事代はこたえたらしく、なんだか浮かない顔をしている。
「ごちそうさま」
みっこが愛想よく笑った。
「ああ。うまかっただろ?」
「さすがにあなたのチョイスのお店ね。気に入ったわ」
「よかったな。それより走ろうゼ。ドライブはやっぱり夜に限るゼ」
サングラスがみっこの肩を抱いてクルマに誘う。彼女はなにも言わず、誘われるままナビゲーターシートに身を沈めた。



 陽の暮れた郊外の国道のドライブは、おなかが満足たされたわたしには、ゆりかごのように心地いい。しゃくだけど、やっぱり高級車は乗り心地もいいし。
ルームミラーに映るみっこも、うつむき加減にウインドウに首をかしげて、瞳をトロンとさせている。襟ぐりの大きなミニのワンピースは、胸のふくらみの陰影をルーズにさらけだし、高く組んだ脚は、ふとももが露わになっている。運転席のサングラスは、それをチラチラ盗み見ているみたい。みっこ、そんなに隙を見せて、大丈夫なの?

「あたし、眠くなっちゃった」
誰に言うでもなく、みっこはつぶやいた。
「休もうか」「どこかで休もう!」
サングラスとニキビの声が再びハモった。しばらく沈黙して、みっこは気だるげに言った。
「夜の海が見たい」

ええっ?
それってなんか、マズくない?
みっこは続けた。
「あたしたちが会った海に、行こ?」
「いいゼ。サッキはどうなんだ?」
サングラスが訊く。わたしもうなずくしかないじゃない。

つづく
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