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03 Sweet Memories
Sweet Memories 9
さっきも、そうだった。
川島君ってやっぱり、わたしの心の琴線に触れるようなことを言う。
もしかして。
川島君とわたしって、考え方とかが近いのかな。
だとしたら、これ以上嬉しいことはない。
「だけど、変わりたくないものも、あるな…」
そう言って、川島君はちょっと言葉を探すように、間を置いた。
「…どんなに年をとっても、どんな経験をしても、自分の中で変わりたくない部分、守っていきたいものって、あると思うよ」
「そうね」
川島君はなにを考えて、そんなこと言っているの?
やっぱり、創作することへの情熱とかかな?
わたしだってもちろんそうだけど、川島君への想いも、いつまでも変わってほしくない。
川島君はまた少しなにかを考えているようだったが、意を決したように切り出した。
「今度、ぼくの学校の仲間とかで、『同人誌作ろう』って話ししてるんだ」
「同人誌?」
「写真でもイラストでも小説でも、なんでもありのね。自己満足とかじゃなく、人に読ませられるような内容にできればいいなって、話している所なんだ」
「へぇ。すごいわね」
「よかったら、弥生さんも参加しない?」
「わたしが? 川島君の同人誌に?」
「本の名前も細かい内容もまだ決まってないけど、小説を書く人も何人かいるよ。」
「わたしなんかが入っていいの?」
「もちろん」
「…」
「どうかな?」
「う… うん」
「同じ志を持つ人といれば、自分の創作の刺激にもなると思うよ」
「そ、そうね。じゃあ… やってみようかな」
「ほんと? 嬉しいよ。弥生さんみたいな人が入ってくれて」
「そ、そんな」
彼の嬉々とした笑顔がわたしの心を揺さぶる。
言葉の端に潜んだニュアンスが、いちいちわたしをせつなくさせる。
『弥生さんみたいな人』
いったい川島君は、わたしのこと、どんな風に思っているんだろ?
知りたいけど聞けない。
恋の女神って、ほんとに意地が悪い。
わたし、こんな気持ちのまま、これからも川島君と会うのかな?
それはとっても嬉しい。
嬉しいことなんだけど、やっぱり… 怖い。
「家まで送るよ」
川島君はそう言って、いっしょに電車に乗り、とうとうわたしの家の前まで来てしまった。
「ごめんなさい。わざわざ遠回りさせてしまって。これから帰るの、大変でしょ?」
「いいんだ。女の子を夜中にひとりで放り出す方が、よっぽど心配だからね」
「あ、ありがと」
「じゃ、またね」
「こ… 今度は、わたしにおごらせてね」
これが今、わたしに言える、精いっぱいの言葉。
玄関のドアを閉めながら、わたしは振り返って彼に会釈した。
川島君はちょっと真剣な顔をして、わたしの瞳を見つめている。
「今日、会えてよかったよ。…さつきちゃん」
「え?」
川島君はニコリと微笑んだ。
「高校の頃、みんなからそう呼ばれていただろ。『さつきちゃん』って。なんか可愛くて、ぼくも呼んでみたかったんだ。まずかったかな」
「う、ううん。そんなこと、な、ない」
「じゃ、おやすみ」
「お、おやすみなさい」
そう言って、川島君は小さく手を振りながら、暗い夜道を歩いていく。
彼のうしろ姿が闇に吸い込まれ、街灯を通り過ぎる毎に、そのシルエットが浮かんでは消え、消えては浮かび上がりながら、小さくなっていく。
わたしはずっと、それを見ていた。
追いかけたいけど、動けない。
名前を呼びたいけど、声が出ない。
もどかしい!
『ただいま』も言わずにわたしは家に入ると、そのまま二階の自分の部屋にかけ上がり、ベッドの上に高校時代の川島君の思い出につながるものを、片っぱしから広げていった。
アルバム。
卒業文集。
修学旅行の写真。
友達にもらったスナップ。
サイン帳。
想いを綴った、あの頃の日記…
ミニコンポのスイッチを入れ、CDをトレイにかける。
竹内まりあの『リクエスト』。
ふと触れた指先に
心が揺れる夜は
秘め続けた想いさえも
隠せなくなる
友達でいたいけど
動き出したハートは
もうこのまま止められない
罪のはじまり
word by MARIA TAKEUCHI
あの冬の日…
凍てついた心を、小さな炎が溶かそうとしているのを、わたしはもう、止められそうもない。
竹内まりあのせつない歌声が、そんな行き先のわからない恋にからまって、わたしの心の奥底に悲しく響いてくる。
わたしはベッドにもたれたまま、クッションをひざに抱えこんでその中に顔を埋め、旋律に聴き入った。
END
8th Feb 2011 初稿
22th May 2117 改稿
18th Aug 2017 改稿
14th Nov.2019 改稿
川島君ってやっぱり、わたしの心の琴線に触れるようなことを言う。
もしかして。
川島君とわたしって、考え方とかが近いのかな。
だとしたら、これ以上嬉しいことはない。
「だけど、変わりたくないものも、あるな…」
そう言って、川島君はちょっと言葉を探すように、間を置いた。
「…どんなに年をとっても、どんな経験をしても、自分の中で変わりたくない部分、守っていきたいものって、あると思うよ」
「そうね」
川島君はなにを考えて、そんなこと言っているの?
やっぱり、創作することへの情熱とかかな?
わたしだってもちろんそうだけど、川島君への想いも、いつまでも変わってほしくない。
川島君はまた少しなにかを考えているようだったが、意を決したように切り出した。
「今度、ぼくの学校の仲間とかで、『同人誌作ろう』って話ししてるんだ」
「同人誌?」
「写真でもイラストでも小説でも、なんでもありのね。自己満足とかじゃなく、人に読ませられるような内容にできればいいなって、話している所なんだ」
「へぇ。すごいわね」
「よかったら、弥生さんも参加しない?」
「わたしが? 川島君の同人誌に?」
「本の名前も細かい内容もまだ決まってないけど、小説を書く人も何人かいるよ。」
「わたしなんかが入っていいの?」
「もちろん」
「…」
「どうかな?」
「う… うん」
「同じ志を持つ人といれば、自分の創作の刺激にもなると思うよ」
「そ、そうね。じゃあ… やってみようかな」
「ほんと? 嬉しいよ。弥生さんみたいな人が入ってくれて」
「そ、そんな」
彼の嬉々とした笑顔がわたしの心を揺さぶる。
言葉の端に潜んだニュアンスが、いちいちわたしをせつなくさせる。
『弥生さんみたいな人』
いったい川島君は、わたしのこと、どんな風に思っているんだろ?
知りたいけど聞けない。
恋の女神って、ほんとに意地が悪い。
わたし、こんな気持ちのまま、これからも川島君と会うのかな?
それはとっても嬉しい。
嬉しいことなんだけど、やっぱり… 怖い。
「家まで送るよ」
川島君はそう言って、いっしょに電車に乗り、とうとうわたしの家の前まで来てしまった。
「ごめんなさい。わざわざ遠回りさせてしまって。これから帰るの、大変でしょ?」
「いいんだ。女の子を夜中にひとりで放り出す方が、よっぽど心配だからね」
「あ、ありがと」
「じゃ、またね」
「こ… 今度は、わたしにおごらせてね」
これが今、わたしに言える、精いっぱいの言葉。
玄関のドアを閉めながら、わたしは振り返って彼に会釈した。
川島君はちょっと真剣な顔をして、わたしの瞳を見つめている。
「今日、会えてよかったよ。…さつきちゃん」
「え?」
川島君はニコリと微笑んだ。
「高校の頃、みんなからそう呼ばれていただろ。『さつきちゃん』って。なんか可愛くて、ぼくも呼んでみたかったんだ。まずかったかな」
「う、ううん。そんなこと、な、ない」
「じゃ、おやすみ」
「お、おやすみなさい」
そう言って、川島君は小さく手を振りながら、暗い夜道を歩いていく。
彼のうしろ姿が闇に吸い込まれ、街灯を通り過ぎる毎に、そのシルエットが浮かんでは消え、消えては浮かび上がりながら、小さくなっていく。
わたしはずっと、それを見ていた。
追いかけたいけど、動けない。
名前を呼びたいけど、声が出ない。
もどかしい!
『ただいま』も言わずにわたしは家に入ると、そのまま二階の自分の部屋にかけ上がり、ベッドの上に高校時代の川島君の思い出につながるものを、片っぱしから広げていった。
アルバム。
卒業文集。
修学旅行の写真。
友達にもらったスナップ。
サイン帳。
想いを綴った、あの頃の日記…
ミニコンポのスイッチを入れ、CDをトレイにかける。
竹内まりあの『リクエスト』。
ふと触れた指先に
心が揺れる夜は
秘め続けた想いさえも
隠せなくなる
友達でいたいけど
動き出したハートは
もうこのまま止められない
罪のはじまり
word by MARIA TAKEUCHI
あの冬の日…
凍てついた心を、小さな炎が溶かそうとしているのを、わたしはもう、止められそうもない。
竹内まりあのせつない歌声が、そんな行き先のわからない恋にからまって、わたしの心の奥底に悲しく響いてくる。
わたしはベッドにもたれたまま、クッションをひざに抱えこんでその中に顔を埋め、旋律に聴き入った。
END
8th Feb 2011 初稿
22th May 2117 改稿
18th Aug 2017 改稿
14th Nov.2019 改稿
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