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06 元気を出して
元気を出して 1
RRRRR… RRRRR… RRR…
「はい。森田です」
「…みっこ?」
「あ、さつき?」
「わたし、今すぐ… みっこに逢いたい」
「…いいわよ」
「4時に、地下街のインフォメーションのとこで待ってる。来れそう?」
「わかったわ」
途切れることもなく、地下街の大通りを人が流れていく。
ざわめく雑踏。街の喧噪。
そんなノイズに埋もれていると、自分の存在って、ほんとにちっぽけなものなんだなって、感じてしまう。
わたしひとりの力じゃ、このたくさんの人の流れを止めることはできない。
ひとりの人間の悩みも苦しみも、この大きな流れの中では、一瞬の泡沫でしかない。
こうして地下街のショー・ウィンドゥの前にたたずむわたしは、ただの無機質な街角のオブジェ。
そう。
今のわたしには、ただの飾りでいることが、心地よかった。
わたし、ひとりになりたくない。
例え、見知らぬ他人でも、大勢の人に囲まれているのを感じていたい。
そうでないと、自分がどこかへ消えてなくなってしまいそうになる。
なんだかみじめで、情けない感傷…
インフォメーションの仕掛け時計が4時を打ち、自動オルガンが『皇帝円舞曲』を奏でる。わたしはただぼんやりと、機械仕掛けの人形たちがクルクルと、ウィンナーワルツを踊るのを眺めていた。
「…」
ふと気がつくと、森田美湖がわたしの横に立っていて、いっしょに仕掛け時計を見上げていた。
みっこの方を振り向くと、彼女もわたしを見る。
しばらくなにも言わずにわたしを見つめていたみっこだったが、おもむろに一輪の花を差し出した。
「え? わたしに?」
突然の思いがけない贈り物に、わたしは驚いて訊いた。
「電話の声で、なんとなくわかっちゃった。これはあたしからの、おわび」
真紅のカーネーション。
花言葉は、『傷ついた心』。
みっこは続けた。
「あたし、悪いことしちゃったかも。あなたをけしかけるようなことばかり言って… ごめんなさい」
なんだか、のどが詰まって、涙が出そうになってきた。
この子は、なんて優しいんだろ。
百の言葉より嬉しい、ひとつの言葉ってある。
月並みな台詞でなぐさめられるより、一輪の花がわたしの心を癒してくれる。
「みっこがあやまること… ない」
言葉にしたとたん、のどにつかえていたものは、一気に嗚咽になってこみ上げてきて、わたしは思わずしゃくり泣いてしまった。
『ううっ、ううっ』と、みっこが見てるのに、通りすがりの人が振り向いて、恥ずかしくてみっともないのに、とても安心できて涙が止まらない。
みっこは黙ってハンカチを差し出す。
彼女はなにもかも察していて、わたしをこんなに気遣ってくれる。
この時くらい、わたしはみっこが親友でほんとによかったって、思ったことはなかった。
「ありがと… みっこ。わたし今日、みっこに、会えて、よかった。ありがと、カーネーション」
「ううん。いいのよ」
「…ちょっと、待ってて」
そう言うとわたしは目を閉じて、落ち着きを取り戻すように、ひとつ大きく深呼吸をする。そして勇気を出して、近くの電話ボックスに向かった。
アドレスを見なくても、もう覚えてしまった、でも、もう二度と押すことのないナンバー。
最後の意味を込めて、わたしはひとつづつ確かめるように、プッシュホンのボタンを押した。次第に胸の動悸が速くなり、指先が震える。
やっぱり辛い。
ひとつの恋に終止符を打つなんて、やっぱり辛い。
だけど今のわたしには、もうほかの答えは見つけられなかった。
つづく
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