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07 Carnival Night
Carnival Night 8
ファッションショーの開かれる大ホールは、もうほとんど満席だった。
アリーナのような作りのこのホールには、1階に400席ほどの客席がセットされていて、正面ステージからは20メートルほどのランウェイが、センターステージまで突き出している。その左右の脇には三脚に据えられたビデオカメラや大きなカメラを構えた人たちがずらっと並び、ショーが始まるのを待っている。
会場内はまだざわついていた。
1階はもう席が空いてなくて、わたしたちは2階のうしろの方にやっと席を見つけると、入口でもらったショーのパンフレットを広げた。
「ねえ、知ってる? 三年の小池さん。今年は出品取りやめだって」
「ええっ。ショック! わたしあの人の服、楽しみにしてたのに!」
わたしたちの前の席に座っていた、ワンレングスにミニのボディコンで身を固めた上級生らしい女の子たちが、そんな話をはじめた。
小池さんって、こないだみっこをモデルに誘ってきた人よね。
彼女たちの話は続いた。
「それがね。彼女、一年生にモデルを頼んだのはいいんだけど、見事にフラれちゃったらしいのよ。だから製作中のドレスを、みんなショーから削ったんだって。もうほとんど完成してたっていうじゃない。もったいない話よね~」
「ええーっ! 小池さんのモデルを断ったの?! なんか生意気じゃない? いったいどんな子?」
「もり… なんとか言ってたな。すっごい美人だって評判だったけど…」
「そうよね。西蘭のファッションショーって、ミスコンと同じだもんね」
「でも、わたしもチラっとその子見たことあるけど、そんなにたいしたことなかったわ。背が低くて服も地味だし。小池さんほどの人が、あんな子に執着する気持ち、わかんないな~」
「なに? 小池さん、そんな子に断られたから、ショーやめちゃったの?」
「全部その子のイメージで作ってたから、今さら他の子に着せたくないんだって」
「でも、服は何人かのチームで作ってるんでしょ? ほかの人たちは出品したかったんじゃない?」
「だってあのカリスマ小池よ。彼女が『出さない』って言えば、だれも逆らえないわよ。
パターンとか縫製やってる人は、すっごい残念がってたらしいだけど」
「最悪。ふざけてるわ、その女!
でも小池さんも、そのモデルでなきゃダメだったんなら、服作りはじめる前から、ちゃんとキープしとくべきだったんじゃない?」
「そうよね~。まさか断られるなんて思ってなかったから、先走りすぎたのかもね。なんたって毎日ファッション・コンクール入賞者だから」
「にしても、やっぱり小池さんの服、見たかったな」
彼女たちの話を聞いていると、わたしの方がとってもすまないことをしたような気分になってくる。
「みっこぉ…」
わたしは小声で、となりのみっこにささやいた。
彼女はなにも言わない。ただ黙って、手元のプログラムに視線を落としている。
そのうちブザーが鳴って天井のライトがしだいに暗くなっていき、騒がしかった場内も少しづつ静かになってきた。
「はじまるわ。さつき」
みっこはプログラムを閉じる。おしゃべりをしていた前の席の女の子も、ステージに目をやった。
会場のライトがゆっくりと落ちていく。
真っ暗闇のなかにレーザーライトが光り、『FLASH DANCE』のイントロが、高らかに鳴りはじめた。
First when there's nothing
But a slow glowing dream
That your fear seems to hide
Deep inside your mind
途中で曲が小さくなり、女性のアナウンスが響いてくる。
「本日のご来場ありがとうございます。
これよりNinteen Ninety Seiran Women's University Fashion Showを開催いたします。
今年のテーマは『Four Season』。
被服科の31チーム125名が咲かせた四季の華、どうぞご覧下さい」
挨拶が終わると曲のボリュームが再び上がり、会場いっぱいに響き渡る。
曲がノリのいいパートに入ったとたん、会場のライトがいっせいに輝き、ステージの中央にカラフルな衣装をまとった女の子たちが次々と現れた。
つづく
アリーナのような作りのこのホールには、1階に400席ほどの客席がセットされていて、正面ステージからは20メートルほどのランウェイが、センターステージまで突き出している。その左右の脇には三脚に据えられたビデオカメラや大きなカメラを構えた人たちがずらっと並び、ショーが始まるのを待っている。
会場内はまだざわついていた。
1階はもう席が空いてなくて、わたしたちは2階のうしろの方にやっと席を見つけると、入口でもらったショーのパンフレットを広げた。
「ねえ、知ってる? 三年の小池さん。今年は出品取りやめだって」
「ええっ。ショック! わたしあの人の服、楽しみにしてたのに!」
わたしたちの前の席に座っていた、ワンレングスにミニのボディコンで身を固めた上級生らしい女の子たちが、そんな話をはじめた。
小池さんって、こないだみっこをモデルに誘ってきた人よね。
彼女たちの話は続いた。
「それがね。彼女、一年生にモデルを頼んだのはいいんだけど、見事にフラれちゃったらしいのよ。だから製作中のドレスを、みんなショーから削ったんだって。もうほとんど完成してたっていうじゃない。もったいない話よね~」
「ええーっ! 小池さんのモデルを断ったの?! なんか生意気じゃない? いったいどんな子?」
「もり… なんとか言ってたな。すっごい美人だって評判だったけど…」
「そうよね。西蘭のファッションショーって、ミスコンと同じだもんね」
「でも、わたしもチラっとその子見たことあるけど、そんなにたいしたことなかったわ。背が低くて服も地味だし。小池さんほどの人が、あんな子に執着する気持ち、わかんないな~」
「なに? 小池さん、そんな子に断られたから、ショーやめちゃったの?」
「全部その子のイメージで作ってたから、今さら他の子に着せたくないんだって」
「でも、服は何人かのチームで作ってるんでしょ? ほかの人たちは出品したかったんじゃない?」
「だってあのカリスマ小池よ。彼女が『出さない』って言えば、だれも逆らえないわよ。
パターンとか縫製やってる人は、すっごい残念がってたらしいだけど」
「最悪。ふざけてるわ、その女!
でも小池さんも、そのモデルでなきゃダメだったんなら、服作りはじめる前から、ちゃんとキープしとくべきだったんじゃない?」
「そうよね~。まさか断られるなんて思ってなかったから、先走りすぎたのかもね。なんたって毎日ファッション・コンクール入賞者だから」
「にしても、やっぱり小池さんの服、見たかったな」
彼女たちの話を聞いていると、わたしの方がとってもすまないことをしたような気分になってくる。
「みっこぉ…」
わたしは小声で、となりのみっこにささやいた。
彼女はなにも言わない。ただ黙って、手元のプログラムに視線を落としている。
そのうちブザーが鳴って天井のライトがしだいに暗くなっていき、騒がしかった場内も少しづつ静かになってきた。
「はじまるわ。さつき」
みっこはプログラムを閉じる。おしゃべりをしていた前の席の女の子も、ステージに目をやった。
会場のライトがゆっくりと落ちていく。
真っ暗闇のなかにレーザーライトが光り、『FLASH DANCE』のイントロが、高らかに鳴りはじめた。
First when there's nothing
But a slow glowing dream
That your fear seems to hide
Deep inside your mind
途中で曲が小さくなり、女性のアナウンスが響いてくる。
「本日のご来場ありがとうございます。
これよりNinteen Ninety Seiran Women's University Fashion Showを開催いたします。
今年のテーマは『Four Season』。
被服科の31チーム125名が咲かせた四季の華、どうぞご覧下さい」
挨拶が終わると曲のボリュームが再び上がり、会場いっぱいに響き渡る。
曲がノリのいいパートに入ったとたん、会場のライトがいっせいに輝き、ステージの中央にカラフルな衣装をまとった女の子たちが次々と現れた。
つづく
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