66 / 300
07 Carnival Night
Carnival Night 12
カ-ニバルって、不思議な時間と空間。
日常に挟まれた一瞬の、虚数のような無限の時間で、空回りするシュールレアリズムなメリーゴーランドみたい。
日頃見慣れたこのキャンパスも、カーニバルの今だけは別の生き物に変わったかのように、いつもと違うきらびやかさを見せていて、それは過去とも未来とも切り離された、虚構の世界。
そんな刹那の中で、それぞれの人間がそれぞれの木馬の上で、なにかを演じている。
それは、いつまでもいつまでもクルクルクルクル、回るような気がして、永遠に終わらないって思うけど、それでもいつかは、カーニバルも終わるんだ。
だから、カーニバルの夜は、淋しい。
みっことわたしはキャンパスの中の模擬店で夕食をとり、後夜祭に臨んだ。
『カーニバルだわ』
そう言ってからのみっこは、異常なくらいのテンションで、ちょっとしたことでキャッキャと笑い、さっきまでの沈んだ顔が嘘のように、陽気にはしゃいでいた。
だけどそれがわたしには、かえって寂しく虚しい。
モデルになることをやめると決めたその時から、森田美湖のカーニバルははじまった。
『変わりたい』と言いながらも、それまでの彼女の日常とは切り離された、この大学でのカーニバルの日々を、みっこはどう演じていいのか、わからないのかもしれない。
これまで築き上げてきた自分と、これから作っていく自分。
そのどちらにも繋がらなくて、ポツンと孤立しているこの瞬間の日々が、森田美湖の言う『カーニバル』なら、やっぱり哀しい。
これから彼女に、どう接していいかわからないけど、みっこのカーニバルだって、いつかはきっと終わるよね。
夜のキャンパスは昼間以上に喧噪にあふれていて、おもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさだった。スキップを踏むような軽い足取りで、みっこはクルリとわたしを振り向き、おどけるように言った。
「ね。そう言えば今日の後夜祭じゃ、ダンパがあるんじゃなかった?」
「そうだったね」
「さつき、それ行こうよ! あたし、ダンス大好き! 今は思いっきり踊りたい気分」
「あ! 7時から体育館だった」
プログラムを確認したわたしの腕を取って、みっこは引っ張る。
「もう1時間も過ぎちゃってるじゃない。早く行こ!」
「でも、ペアじゃないと入れないみたいなこと、言ってなかった?」
「あら。あたしたちだって、ペアでしょ」
「まぁ… そうだけど」
みっこは笑いながら体育館へ向かう。会場のゲートでチケットを買い、わたしたちは中へ入った。
「『男性のみの入場は禁止します』か。まるでディスコみたい」
みっこは入口の注意書きを指ではじいて笑った。
体育館に入ると、まずロビーがあって、その奥の扉の向こうがダンスフロアになっていた。
ダンスフロアからはスローな音楽が漏れてきている。
もっと激しいビートの音楽を予想していただけに、ちょっと意外。
ロビーに並べられた椅子には何組かのカップルがいて、カクテルを飲みながらからだを寄せあって、なにかをささやきあっている。
その隣をすり抜けて、わたしたちはフロアへの扉を開けた。
かなりムーディなライティングで、すぐには目が慣れない。それに11月だというのに、たくさんの人の熱気で、蒸し暑いくらい。
ようやくおぼろげながらあたりの様子がわかってきて、わたしは驚いた。
「み… みっこ。ちょっとあんまりじゃない?」
「ちょうどチークタイムらしいわね。間の悪いときに来ちゃったかな」
そう言ってみっこは肩をすくめ、チロっと舌を出した。
バラードの曲に合わせてフロアーで踊っている人たちは、互いに相手の首や腰に腕をまわして、ぴったりとからだをくっつけて踊っている。
「なんかみんな、すごいダイタン」
「そうね。あたしたちには、目の毒かもね」
あまりの色っぽい光景に、みっこも苦笑いをする。
とりあえずフロアの入口近くの椅子に腰をおろしたものの、場違いな所に来てしまったようで、落ち着かない。いちばん奥のカップルは踊りながらキスしているし、よく見れば胸とかおしりとか触ってるカップルもいるじゃない。
これはあんまりだわ。いったいどこの風俗店よ!
「みっこ、も、もう出よ」
わたしは真っ赤になって彼女を促すと、飲みかけのジュースを持って、席を立った。
つづく
日常に挟まれた一瞬の、虚数のような無限の時間で、空回りするシュールレアリズムなメリーゴーランドみたい。
日頃見慣れたこのキャンパスも、カーニバルの今だけは別の生き物に変わったかのように、いつもと違うきらびやかさを見せていて、それは過去とも未来とも切り離された、虚構の世界。
そんな刹那の中で、それぞれの人間がそれぞれの木馬の上で、なにかを演じている。
それは、いつまでもいつまでもクルクルクルクル、回るような気がして、永遠に終わらないって思うけど、それでもいつかは、カーニバルも終わるんだ。
だから、カーニバルの夜は、淋しい。
みっことわたしはキャンパスの中の模擬店で夕食をとり、後夜祭に臨んだ。
『カーニバルだわ』
そう言ってからのみっこは、異常なくらいのテンションで、ちょっとしたことでキャッキャと笑い、さっきまでの沈んだ顔が嘘のように、陽気にはしゃいでいた。
だけどそれがわたしには、かえって寂しく虚しい。
モデルになることをやめると決めたその時から、森田美湖のカーニバルははじまった。
『変わりたい』と言いながらも、それまでの彼女の日常とは切り離された、この大学でのカーニバルの日々を、みっこはどう演じていいのか、わからないのかもしれない。
これまで築き上げてきた自分と、これから作っていく自分。
そのどちらにも繋がらなくて、ポツンと孤立しているこの瞬間の日々が、森田美湖の言う『カーニバル』なら、やっぱり哀しい。
これから彼女に、どう接していいかわからないけど、みっこのカーニバルだって、いつかはきっと終わるよね。
夜のキャンパスは昼間以上に喧噪にあふれていて、おもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさだった。スキップを踏むような軽い足取りで、みっこはクルリとわたしを振り向き、おどけるように言った。
「ね。そう言えば今日の後夜祭じゃ、ダンパがあるんじゃなかった?」
「そうだったね」
「さつき、それ行こうよ! あたし、ダンス大好き! 今は思いっきり踊りたい気分」
「あ! 7時から体育館だった」
プログラムを確認したわたしの腕を取って、みっこは引っ張る。
「もう1時間も過ぎちゃってるじゃない。早く行こ!」
「でも、ペアじゃないと入れないみたいなこと、言ってなかった?」
「あら。あたしたちだって、ペアでしょ」
「まぁ… そうだけど」
みっこは笑いながら体育館へ向かう。会場のゲートでチケットを買い、わたしたちは中へ入った。
「『男性のみの入場は禁止します』か。まるでディスコみたい」
みっこは入口の注意書きを指ではじいて笑った。
体育館に入ると、まずロビーがあって、その奥の扉の向こうがダンスフロアになっていた。
ダンスフロアからはスローな音楽が漏れてきている。
もっと激しいビートの音楽を予想していただけに、ちょっと意外。
ロビーに並べられた椅子には何組かのカップルがいて、カクテルを飲みながらからだを寄せあって、なにかをささやきあっている。
その隣をすり抜けて、わたしたちはフロアへの扉を開けた。
かなりムーディなライティングで、すぐには目が慣れない。それに11月だというのに、たくさんの人の熱気で、蒸し暑いくらい。
ようやくおぼろげながらあたりの様子がわかってきて、わたしは驚いた。
「み… みっこ。ちょっとあんまりじゃない?」
「ちょうどチークタイムらしいわね。間の悪いときに来ちゃったかな」
そう言ってみっこは肩をすくめ、チロっと舌を出した。
バラードの曲に合わせてフロアーで踊っている人たちは、互いに相手の首や腰に腕をまわして、ぴったりとからだをくっつけて踊っている。
「なんかみんな、すごいダイタン」
「そうね。あたしたちには、目の毒かもね」
あまりの色っぽい光景に、みっこも苦笑いをする。
とりあえずフロアの入口近くの椅子に腰をおろしたものの、場違いな所に来てしまったようで、落ち着かない。いちばん奥のカップルは踊りながらキスしているし、よく見れば胸とかおしりとか触ってるカップルもいるじゃない。
これはあんまりだわ。いったいどこの風俗店よ!
「みっこ、も、もう出よ」
わたしは真っ赤になって彼女を促すと、飲みかけのジュースを持って、席を立った。
つづく
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
後宮の寵愛ランキング最下位ですが、何か問題でも?
希羽
キャラ文芸
数合わせで皇帝の後宮に送り込まれた田舎貴族の娘である主人公。そこでは妃たちが皇帝の「寵愛ランク」で格付けされ、生活の全てが決められる超格差社会だった。しかし、皇帝に全く興味がない主人公の目的は、後宮の隅にある大図書館で知識を得ることだけ。当然、彼女のランクは常に最下位。
他の妃たちが寵愛を競い合う中、主人公は実家で培った農業や醸造、経理の知識を活かし、同じく不遇な下級妃や女官たちと協力して、後宮内で「家庭菜園」「石鹸工房」「簿記教室」などを次々と立ち上げる。それはやがて後宮内の経済を潤し、女官たちの労働環境まで改善する一大ビジネスに発展。
ある日、皇帝は自分の知らないうちに後宮内に巨大な経済圏と女性コミュニティを作り上げ、誰よりも生き生きと暮らす「ランク最下位」の妃の存在に気づく。「一体何者なんだ、君は…?」と皇帝が興味本位で近づいてきても、主人公にとっては「仕事の邪魔」でしかなく…。
※本作は小説投稿サイト「小説家になろう」でも投稿しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……