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07 Carnival Night
Carnival Night 13
ロビーはまだなんとか、正常な世界だった。
「ふふふふ」
わたしのあとから出てきたみっこは、意味深な含み笑いを浮かべて、うしろ手で会場の扉を閉める。
「な… なんなの? その笑い方は」
「さつきって、やっぱり純情。可愛い」
「みっこはあんなのが回りにウヨウヨいても、平気なの?」
「平気じゃないわよ。やっぱりムラムラしちゃう」
「あ~。なんか、いやらしい言い方」
「だって。いいな~って思うじゃない。あんなことしちゃって」
「ええ~~っ! みっこって意外とエロいのね」
「あたし淫乱だもん。さつき、しよ!」
じゃれるように言いながら、みっこはわたしに抱きついてくる。
もうっ。ほんとに今夜のみっこは、テンションおかしいんだから。
その時、わたしたちの目の前に、いきなりワイングラスがふたつ差し出され、男の人が声をかけてきた。
「飲まない? これぼくからのおごり」
声の方へ目をやると、そこにはダークブラウンのブラウスに、ペーズリー模様のスカーフタイを巻いた、背の高い男の人が立っていた。顔立ちは整っていて、いかにも女の子が好みそうなタイプなんだけど、ちょっと軽薄そうで、薄いサングラスが気取った感じ。
「あら。おごってもらう理由なんて、ないですよ」
みっこは振り返ってにこやかに言った。
「そんな理由、今からいくらでも作れるさ」
そう言いながら彼は、無遠慮にみっこの肩に腕を回す。
わずかに香るお酒の匂いとタバコ臭。
苦手だな、こういうタイプ。
「ぼく、アベちゃん。西蘭学院大学四年。ここの女子大のスタッフといっしょに、今夜のダンパをしきってるスタッフのトップ」
「よろしく、森田です」
「トップって言ってもね、運営自体は全部後輩がやったり、下のサークルに『かませ』たりしてるから、ぼくは指示するだけでいいんだよ」
「偉いんですね」
「まあね。上に立つ人間は、働いちゃダメなんだ。下っ端に働かせ、自分は偉そうにしているのが、一番なのさ」
「ふぅ~ん。すごいんですね」
みっこは冷ややかに微笑みながら、肩に回された『アベちゃん』の腕を、やんわりと押しのける。それでも『アベちゃん』は性懲りもなく、みっこの腰に手を回してくる。
「森田ちゃん? 今晩、ヒマ? 君を連れて行きたい、いいお店があるんだ。レストランガイドで五つ星とった、ドレスコードのある最高級のフレンチだよ」
「素敵ですね」
『アベちゃん』から渡されたワイングラスを手にしたまま、みっこはそう言って彼の首に腕を回したが、一瞬そう見えただけで、そのままつま先でクルリと回り、腰に回された彼の腕をすり抜けた。
「だけど、そんな『いいお店』に行くなら、それなりの準備をしないと。ね、アベちゃん」
「どんな準備?」
「あたし、そんなドレスコードのある様なレストランに着ていける、いい服持ってないんです。いい靴だってはいてかなきゃいけないし、それならアクセサリーも、気の利いたものがいりますよ」
「任せてよ、そのくらい。『AIMER』あたりでイブニングドレスを調達すればいいだろ。今夜は売り上げも多いことだし、君にはたっぷり贅沢させてあげられるよ。もちろんいいクルマだって用意するさ。ぼくが普段乗ってるBMWでよければ」
そう言って、『アベちゃん』はみっこに顔を寄せる。
ん~、かなり遊び慣れた感じ。おまけになんかバブリーだし、ますます好きになれないタイプ。
一瞬、みっこはあきれた顔を見せたが、すぐに微笑みながら言った。
「でも、いちばん大事なのは、いい男を用意して下さることですよ」
「いい男? それならここにいるじゃない」
「わぉ。びっくりですね」
そう言いながら、みっこはグラスを彼の頭の上に持っていき、タラタラとワインをこぼした。
「なっ… なにするんだよ!」
『アベちゃん』は驚いて声を張り上げ、みっこのそばを飛びのいた。あわてた拍子にサングラスが飛んで床に落ち、ガジャンと砕けた。
「これがあたしの返事ですよ」
「サングラスが割れたぞ! ジバンシィのスーツも台無しだ! どうしてくれるんだ!」
「今夜は売り上げが多いんでしょう? あたしの服なんて買ってないで、自分のを新調すればいいじゃないですか」
「謝れよ!」
「あらあら、みっともない。いい男は女の子のいたずらに、そんなにムキになって怒らないものですよ」
謝る気なんてさらさらなさそうに、みっこはニッコリ微笑むと、わたしの腕をとって歩き出し、『アベちゃん』に手を振る。
「ワインごちそうさま。つまらない時間をありがとう。アベちゃん」
つづく
「ふふふふ」
わたしのあとから出てきたみっこは、意味深な含み笑いを浮かべて、うしろ手で会場の扉を閉める。
「な… なんなの? その笑い方は」
「さつきって、やっぱり純情。可愛い」
「みっこはあんなのが回りにウヨウヨいても、平気なの?」
「平気じゃないわよ。やっぱりムラムラしちゃう」
「あ~。なんか、いやらしい言い方」
「だって。いいな~って思うじゃない。あんなことしちゃって」
「ええ~~っ! みっこって意外とエロいのね」
「あたし淫乱だもん。さつき、しよ!」
じゃれるように言いながら、みっこはわたしに抱きついてくる。
もうっ。ほんとに今夜のみっこは、テンションおかしいんだから。
その時、わたしたちの目の前に、いきなりワイングラスがふたつ差し出され、男の人が声をかけてきた。
「飲まない? これぼくからのおごり」
声の方へ目をやると、そこにはダークブラウンのブラウスに、ペーズリー模様のスカーフタイを巻いた、背の高い男の人が立っていた。顔立ちは整っていて、いかにも女の子が好みそうなタイプなんだけど、ちょっと軽薄そうで、薄いサングラスが気取った感じ。
「あら。おごってもらう理由なんて、ないですよ」
みっこは振り返ってにこやかに言った。
「そんな理由、今からいくらでも作れるさ」
そう言いながら彼は、無遠慮にみっこの肩に腕を回す。
わずかに香るお酒の匂いとタバコ臭。
苦手だな、こういうタイプ。
「ぼく、アベちゃん。西蘭学院大学四年。ここの女子大のスタッフといっしょに、今夜のダンパをしきってるスタッフのトップ」
「よろしく、森田です」
「トップって言ってもね、運営自体は全部後輩がやったり、下のサークルに『かませ』たりしてるから、ぼくは指示するだけでいいんだよ」
「偉いんですね」
「まあね。上に立つ人間は、働いちゃダメなんだ。下っ端に働かせ、自分は偉そうにしているのが、一番なのさ」
「ふぅ~ん。すごいんですね」
みっこは冷ややかに微笑みながら、肩に回された『アベちゃん』の腕を、やんわりと押しのける。それでも『アベちゃん』は性懲りもなく、みっこの腰に手を回してくる。
「森田ちゃん? 今晩、ヒマ? 君を連れて行きたい、いいお店があるんだ。レストランガイドで五つ星とった、ドレスコードのある最高級のフレンチだよ」
「素敵ですね」
『アベちゃん』から渡されたワイングラスを手にしたまま、みっこはそう言って彼の首に腕を回したが、一瞬そう見えただけで、そのままつま先でクルリと回り、腰に回された彼の腕をすり抜けた。
「だけど、そんな『いいお店』に行くなら、それなりの準備をしないと。ね、アベちゃん」
「どんな準備?」
「あたし、そんなドレスコードのある様なレストランに着ていける、いい服持ってないんです。いい靴だってはいてかなきゃいけないし、それならアクセサリーも、気の利いたものがいりますよ」
「任せてよ、そのくらい。『AIMER』あたりでイブニングドレスを調達すればいいだろ。今夜は売り上げも多いことだし、君にはたっぷり贅沢させてあげられるよ。もちろんいいクルマだって用意するさ。ぼくが普段乗ってるBMWでよければ」
そう言って、『アベちゃん』はみっこに顔を寄せる。
ん~、かなり遊び慣れた感じ。おまけになんかバブリーだし、ますます好きになれないタイプ。
一瞬、みっこはあきれた顔を見せたが、すぐに微笑みながら言った。
「でも、いちばん大事なのは、いい男を用意して下さることですよ」
「いい男? それならここにいるじゃない」
「わぉ。びっくりですね」
そう言いながら、みっこはグラスを彼の頭の上に持っていき、タラタラとワインをこぼした。
「なっ… なにするんだよ!」
『アベちゃん』は驚いて声を張り上げ、みっこのそばを飛びのいた。あわてた拍子にサングラスが飛んで床に落ち、ガジャンと砕けた。
「これがあたしの返事ですよ」
「サングラスが割れたぞ! ジバンシィのスーツも台無しだ! どうしてくれるんだ!」
「今夜は売り上げが多いんでしょう? あたしの服なんて買ってないで、自分のを新調すればいいじゃないですか」
「謝れよ!」
「あらあら、みっともない。いい男は女の子のいたずらに、そんなにムキになって怒らないものですよ」
謝る気なんてさらさらなさそうに、みっこはニッコリ微笑むと、わたしの腕をとって歩き出し、『アベちゃん』に手を振る。
「ワインごちそうさま。つまらない時間をありがとう。アベちゃん」
つづく
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