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07 Carnival Night
Carnival Night 17
オクラハマミキサー
マイムマイム
ユーモレスク・・・
アコーディオンの奏でる牧歌的なフォークダンスのメロディが、ゆったりと流れてくる。
それは、熱くきらびやかで、ときに淫らだったカーニバルの喧噪を、少しずつ冷ますかのように、ゆったりとした、飾り気のない旋律だった。
フィナーレを惜しんでいるのか、音楽は何度も何度も繰り返され、フォークダンスの輪は、いつまでも踊りに耽っている。
だけどわたしは、その輪の中に入っていく気もおこらず、丘の上のもみの木の下にじっとうずくまり、ひとりでその景色を眺めていた。
『人と人って、最後は必ず別れて終わるもの』
みっこの残した言葉が、耳の奥から離れない。
心のなかでずっと、リフレインしてくる。
彼女がしくじったように、わたしも川島君との恋愛にしくじってしまった。
その後悔と悲しみが、今さら甦ってくる。
失恋の傷は、残酷で醜い。
いつまでたっても、くっきりと跡が殘る。
もう癒えたと思っていても、なにかの拍子に湧き上がってきては激しく渦を巻き、瘡蓋のできかけた傷を掻きむしる。
あたりにだれもいない、隙間だらけのこのポツンとした暗闇の中で、その渦は次第に大きくなり、凍える秋風といっしょになって、わたしを呑み込もうとする。
ぬくもりがなくて、凍てつくように、寒い。
川島君とは、もう戻れない。
あの、楽しかった日々は、永遠に取り戻せない。
そして…
今はいちばんの親友のみっことも、いつかは別れなきゃいけないときが、必ず来るんだ。
だって、『さよならだけが人生』なんだもの。
「つまんないこと考えてるんじゃないわよ、さつき。
そんなの、しかたないじゃん! あたりまえのことじゃない。
それよりみっこの言うように、『悔いのないように』つきあうことが大事なんじゃない?」
このままじゃ、どんどん闇の世界に引きずりこまれてしまいそう。
とめどなく溢れてくる暗い気持ちを振り切るために、声に出して、わたしは自分を励ましてみた。
だけどその声は、聞いてくれる人がだれもいない、夜のしじまに吸い込まれていくだけで、ますます孤独が募ってくる。
「もういい!」
そう叫ぶとわたしは立ち上がり、もみの木の幹を抱きしめるようにして、そこに顔を埋めた。
なんでもいい。
ただ… ほんとに確かなものがほしい。
わたしの存在をしっかりとささえてくれる、この大きな木のように、確かな存在が…
その時、不意にわたしの背中で、人の気配がした。
反射的に振り返り、あたりをうかがう。
サクサクと枯葉を踏みしめる音がしたかと思うと、真っ黒い大きな人影がわたしの視界をさえぎる。
背が高い。男の人だ!
「きゃぁっ!」
思わず驚いて大声を出し、わたしは両手で顔を覆って、その場にうずくまった。
「さっ、さつきちゃん。ぼくだよ、ぼく!」
え?
聞き覚えのある声。
顔を上げて振り返る。
その人は心配そうに、わたしの瞳をのぞき込む。
どうしても忘れることができなかった、その瞳。
「かっ… 川島君?! 」
目の前に立っていたのは、川島祐二だった。
しばらくの間、彼はわたしを心配そうに見つめていたが、ふっと笑みをこぼした。
わたし、何度、この笑顔を夢に見たことだろう。
いつも苦い夢だったけど…
「嘘… どうして、こんなとこに?」
今、ここに彼がいることが信じられなくて、思わず声をもらす。
これは、夢のつづき?
「それはこっちが聞きたいな」
わずかに憤ったような口調で、川島君は言う。
「え?」
「先月約束しただろ? 今日のことは」
「…」
「11月18日の12時に、西蘭女子大の正門前のバス停で待ち合わせ、って」
「…」
「約束の時間にバス停に来ても、さつきちゃんはいないし、待っても来ないし。何度か家に電話しても留守だったから、まだ学校のどこかにいるんだろうと思って、一日中ずっと探していたんだ。
もうすぐ学園祭も終わるから、帰る前に最後に、この丘の上から全体を見てみようと思って登ってみたら、やっと会えた。よかった。本当に」
「12時からって… ずっと?」
彼の言っている言葉の意味が、よくわからない。
もう10日も前に、川島君にはさよならの電話をかけて、彼とはもうなんの約束もなかったはずなのに。
「でも…」
「あの時の電話で、今日の約束がなくなったわけじゃ、ないから」
わたしの胸のうちを察したのか、川島君は釘をさすように言った。
つづく
マイムマイム
ユーモレスク・・・
アコーディオンの奏でる牧歌的なフォークダンスのメロディが、ゆったりと流れてくる。
それは、熱くきらびやかで、ときに淫らだったカーニバルの喧噪を、少しずつ冷ますかのように、ゆったりとした、飾り気のない旋律だった。
フィナーレを惜しんでいるのか、音楽は何度も何度も繰り返され、フォークダンスの輪は、いつまでも踊りに耽っている。
だけどわたしは、その輪の中に入っていく気もおこらず、丘の上のもみの木の下にじっとうずくまり、ひとりでその景色を眺めていた。
『人と人って、最後は必ず別れて終わるもの』
みっこの残した言葉が、耳の奥から離れない。
心のなかでずっと、リフレインしてくる。
彼女がしくじったように、わたしも川島君との恋愛にしくじってしまった。
その後悔と悲しみが、今さら甦ってくる。
失恋の傷は、残酷で醜い。
いつまでたっても、くっきりと跡が殘る。
もう癒えたと思っていても、なにかの拍子に湧き上がってきては激しく渦を巻き、瘡蓋のできかけた傷を掻きむしる。
あたりにだれもいない、隙間だらけのこのポツンとした暗闇の中で、その渦は次第に大きくなり、凍える秋風といっしょになって、わたしを呑み込もうとする。
ぬくもりがなくて、凍てつくように、寒い。
川島君とは、もう戻れない。
あの、楽しかった日々は、永遠に取り戻せない。
そして…
今はいちばんの親友のみっことも、いつかは別れなきゃいけないときが、必ず来るんだ。
だって、『さよならだけが人生』なんだもの。
「つまんないこと考えてるんじゃないわよ、さつき。
そんなの、しかたないじゃん! あたりまえのことじゃない。
それよりみっこの言うように、『悔いのないように』つきあうことが大事なんじゃない?」
このままじゃ、どんどん闇の世界に引きずりこまれてしまいそう。
とめどなく溢れてくる暗い気持ちを振り切るために、声に出して、わたしは自分を励ましてみた。
だけどその声は、聞いてくれる人がだれもいない、夜のしじまに吸い込まれていくだけで、ますます孤独が募ってくる。
「もういい!」
そう叫ぶとわたしは立ち上がり、もみの木の幹を抱きしめるようにして、そこに顔を埋めた。
なんでもいい。
ただ… ほんとに確かなものがほしい。
わたしの存在をしっかりとささえてくれる、この大きな木のように、確かな存在が…
その時、不意にわたしの背中で、人の気配がした。
反射的に振り返り、あたりをうかがう。
サクサクと枯葉を踏みしめる音がしたかと思うと、真っ黒い大きな人影がわたしの視界をさえぎる。
背が高い。男の人だ!
「きゃぁっ!」
思わず驚いて大声を出し、わたしは両手で顔を覆って、その場にうずくまった。
「さっ、さつきちゃん。ぼくだよ、ぼく!」
え?
聞き覚えのある声。
顔を上げて振り返る。
その人は心配そうに、わたしの瞳をのぞき込む。
どうしても忘れることができなかった、その瞳。
「かっ… 川島君?! 」
目の前に立っていたのは、川島祐二だった。
しばらくの間、彼はわたしを心配そうに見つめていたが、ふっと笑みをこぼした。
わたし、何度、この笑顔を夢に見たことだろう。
いつも苦い夢だったけど…
「嘘… どうして、こんなとこに?」
今、ここに彼がいることが信じられなくて、思わず声をもらす。
これは、夢のつづき?
「それはこっちが聞きたいな」
わずかに憤ったような口調で、川島君は言う。
「え?」
「先月約束しただろ? 今日のことは」
「…」
「11月18日の12時に、西蘭女子大の正門前のバス停で待ち合わせ、って」
「…」
「約束の時間にバス停に来ても、さつきちゃんはいないし、待っても来ないし。何度か家に電話しても留守だったから、まだ学校のどこかにいるんだろうと思って、一日中ずっと探していたんだ。
もうすぐ学園祭も終わるから、帰る前に最後に、この丘の上から全体を見てみようと思って登ってみたら、やっと会えた。よかった。本当に」
「12時からって… ずっと?」
彼の言っている言葉の意味が、よくわからない。
もう10日も前に、川島君にはさよならの電話をかけて、彼とはもうなんの約束もなかったはずなのに。
「でも…」
「あの時の電話で、今日の約束がなくなったわけじゃ、ないから」
わたしの胸のうちを察したのか、川島君は釘をさすように言った。
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