Campus91

茉莉 佳

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09 Moulin Rouge

Moulin Rouge 17

 なんとも言えない複雑な気持ちで、わたしはドレッシングルームをあとにした。
今夜のわずかな間に起こった、さまざまなできごとのなかで、自分の力のなさを痛いくらいに思い知らされた気分。
『みっこのそばについていてあげたい』という気持ちに引きずられながら、わたしは力なく、螺旋階段を登っていった。
ふと、顔を上げると、階段の途中に川島君が立っていた。
「川島君…」
彼の姿を見たとたん、安心したような、なにかにすがりつきたいような、そんな思いにかられて、わたしは階段を駆け上がり、彼の胸にしがみついて、顔を埋めた。
「さつきちゃん。森田さんは… どうだった?」
「泣いてる。けどわたし、どうすることもできない」
「…」
「『忘れた方がいい』とか『新しい恋を探したら』とか、月並みな慰めの言葉しか、わたし、思いつかない。
みっこは一年も、過去から抜け出せないでいるじゃない。そんなみっこに、なんて言ってあげればいいか、わからない」
「さつきちゃん…」
「わたし… 思い上がってた。みっこのこと、分かってあげられるって。
いちばんの友達だって。
わたしって、全然みっこの親友なんかじゃないよね…」
ひとり言とも愚痴ともつかないことをこぼすわたしの手を、川島君はぎゅっと握って言った。
「そんなことないよ。さつきちゃんは、見守っていてあげればいいだけだよ」
「そう?」
「悩みなんてだれだって、自分自身でしか解決できないよ。
でも、そばに寄り添ってくれる人がいると感じれば、勇気も出るし、力も湧いてくる。
プライドが高くて負けん気の強い森田さんだとしても、さつきちゃんがそばにいるだけで、きっと心強いと思うよ」
「…そうかな」
その言葉に少し安心して、わたしはまたその胸に頬を埋めた。

川島君はこんなに優しく、わたしのことを気遣ってくれる。
わたしのそばにいてくれる。
なのに…
いつかはわたしたちも、別れてしまわなければならないの?
わたしも今夜のみっこのように、悲しい涙を流さなきゃいけないの?

「わたしたち、別れるの?」

唐突に訊いた。
「藍沢さんの言うように、わたしたちにもいつか、ターニング・ポイントが来るの?
それは、どうしようもないことなの?」
わたしは川島君の瞳を見つめた。とにかく、確かなものが欲しかった。
「あんな運命論みたいな考え方は、ぼくは嫌いだ」
力強くわたしを見つめて、川島君は言った。その瞳を、すがるような気持ちで見上げる。
川島君はぎゅっとわたしを抱きしめると、わたしの頬に手をそえる。
暖かいぬくもり。
ゆっくりと顔を近づけた彼は、唇をわたしの唇に重ねた。
「ん…」
突然のことだったけど、抗うこともなく、わたしは反射的に瞳を閉じた。
彼の柔らかな暖かさが、唇をとおして、からだ全体に満ちていく。
痛みをやわらげるかのようなぬくもりに、力が抜けていき、わたしは川島君にからだを預けた。

いったいどのくらい、そうしていたかは、わからない。
ただ、気がついたら、川島君はわたしの肩にぽんと手を置き、微笑んでいた。

「お互いが相手のことを思いやってさえいれば、ターニング・ポイントなんて来やしないよ。絶対」
「…ん」
恥ずかしさで頬を赤らめ、うつむいて、わたしはひとことだけ言った。

そうよね。
運命なんて、自分の力で切り拓くものよね。
ただ、安らかな想いだけが、わたしの中に溢れていた。

つづく
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