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15 12月を忘れないで
12月を忘れないで 6
「静かね」
「そうだな」
「風のそよぐ音しか、聞こえない」
「ああ」
「ベッドにできた陽だまりが、きれい」
「あったかそうで、いいな」
「わたし、このなかで川島君に、抱かれてたいな」
「さつきちゃん、今日はなんだか、大胆だな」
「自分の気持ちに素直なだけよ」
「うん。いいことだよ」
「川島君の誕生日だけじゃなく、わたしの誕生日にも、抱いてね」
「いつだって、ぼくはさつきちゃんを、抱きたいよ」
「12月になって、雪が降ったら、また今日みたいに海を見て、このホテルに来て、暖めあいたいな」
「そうしよう」
「約束、できる?」
「できるよ」
「忘れないでね」
「ちゃんと心のなかに、メモったよ」
「川島君…」
「ん?」
瞳を閉じて、わたしはキスをせがんだ。
川島君はわたしを抱きしめ、あたたかなくちづけをくれる。
唇が離れると、わたしは彼の胸に耳を当ててみる。
トクン、トクンと、心臓の音が規則正しく、響いている。
そういえばモルディブでも、川島君の心臓の音を聞いたっけ。
あのときのわたしは、ただ夢中で、川島君を受け止めるのに、精いっぱいだった。
わたしはただ、川島君から求められるだけだった。
でも今は、少しだけわかったような気がする。
わたしは川島君がほしい。
離れたくない。
心も、からだも。
川島君を求めている。
求められるだけじゃなく、求めなきゃ、大切なものは手に入れ続けては、いられない。
彼のシャツのボタンをはずし、あらわになった胸元に、わたしはキスをしながら言った。
「抱いて」
「さつきちゃん?」
「わたしのなかを、川島君でいっぱいにして」
川島君は意外そうにわたしを見おろし、それでも優しいまなざしを投げかけ、両腕でわたしを包むように抱いてくれる。
そのままわたしたちは、陽だまりがいっぱい差し込んだベッドのなかに、からだを預けた。
川島君も、今日のわたしはどこか変だと、思っているかもしれない。
わたしだって、思っている。
ディズニーランドのこととか、東京でのこととか、みっこのこととか…
東京からの帰りの新幹線で、わたしはいったいどのくらい、それらのことを考えただろう。
こうして今日、川島君に会うまで、わたしは数えきれないくらい、わたしと川島君、そしてみっこのことに想いを巡らせ、悩んだ。
川島君に訊きたいことは、いっぱいある。
ほんとうは納得なんて、してない。
川島君がだれとディズニーランドに行ったのか、訊きたくてたまらないし、東京ではみっこといったいどのくらい会っていたのかも、訊いてみたい。
だけど、そういう言葉を口にしてしまえば、わたしが恐れていたことは現実になって、わたしが大事に両手のなかに包んでいた幸せは、粉々に砕け、手のひらからみんな、こぼれていってしまいそうな気がする。
だから、わたしは結局、自分の気持ちは、心のなかに仕舞っておくことにした。
わたしは、川島君との未来を、築いていきたい。
だけどそうするには、川島君を約束で縛ることしか、思いつかない。
川島君がわたしのなかに入ってきて、溢れるほどいっぱいに広がる。
恍惚に浸りながら、わたしは彼の背中に腕をまわしてからだを開き、川島君を受け入れる。
めまいのような眩しさに、かすかに瞳をすかすと、逆さに見える大きな窓からは、九月の澄んだ空に、刷毛で掃いたような、真っ白な筋雲が流れているのが見えた。
「秋が、見える」
朦朧とした心地のなかで、うわごとのように、わたしはつぶやいた。
それは、これからの淋しい季節への、予感。
でも今は、川島君のぬくもりのなかにいる。
いつまでも、いつまでも、こうして川島君のぬくもりに触れていたい。
この暖かさに、包まれていたい。
そう願いながら、わたしは川島君の背中を、ぎゅっと抱きしめた。
いつまでも、この幸せが続きますように…
12月の約束を、わすれないで…
END
12 Jul. 2011
1st May 2020 改稿
「そうだな」
「風のそよぐ音しか、聞こえない」
「ああ」
「ベッドにできた陽だまりが、きれい」
「あったかそうで、いいな」
「わたし、このなかで川島君に、抱かれてたいな」
「さつきちゃん、今日はなんだか、大胆だな」
「自分の気持ちに素直なだけよ」
「うん。いいことだよ」
「川島君の誕生日だけじゃなく、わたしの誕生日にも、抱いてね」
「いつだって、ぼくはさつきちゃんを、抱きたいよ」
「12月になって、雪が降ったら、また今日みたいに海を見て、このホテルに来て、暖めあいたいな」
「そうしよう」
「約束、できる?」
「できるよ」
「忘れないでね」
「ちゃんと心のなかに、メモったよ」
「川島君…」
「ん?」
瞳を閉じて、わたしはキスをせがんだ。
川島君はわたしを抱きしめ、あたたかなくちづけをくれる。
唇が離れると、わたしは彼の胸に耳を当ててみる。
トクン、トクンと、心臓の音が規則正しく、響いている。
そういえばモルディブでも、川島君の心臓の音を聞いたっけ。
あのときのわたしは、ただ夢中で、川島君を受け止めるのに、精いっぱいだった。
わたしはただ、川島君から求められるだけだった。
でも今は、少しだけわかったような気がする。
わたしは川島君がほしい。
離れたくない。
心も、からだも。
川島君を求めている。
求められるだけじゃなく、求めなきゃ、大切なものは手に入れ続けては、いられない。
彼のシャツのボタンをはずし、あらわになった胸元に、わたしはキスをしながら言った。
「抱いて」
「さつきちゃん?」
「わたしのなかを、川島君でいっぱいにして」
川島君は意外そうにわたしを見おろし、それでも優しいまなざしを投げかけ、両腕でわたしを包むように抱いてくれる。
そのままわたしたちは、陽だまりがいっぱい差し込んだベッドのなかに、からだを預けた。
川島君も、今日のわたしはどこか変だと、思っているかもしれない。
わたしだって、思っている。
ディズニーランドのこととか、東京でのこととか、みっこのこととか…
東京からの帰りの新幹線で、わたしはいったいどのくらい、それらのことを考えただろう。
こうして今日、川島君に会うまで、わたしは数えきれないくらい、わたしと川島君、そしてみっこのことに想いを巡らせ、悩んだ。
川島君に訊きたいことは、いっぱいある。
ほんとうは納得なんて、してない。
川島君がだれとディズニーランドに行ったのか、訊きたくてたまらないし、東京ではみっこといったいどのくらい会っていたのかも、訊いてみたい。
だけど、そういう言葉を口にしてしまえば、わたしが恐れていたことは現実になって、わたしが大事に両手のなかに包んでいた幸せは、粉々に砕け、手のひらからみんな、こぼれていってしまいそうな気がする。
だから、わたしは結局、自分の気持ちは、心のなかに仕舞っておくことにした。
わたしは、川島君との未来を、築いていきたい。
だけどそうするには、川島君を約束で縛ることしか、思いつかない。
川島君がわたしのなかに入ってきて、溢れるほどいっぱいに広がる。
恍惚に浸りながら、わたしは彼の背中に腕をまわしてからだを開き、川島君を受け入れる。
めまいのような眩しさに、かすかに瞳をすかすと、逆さに見える大きな窓からは、九月の澄んだ空に、刷毛で掃いたような、真っ白な筋雲が流れているのが見えた。
「秋が、見える」
朦朧とした心地のなかで、うわごとのように、わたしはつぶやいた。
それは、これからの淋しい季節への、予感。
でも今は、川島君のぬくもりのなかにいる。
いつまでも、いつまでも、こうして川島君のぬくもりに触れていたい。
この暖かさに、包まれていたい。
そう願いながら、わたしは川島君の背中を、ぎゅっと抱きしめた。
いつまでも、この幸せが続きますように…
12月の約束を、わすれないで…
END
12 Jul. 2011
1st May 2020 改稿
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