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16 Double Game
Double Game 7
女の子たちの相手も終わって、リハーサルの時間も近づいたので、わたしたちはカフェテリアをあとにした。
「なんだか、昔とおんなじになっちゃった」
アリーナへ向かう舗道を歩きながら、みっこはふと、そうつぶやくと、ため息をついた。
「昔って?」
「うん…」
みっこは腕を背中にまわし、足元の落葉を見つめながら、わたしを見ずに答える。
「まだ、心を許せる友だちがいなくて、ひとりで気を張って、生きていた頃」
「そっか…」
「どんなにたくさんの人に囲まれていても、あの頃とおんなじように、自分を作っていなきゃいけない」
「『自分を作る』か。有名人は辛いわね」
「そんな言い方、しないで」
「ごめん。でも、なんだかみっこが、遠くなってしまったみたい」
わたしはそう言って、いっしょになってうつむいて歩く。
今、森田美湖がモデルとして、そして川島君をめぐるひとりの女として、わたしの親友から少しずつ、その立場を変えていってるよう気がして、わたしはすごく寂しい想いにかられてきた。
「なに言ってるの!? あたしはすぐとなりにいるじゃない!」
みっこは顔を上げると、わたしの背中をポンとたたいて、自分を鼓舞するかのように、明るく微笑みながら言う。
「ごめんねさつき、愚痴ったりしちゃって。くよくよしてもはじまらないしね。
あの頃と違うのは、さつきっていう心を許せる親友がいること。
あまり会えなくても、だから会ったときくらい、楽しくやりましょ!」
みっこはそう言って、心のスイッチを切り替えようとした。
そうよね。
彼女の言うように、くよくよ悩んでたって落ち込んでいくだけだし、もっと前向きに考えなきゃ。
「そう言えば、さつきの通っている小説講座のコンクールの発表は、もうすぐなんじゃない? 今度はどんな感じ?」
「前回はシリアスな恋愛ものを書いたから、今回は趣向を変えて、SFノリの、軽いラブコメ風にしてみたの。前のよりはテンポもよくて、面白いんじゃないかなって思ってるわ」
「ふうん。で、いけそう?」
「今までずっと、最終選考どまりだったから、今回はそれより上が目標なの」
「そうか。川島君はこの前、写真コンテストで金賞とったし、星川センセの所で頑張ったでしょ。次はさつきの番よね」
「そうね」
「だけど川島君、すごいわよね。センセも、『川島君は熱心で、センスも抜群だ』って褒めてたわよ。ただのバイトだったのに、けっこう重要な撮影とか任されたりして、星川先生、川島君をかなり買ってるみたい。このまま頑張れば、川島君、いいカメラマンになるだろな」
みっこの口から、川島君を褒める言葉を聞くのって、なんだか複雑な気持ち。
星川先生もだけど、みっこだって川島君のことを、ずいぶん評価しているみたいだし。
みっこの川島君への好意と、自分の夢を確実に実現していく川島君に、わたしは微妙な感情を覚えながら、言葉に力がこもった。
「写真ならともかく、小説じゃわたし、川島君には絶対負けないんだから」
「へぇ。さつきってけっこう、勝ち気なとこがあるのね」
みっこはそう言って、わたしをからかう。
「…みっこにだって、負けないわ」
「あたし? 大丈夫よ。あたしには文才なんてないし、逆立ちしてもさつきに勝てっこないわ」
「そうじゃなくて…」
「じゃ、なに?」
「…」
『川島君を絶対、みっこには渡さない』
そんなことを言葉が出かかったけど、それはあまりにバカで、挑戦的な台詞だと思って、口にするのをぐっとこらえる。
みっこはそんなわたしを訝しげに見ていたが、ふと、視線をそらして、ぽつりとつぶやいた。
「…さつき」
「なに?」
「あたしたち…」
「?」
「…ずっと、友だちでいようね」
そう言って、みっこは寂しげにわたしを見つめて、繕うように微笑んだ。
わたしはそのときの、憂いに満ちた彼女の瞳を、ずっと忘れられない。
つづく
「なんだか、昔とおんなじになっちゃった」
アリーナへ向かう舗道を歩きながら、みっこはふと、そうつぶやくと、ため息をついた。
「昔って?」
「うん…」
みっこは腕を背中にまわし、足元の落葉を見つめながら、わたしを見ずに答える。
「まだ、心を許せる友だちがいなくて、ひとりで気を張って、生きていた頃」
「そっか…」
「どんなにたくさんの人に囲まれていても、あの頃とおんなじように、自分を作っていなきゃいけない」
「『自分を作る』か。有名人は辛いわね」
「そんな言い方、しないで」
「ごめん。でも、なんだかみっこが、遠くなってしまったみたい」
わたしはそう言って、いっしょになってうつむいて歩く。
今、森田美湖がモデルとして、そして川島君をめぐるひとりの女として、わたしの親友から少しずつ、その立場を変えていってるよう気がして、わたしはすごく寂しい想いにかられてきた。
「なに言ってるの!? あたしはすぐとなりにいるじゃない!」
みっこは顔を上げると、わたしの背中をポンとたたいて、自分を鼓舞するかのように、明るく微笑みながら言う。
「ごめんねさつき、愚痴ったりしちゃって。くよくよしてもはじまらないしね。
あの頃と違うのは、さつきっていう心を許せる親友がいること。
あまり会えなくても、だから会ったときくらい、楽しくやりましょ!」
みっこはそう言って、心のスイッチを切り替えようとした。
そうよね。
彼女の言うように、くよくよ悩んでたって落ち込んでいくだけだし、もっと前向きに考えなきゃ。
「そう言えば、さつきの通っている小説講座のコンクールの発表は、もうすぐなんじゃない? 今度はどんな感じ?」
「前回はシリアスな恋愛ものを書いたから、今回は趣向を変えて、SFノリの、軽いラブコメ風にしてみたの。前のよりはテンポもよくて、面白いんじゃないかなって思ってるわ」
「ふうん。で、いけそう?」
「今までずっと、最終選考どまりだったから、今回はそれより上が目標なの」
「そうか。川島君はこの前、写真コンテストで金賞とったし、星川センセの所で頑張ったでしょ。次はさつきの番よね」
「そうね」
「だけど川島君、すごいわよね。センセも、『川島君は熱心で、センスも抜群だ』って褒めてたわよ。ただのバイトだったのに、けっこう重要な撮影とか任されたりして、星川先生、川島君をかなり買ってるみたい。このまま頑張れば、川島君、いいカメラマンになるだろな」
みっこの口から、川島君を褒める言葉を聞くのって、なんだか複雑な気持ち。
星川先生もだけど、みっこだって川島君のことを、ずいぶん評価しているみたいだし。
みっこの川島君への好意と、自分の夢を確実に実現していく川島君に、わたしは微妙な感情を覚えながら、言葉に力がこもった。
「写真ならともかく、小説じゃわたし、川島君には絶対負けないんだから」
「へぇ。さつきってけっこう、勝ち気なとこがあるのね」
みっこはそう言って、わたしをからかう。
「…みっこにだって、負けないわ」
「あたし? 大丈夫よ。あたしには文才なんてないし、逆立ちしてもさつきに勝てっこないわ」
「そうじゃなくて…」
「じゃ、なに?」
「…」
『川島君を絶対、みっこには渡さない』
そんなことを言葉が出かかったけど、それはあまりにバカで、挑戦的な台詞だと思って、口にするのをぐっとこらえる。
みっこはそんなわたしを訝しげに見ていたが、ふと、視線をそらして、ぽつりとつぶやいた。
「…さつき」
「なに?」
「あたしたち…」
「?」
「…ずっと、友だちでいようね」
そう言って、みっこは寂しげにわたしを見つめて、繕うように微笑んだ。
わたしはそのときの、憂いに満ちた彼女の瞳を、ずっと忘れられない。
つづく
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