Campus91

茉莉 佳

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16 Double Game

Double Game 12

『フェスティバ』!

その言葉にドキリとしたわたしは、思わず視線をそらし、あわててパタンと文庫本を閉じて、席を立った。
立ち上がった拍子に、飲みかけのドリンクのコップを引っかけてしまい、水滴がテーブルにほとばしる。

「あ。そういえばあなた、森田美湖と仲いいんじゃなかった? なにか知ってる?」

彼女たちはわたしに気づいて話しかけてきたけど、聞こえないふりしたわたしは急いでハンカチでテーブルを拭くと、カフェテリアを飛び出した。
エントランスホールを足早に横切りながら、わたしの胸はドキンドキンと鼓動が速くなり、足が震えて、まともに歩けなくなってくる。

寒気がする。
からだの芯から震える。
歯がカチカチと鳴っている。

近くのベンチに座り込み、両手でバインダーごと、からだを抱きしめた。

『みっこが『フェスティバ』に乗って、『カメラマンのような男の人』と、長崎で写真を撮っていた』

彼女たちの話から、当然のように導き出されるひとつの事実を、そして、その意味を、わたしは絶対、信じられない!

ううん…

…信じたくない。

いっさいの思考を停止して、わたしはベンチからフラフラと立ち上がると、機械仕掛けのような足どりで、学校の外に出た。



 夕闇が濃くなってきた街角は、帰宅を急ぐサラリーマンや学生で、人通りが多い。
人ごみに逆らい、向こうからくる人と、時折り激しく肩をぶつけながら、明かりの灯りはじめた繁華街を、わたしはただ歩いていた。

なんでこんなときに、いろんなことが、いっぺんに起こるんだろ。
小説コンクールで川島祐二に抜かれたことだけでも、じゅうぶんショックだったのに、森田美湖が『フェスティバ』に乗って、カメラマンのような男の人と、長崎に行っていたなんて。
その『カメラマンのような男の人』ってのは、もしかして、川島祐二とは違う人かもしれない。
『フェスティバ』だって、そこら辺をたくさん走ってる、ありきたりなクルマ。
彼女たちにひと言、『写真見せて』って言えば、それはわかること。
だけど、そんなこと、できるわけない。

真実を知るのが、怖い。
ほんとのことを、目の前に突きつけられるのが、怖い。
たとえ、99.9%、写真に写っていたのが、森田美湖と川島祐二だったとしても、残りの0.1%にすがっていたい。

なんだかみじめ。
どうしてわたしばかり、こんな辛い想いをしなきゃいけないんだろ。

『さつきちゃんのこと、好きだよ』
って言ってくれた、川島君の言葉は、嘘なの?

『ずっと友だちでいようね』
って言ってたみっこの言葉も、嘘だったの?

そんな口当たりのいい言葉の裏で、ふたりはわたしにないしょで、会っていたっていうの?
わたしの不安な気持ちを思いやってもくれず、どうしてふたりで会ったりできるの?
わたしになにも言わず、ふたりで会って、いったいなにをしているの?

ううん。
脇役はもう、わたしの方なのかも。

ふたつの気持ち。
ふたつの心。
ふたつのできごと。
それらは互いに重なりあい、反発しあって、わたしの心をグルグルまわる。

それは、ダブル・ゲーム。

つづく
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