Campus91

茉莉 佳

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18 Rip Stick ~before side

Rip Stick 3

ふたりの事情を藤村さんは知っているらしく、鷹揚に笑いながら言う。
「ははは。先生はすっかり彼のこと、気に入ってるな」
「ええ。わたし、才能のある人って、大好きだから」
星川先生も、やわらかく微笑みながら応えた。

いいなぁ…
わたしもだれかに、そんな風に言われてみたい。
チラッとわたしを一瞥して、星川先生は言う。
「ま。それはあとでいいわ。またファッションショーのときにでも会いましょ」
「じゃ、おふたりさん。またあとで」
意味ありげに言い残して、ふたりは雑踏のなかに紛れていった。

「『返事』って、なに?」
ふたりの姿が見えなくなって、わたしは訝しげに尋ねる。ふたりが消えた先を見送ったまま、川島君は答えた。
「ん? ああ… ちょっとね」
「ちょっと?」
「…あとで話すよ」

悪い予感がする。
問いつめるように、わたしは訊いた。
「まさか… 川島君、『星川先生の所に就職する』とか、言うんじゃないでしょうね?」
「…そんなこと、じゃないよ」
「ほんとに?」
「ああ」
「じゃあ、いったいなんなの?」
「だから。あとで言うから」
「なんで、今じゃダメなのよ」
「そういう気分じゃないんだ」
「どういう気分なのよ」
しつこく食い下がるわたしに、一瞬川島君はイヤそうな表情を見せ、それでも気を取り直すように微笑んで言った。
「今は難しいこと考えずに、いっしょにお祭りを楽しみたいんだよ」
「川島君、なんにも言ってくれないのね」
やっかみを込めながら、わたしは辛い口調で彼に当たった。

川島君が星川先生に見込まれて、藤村さんたちと親しくしているのを見るのは、あまり気持ちのいいものじゃない。
さっき、星川先生はわたしのことを、まるで部外者を見るように、一瞥した。
わたしだけのけ者にされて、邪魔者扱いされて、みんなで勝手に話しを進められるのって、会話の輪に入れない僻みかもしれないけど、実に不安で、不愉快。
こうしてせっかく彼といて、少しは楽しい気分になりかけても、ちょっとしたことで気持ちがすさんでしまう。

「…ぼくだって、なんでもかんでも、さつきちゃんに話すってわけじゃないよ」

気まずい沈黙のあと、川島君はわたしの言葉に、低い声色で応えた。

えっ?
意外な反応だった。

川島祐二は、まるで知らない誰かを見るような目で、わたしのことを見つめている。
拒絶するような、冷たい瞳。
自分のテリトリーが侵されたと感じると、川島君はいきなり冷ややかな態度に出る。
そうやってわたしたちは今まで、何度もケンカをした。
語気を荒立てて怒り出すようなことは、川島君は滅多にない。
ただ静かに、冷たく、他人を… わたしを拒む。
そしてわたしは、このときの彼が、いちばん怖い。
自分の存在を、全否定か、無視されているように、感じるから。
わたしは背筋に寒気が走るのを覚えた。

「…ごめん」
条件反射のように、わたしはあやまった。
「いいよ。今日はケンカとかしたくないし、楽しくやろうな」
そう言いながらも、川島君の目は、笑っていない。
わたしがあんまりにも、自分勝手な感情をぶつけすぎたから、怒らせてしまったのかも…

つづく
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